服部 剛 2017年6月30日19時59分から2017年11月10日18時06分まで ---------------------------- [自由詩]ルオーの絵/服部 剛[2017年6月30日19時59分] 私の内面の鏡には 百の顔がある まともに視れば 自らがもたないので、私は へどろに包まれながらも 発光する太陽の真珠を 自らの御魂(みたま)として 秘密の祭壇へ 無心にのばす――両腕で 捧げる 机上に葡萄酒のグラスを置く、独りの晩餐会 古びた壁に掛かる絵は、かつて ルオーが画布に描いた 貧しい月夜の街角に立ち 震えるのひとの傍らにいる  朧(おぼろ)ないえす 少々、頬の赤らむ 私の前にあらわれる ---------------------------- [自由詩]月明かり /服部 剛[2017年6月30日20時07分] グレープフルーツ色のグラスを、手に 今夜はこうして夢見よう いつかは消える、この道ならば 少々頬を赤らめて 僕は知らなかった 今・この瞬間、世界の何処かで 赤子が産声をあげている いつのまにやら大人になって しかめっ面の日々を裂くように 雑踏を潜り抜けてきたけれど     今ももこうして、脈を、打つ  自分に祝杯をあげよう グレープフルーツ色のグラスを、手に 転寝(うたたね)する…脳裏には 暗幕の夢の夜空に     おぼろ月 出来損ないの日々を演じる、自分さえ 今夜は何故か少しだけ ゆるせそうな気がする   今まで、歩いてきた道を   ---------------------------- [自由詩]かけ声/服部 剛[2017年6月30日20時18分] 雨の日に 道の向こうから歩いてくる 幼い娘と母親は 手を繋いだまま せーのーせっ の声あわせ 水溜りをひょいと跨(また)いでいった わたしの日常も、密かな せーのーせっ の連続だ 自らをゆだね、飛ぶ 行為のあとで広がる余白に わたしは、賭ける ビニール傘を優しく叩く 雨唄(あまうた)の午後 足下の小さな水溜りに 目をやる、ひと時 せーのー せっ ---------------------------- [自由詩]鶏ノ夜/服部 剛[2017年7月5日18時33分] 平たい皿の上に 幻の鶏が一羽 細い足で、立っている  こけえ  くぅおっこ  こけえ 青い空へ吸いこまれてゆく あの日の、さけび 先ほどまで 醤油のたれに塗(まみ)れていた 肉の残骸はすでに わたしの胃袋の海へ沈み お座敷に腰を下ろしたまま 羽ばたきを忘れた日々に疲れ 壁に凭れる酔いどれを 見つめるのだ 皿の上に立つ、幻の鶏 哀しみに澄んだ びい玉の瞳   ---------------------------- [自由詩]大雨警報/服部 剛[2017年7月5日18時55分] 灰色の街に 今日もじゃぶじゃぶ降りしきる 情報洪水の雨達 駅のホームに立つ人々は 小さな液晶画面 の上に 人さし指を滑らせる ひとり…ふたり…と 人がロボット化してゆく様を 眺める僕も、気がつけば 人さし指を滑らせる じゃぶじゃぶじゃぶじゃぶ じゃぶじゃぶじゃぶじゃぶ じゃぶじゃぶ埋もれる僕 じゃぶじゃぶじゃぶじゃぶ じゃぶじゃぶじゃぶじゃぶ 人よ、久しく忘れていた あの雨上がりの、小さな太陽に もう一度 ひとすじの手をのばせ   ---------------------------- [自由詩]京都タワー/服部 剛[2017年7月25日0時26分] 夜空から明滅して? ? ? ? ? ? ? ? ? ゆらゆら下りてきたUFO が 白い塔に刺さったまま? ? ? ? ? もう長い間、固まっている その足下を京都の人々は? ? ? すまし顔でゆき過ぎる 遠い街で? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? あたりまえはあたりまえでないと? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? 知った旅人 ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? この旅を終えた 後? ? ? ? ? ? ? あたりまえでないあたりまえを? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? 