服部 剛 2015年4月5日20時54分から2015年10月13日23時33分まで ---------------------------- [自由詩]扉/服部 剛[2015年4月5日20時54分] 遠い異国のサクラダファミリア 風変りな教会・巨大な獣(けもの) ガウディの亡き後――今も尚 残された人々の手で創られているという 建物は、ひとりの生きものかもしれぬ 一人ひとりの人間は、歩く建物かもしれぬ 永遠の未完、へ向けて 私という作品は 日々、何者かに彫られ… もしくはつけ加えられ…   * いつの日か――私の心の聖堂は ぎぎぃ…と重い扉を開き   深遠の暗闇へ、旅人を誘(いざな)う   ---------------------------- [自由詩]夕餉の匂い/服部 剛[2015年4月5日21時13分] 横浜・野毛の老舗「村田屋」の座敷にて 鰯丼の傍らに、置いた 味噌汁の真ん中に 豆腐がひとつ、浮いている (天井のらんぷを、小さく映し) 澱んだ味噌汁の、只中に くっきりと、立体的に、艶やかな 豆腐の白い存在感に――目を凝らせば お椀の内から ゆらゆら湯気は…立ち昇る   ---------------------------- [自由詩]海の合唱/服部 剛[2015年4月20日23時20分] 私は、白波。 晴天の大海で、一人 遠くから呼ぶ あの太陽 の熱い眼差しを身に受けて、踊り上がる 私は、白波。 瞬時に見渡す、海面、あちらこちら それぞれの、個性の、白波等 それぞれに、水の花、咲かせ 身を捩(よじ)り、踊り上がり 全ての一人ひとりは この大海に含まれた、輝く水の滴。 海と、波等と、私の間に 透けた糸で 結ばれている…いのちの歓び 自らの白い体に疼(うず)き 飛沫(しぶき)となって、砕けては 無限の海の只中へ 私は、潜る。   ---------------------------- [自由詩]月夜/服部 剛[2015年4月20日23時38分] これから幕を開ける 旅の予感を胸に 玄関のドアを開き 月夜の散歩に繰り出す 路面に照らされた 我が影は 我であり 我で無い…誰かのような いずれにせよ――宇宙に只一人の僕 である確信は今、魂の深部に芽生え (雲間に隠れた月の顔は現れ) 静かに高鳴る 鼓動と歩調の…重なる この足で切り拓かれる、明日へ 我が心の叫び いちめんの月夜に響く   ---------------------------- [自由詩]名残り・・・について/服部 剛[2015年4月20日23時59分] 久々に一人で実家に帰る、晩 何処か名残り惜しく 幼い息子の肩を抱きつつ 嫁さんに少々草臥れた足裏を揉んでもらう。   * 久々におふくろの味で腹を満たした、朝 何処か名残り惜しく 注いでもらった湯呑の茶を、味わい 「今度は皆でうまい蕎麦でも食おう」と 見送る母ちゃんに言い残し フーテン気取りで、実家の玄関を開く。 (きっと――全ての人の出逢いと別れは  互いの実家を行き来した  昨日と今日の密かな郷愁に似て…)   * 平日の人気(ひとけ)無い喫茶店で、一人 嫁さん・息子・両親の顔を 想い浮かべ ずずず…と珈琲を啜り 愛読書の頁を、開く。   * 本の中は、とある料亭の戸を がららと開いた、夜の小路(こみち) 風にゆらめく暖簾(のれん)を背に 初老の作家と、同級生等は それぞれに白い吐息を昇らせて しみじみ…それぞれの家路に着く 滲んだ背中が三つ 夜の帳(とばり)の向こうへ、消えた。   ---------------------------- [自由詩]Vision /服部 剛[2015年4月29日2時24分] もし――凸凹な パズルのピースである、僕等が 舞台の上でスクラムを組んだら 明日へ光を放射する 一枚の絵画になるだろう   ---------------------------- [自由詩]石を打つ/服部 剛[2015年5月19日19時19分] 囲碁には(天元)の一手があるという。 運命の場所をそっと探るように シナリオの無い未来を読むように 白と黒の石は…互いに音を立て 碁盤の升目を、埋めてゆく。 ――碁石とは、天の星々のようですなぁ ――ならば、娑婆(しゃば)に置かれた人間達とも… ――言えますねぇ この世がもしも 碁盤の世界であるならば 勝負を分ける(天元)に、音の立つ あの瞬間を求め 私は摘(つま)んだ碁石を、宙に上げる。   ---------------------------- [自由詩]夕暮れの丘/服部 剛[2015年5月19日19時39分] 僕は、今から四十年前 勾玉(まがたま)のような白い種として 母の胎に宿りました。 それがこうしていつのまにやら 大人になって、独歩して 思考しては、言葉を発し 地上の日々を営んでいます。 夕暮れになると、僕は丘に立ち 遠い山波の黒い輪郭に 目を細め このいのちの源に ひと時――思いを馳せるのです。 あの日、自らの意志を越えて 世に産声をあげた 私(わたくし)という者が どうやら歓ばしい 世界に一人の者であるという 静かな予感の芽生えを この胸に、久しく思い出すために。   ---------------------------- [自由詩]空中ブランコの夢/服部 剛[2015年6月5日22時42分] 黒いしるくはっとの彼は 遠い過去から訪れた 謎の旅人 呆けたように、宙を見る 彼の目線のその先は―― 昔々のサーカス小屋 観客席を埋め尽くす 鰯の面した人々は 小さい口をぽかんと空けて 一人の男を仰いでる 中天に、逆さ吊りで、腕を組み 泰然自若で かっ! と見開く眼球に マンネリズムの歴史の色を 蘇らせる、威力あり。 (場内しーんと静まり返り) 鰯の群れの只中で 麦酒片手に赤らむ、僕は  とくり、とくり… 高鳴る胸に思わず、片手を あててみる   ※この詩は「残響―中原中也の詩によせる言葉―」    町田康(NHK出版)の「サーカス」を参考に書きました。   ---------------------------- [自由詩]棚の空洞/服部 剛[2015年6月5日22時49分] 扉を開いた、棚の中 いつのまにやらトイレットペーパーは 残り数個になっていた。 棚に、空洞のあいた分だけ 僕は日々の栄養を、摂り 少しは成長したろうか――?   ---------------------------- [自由詩]笛の音/服部 剛[2015年6月8日20時03分] 目線の先に、踏み台は置かれ ゆっくりと腰を沈めて 砂に指先を、ふれる。 ――僕は、何処まで翔べるだろう? 自らの心音に、少し震えながら あの笛の鳴り響く時を、待つ。 前方に、顔をあげる   ---------------------------- [自由詩]日本の詩祭・朗読ステージ―町田康氏とのかけあいより―/服部 剛[2015年6月8日20時33分] え〜、今回ゲストでお呼びした町田さんが 中也さんのことを書いて、朗読して 僕等も5人で、中也さんの詩を、朗読して 会場のみなさんも!聞いて下さり どうやらこの会場に訪れた 空気中に漂う中也さんが どうやら、歓んでいるようです 中也さんがもし、ここに来ていて 麦酒飲んで、酔っ払って 町田さんの体にすぅと入って、語るなら さぁ今はどんな気分ですか? どうぞ! 「 しばいたるわ」( 会場・笑) はい、じゃあ、次の質問でございま〜す 「 なんかお前、でっかい蝶ネクタイなんかして  スーパーの催事場のおっさんみたいや」 はい、そんな気分でございます そんでもって、中也さんがここにいたら… ( 詩は〇〇である)と言いますかっ? 「 ん?( 一瞬沈黙する)――はい、次いこ」( 会場・笑) はい、そうしましょうではまじめな質問をひとつ… 中也さんへレスポンスの詩をたくさん書いて 大変だったと思いますが 中也さんを近くに感じた、瞬間は? 「 うん、それはあるね…書いてる時は  自分の中で(なにか)が出ていて  しんどいって言うより面白いんですわ」 ほぉ…さすがですねぇ… 以上僕からの質問でした ありがとうございやしたっ!( 気合の一礼) 「 したっ!」( 同じく一礼) さてここからは、他のメンバーも質問を… じゃあ、はい、挙手制にしましょう! みんな、何か、あ 「 なんでお前が仕切っとるんや」 ( 会場・笑) はい、じゃあ、最後にもうひとつ、僕から… どうやって、立ちあがりますか? かなしいとき 「 スーパーの催事場に、いきます!」