服部 剛 2017年10月13日20時47分から2017年12月21日21時48分まで ---------------------------- [自由詩]馬込文士村にて―藤原洸住居跡―/服部 剛[2017年10月13日20時47分] 「別れのブルース」で有名な 詩人・藤浦洸の住居跡を訪れると 碑の傍らの叢(くさむら)に棄てられた ビニール傘が埋(うず)もれ 秋の中天にてらてら耀いていた 今日も太陽は照らすだろう かつての我が影の如く、裏ぶれた者をも   ---------------------------- [自由詩]馬込文士村にて―萩原朔太郎住居跡―/服部 剛[2017年10月13日20時56分] 朔太郎住居跡へゆく、途中 路面にくしゃり潰れた柿はあり (種は、離れて落ちており) あわれな柿の橙色の只中に くっきりとした蔕(へた)の渦巻く瞳が 遠い過去から しゃがんで覗く、僕を視ている         ---------------------------- [自由詩]月光浴/服部 剛[2017年10月13日21時13分] 今宵、我は旅が一体何であるかを確認した    * 酔い醒めの露天風呂にて ざぶんと裸はたちあがり キンシクイキノ外へ、出タ (竹垣に映る人影は、赤いはらを掻いていた) 仰いだ月が僕を視ていた 雲隠れの白い眼が…何かを云っている 未だ嘗て無いきもちよい 鈴虫の交響曲の滲みる 修善寺の秋の夜   ---------------------------- [自由詩]ドアの向こうに/服部 剛[2017年10月20日19時48分] 人と人の間は ひとつの場であり ふいに風の息吹はふくだろう 互いの瞳の間に 密かな電流の通う 場面を探しに 今日も、私はドアを開け あなたに 会いにゆく   ---------------------------- [自由詩]照明灯/服部 剛[2017年10月20日20時04分] 朝の古びた駅舎で ペンキのはげた屋根上から 剥き出しの大きな電球が 辺りをそっと照らしている ひとり、ふたり 音も無く通り過ぎ これから街へ出てゆく、私も 何者かに淡く照らされて 今を生きている   ---------------------------- [自由詩]さぷりまん/服部 剛[2017年10月22日20時09分] あなたは知っているだろうか? 秘密のさぷりのあることを 目には見えない あの透きとおる粒のさぷりを うつむく夜に ーーごくり ひと飲み で あなたの体内に具わる エンジンの炎は、闇に踊って 燃えさかり…燃えさかり… 明日の方位へ燃えさかり… わたしはいけるいけいける いけてるいけるいけいける いくいくきっともっといく さあ 一っ二のっさあああああん! ドアが開いた ---------------------------- [自由詩]ひかりの棒/服部 剛[2017年10月26日17時31分] 来春、息子が通うであろう 養護学校を見学する 教室の窓外から 先生に笑顔があるか、見る こども達に笑顔があるか、見る 言葉を話さず無垢にも笑う 息子をあずける豊かな場かを 廊下の壁に貼られた 女の子の絵の中に ひかりの棒がつきぬけている 細い尾に、火花を散らして 一瞬につらぬくものが 僕もほしい ---------------------------- [自由詩]電話のねむり/服部 剛[2017年10月26日21時13分] 白い線につながれた 黒いスマートフォンは 小さな画面を閉じた暗闇に 遠く ぽつねん と浮く 青い惑星の夢をみる ---------------------------- [自由詩]お叫び/服部 剛[2017年10月27日20時32分] 今宵、酔いどれの 耳には 便所を出た 白い洗面台の横に置かれた 金のニワトリの 悲痛に明るいお叫びが 脳裏の遥か彼方から ひびいてくる ---------------------------- [自由詩]小名木川のほとりで/服部 剛[2017年11月1日23時43分] はじめて新橋の飲み屋で、あなたと 互いの盃を交わした夜の語らいに いくつもの言葉の夢がありました あなたと出逢ってからの 日々の流れのなか 小さな、言葉の芽がようやく 土から顔を出した頃 あなたは未知への旅へ出てゆきました 何日も、何日も、降り続く雨の出来事 なのに 少しの間を置いた 今日 あなたの大きな面影の ふしぎな明るさが 僕等の間に、漂います もし、小名木川が――昔々 炎に燃えた哀しみの川であっても また春の訪れに、桜吹雪の舞う下を 煌めく川は流れゆき あなたの意思も川となり 明日の物語へ流れゆく 僕等のなかに流れる小名木川 ほとりに佇む旅人の頬を、風は掠(かす)め 水面に乱反射する、笑い声 何処からか ひびく ---------------------------- [自由詩]一行詩 1/服部 剛[2017年11月7日20時49分] 自らを、時の流れに譲渡せよ。   ---------------------------- [自由詩]手紙―友を偲ぶ―/服部 剛[2017年11月7日20時53分] 「友への手紙」 君は桜吹雪の彼方へゆく 僕は永遠(とわ)へ詩う 友よ、ありがとう 今宵は何故か・・・涙の美酒だ    * 「友の妻への手紙」 いつまでも、これからも 友でいよう 物語は続き 川の流れは いつかの空へ至るだろう   ---------------------------- [自由詩]SPIRITS/服部 剛[2017年11月7日21時12分] あなたが歌を歌う時 あなたは歌そのもの 僕が言葉を語る時 僕は言葉そのもの 僕等が一人ひとりの日々の旅路を ゆったりと加速して…歩めば歩むほど 人間は歩行になる ――あっ 真昼の空に流れ星―― 二〇一七年の 凸凹にならされた地上を旅する  凸凹な僕等の胸に呼応して どくり、どくり、脈を打つ あまりに柔い 血の通う宝石達 これからここで 発光を始める 無限色のすぴりっつ!   ---------------------------- [自由詩]一行詩 2 /服部 剛[2017年11月10日18時06分] 逆境をおもろいわと、言ってみる。 ---------------------------- [自由詩]一行詩 3 /服部 剛[2017年11月10日18時12分] 日々の「詩の扉」をくぐり抜けてゆく。  ---------------------------- [自由詩]蜜柑の旅/服部 剛[2017年11月10日18時42分] 亀有に住む妻の友から 宅急便が届き 段ボールを開ける ぎっしり入った愛媛蜜柑の 一人ひとりが太陽の顔を浮かべ 手を突っこみ、皮を剥き (つややかな汁は弾け) うまい――思わず目を瞑る ふたたび手を突っこみ 八十歳のお義父(とう)さんに渡せば 麻痺の残る手で、皮を剥き 一つ摘まんで口すぼめ おいしいねぇ…と呟いた 遠い空の下に広がる 愛媛の蜜柑畑から 亀有経由で 横浜の我が家へ辿り着き 婿(むこ)から手渡した、小さな太陽 痩せたお義父さんのなかに 陽だまりを広げた   ---------------------------- [自由詩]電球のひと/服部 剛[2017年11月20日17時57分] あなたに貼られた 〇×□ etc. 無数のラベルを べりべり…剥がす 天然のいのちの顔が 出てきたよ 曇った周囲を 仄かに照らし出す 世界にたった一人の 電球の顔   ---------------------------- [自由詩]鏡に映る人/服部 剛[2017年11月20日18時33分] 誰も自分の正体を知らない 一生、気づかぬ人もいる 思春期に一度気づけど、 結局まぼろしの人も ひとりの部屋で 鏡に映る自画像は 右と左が逆だし ああ俺は! 一生涯、己の姿を視れぬとは だからせめて 自分という名の着ぐるみを 皮袋にして (光と闇の混濁を、合わせ飲む) 日々現れる 愛しい人間と奏でる 場面の最中(さなか)で 自らの中に――光の錨(いかり)を下ろしてゆく 魂の部屋を照らすまで  ---------------------------- [自由詩]骨の歌/服部 剛[2017年11月20日18時36分] わたしの骨がぎくしゃくと、鳴る 肯定的な歌 1+1=人間じゃない 不恰好な日々のつまずき、こそ しんしんと軋み泣く骨の声音(こわね)、こそ 人間の調べ すけるとんよ ぎくしゃくと踊りながら立ちあがれ いずれ 全てを呼び覚ます あの太鼓が 何処か遠い夜の方から 聴こえくる   ---------------------------- [自由詩]一行詩 4/服部 剛[2017年11月28日17時51分] 生きるとは、自らを繙(ひもと)いてゆくこと。   ---------------------------- [自由詩]或る夜の対話/服部 剛[2017年11月28日18時08分] ジョン・レノンのいない世界で 僕等は何を歌おう 時代の不安にも 群衆の病理にも、薬は無い 夜の部屋で 壁に掛けられた絵画の風景 二十一世紀の廃墟を見渡して 塔の高さで立つ巨人の影に 宿る 赤い心音と 僕の心音は、重なり 世界に響くだろうか? 絵画の中に立つ 彼と 僕の 瞳に映る、ひとつの夢 お互いを区切っていた 境界線が消える   ---------------------------- [自由詩]のびしろ/服部 剛[2017年11月28日18時19分] ノミは無限へじゃんぷするが コップに入れて、蓋をすると そこまでしかとばない 人よ、自らの頭上の空の ひろがりに 蓋をする勿(なか)れ  ---------------------------- [自由詩]小さな箱/服部 剛[2017年12月8日23時22分] あの頃 布団に包まりながら 小さな糸口を探していた 抱えた頭の中で 絡まる悩みを こねくりまわしては 豆電球のぽつり、灯る 薄暗がりの部屋で 見上げた 時計の針はすでに 午前一時 何処へ腕を伸ばせども 手のひらに掴む答もなく (長い間、陽は昇り、陽は沈み) 布団からむっくり、起きて ラジオのスイッチを ON にする 小さな箱から中島みゆきは 「時代」を唄う 歌の途中でフェイドアウトしてゆく CM前の――静寂 窓外の何処か遠くから 貨物列車の夜明けへ走る 