服部 剛 2017年6月1日23時59分から2017年10月13日20時56分まで ---------------------------- [自由詩]一匙の薬/服部 剛[2017年6月1日23時59分] My boy 大事な薬をスプーンで入れようとするのに 真一文字に口を結ぶ君は、頑固者だ My boy 頑固に生きるってことは 自ずと苦労を背負うってことだ 頑固であるってことは それだけのエナジーが 君の内に宿っているからだ 君には ママのヤサシサも必要だけど パパのキアイも必要さ だから時には 君の小さい口を何とかかっぴらいて スプーンで飯と薬を、放り込む 君が君らしく育まれるように パパがパパとして育まれるように たった一匙(ひとさじ)の愛をこめてね     ---------------------------- [自由詩]息子の見舞い/服部 剛[2017年6月2日23時01分] 二年前にこども医療センターで行われた ダウン症をもつ書家・金澤翔子さんとお母さんが 講演する写真が、廊下に貼られていた (写真の隅には、ダウン症児の  息子を肩車する僕と、隣の椅子に座る妻) その日に書いた「共に生きる」の 優しく力強い文字は、写真の上に展示され 僕はいつもひと時見上げてから (よし…!)と気を入れて 入院中の息子が待つ病室へと歩く 廊下 を歩きながら、翔子さんの 「共」の字が、脳裏に浮かぶ  いのちの宿る「共」の字は  二人三脚のぎこちなく楽しい歩行のようで  夫婦も親子も友達も  〈ふたりでひとり〉であることを  今日も密かに語っています 思いを巡らせながら歩く内…息子の病室に着いた 若い介護の兄さんが、介助していた 「ありがとう、やりますよ」 にこり、と立つ兄さんと入れ代わり 座ったパパは、息子の目をまっすぐに見て 食事の介助を始めた      ---------------------------- [自由詩]ひかりの玉/服部 剛[2017年6月9日17時36分] こんな襤褸(ぼろ)きれの僕の中に、びい玉がある 億光年の光を宿し 何処までも続く坂道を (発光しながら) 回転して、のぼりゆく   ---------------------------- [自由詩]YとHに捧ぐ――二〇一七年・渋谷にて――/服部 剛[2017年6月9日18時14分] Youtubeの画面にいる君は、木槌を手 に、鐘を鳴らす。ネットカフェから出た地上 は、若くして逝った君の父親があの日歌った スクランブル交差点。 ぎくしゃくしたノイズが都会の鍋から溢れて いる。 跳び越えたい 昨日の自らの影を  勝手に引いていた境界線を。  僕は求める。十七歳の彼が、二十七歳の君が、 真っ青な空を乞い路面から爪先を離す、時を。  海面に跳ねる魚の真空意識を。 TOWERRECORDSで探し回り、君の CDを見つけた。四角いジャケット写真は、 湖の畔。白いセーターの君は、湖面の遥かな 先をみつめる(透きとおる父親の面影と共に) 再び渋谷駅へと歩く。街の何処からか届く、 誰かの小さな叫びは消防車となり、人群れを 掻き分け去ってゆく ――遥かな空から約束の鐘が鳴っている―― 君の始まりの歌をリュックに入れて、新しい 時の中を、僕はすでに歩いていた。   ---------------------------- [自由詩]合格祈願/服部 剛[2017年6月9日19時51分] 湯島天神の境内に入り 石段で仰いだ空の雲間から 顔を出す しろい輪郭のお天道様が 遥かな距離を越えて この頬を温める あぁ、皿回しの利口なお猿さんが 師匠に手を引かれ ひょこひょこ去ってゆく あぁ、本堂の太鼓と笛は鳴り響き 紋付き袴と白無垢の新郎新婦は 中へ、吸い込まれゆく  梅の花ひとひら  石畳に、舞い どうしてこんなに重いのか 人間達のぶら下がる 無数の絵馬に、吹く風の からころ…と鳴る、瞬時の歌よ 遠い空の北国では かわいい姪が 十日後に 受験という名のリングに上がる 石畳の階段を下りながら、僕は 合格祈願のお守りを 