発見できるだろうか? 旅のトランクを歩道に、置いて? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? 仰いだUFO の 上の尖塔から 電波を受信するように? 自らもアンテナとなり? ? ? ? ? 明日の古都を歩いてみよう   ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ---------------------------- [自由詩]いぶき―旅立った義父に捧ぐ―/服部 剛[2017年7月25日0時54分] 夫婦で、出かける準備をする 告別の朝 在りし日のお義父(とう)さんが見ていた テレビがふいに、点いた 夫婦は顔を見合わせる (からだを脱いでも  御魂(みたま)はおられる ) 夕刻、お義父さんは骨となり 家に戻った (可愛がられたダウン症児の幼い孫は  ちらちらと気配を窺い) 空色の写真の中にいるひとと お互いの目を、合わせ これからの日々の不安を?い潜(くぐ)る、決意で 語る〈ありがとう…〉のいのり 我が家における、新たな季節 その部屋の窓から 幽かな息吹きに カーテンはふくらむ   ---------------------------- [自由詩]哲学の道にて/服部 剛[2017年7月27日22時42分] 哲学の道を入り 敷石をふみしめ歩いていた (道の傍らをさやかに水は流れ) 遠くから、外国の男性がふたり こちらへ歩いてくる 僕は敷石を一旦、下りて 道の外れに身を引いた (弾む英語の言葉は流れ) たとえば 今、煩っている 自分の重たい考えを一旦、脇に置くこと もやもやは すーっと通り過ぎてゆく   ---------------------------- [自由詩]十円玉の中に―平等院鳳凰堂にてー/服部 剛[2017年7月30日0時00分] 掌に乗せた 十円玉の寺院の中に、小さな僕がいる 小さな僕が、院内の 大きな阿弥陀如来像を、仰げば 周囲を 十三体の仏に囲まれながら 薄い目を開いている その頭上で 小さな仏は、そっと手を合わせ 無心に目を閉じており 大きな阿弥陀如来像 と 旅人の僕は、微かな白い糸で 結ばれる 十円玉を掌に乗せた、僕 と 十円玉の中にいる、僕 の 目は合い 胸の内にある 無明の部屋に置かれた 一つの鉢に 蓮の花がひらく   ---------------------------- [自由詩]石の器―大原三千院にて―/服部 剛[2017年7月30日0時14分] 竹筒からひとすじの糸が――落ちる 石の器の水面(みなも)に、円は広がり しじまはあふれる 絶え間なく心に注がれるもの 心の靄(もや)に穴を空け 密やかに わたしをみたす   ---------------------------- [自由詩]河原町・ライブハウス都雅都雅にて/服部 剛[2017年7月30日0時50分] ライブ会場に アンコールは湧き起こり サプライズのゲストで、呼ばれ 舞台に上がった 利久さん ピアノとギターで弾き語る 男女のユニットの傍らで スケッチブックに、赤く  Love & Peace の文字を書く ふたりの奏でるメロディに合わせ 白い絵の具を宙から、垂らす 赤い絵の具を宙から、垂らす 霧吹きで舞う、微細な水に 平らにした、絵を晒す ふたりの奏でるリズムに合わせ 抱えたスケッチブックと 指さきの絵の具を 楽器にして 紙の上の赤をひきのばす (Love & Peaceは色に埋れ) 歌と、ピアノと、ギターの音色が ぴたり止まった 後 利久さんは 一枚の絵を、掲げる スケッチブックに描かれた マゼンタ色のはーと 会場に座るそれぞれの影に 脈を、打つ はーとが滲んで浮かぶ 河原町四条 旅先の夜   ---------------------------- [自由詩]東大寺にて/服部 剛[2017年8月2日10時28分] 参道を無数の鹿が 長閑(のどか)なリズムで、歩いている 野球帽の少年が 鹿せんべいを 口許にやっては、はしゃぐ 首からカメラをぶら下げた アメリカ人のおじさん 橙色の法衣を身に纏う インドの僧侶達 赤いペアのTシャツを着た 中国人の若いカップル 佇めば かれらは 傍らを過ぎてゆく ――時よ、僕を何処かへ運んでくれないか 