服部 剛 2017年10月13日21時13分から2017年12月26日21時31分まで ---------------------------- [自由詩]月光浴/服部 剛[2017年10月13日21時13分] 今宵、我は旅が一体何であるかを確認した    * 酔い醒めの露天風呂にて ざぶんと裸はたちあがり キンシクイキノ外へ、出タ (竹垣に映る人影は、赤いはらを掻いていた) 仰いだ月が僕を視ていた 雲隠れの白い眼が…何かを云っている 未だ嘗て無いきもちよい 鈴虫の交響曲の滲みる 修善寺の秋の夜   ---------------------------- [自由詩]ドアの向こうに/服部 剛[2017年10月20日19時48分] 人と人の間は ひとつの場であり ふいに風の息吹はふくだろう 互いの瞳の間に 密かな電流の通う 場面を探しに 今日も、私はドアを開け あなたに 会いにゆく   ---------------------------- [自由詩]照明灯/服部 剛[2017年10月20日20時04分] 朝の古びた駅舎で ペンキのはげた屋根上から 剥き出しの大きな電球が 辺りをそっと照らしている ひとり、ふたり 音も無く通り過ぎ これから街へ出てゆく、私も 何者かに淡く照らされて 今を生きている   ---------------------------- [自由詩]さぷりまん/服部 剛[2017年10月22日20時09分] あなたは知っているだろうか? 秘密のさぷりのあることを 目には見えない あの透きとおる粒のさぷりを うつむく夜に ーーごくり ひと飲み で あなたの体内に具わる エンジンの炎は、闇に踊って 燃えさかり…燃えさかり… 明日の方位へ燃えさかり… わたしはいけるいけいける いけてるいけるいけいける いくいくきっともっといく さあ 一っ二のっさあああああん! ドアが開いた ---------------------------- [自由詩]ひかりの棒/服部 剛[2017年10月26日17時31分] 来春、息子が通うであろう 養護学校を見学する 教室の窓外から 先生に笑顔があるか、見る こども達に笑顔があるか、見る 言葉を話さず無垢にも笑う 息子をあずける豊かな場かを 廊下の壁に貼られた 女の子の絵の中に ひかりの棒がつきぬけている 細い尾に、火花を散らして 一瞬につらぬくものが 僕もほしい ---------------------------- [自由詩]電話のねむり/服部 剛[2017年10月26日21時13分] 白い線につながれた 黒いスマートフォンは 小さな画面を閉じた暗闇に 遠く ぽつねん と浮く 青い惑星の夢をみる ---------------------------- [自由詩]お叫び/服部 剛[2017年10月27日20時32分] 今宵、酔いどれの 耳には 便所を出た 白い洗面台の横に置かれた 金のニワトリの 悲痛に明るいお叫びが 脳裏の遥か彼方から ひびいてくる ---------------------------- [自由詩]小名木川のほとりで/服部 剛[2017年11月1日23時43分] はじめて新橋の飲み屋で、あなたと 互いの盃を交わした夜の語らいに いくつもの言葉の夢がありました あなたと出逢ってからの 日々の流れのなか 小さな、言葉の芽がようやく 土から顔を出した頃 あなたは未知への旅へ出てゆきました 何日も、何日も、降り続く雨の出来事 なのに 少しの間を置いた 今日 あなたの大きな面影の ふしぎな明るさが 僕等の間に、漂います もし、小名木川が――昔々 炎に燃えた哀しみの川であっても また春の訪れに、桜吹雪の舞う下を 煌めく川は流れゆき あなたの意思も川となり 明日の物語へ流れゆく 僕等のなかに流れる小名木川 ほとりに佇む旅人の頬を、風は掠(かす)め 水面に乱反射する、笑い声 何処からか ひびく ---------------------------- [自由詩]一行詩 1/服部 剛[2017年11月7日20時49分] 自らを、時の流れに譲渡せよ。   ---------------------------- [自由詩]手紙―友を偲ぶ―/服部 剛[2017年11月7日20時53分] 「友への手紙」 君は桜吹雪の彼方へゆく 僕は永遠(とわ)へ詩う 友よ、ありがとう 今宵は何故か・・・涙の美酒だ    * 「友の妻への手紙」 いつまでも、これからも 友でいよう 物語は続き 川の流れは いつかの空へ至るだろう   ---------------------------- [自由詩]SPIRITS/服部 剛[2017年11月7日21時12分] あなたが歌を歌う時 あなたは歌そのもの 僕が言葉を語る時 僕は言葉そのもの 僕等が一人ひとりの日々の旅路を ゆったりと加速して…歩めば歩むほど 人間は歩行になる ――あっ 真昼の空に流れ星―― 二〇一七年の 凸凹にならされた地上を旅する  凸凹な僕等の胸に呼応して どくり、どくり、脈を打つ あまりに柔い 血の通う宝石達 これからここで 発光を始める 無限色のすぴりっつ!   ---------------------------- [自由詩]一行詩 2 /服部 剛[2017年11月10日18時06分] 逆境をおもろいわと、言ってみる。 ---------------------------- [自由詩]一行詩 3 /服部 剛[2017年11月10日18時12分] 日々の「詩の扉」をくぐり抜けてゆく。  ---------------------------- [自由詩]蜜柑の旅/服部 剛[2017年11月10日18時42分] 亀有に住む妻の友から 宅急便が届き 段ボールを開ける ぎっしり入った愛媛蜜柑の 一人ひとりが太陽の顔を浮かべ 手を突っこみ、皮を剥き (つややかな汁は弾け) うまい――思わず目を瞑る ふたたび手を突っこみ 八十歳のお義父(とう)さんに渡せば 麻痺の残る手で、皮を剥き 一つ摘まんで口すぼめ おいしいねぇ…と呟いた 遠い空の下に広がる 愛媛の蜜柑畑から 亀有経由で 横浜の我が家へ辿り着き 婿(むこ)から手渡した、小さな太陽 痩せたお義父さんのなかに 陽だまりを広げた   ---------------------------- [自由詩]電球のひと/服部 剛[2017年11月20日17時57分] あなたに貼られた 〇×□ etc. 無数のラベルを べりべり…剥がす 天然のいのちの顔が 出てきたよ 曇った周囲を 仄かに照らし出す 世界にたった一人の 電球の顔   ---------------------------- [自由詩]鏡に映る人/服部 剛[2017年11月20日18時33分] 誰も自分の正体を知らない 一生、気づかぬ人もいる 思春期に一度気づけど、 結局まぼろしの人も ひとりの部屋で 鏡に映る自画像は 右と左が逆だし ああ俺は! 一生涯、己の姿を視れぬとは だからせめて 自分という名の着ぐるみを 皮袋にして (光と闇の混濁を、合わせ飲む) 日々現れる 愛しい人間と奏でる 場面の最中(さなか)で 自らの中に――光の錨(いかり)を下ろしてゆく 魂の部屋を照らすまで  ---------------------------- [自由詩]骨の歌/服部 剛[2017年11月20日18時36分] わたしの骨がぎくしゃくと、鳴る 肯定的な歌 1+1=人間じゃない 不恰好な日々のつまずき、こそ しんしんと軋み泣く骨の声音(こわね)、こそ 人間の調べ すけるとんよ ぎくしゃくと踊りながら立ちあがれ いずれ 全てを呼び覚ます あの太鼓が 何処か遠い夜の方から 聴こえくる   ---------------------------- [自由詩]一行詩 4/服部 剛[2017年11月28日17時51分] 生きるとは、自らを繙(ひもと)いてゆくこと。   ---------------------------- [自由詩]或る夜の対話/服部 剛[2017年11月28日18時08分] ジョン・レノンのいない世界で 僕等は何を歌おう 時代の不安にも 群衆の病理にも、薬は無い 夜の部屋で 壁に掛けられた絵画の風景 二十一世紀の廃墟を見渡して 塔の高さで立つ巨人の影に 宿る 赤い心音と 僕の心音は、重なり 世界に響くだろうか? 