( 会場 どっ と笑) 以上、朗読隊の5人でしたぁ ( 揃って客席に一礼後、舞台から降りてゆく) ( 場内・拍手・拍手・拍手・手・手・手・手・手……………)   ---------------------------- [自由詩]赤い靴のお婆ちゃん     /服部 剛[2015年6月8日21時53分] 人々の行き交う、東京駅の構内。 黒く髪を染めた 赤い靴の、ちっこいお婆ちゃんが 赤い傘を、杖にしながら 白い化粧の頬を、ゆるませ 何ごとかを唱和しながら ゆるり…ゆるり…進んで行く ふいに、足を止め 柱に凭れていた、僕は ちっこい背中が 遠のいてゆくのを見ていたら ――幾千年前の( 誰か) が、この体に入って来て 無性にお婆ちゃんを愛おしむ、液体が 滾々(こんこん)と心の井戸から湧いてきた 堪え切れなくなった、僕は 踵(きびす)を返し とんとんと…ホームへの階段を、上っていった   ---------------------------- [自由詩]井戸ノ水/服部 剛[2015年6月17日20時53分] 今、私が綴(つづ)っている この詩の中の、不思議な井戸    〇 水を汲み 試しに、飲んでみてください   ---------------------------- [自由詩]日々の劇場/服部 剛[2015年6月17日21時09分] 生きていれば 心配の種の、一つや二つ 指折り数えりゃ、きりがない もくもく…不安の煙は募り 揺れ動く心を 丸ごと! 天に投げ入れよう まことの生の劇場は ゆっくりと、幕を開き 観客席の暗闇をびっしり埋める 鰯の顔の人々の 頭上から射す、光線が   わなわな…板に立つ、君の姿を照らすのは そこからだ   ---------------------------- [自由詩]椛の手/服部 剛[2015年6月21日23時30分] 「死」というものは、笑えぬもの。 五年前の冬 八十九年の生涯を、閉じた 婆ちゃんについては、笑えるもの。 在りし日の婆ちゃんの 面影が今も座る食卓の席に 遺影を置き 孫の僕は冗談みたいに、呟ける。 「いつのまにやら、すっかり  写真の中に、納まっちゃって  一体何処へいったのやら… 」    * 晩年の病室にて、見舞う、僕の帰り際 背中越しに呼びかけた、あの日の一言。 「あなたの嫁さん・ひ孫がみたい…」    * 五年後の春 在りし日の婆ちゃんが いなくなって久しい食卓の椅子に 会ったことない嫁さんは ちょこん、と三歳のひ孫を乗せた。 人より染色体が一本、多く まだ発語しない、ひ孫は 写真の中で嬉しそうな ひい婆ちゃんの 微笑みへ――卓上を、這い…這い… 小さい椛(もみじ)の両手を 目の前で ぱっ!と、開いた   ---------------------------- [自由詩]夢の地図/服部 剛[2015年6月26日20時22分] 遠い旅先の、見知らぬ街で 風に震える…痩せっぽちで 牙を向く、狼の哀しみ 暗雲に覆われた空を仰いでは 見知らぬ人々の靴音、行き交う   孤独な雑踏の 只中で 今日も独り、立ち尽くす ――探してた命のルーツは、何処にある…? 一滴の雨が頬に、落ちる いつしかアスファルトには 無数の滴の輪が、弾ける ぐっしょり濡れた、全身が 涙みたいな存在の 異郷に於ける、旅人の現在(いま) ひとまずは、安宿に帰ろう そうして布団に、包まろう 夢の中に広げる地図に 〇をしてゆく 印等が 点と、点を、結ぶ 地上の星座となるように   ---------------------------- [自由詩]路上の歌人   /服部 剛[2015年7月13日23時58分] 君は今日も、渋谷ハチ公前の 路上でギターを掻き鳴らし スクランブル交差点を行き交う 無数の靴音の、彼方には 紫色の夕空と…ひとすじの雲があり 警察に止められ、君の路上の歌声は 3曲で終わった ――3曲目が、よかったよ 軽く君に手をあげてから 人波に紛れた僕は 街を彷徨い、やがて日は暮れ 道玄坂の路地裏に潜りこみ 「Hard Rock