石畳の道の あちらこちらに散らばる 鹿の糞を避けて歩むうちに 近づく 門の向こう側に 巨大な寺 柄杓(ひしゃく)の水で 手を清めてから 本堂に入る 日本一の大仏は 旅人を待っていた 薄目を開いて、手をあげて  やあ   ---------------------------- [自由詩]川の音楽/服部 剛[2017年8月24日22時09分] 川の畔(ほとり)に身を屈め 婦人は洗濯物を 無心にこする 額に、汗は滲み 袖を捲った腕に水は、跳ね 風に揺らめく、草々と 汚れを溶かす 川の流れと 背後をゆらりと過ぎる、牛の 乾いた合図の、鳴き声 気がつけば 川の流れと溶け合う、婦人の動作は 自らが音符であるように 二重奏を奏でる 緩やかに、圧縮された 田舎の風景のなかで   ---------------------------- [自由詩]鴨とわたし/服部 剛[2017年8月24日22時29分] 突風に路上の白いビニール袋が ふくらみ舞い上がる、朝 早い流れの川の水面を つーーー と、流れに身をまかせ ひとり目の鴨はゆく 三メートル後ろでは 細い足をじたばたさせて 安住の浜辺になんとか辿り着いた ふたり目の鴨が息をつく 草に茂みにでんと佇み ふたり目の疲れた鴨に 何やら、助言をしている さんにん目は、親分肌 ――鴨にもいろいろな   人間ならぬ鴨模様があるものだ…   さて、わたくしが鴨ならば   さんにんの中の誰だろう?   ---------------------------- [自由詩]日々の手紙/服部 剛[2017年8月24日23時02分] 私は手紙を綴っている 今日の日が 二度と無いことを知らずに あなたの顔の面影を浮かべ 手にしたペンを、余白に落とす おもいの…高ぶりに 自ずとペンは動き出し 無我の歩調は便箋を往く 〈日々の叫びはふるえる字面(じづら)の、裏側に〉 腹の中に渦巻いて沈殿していたものを 打ち明ける秘密の手紙を あなたは新たに解釈するだろう これが、わたしの日々の遺書 素朴な風景を吟味しながら 一通ずつ、積みあげられてゆく いつか手紙の塔になる日まで   ---------------------------- [自由詩]缶蹴り/服部 剛[2017年9月30日1時09分] 悔しいことがあったなら ぺしゃんこの空き缶に 自分の姿を重ね 思いきり、蹴っ飛ばせ (人に当てちゃだめヨ) 空き缶は すーっと空へ吸いこまれてゆく   ---------------------------- [自由詩]馬込文士村にて―藤原洸住居跡―/服部 剛[2017年10月13日20時47分] 「別れのブルース」で有名な 詩人・藤浦洸の住居跡を訪れると 碑の傍らの叢(くさむら)に棄てられた ビニール傘が埋(うず)もれ 秋の中天にてらてら耀いていた 今日も太陽は照らすだろう かつての我が影の如く、裏ぶれた者をも   ---------------------------- [自由詩]馬込文士村にて―萩原朔太郎住居跡―/服部 剛[2017年10月13日20時56分] 朔太郎住居跡へゆく、途中 路面にくしゃり潰れた柿はあり (種は、離れて落ちており) あわれな柿の橙色の只中に くっきりとした蔕(へた)の渦巻く瞳が 遠い過去から しゃがんで覗く、僕を視ている         ---------------------------- [自由詩]月光浴/服部 剛[2017年10月13日21時13分] 今宵、我は旅が一体何であるかを確認した    * 酔い醒めの露天風呂にて ざぶんと裸はたちあがり キンシクイキノ外へ、出タ (竹垣に映る人影は、赤いはらを掻いていた) 仰いだ月が僕を視ていた 雲隠れの白い眼が…何かを云っている 未だ嘗て無いきもちよい 鈴虫の交響曲の滲みる 修善寺の秋の夜   ---------------------------- [自由詩]ドアの向こうに/服部 剛[2017年10月20日19時48分] 人と人の間は ひとつの場であり ふいに風の息吹はふくだろう 互いの瞳の間に 密かな電流の通う 場面を探しに 今日も、私はドアを開け あなたに 会いにゆく   ---------------------------- [自由詩]照明灯/服部 剛[2017年10月20日20時04分] 朝の古びた駅舎で ペンキのはげた屋根上から 剥き出しの大きな電球が 辺りをそっと照らしている ひとり、ふたり 音も無く通り過ぎ これから街へ出てゆく、私も 何者かに淡く照らされて 今を生きている   ---------------------------- [自由詩]さぷりまん/服部 剛[2017年10月22日20時09分] あなたは知っているだろうか? 