胸の内ポケットに入れた   ---------------------------- [自由詩]赤い川/服部 剛[2017年6月10日23時51分] 酔い覚めの夜は 歩道橋に佇み 優しい風に身を晒(さら)す アスファルトの白い梯子(はしご)から 仄明るい駅の入口へ 吸い込まれゆく 人々 アルコールが少々体内を 回り過ぎて 充血した瞳には 眼下の人々の流れが 血液の川に視えてくる 赤い赤い川の水面(みなも)に 金の粉等は煌いて 今宵 不思議の詩(うた)は囁かれ あぁ、全ては万華鏡に流れゆく 人も 時も 思い出の数々も  ふぅ… 歩道橋の下を 幾台かの車が行き過ぎる この世の夢魔から 覚める日まで 日々の風景をふらつく、僕は 一輪の純白な薔薇を 明日の窓に飾ろう   ---------------------------- [自由詩]酒場にて/服部 剛[2017年6月10日23時55分] 時おり 俺は何だって ごああ、と 唸りたくなる 池袋の土曜の夜 醤油をたらし 出汁巻卵を 箸で突っついてる   ---------------------------- [自由詩]わたしのなかに/服部 剛[2017年6月18日23時53分] 建設現場で クレーンに取り付けられた ドリルがゆっくり 地中深くを掘っている 地球の中心に 灼熱のマントルは どろどろ光る わたしという存在の 只中も、掘ってゆけば 小さなマントルが ふつふつ…発光するだろう   ---------------------------- [自由詩]赤いぽすと/服部 剛[2017年6月18日23時56分] 郵便ぽすとが 陽だまりに 一本足で、立っている 今まで、どれほど人の思いを受け入れたろう これから、どれほどの言葉を届けるだろう 今日も手紙を持つ人がすうっと闇に手を入れる 郵便ぽすとの 一本足には 犬に小便かけられた、跡があり 路面に影を落としながらも ゆるぎなく、立っている   ---------------------------- [自由詩]花の名前/服部 剛[2017年6月18日23時59分] あなたは一体 何処から来たのでしょう? あなたは、あの日 たった一粒の種でした 一粒の種の中には 「他の誰でもないあなた」という設計図が 小さく折り畳まれ ぎゅっ と、 詰めこまれています 母なるものに温められた 一粒の種は、やがて発芽し (おぎゃあの産声をあげ) ゆっくり…あなたになってゆく いつのまにか大人になった、あなたの中に 今もくっきりと埋まる 小さな種は 膨張し続ける無限の宇宙を孕みながら これからも 殻を蹴破りぐいぐいと 緑の茎を、空へ 何処までも伸ばしてゆくでしょう 未知なる、あなたという花を   ---------------------------- [自由詩]木ノ声/服部 剛[2017年6月27日17時14分] 夜の砂漠の果てに 無言の姿で立っている ひとりの木 枝々の短冊は夜風に煌(きら)めき 忘れていたあの歌を 旅人の胸に運ぶ ――君の夢は何? 思春期に使い古した言葉は 遠い記憶の最中(さなか)に甦り ひとすじの声になる どんなに年老いても 日々に立ちこめる靄(もや)を掻き分けて 生臭くぎらつく、あの頃の 夢の欠片(かけら)を離さない 夜の砂漠の果てに広がる 星屑の下 いつまでも立っている ひとりの木よ もう一度、教えておくれ あの日、傷ついた旅人が短冊に記す 物語の続きを いつまでも 心象風景に立っている ひとりの木 枝々の短冊は仄かに煌めいて 無言の歌を囁いている 夜明け前   ---------------------------- [自由詩]流れ/服部 剛[2017年6月27日17時38分] 五年ぶりに福島から来た トモダチのライブを観た 本人と固い握手を交した後 人混みのロビーから外へ出て 都内でライブハウスの店主をする トモダチのトモダチに三年ぶりに 電話して、懐かしい声を聴いた (あいにく店は休みだった) 地下へ続く階段を下りて ホームにゆっくり丸の内線は滑りこんで 