Cafe」の座敷で ピンク色のスプモーニを、一杯 黒褐色のポスターに いつの間にか世から姿を消していた カート・コバーンの澱んで澄んだ、瞳の奥は この世の果てを射抜いたようで 僕の心臓は畏怖に…震え 今、店内にはスプリングスティーンの 「涙のサンダーロード」が流れている そう――僕等は、あの頃から探していた そして、これからも この脳髄に、夜明け前の雷鳴が閃(ひらめ)く あの歌を   ---------------------------- [自由詩]夏の夢/服部 剛[2015年7月16日19時55分] 真夏の陽炎(かげろう)揺れる アスファルトの、先に 琥珀に輝く円い岩が ひとつ、置かれている。 額の汗を拭って、歩く 旅人の姿は段々…近づき 数歩前で、立ち止まる。 鏡に映るひとは、私だと知る。 夏空の小さい太陽という 照明は 鏡の中の私の遠い背後に燃えており この鈍い、旅の歩調さえ (見えない力が…押している) 木々の緑の葉影には 今日も蒸す、蝉の唄。 ――私という存在は…もしや   祝福されているのかもしれない。   ---------------------------- [自由詩]夏の夜風/服部 剛[2015年8月28日18時52分] 二十年前、富山に嫁いだ姉の結婚披露宴で お約束通り、親父はウェディングドレスの 裾を踏んだ。十代だった僕は、ポケットに 手を突っこんで「贈る言葉」を歌った。 最後の挨拶で新郎のお兄さんは、呟いた。 「人間って…泣く時は泣くんですね」 あの頃、まだ影も形もなかった、命。 姪っ子・甥っ子と初対面した日の映像を 映し出す心象のスクリーンに目を細める 僕もいつのまにやら…一児の親であり 明日会う姪っ子は中学二年で、口数も減り 小学一年生の甥っ子はわんぱく坊主となり 思えばあっという間の二十年――北陸新幹 線「かがやき」に乗りあっという間に富山 駅に着いて真新しいホームからエスカレー ターで下りる。 改札を出ると、構内の柱に結ばれた笹の葉 と七色に煌めく短冊は夏の夜風にひらひら 揺らめいて…久しく訪れた旅人を祝福する 無言のお辞儀を横切り、駅の外へ出た僕は 夜のタクシー乗り場へと歩いた。   ---------------------------- [自由詩]日々の山路   /服部 剛[2015年8月30日23時22分] 「禅ヒッピー」という本の中で 遥かな山並みに目を細めつつ なだらかな麓の道を、二人は往く ――何だか最高の気分さ、ジャフィー ――日々の道と同じ空の下だよ、スミス 「比較とはおぞましきことなり」の一行が 目に入った、瞬間 どうやら僕は気づいたようだ 日頃はいつのまにやら「目隠し」をしていたことに わっし、わっし…山路を登る ジャフィーと歩けば 坂道さえも、何故か楽しい 二人の足音が 本を閉じた、僕の胸に わっし、わっし…入ってくる ぐうたら者のおいらさえ 友の背負う重たいリュックを 分け合いたくもなってくる 名付けようもなく、湧く、感情のまま この歩調は、日々を塗り変えてゆくだろう 「目隠し」を外した (今・ここ)の 素朴な場面に埋まってる 目に見えぬ無数の宝を、探し求めて 新たな一歩を僕は踏み出す 世の重力を、切り裂いて   ---------------------------- [自由詩]冬の釣人   /服部 剛[2015年9月8日23時33分] 北風の只中を防寒靴で歩いた、僕は あの日の旅路を手にしたペンで、筆記する    * ――記憶に蘇る、海の匂い 遠くに見える、断崖に近づくほど 潮の香りを鼻腔に…吸いこみ 断崖の絶壁に、胡坐(あぐら)を掻いて座るひとは 瞳を閉じ、長い釣糸を遥かな眼下の荒波の 潮目に向けて垂らし――待つ   黄金ノ魚 針に喰いつく、あの瞬間を   ---------------------------- [自由詩]天/服部 剛[2015年9月8日23時38分] 人は問う「あなたの師は誰ですか?」と。 私は黙ってひとさし指を――立てる。   ---------------------------- [自由詩]コーラス・1―門―     /服部 剛[2015年9月8日23時57分] 君の存在の只中にある 方位磁針は すでに示している。 