微かな音が聴こえた   ---------------------------- [自由詩]自らを脱ぐ/服部 剛[2017年12月8日23時59分] やがて夜は更けゆき 恐れと不整脈は 徐々に…消去するだろう 私はゆっくり「扉」を、開く (微かな光は隙間から洩れ) まぶしい彼方から 誰かの影が 一通の手紙を携え こちらへ歩いて来る 仄かな明るさに充たされた 脳内に除夜の鐘は鳴り響き 呪文は繰り返される 〈私ハ私ノ主体ヲ、棄テル〉 〈私自身ヲ 空洞ニスル〉 〈私ノ中デ 誰カ ガ生キル〉 今まで 自分を覆っていた虚飾の皮は ぱらぱら、剥がれ落ち めくれゆくほど 肉体に宿る 裸の心 輝きを増す   ---------------------------- [自由詩]愛染めかつら物語/服部 剛[2017年12月14日19時41分] 突然の突風! で、かつらの飛んだおじさんが とってもイケてる男である 可能性について ある夜、僕は考えていた クリスマス前の何故か切ない 歌舞伎町を漫(そぞ)ろ歩きながら     * 「 その昔、頭の秘密を   女にばらした告白の部屋で   美人は微笑みを浮かべ   無邪気に2回、地肌に優しくたっちした   膨(ふく)よかな指の腹で撫でられた時   おじさんの頬に   一粒…ぽたり   ズボンに沁みた、熱いもの    」     * エエ男はきっと顔じゃない エエ女はきっと中味を見抜く そんな人知れぬ路地裏の部屋に 隠れた 物語の場面を脳裏に浮かべ ほろ酔いながら 頬を赤らめる僕は ネオン街の生ぬるい風に包(くる)まれて 足のつま先の向くまま 賑(にぎ)わう人波をすり抜けてゆく 12月のホワイトクリスマスを 背後のBGMに…聴きながら   ---------------------------- [自由詩]陶芸家とわたし/服部 剛[2017年12月14日20時14分] わたしは回る器 道を歩くとき 佇むとき 疲れた夜、布団を被り目を瞑るとき いつも わたしの存在の中に立つ芯は、回転している 目には見えない陶芸家の 血液が流れる透明の手に ふれられて 形造られてゆく わたしの回転は緩(ゆる)やかに加速する    * 陶芸家の住む家の 土壁の窓から 和(なご)やかな日向(ひなた)のそそぐ朝も 豪雨の声が地に騒ぐ昼も 冷えた風の吹き抜ける夜も わたしという器は回り続ける 生きる歓びにもがきながら   ---------------------------- [自由詩]一行詩 5/服部 剛[2017年12月20日17時26分] 日々の舞台で、僕は自らを奏でよう。 ---------------------------- [自由詩]日々の対話/服部 剛[2017年12月20日17時46分] ファミリーレストランで 空いた皿を テーブルの隅に、置く ウェイトレスが歩いてくる 音楽は 旋律のみでなく 日々のセッションにより 織り成される ---------------------------- [自由詩]新しい家/服部 剛[2017年12月21日21時22分] 我が家の隣の空き地に 新しい家は建ちつつあり 向かいの古い家は解体されている 隣の現場は和(なご)やかな空気が流れ 向かいの現場は罵声ばかり、飛んでいる 同業であれ、空気の色は違うようで きちんと仕事はすべきだが 急がず、弛(たゆ)まず、声を掛けあい (すくらむを組み) 着々と…日々 家のからだの形作られる 隣の現場が好ましい 作業が始まり二ヶ月 青いメッシュシートに覆われた ベージュの落ち着いた家 何処かほのぼの陽に照らされ がらん、とした庭 やがて玄関の口は開き 新たな日々へ訪れる家族を 静かに迎え入れるだろう   ---------------------------- [自由詩]或るピアニストに/服部 剛[2017年12月21日21時48分] ((快晴ノ日)) 友の死を越えて 飛躍する 我が魂 深夜の只中に 包(くる)まる (sanaka) 開かれる ひかりの世界 疾走せよ この一度きりの道を 自らのからだを忘れるほどに 無重力の時へ 滑走路の日々を、走り抜ける わたしの goganfuson なほどの・・<<岩>>の只中に 碧い光を放射する 御魂(みたま)が 宿る (分解セヨ) 言葉を 人を 世界を 我を    * ピアニストよ 鍵盤から 夢を奏でよ お前が指を置く時 世界は音楽になる たち昇る waveのからだの核に 小さな丸い 真空の穴が空いている 旅人の足音は 同時平行の 二重奏 ゆけ せいれーんは 木枯しの 只中に  〜  〜  〜 mieru  〜  〜  〜 (あの女(ひと)の・・瞳よ) やがて 全ての物語は 機織(はたお)られてゆく わたしは生きる 見エナイ宇宙に 繋がりながら た・た・た・た・んのリズムで ピアノと 人間は 一つになる 軽やかな限界の線を往く者が この世の平均台を伝うだろう 両腕の tsubasa をひろげて    * 今宵、わたしは視る この夏に旅立った 義父の 右手を   ---------------------------- (ファイルの終わり)