開いたドアを入ったら トモダチのトモダチの 役者の娘さんが 壁に貼られた広告の中から 爽やかに、僕を迎えた   ---------------------------- [自由詩]ルオーの絵/服部 剛[2017年6月30日19時59分] 私の内面の鏡には 百の顔がある まともに視れば 自らがもたないので、私は へどろに包まれながらも 発光する太陽の真珠を 自らの御魂(みたま)として 秘密の祭壇へ 無心にのばす――両腕で 捧げる 机上に葡萄酒のグラスを置く、独りの晩餐会 古びた壁に掛かる絵は、かつて ルオーが画布に描いた 貧しい月夜の街角に立ち 震えるのひとの傍らにいる  朧(おぼろ)ないえす 少々、頬の赤らむ 私の前にあらわれる ---------------------------- [自由詩]月明かり /服部 剛[2017年6月30日20時07分] グレープフルーツ色のグラスを、手に 今夜はこうして夢見よう いつかは消える、この道ならば 少々頬を赤らめて 僕は知らなかった 今・この瞬間、世界の何処かで 赤子が産声をあげている いつのまにやら大人になって しかめっ面の日々を裂くように 雑踏を潜り抜けてきたけれど     今ももこうして、脈を、打つ  自分に祝杯をあげよう グレープフルーツ色のグラスを、手に 転寝(うたたね)する…脳裏には 暗幕の夢の夜空に     おぼろ月 出来損ないの日々を演じる、自分さえ 今夜は何故か少しだけ ゆるせそうな気がする   今まで、歩いてきた道を   ---------------------------- [自由詩]かけ声/服部 剛[2017年6月30日20時18分] 雨の日に 道の向こうから歩いてくる 幼い娘と母親は 手を繋いだまま せーのーせっ の声あわせ 水溜りをひょいと跨(また)いでいった わたしの日常も、密かな せーのーせっ の連続だ 自らをゆだね、飛ぶ 行為のあとで広がる余白に わたしは、賭ける ビニール傘を優しく叩く 雨唄(あまうた)の午後 足下の小さな水溜りに 目をやる、ひと時 せーのー せっ ---------------------------- [自由詩]鶏ノ夜/服部 剛[2017年7月5日18時33分] 平たい皿の上に 幻の鶏が一羽 細い足で、立っている  こけえ  くぅおっこ  こけえ 青い空へ吸いこまれてゆく あの日の、さけび 先ほどまで 醤油のたれに塗(まみ)れていた 肉の残骸はすでに わたしの胃袋の海へ沈み お座敷に腰を下ろしたまま 羽ばたきを忘れた日々に疲れ 壁に凭れる酔いどれを 見つめるのだ 皿の上に立つ、幻の鶏 哀しみに澄んだ びい玉の瞳   ---------------------------- [自由詩]大雨警報/服部 剛[2017年7月5日18時55分] 灰色の街に 今日もじゃぶじゃぶ降りしきる 情報洪水の雨達 駅のホームに立つ人々は 小さな液晶画面 の上に 人さし指を滑らせる ひとり…ふたり…と 人がロボット化してゆく様を 眺める僕も、気がつけば 人さし指を滑らせる じゃぶじゃぶじゃぶじゃぶ じゃぶじゃぶじゃぶじゃぶ じゃぶじゃぶ埋もれる僕 じゃぶじゃぶじゃぶじゃぶ じゃぶじゃぶじゃぶじゃぶ 人よ、久しく忘れていた あの雨上がりの、小さな太陽に もう一度 ひとすじの手をのばせ   ---------------------------- [自由詩]京都タワー/服部 剛[2017年7月25日0時26分] 夜空から明滅して? ? ? ? ? ? ? ? ? ゆらゆら下りてきたUFO が 白い塔に刺さったまま? ? ? ? ? もう長い間、固まっている その足下を京都の人々は? ? ? すまし顔でゆき過ぎる 遠い街で? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? あたりまえはあたりまえでないと? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? 