服部 剛 2016年8月8日2時49分から2016年12月6日8時35分まで ---------------------------- [自由詩]人間発電所/服部 剛[2016年8月8日2時49分] どうかしちゃってる、俺 どうかしちゃってる、俺 でも、でも、ほんとはネ ほんとーにどうかしちゃってる どうしょうもない情けなぁい、のは… 「みぎにならえ」の、俺! は、跪(ひざまず)いて蹲うずくま()って疼き持って 二の腕でしょっぱい涙を拭ってる、この 瞼にしたたる滴に、一瞬 あの遥かな太陽は光り 蹲って疼き持った、この俺の 華奢な右手には、一本のペン。   まっさらなノートに 描くよ、一本の線 それは髪の毛 それは針金 それは、それは、導火線。 ねがてぃぶでない、導火線に しゅぽっ とライターの火を灯して じりじり、じりり…俺の中 這いつくばってる、俺の中 くすぶり、続ける、俺の中 の、 発電所は俺 自らが発電所 大地に接吻をして、磁場を吸って――― 血肉の通った人間発電所 の おれ!   ---------------------------- [自由詩]僕等ノ星 /服部 剛[2016年8月8日2時58分] 僕の部屋には あの頃のBensCafeの朗読会で 幾千人もの詩人が 笑いと涙の肉声を語った 黒い小さな舞台が 壁に、立て掛けてある。 所々に薄くペンキのはげた その聖と醜の混濁した 皆のハートをぎゅっ…と 凝縮した舞台を、平らに置けば 今もゆらゆら〜蒸気は昇り 薄っすらと現れる あの透けた真珠 が 今宵――無限色に、明滅する 僕等皆に暗黙のサインを贈る、只一つの あの夜空の星に なる ---------------------------- [自由詩]揺れる、瞳/服部 剛[2016年8月8日3時01分] その少女の瞳には 空白の明日を覆い隠す…不安と 不安の奥底にゆるがぬ 一本のすじが、通っている 少女はすでに、聴いている 得体の知れぬ煙の塊を 明日へ投げ去った時 ふいに訪れる、そよ風が 一冊の本の序章を捲る あの音を   ---------------------------- [自由詩]鳥人間/服部 剛[2016年8月9日23時37分] 二度と無い(今日)を刻印しよう ないふのエッジの上で 両腕の翼を広げいつのまにやら、綱渡っていた 無重力な――小人のぼく! ぎりぎりの日々を あんのんと胡坐(あぐら)かいて 呆けた面(つら)を 演じる――役者のぼく! 刻印しよう、二度と無い(いま)を 呼吸しよう…ゆいいつむにの(今)を ありがとう 世界にたった一人の 僕 と 君 に、 あ の (LOVE)を身体(からだ)の隅々の葉脈まで 沁みわたるよう ぼくはいくよ きみを道づれに、退屈な日々に潜む 、小さい小さいトンネルをくぐり抜けて ―――――――――出口の向こうにひろがる 明るい地上のぱらいそ = 天 の宿る日々を、夢に見て   二度と無い 今日という日の まっさらな、日記帳 今、巨(おお)きく目の前に開かれている。 なんでもない日々に向けて なんでもないぼくのまま そろそろ 旅の仕度を始めよう   ---------------------------- [自由詩]羊の声/服部 剛[2016年8月12日21時38分] 薄い霧に覆われた <幸福の谷>で 幻の羊等は草を喰み 牧場に響く   あの鳴き声は 昔の恋の傷口さえも …そっと覆ってゆくだろう      ---------------------------- [自由詩]呼び声/服部 剛[2016年8月12日21時42分] 曇天に覆われた地平を 旅人は往く 遥かな場所から呼びかける 金の炎の稲穂等が 肩を並べて、かれを待つ あのVisionの方角へ   ---------------------------- [自由詩]鳥のひと/服部 剛[2016年8月12日21時52分] いつの時代も 人は飛ぶことに憧れ 長い時の彼方から 語り継がれた、鳥類の夢 ――DNAは体内で目覚めを待ち… 僕は羽ばたきたい でも、翼は無い されど往こう モノクロームの世界の只中へ 頭の思考を 空 にして 日々の道の重力が、ふと消える あの地点へ   ---------------------------- [自由詩]始まりの人/服部 剛[2016年8月17日23時33分] あの頃、彼の人影は発光した 暗闇に跪き、両手を組んで あの頃、彼は両手を差しのべた 背後の照明に、照らされて 顔の無い客席へ 歌だけを残して 若い彼が世を去った あの日から――僕は耳を澄ましている この世界で〈今〉も、脈打つ 巨きな幻の心臓音に あの頃より少し大人になった、僕は 無数の足が行き交うモノクロームの交差点で 立ち止まり、胸に手を…あてる 時を越えて 自らの内に姿をあらわし ふたたび発光する 彼の人影   ---------------------------- [自由詩]函館山の麓にて/服部 剛[2016年8月26日8時56分] 遠い山々の緑がくっきり浮かぶ 夜明け前 烏等は唄を交わし始める。 