カルマの暗闇を越えた、この世の桃源郷を。 ――first inspiration―― それは未知への世界に わなわな震える・・・旅人の両足。 日々の旅路へ誘(いざな)うように 前方に 門 は待つ。  ---------------------------- [自由詩]聖画ノ声   /服部 剛[2015年9月14日0時00分] 海岸沿いを走る車は、山道に入り 坂を上る、木々の葉群の隙間に 一瞬、輝く太陽の顔は覗き 夜の列車のドアに凭れた窓から ふいに見た、夜空に浮かぶ ましろい盆の月は夜を照らし ――昼も、夜も、空の   巨きな目は   何処までも…ついてくる     * 教会の扉は、少し開かれていた。 祭壇脇に掛けられた、油絵 十字架に項垂れるひとは ゆっくり…顔をあげ 左右の両手を、こちらに開いた。    * 古都の寺の茶室に、入る。 ふるびた壁に掛けられた、水墨画 観音像の細い目と 私の目が、合った。    * 青空の太陽も 夜空の月も 黙して――世を見守るように 旅人がどの位置に立っても 聖画に描かれたひとの目は、動く。 その前に立っても 遠く離れ去っても そそがれている 透明な 目   ---------------------------- [自由詩]流星の唄     /服部 剛[2015年10月5日23時42分] 今より少々ケツの青かった頃 とあるスタジオでラジオのADだった 僕の耳に飛びこんできた 「ボヘミアン ブルー」 躍動する無数の音符等は 瞬く間に僕のハートの入口に吸いこまれ 自らの生の鼓動を…初めて耳にした僕は 心の中に、呟いた ――愚か者よ   悔しささえ、汝の拳に握り締め   今日という日の暗闇を閃(ひらめ)いてゆく   流星となれ   ---------------------------- [自由詩]旅の車     /服部 剛[2015年10月5日23時59分] CDのジャケットから取り出した ブックレットのモノクロ写真は だだっ広い空の下を 何処までも伸びゆくハイウェイ 目的地へとひた走る、旅の車 ハンドルを握る、目線の先 一瞬 黄色い蝶が、横切った ――何かを、告げるように アクセルを踏み込み 明日の方角へ直線を往く旅の車は、やがて 直観の命じるままに 日々の速度を越えるだろう   ---------------------------- [自由詩]色鉛筆   /服部 剛[2015年10月7日22時02分] 鉛筆の芯を、削る。 何処までも鋭く、削る。 (誰かを傷つけるのではなく) 褪(あ)せた現実に、風穴を空ける為に。   ---------------------------- [自由詩]鎌倉の朝   /服部 剛[2015年10月13日23時25分] 鎌倉の朝は、なぜか散歩がしたくなる。 低い緑の山間から 燦々と顔を出す陽をあびようと 玄関のドアを、開く。 日頃住む街よりも 澄んだ風を吸いこみ 図書館の庭に足を踏み入れ ベンチに腰かけ、瞳を閉じる。 ――光合成 木々の葉の囁き 川のせせらぎ 掃除夫が枯葉をはいている。 少し離れた国道を車は遠ざかり 世界は今、目覚めようとしている。 瞳を閉じた、黙想のひと時 日々の情景は音楽になる。 (ここは古都鎌倉の國…) 燦々と降り注ぐ陽が 私の全身をしみじみと浸して 初冬というのに シャツの衣が、暖かい。 今日の日に与えられた この命 胸に手をあて、ゆっくり瞳を開く。 私の古びた靴さえも 今朝は爽やかな表情を 揃え 庭の出口の先へと続く 鎌倉の小道の方へ すでに、爪先は歩き出している   ---------------------------- [自由詩]日々の歓び   /服部 剛[2015年10月13日23時33分] 実家に帰り、午睡をする。 窓外で うらかな陽に照らされたポストが かたっと音をたてる。 配達夫のバイクの音は遠ざかる。 そんな風に僕はいつも 待っている 昨日も、今日も、これからも 歓びの知らせを告げる ポストの声を。   ---------------------------- (ファイルの終わり)