知った旅人 ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? この旅を終えた 後? ? ? ? ? ? ? あたりまえでないあたりまえを? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? 発見できるだろうか? 旅のトランクを歩道に、置いて? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? 仰いだUFO の 上の尖塔から 電波を受信するように? 自らもアンテナとなり? ? ? ? ? 明日の古都を歩いてみよう   ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ---------------------------- [自由詩]いぶき―旅立った義父に捧ぐ―/服部 剛[2017年7月25日0時54分] 夫婦で、出かける準備をする 告別の朝 在りし日のお義父(とう)さんが見ていた テレビがふいに、点いた 夫婦は顔を見合わせる (からだを脱いでも  御魂(みたま)はおられる ) 夕刻、お義父さんは骨となり 家に戻った (可愛がられたダウン症児の幼い孫は  ちらちらと気配を窺い) 空色の写真の中にいるひとと お互いの目を、合わせ これからの日々の不安を?い潜(くぐ)る、決意で 語る〈ありがとう…〉のいのり 我が家における、新たな季節 その部屋の窓から 幽かな息吹きに カーテンはふくらむ   ---------------------------- [自由詩]哲学の道にて/服部 剛[2017年7月27日22時42分] 哲学の道を入り 敷石をふみしめ歩いていた (道の傍らをさやかに水は流れ) 遠くから、外国の男性がふたり こちらへ歩いてくる 僕は敷石を一旦、下りて 道の外れに身を引いた (弾む英語の言葉は流れ) たとえば 今、煩っている 自分の重たい考えを一旦、脇に置くこと もやもやは すーっと通り過ぎてゆく   ---------------------------- [自由詩]十円玉の中に―平等院鳳凰堂にてー/服部 剛[2017年7月30日0時00分] 掌に乗せた 十円玉の寺院の中に、小さな僕がいる 小さな僕が、院内の 大きな阿弥陀如来像を、仰げば 周囲を 十三体の仏に囲まれながら 薄い目を開いている その頭上で 小さな仏は、そっと手を合わせ 無心に目を閉じており 大きな阿弥陀如来像 と 旅人の僕は、微かな白い糸で 結ばれる 十円玉を掌に乗せた、僕 と 十円玉の中にいる、僕 の 目は合い 胸の内にある 無明の部屋に置かれた 一つの鉢に 蓮の花がひらく   ---------------------------- [自由詩]石の器―大原三千院にて―/服部 剛[2017年7月30日0時14分] 竹筒からひとすじの糸が――落ちる 石の器の水面(みなも)に、円は広がり しじまはあふれる 絶え間なく心に注がれるもの 心の靄(もや)に穴を空け 密やかに わたしをみたす   ---------------------------- [自由詩]河原町・ライブハウス都雅都雅にて/服部 剛[2017年7月30日0時50分] ライブ会場に アンコールは湧き起こり サプライズのゲストで、呼ばれ 舞台に上がった 利久さん ピアノとギターで弾き語る 男女のユニットの傍らで スケッチブックに、赤く  Love & Peace の文字を書く ふたりの奏でるメロディに合わせ 白い絵の具を宙から、垂らす 赤い絵の具を宙から、垂らす 霧吹きで舞う、微細な水に 平らにした、絵を晒す ふたりの奏でるリズムに合わせ 抱えたスケッチブックと 指さきの絵の具を 楽器にして 紙の上の赤をひきのばす (Love & Peaceは色に埋れ) 歌と、ピアノと、ギターの音色が ぴたり止まった 後 利久さんは 一枚の絵を、掲げる スケッチブックに描かれた マゼンタ色のはーと 