絵画の中に立つ 彼と 僕の 瞳に映る、ひとつの夢 お互いを区切っていた 境界線が消える   ---------------------------- [自由詩]のびしろ/服部 剛[2017年11月28日18時19分] ノミは無限へじゃんぷするが コップに入れて、蓋をすると そこまでしかとばない 人よ、自らの頭上の空の ひろがりに 蓋をする勿(なか)れ  ---------------------------- [自由詩]小さな箱/服部 剛[2017年12月8日23時22分] あの頃 布団に包まりながら 小さな糸口を探していた 抱えた頭の中で 絡まる悩みを こねくりまわしては 豆電球のぽつり、灯る 薄暗がりの部屋で 見上げた 時計の針はすでに 午前一時 何処へ腕を伸ばせども 手のひらに掴む答もなく (長い間、陽は昇り、陽は沈み) 布団からむっくり、起きて ラジオのスイッチを ON にする 小さな箱から中島みゆきは 「時代」を唄う 歌の途中でフェイドアウトしてゆく CM前の――静寂 窓外の何処か遠くから 貨物列車の夜明けへ走る 微かな音が聴こえた   ---------------------------- [自由詩]自らを脱ぐ/服部 剛[2017年12月8日23時59分] やがて夜は更けゆき 恐れと不整脈は 徐々に…消去するだろう 私はゆっくり「扉」を、開く (微かな光は隙間から洩れ) まぶしい彼方から 誰かの影が 一通の手紙を携え こちらへ歩いて来る 仄かな明るさに充たされた 脳内に除夜の鐘は鳴り響き 呪文は繰り返される 〈私ハ私ノ主体ヲ、棄テル〉 〈私自身ヲ 空洞ニスル〉 〈私ノ中デ 誰カ ガ生キル〉 今まで 自分を覆っていた虚飾の皮は ぱらぱら、剥がれ落ち めくれゆくほど 肉体に宿る 裸の心 輝きを増す   ---------------------------- [自由詩]愛染めかつら物語/服部 剛[2017年12月14日19時41分] 突然の突風! で、かつらの飛んだおじさんが とってもイケてる男である 可能性について ある夜、僕は考えていた クリスマス前の何故か切ない 歌舞伎町を漫(そぞ)ろ歩きながら     * 「 その昔、頭の秘密を   女にばらした告白の部屋で   美人は微笑みを浮かべ   無邪気に2回、地肌に優しくたっちした   膨(ふく)よかな指の腹で撫でられた時   おじさんの頬に   一粒…ぽたり   ズボンに沁みた、熱いもの    」     * エエ男はきっと顔じゃない エエ女はきっと中味を見抜く そんな人知れぬ路地裏の部屋に 隠れた 物語の場面を脳裏に浮かべ ほろ酔いながら 頬を赤らめる僕は ネオン街の生ぬるい風に包(くる)まれて 足のつま先の向くまま 賑(にぎ)わう人波をすり抜けてゆく 12月のホワイトクリスマスを 背後のBGMに…聴きながら   ---------------------------- [自由詩]陶芸家とわたし/服部 剛[2017年12月14日20時14分] わたしは回る器 道を歩くとき 佇むとき 疲れた夜、布団を被り目を瞑るとき いつも わたしの存在の中に立つ芯は、回転している 目には見えない陶芸家の 血液が流れる透明の手に ふれられて 形造られてゆく わたしの回転は緩(ゆる)やかに加速する    * 陶芸家の住む家の 土壁の窓から 和(なご)やかな日向(ひなた)のそそぐ朝も 豪雨の声が地に騒ぐ昼も 冷えた風の吹き抜ける夜も わたしという器は回り続ける 生きる歓びにもがきながら   ---------------------------- [自由詩]一行詩 5/服部 剛[2017年12月20日17時26分] 日々の舞台で、僕は自らを奏でよう。 ---------------------------- [自由詩]日々の対話/服部 剛[2017年12月20日17時46分] ファミリーレストランで 空いた皿を テーブルの隅に、置く ウェイトレスが歩いてくる 音楽は 旋律のみでなく 日々のセッションにより 織り成される ---------------------------- [自由詩]新しい家/服部 剛[2017年12月21日21時22分] 我が家の隣の空き地に 新しい家は建ちつつあり 向かいの古い家は解体されている 隣の現場は和(なご)やかな空気が流れ 向かいの現場は罵声ばかり、飛んでいる 同業であれ、空気の色は違うようで きちんと仕事はすべきだが 急がず、弛(たゆ)まず、声を掛けあい (すくらむを組み) 着々と…日々 家のからだの形作られる 隣の現場が好ましい 作業が始まり二ヶ月 青いメッシュシートに覆われた ベージュの落ち着いた家 何処かほのぼの陽に照らされ がらん、とした庭 やがて玄関の口は開き 新たな日々へ訪れる家族を 静かに迎え入れるだろう   ---------------------------- [自由詩]或るピアニストに/服部 剛[2017年12月21日21時48分] ((快晴ノ日)) 友の死を越えて 飛躍する 我が魂 深夜の只中に 包(くる)まる (sanaka) 開かれる ひかりの世界 疾走せよ この一度きりの道を 自らのからだを忘れるほどに 無重力の時へ 滑走路の日々を、走り抜ける わたしの goganfuson なほどの・・<<岩>>の只中に 碧い光を放射する 御魂(みたま)が 宿る (分解セヨ) 言葉を 人を 世界を 我を    * ピアニストよ 鍵盤から 夢を奏でよ お前が指を置く時 世界は音楽になる たち昇る waveのからだの核に 小さな丸い 真空の穴が空いている 旅人の足音は 同時平行の 二重奏 ゆけ せいれーんは 木枯しの 只中に  〜  〜  〜 mieru  〜  〜  〜 (あの女(ひと)の・・瞳よ) やがて 全ての物語は 機織(はたお)られてゆく わたしは生きる 見エナイ宇宙に 繋がりながら た・た・た・た・んのリズムで ピアノと 人間は 一つになる 軽やかな限界の線を往く者が この世の平均台を伝うだろう 両腕の tsubasa をひろげて    * 今宵、わたしは視る この夏に旅立った 義父の 右手を   ---------------------------- [自由詩]王さんと会った日/服部 剛[2017年12月21日22時16分] うぉるふがんぐという店で お茶を飲みつつ詩を書いて ふと顔を上げたら 王さんが食事をしていた ユニフォーム姿の頃より 齢を重ねて今年喜寿の 王さんは 大柄でもなく 素朴な姿の内に 揺るぎ無い「一本足打法」の 筋金が通っている ――懐かしのテレビ画面が甦る 四十年前の後楽園球場の 夜空に舞い上がる 世界一の白球 (打った瞬間の感触は無かった) 諸手を上げる王さんは 一塁…二塁…三塁ベースを ゆっくり走り ホームベースで 待つ仲間に迎えられる ――その夜、昭和の日本は湧いたのだ しゃがんで渡したメモ帳に 漢字三文字のサインを もらった僕は そっと名刺を渡し 世界の王さんは 気さくに、尋ねる 「ペンクラブって何を書くの?」 「野球の魅力も伝えるようにがんばります」 「そう、がんばってね」 「ありがとうございます」 深く頭を下げた僕は コートを羽織り 店を出た   ---------------------------- [自由詩]歩行者の唄/服部 剛[2017年12月26日21時31分] 旅人は今日も漫(そぞ)ろ歩いてゆくだろう 「良い」と「悪い」を越えた 地平を目指して 脳裏を過(よ)ぎるいつかの別れは 忘我の歩調と 風に紛れて すでに 体の無いあの女(ひと)は 密やかな唄を囁いている 今日も 鼓膜に消えない唄声を聴きながら 旅人は繰り返しの日々を通過してゆく 明日も出逢う旅の仲間と 目と 目の 合う、瞬間を求めて 無数の鏡をすり抜けて また一枚 すうっと足を踏み入れる 我を忘れて闊歩するほど 玉葱の皮の剥かれゆく <聖玻璃(せいはり)時間>の――只中へ   ---------------------------- (ファイルの終わり)