旅の宿の眼下に広がる風景 明るみゆく教会の隣に 洋風の家があり 朱色の屋根の下に 昔――亀井勝一郎という 文士がいた、不思議を思う。 今、僕は決意する。 この手に一本のペンを持ち 世に二人といない自らの旅を往く 新たな物語の日々へ   ---------------------------- [自由詩]いのちの音/服部 剛[2016年8月26日9時04分] 今日 私は知った。 私は私であり 私ではない。 明け方の 山の彼方にゆらめき昇る あの太陽により 産声をあげた日から 棺に入る日迄 我が心臓は、脈を打つ   ---------------------------- [自由詩]日向の本/服部 剛[2016年9月16日23時56分] 函館山の麓(ふもと)で腰を下ろし 遠い山間から、昇る 夜明けの太陽に瞳は滲み ぼくは呟く。 ――ほんものになりたい、と。 積丹半島の神威岬に、独り立ち 遥かな楕円の水平線に、目を細め 全身を風に包まれながら 最果ての夕陽が 雲間から顔を出した時 ぼくは呟く。 ――長い間纏(まと)った職を脱ごう、と。 旅から帰り 所長に辞表を、手渡した。 その夜ぼくは、散歩した。 裸の魂に 不思議な風は吹き抜けて ぽつん、と光る街灯の方へ 歩調の音を、刻みゆく。   * 〈或る夜の夢〉 あなたの名前が題名の 一冊の伝記を 窓から吹く風は、捲り ましろい頁の上に 浮かぶ万年筆は 自動筆記を、始めます   ---------------------------- [自由詩]ポプラの唄/服部 剛[2016年9月16日23時59分] 秋の夕陽のふりそそぐ 歩道の人々に紛れて ひとりの妊婦が傍らを、過ぎた。 ――そっと僕は祈る。 遠い背後から ポプラ並木の囁きが さわさわと…夕凪に運ばれて 僕の靴音は、密かな幸いを唄い出す。   ---------------------------- [自由詩]旅人の手/服部 剛[2016年9月20日20時47分] 鉄格子の間に坐る、あなたは じっと――待つ 小さい窓から射し込む 一条の光にふれる、あの瞬間を 旅人の静かな足音は やがて…遠くから響き あなたはゆっくり、立ちあがる (深く澄んだ瞳がみつめている) 今も尚、血の通う あなたの手にふれたい…と 旅人の手は 鉄格子の闇の中へ   ---------------------------- [自由詩]九月二十六日(月)午後/服部 剛[2016年9月30日23時46分] 初老の吉田先生と、四十一歳の僕が 久々に語らう鎌倉の地下の珈琲店 ――今、人生の岐路にいます そっと頷き、眼鏡越しの瞳は優しく潤む   ---------------------------- [自由詩]九月二十六日(月)夜/服部 剛[2016年9月30日23時55分] 友の家の玄関を開けば、ひょっこり顔を出す 新妻とすでに五才の少年は、知ってる顔! 友がぎたあで弾き語るアンパンマンの唄を BGMに祝杯のワインを啜る、幸福な夜      ---------------------------- [自由詩]九月二十七日(火)朝/服部 剛[2016年10月4日22時39分] 徐行する細道で、フロントガラスの前方から 前の職場の老人ホームで今もボランティアの おばちゃんの姿は…近づき、五年ぶりの再会に 窓を開ける――あらっ元気?と、カナリアの声   ---------------------------- [自由詩]九月二十七日(火)夜/服部 剛[2016年10月4日22時45分] 喪服の参列者の前に立ち、老師は語る 酸素吸入器をする妻の最期の伝言 (あ・り・が・と・う) 帰る前に僕は 老師の手を握り、子等の頬に涙は光る   ---------------------------- [自由詩]九月二十九日(木)夜/服部 剛[2016年10月4日22時49分] 今年で二十回目の「遠藤周作忌」 オープニングの黒人霊歌の合唱は 皆を郷愁に誘い、温かな気配に僕は涙ぐむ 某作家のイタズラされた思い出話に、会場は湧く   ---------------------------- [自由詩]九月三十日(金)夕/服部 剛[2016年10月9日1時53分] 職場のデイサービスに来るお婆ちゃんは 僕の駄洒落にいつも笑ってくれる 入所施設が決まり、最終利用日に家まで送る 立ち去る僕に「またね」と語った、遠いまなざし     ---------------------------- [自由詩]十月一日(土)午前/服部 剛[2016年10月9日1時55分] 二ヶ月前に保育園で講演すると 個性の強い息子に深く悩むママの揺れる瞳が 僕の心象に灼きついた――今日は運動会 手を繋ぎ走る母子の背中に、エールを贈る      ---------------------------- [自由詩]十月四日(火)朝/服部 