会場に座るそれぞれの影に 脈を、打つ はーとが滲んで浮かぶ 河原町四条 旅先の夜   ---------------------------- [自由詩]東大寺にて/服部 剛[2017年8月2日10時28分] 参道を無数の鹿が 長閑(のどか)なリズムで、歩いている 野球帽の少年が 鹿せんべいを 口許にやっては、はしゃぐ 首からカメラをぶら下げた アメリカ人のおじさん 橙色の法衣を身に纏う インドの僧侶達 赤いペアのTシャツを着た 中国人の若いカップル 佇めば かれらは 傍らを過ぎてゆく ――時よ、僕を何処かへ運んでくれないか 石畳の道の あちらこちらに散らばる 鹿の糞を避けて歩むうちに 近づく 門の向こう側に 巨大な寺 柄杓(ひしゃく)の水で 手を清めてから 本堂に入る 日本一の大仏は 旅人を待っていた 薄目を開いて、手をあげて  やあ   ---------------------------- [自由詩]川の音楽/服部 剛[2017年8月24日22時09分] 川の畔(ほとり)に身を屈め 婦人は洗濯物を 無心にこする 額に、汗は滲み 袖を捲った腕に水は、跳ね 風に揺らめく、草々と 汚れを溶かす 川の流れと 背後をゆらりと過ぎる、牛の 乾いた合図の、鳴き声 気がつけば 川の流れと溶け合う、婦人の動作は 自らが音符であるように 二重奏を奏でる 緩やかに、圧縮された 田舎の風景のなかで   ---------------------------- [自由詩]鴨とわたし/服部 剛[2017年8月24日22時29分] 突風に路上の白いビニール袋が ふくらみ舞い上がる、朝 早い流れの川の水面を つーーー と、流れに身をまかせ ひとり目の鴨はゆく 三メートル後ろでは 細い足をじたばたさせて 安住の浜辺になんとか辿り着いた ふたり目の鴨が息をつく 草に茂みにでんと佇み ふたり目の疲れた鴨に 何やら、助言をしている さんにん目は、親分肌 ――鴨にもいろいろな   人間ならぬ鴨模様があるものだ…   さて、わたくしが鴨ならば   さんにんの中の誰だろう?   ---------------------------- [自由詩]日々の手紙/服部 剛[2017年8月24日23時02分] 私は手紙を綴っている 今日の日が 二度と無いことを知らずに あなたの顔の面影を浮かべ 手にしたペンを、余白に落とす おもいの…高ぶりに 自ずとペンは動き出し 無我の歩調は便箋を往く 〈日々の叫びはふるえる字面(じづら)の、裏側に〉 腹の中に渦巻いて沈殿していたものを 打ち明ける秘密の手紙を あなたは新たに解釈するだろう これが、わたしの日々の遺書 素朴な風景を吟味しながら 一通ずつ、積みあげられてゆく いつか手紙の塔になる日まで   ---------------------------- [自由詩]缶蹴り/服部 剛[2017年9月30日1時09分] 悔しいことがあったなら ぺしゃんこの空き缶に 自分の姿を重ね 思いきり、蹴っ飛ばせ (人に当てちゃだめヨ) 空き缶は すーっと空へ吸いこまれてゆく   ---------------------------- [自由詩]馬込文士村にて―藤原洸住居跡―/服部 剛[2017年10月13日20時47分] 「別れのブルース」で有名な 詩人・藤浦洸の住居跡を訪れると 碑の傍らの叢(くさむら)に棄てられた ビニール傘が埋(うず)もれ 秋の中天にてらてら耀いていた 今日も太陽は照らすだろう かつての我が影の如く、裏ぶれた者をも   ---------------------------- [自由詩]馬込文士村にて―萩原朔太郎住居跡―/服部 剛[2017年10月13日20時56分] 朔太郎住居跡へゆく、途中 路面にくしゃり潰れた柿はあり (種は、離れて落ちており) あわれな柿の橙色の只中に くっきりとした蔕(へた)の渦巻く瞳が 遠い過去から しゃがんで覗く、僕を視ている         ---------------------------- (ファイルの終わり)