秘密のさぷりのあることを 目には見えない あの透きとおる粒のさぷりを うつむく夜に ーーごくり ひと飲み で あなたの体内に具わる エンジンの炎は、闇に踊って 燃えさかり…燃えさかり… 明日の方位へ燃えさかり… わたしはいけるいけいける いけてるいけるいけいける いくいくきっともっといく さあ 一っ二のっさあああああん! ドアが開いた ---------------------------- [自由詩]ひかりの棒/服部 剛[2017年10月26日17時31分] 来春、息子が通うであろう 養護学校を見学する 教室の窓外から 先生に笑顔があるか、見る こども達に笑顔があるか、見る 言葉を話さず無垢にも笑う 息子をあずける豊かな場かを 廊下の壁に貼られた 女の子の絵の中に ひかりの棒がつきぬけている 細い尾に、火花を散らして 一瞬につらぬくものが 僕もほしい ---------------------------- [自由詩]電話のねむり/服部 剛[2017年10月26日21時13分] 白い線につながれた 黒いスマートフォンは 小さな画面を閉じた暗闇に 遠く ぽつねん と浮く 青い惑星の夢をみる ---------------------------- [自由詩]お叫び/服部 剛[2017年10月27日20時32分] 今宵、酔いどれの 耳には 便所を出た 白い洗面台の横に置かれた 金のニワトリの 悲痛に明るいお叫びが 脳裏の遥か彼方から ひびいてくる ---------------------------- [自由詩]小名木川のほとりで/服部 剛[2017年11月1日23時43分] はじめて新橋の飲み屋で、あなたと 互いの盃を交わした夜の語らいに いくつもの言葉の夢がありました あなたと出逢ってからの 日々の流れのなか 小さな、言葉の芽がようやく 土から顔を出した頃 あなたは未知への旅へ出てゆきました 何日も、何日も、降り続く雨の出来事 なのに 少しの間を置いた 今日 あなたの大きな面影の ふしぎな明るさが 僕等の間に、漂います もし、小名木川が――昔々 炎に燃えた哀しみの川であっても また春の訪れに、桜吹雪の舞う下を 煌めく川は流れゆき あなたの意思も川となり 明日の物語へ流れゆく 僕等のなかに流れる小名木川 ほとりに佇む旅人の頬を、風は掠(かす)め 水面に乱反射する、笑い声 何処からか ひびく ---------------------------- [自由詩]一行詩 1/服部 剛[2017年11月7日20時49分] 自らを、時の流れに譲渡せよ。   ---------------------------- [自由詩]手紙―友を偲ぶ―/服部 剛[2017年11月7日20時53分] 「友への手紙」 君は桜吹雪の彼方へゆく 僕は永遠(とわ)へ詩う 友よ、ありがとう 今宵は何故か・・・涙の美酒だ    * 「友の妻への手紙」 いつまでも、これからも 友でいよう 物語は続き 川の流れは いつかの空へ至るだろう   ---------------------------- [自由詩]SPIRITS/服部 剛[2017年11月7日21時12分] あなたが歌を歌う時 あなたは歌そのもの 僕が言葉を語る時 僕は言葉そのもの 僕等が一人ひとりの日々の旅路を ゆったりと加速して…歩めば歩むほど 人間は歩行になる ――あっ 真昼の空に流れ星―― 二〇一七年の 凸凹にならされた地上を旅する  凸凹な僕等の胸に呼応して どくり、どくり、脈を打つ あまりに柔い 血の通う宝石達 これからここで 発光を始める 無限色のすぴりっつ!   ---------------------------- [自由詩]一行詩 2 /服部 剛[2017年11月10日18時06分] 逆境をおもろいわと、言ってみる。 ---------------------------- (ファイルの終わり)