剛[2016年10月9日1時57分] おとといは仄かに薫ったキンモクセイ 昨夜の雨で濡れた路面に、花びらの星は散らばり しゃがんだ僕は呟いた ――今日という日の、星を探そう      ---------------------------- [自由詩]十月七日(金)夜/服部 剛[2016年10月14日18時29分] 息子を可愛がる友が体調不良、受診するよう 車で迎えにいくが、岩の腰は上がらなかった が、三日後に入院、翌日息子も高熱で入院 同じ気管支炎に「不思議です」のメールを受信   ---------------------------- [自由詩]十月八日(土)夕方/服部 剛[2016年10月14日18時36分] 講演会で初めてみる、彼の顔は 元受刑者というレッテルの仮面を外せば (もうひとつの素顔)が視え、休憩時間に 窓辺で佇む僕の瞳に、窓外の夕陽が滲みた   ---------------------------- [自由詩]十月九日(日)夜/服部 剛[2016年10月14日18時41分] 偶然のメールをもらい 夜の大船に繰り出せば レゲエライブのSOULTRIN 何処までも走れそうな青春の夜      ---------------------------- [自由詩]十月十日(月)午後/服部 剛[2016年10月19日20時15分] 世を照らすには? 君がここに来ないことです 僕の質問に答えた講演者の、眼鏡の奥で 黒目の力は凄みがあり、会場は一瞬静まった 帰って妻に話すと同じ凄みで、握手をされた   ---------------------------- [自由詩]十月十二日(水)朝/服部 剛[2016年10月19日20時16分] 初めてある女子大で、講演した 椅子から立ち上がるや否や、スイッチON! 学生さん達の内面に星は煌めき、笑いも湧き ラスト3分で僕は言葉の直球を――投げた      ---------------------------- [自由詩]生命の樹/服部 剛[2016年10月19日21時00分] ひとつ屋根の下で暮らした、お婆ちゃん 僕が生まれるより前に病で逝った、お爺ちゃん 幼い僕の頭をかわいいかわいいと撫でた、ひい婆ちゃん 娘の幸いを願って逝った、嫁さんのお母さん 年老いたある日突然走り世から去った、嫁さんの愛犬クロ 病んだ心のまま途中下車した、若き日のままの友 病の暗闇と闘い抜いた、ある若き歌姫 モノクロームの写真立てから今もこちらを見守る、高齢の詩人 夢の中で(君の息子を守る)と囁いた、作家の面影 どうやら私という人は 私の思いを遥かに越えて 黄泉の國の死者達の息吹に 生かされて ひとりでいながら、単なるひとりではなく もし、いのちの樹が立つならば 無数の祖先は、地中深く根を張り巡らせ 無数の子孫は、星々を仰ぎつつ…枝葉を広げ みゃくみゃくと、みゃくみゃくと生命は 今・ここに宇宙にひとりの者として 息を吸い――息を吐き 我は宇宙に只ひとりの者として 自らの内に包む 無限に輝くいのちの石を   ---------------------------- [自由詩]お天道様ノ声―天守閣跡地にて―   /服部 剛[2016年12月1日21時43分] 紅葉の葉群は節々に 詩(うた)を織り成し、風にさやぐ 皇居の午後 天守閣跡地の畔(ほとり)で 古い木目のベンチに腰を下ろす 巨きな四角い石垣の隅に立つ、優しい松の 頭上に広がる水彩画の空から 照らす――ひかりに目を瞑る 背後の木々の緑から 小鳥等の詩声(うたごえ)は響き 両手を器にした、僕の 体の隅々にまで ひかりは沁み渡ってゆく 振り返れば、人並に苦労して 時にとぼとぼ…しょっぱい涙を零しつつ ここまで歩いてきたが この世に…まだまだ悲嘆は隠れているが 今日僕は、初めて 日の本の国の道を味わい ゆっくり歩み 自らを徐々に回復しながら ――ひとつの予感が芽生えたのです あの天守台跡の上に広がる 初冬の空から世を照らす お天道様は 無音ノ声で、一人ひとりの国民に 今日も囁きかけている 言葉にならぬ、地上の生の歓びを   ---------------------------- [自由詩]小さな太陽/服部 剛[2016年12月2日21時49分] 先日、職業というものを 脱いだ僕は これから日々遍在する 小さな太陽になろう ――〈今・ここ〉に日溜り、在り。 本当は誰もが 小さな太陽を宿すという 昔々のヒトの記憶を 互いの瞳の内に、交信するように   ---------------------------- [自由詩]十月十三日(木) 夕方 /服部 剛[2016年12月6日8時35分] 編集者Kさんに退職を伝えると、厳しい一言 ――原稿を依頼するには、肩書を ――その発想は面白くないっすよ! 僕の嫁さん子供まで心配する瞳が、少し潤む      ---------------------------- (ファイルの終わり)