服部 剛 2014年7月8日20時34分から2014年11月28日23時23分まで ---------------------------- [自由詩]不思議な棒/服部 剛[2014年7月8日20時34分] あなたの手にする てるみーという不思議な棒は 香の煙をもくもく漂わせ 熱を地肌に擦(こす)りつつ 体の痛みを和らげます 私の妻が 顔をしかめた腰痛も 止まらなかった咳さえも あなたの手にするてるみーで 患部を熱した 翌朝からはぴたり、止みました 嘗(かつ)て、スポットライトに照らされた 舞台の上で瞳をらんらんと輝かせ 真実を語った歌声と引き換えに 今、てるみーを手にしたあなたは 遠い昔の異国で 貧しい病の人に手をあてて じっと瞳をみつめ…癒した (魂の医師)にも姿を重ね 今日も施(ほどこ)す  目の前に横たわるひとの体に 神の化身を、見出して   ---------------------------- [自由詩]ぷらたなすの樹  /服部 剛[2014年7月8日21時24分] 私の重みで、凹んでいる タイヤの椅子のブランコが ぎっしり…ぎしり…と軋(きし)んで、ゆれる 軋んで、ゆれていくほどに ぷらたなすの樹は、詩いだす ざわつく若葉も、踊りだす もし大人になった日常が、涙に濡れて どんなに色褪せても その公園を訪れて タイヤのブランコに身を委(ゆだ)ねれば ぎっしり…ぎしり…と軋むほど 私はだんだん、思い出す ぷらたなすの樹は語りかけ 久しく忘れ去っていた あの日の夢は甦る   ---------------------------- [自由詩]風/服部 剛[2014年7月10日18時12分] ぶわっと窓から風は吹き カーテンははらり、膨らみ 空気の塊りに 部屋のドアが、開いた 人生のドアを開く 風も 思いがけずに、訪れる   ---------------------------- [自由詩]旅  /服部 剛[2014年7月10日18時17分] 風が、頬を撫でていった 仰いだ空を、雲は流れた この道を往く 我は旅人 風の想いの吹くままに   ---------------------------- [自由詩]身延山にて/服部 剛[2014年7月18日22時29分] 久遠寺(くおんじ)の山門を潜り 巨きい杉木立の間に敷かれる 荒い石畳の道を抜けて 前方に現れる 天まで続く梯子のような 二百八十七の石段 緑の山の何処からか鳴り響く 団扇(うちわ)太鼓の音を、自らの鼓動に重ね 途中は休み、休みで 最後の一段をなんとか上り 腰を下ろせば 下界から吹き上げる風は この頬を過ぎてゆく 先ほどまで、僕も息を切らしていた 下界の石段を 幾人かの豆粒の人々が 手すりに掴まったり、手を繋ぎあったりで ゆっくりこちらに上ってくる 神様も仏様も、きっと 時にはこうして 娑婆の世界を這う人に 手を差しのべることもせず じぃ…っと見つめているだろう   日々の邪念をなんとか振り捨てて 石段の頂に腰を下ろした、僕と 今から一段目を上る豆粒のような、旅人と 二百八十七段越しに 目があった   ---------------------------- [自由詩]旅人の会話  /服部 剛[2014年7月18日23時00分] その人は大きく息をついて、腰を下ろした ――これは、何段あるんですかね… ――二百八十七段です、どちらからですか? ――高知です ――遠いですねぇ…僕は横浜です 傍らに、古びたリュックが置いてある ――これで幼かった娘と富士山を登りまして ――ずいぶん長持ちですねぇ… ――もうかれこれ二十年…今月、結婚するんです ――へぇ、それはめでたい 子宮筋腫だった娘さんは 身籠ってからというもの 不思議と腫れが引いたという   * 昨日僕が会った甲府教会の信徒は、言った ――自然は第二の聖書です 今日、僕が開いた本の中の僧侶は、言った ――修行僧は皆、自然を本と思い山に入った その人のめでたい話を聞いた僕は、呟いた ――母の体は自然の宮のようですねぇ…   すくっと僕は立ち上がり 眼下にのびる二百八十七の石段を 携帯カメラの画面に、かしゃっと納め よいしょっとその人も立ち上がり 古びたリュックを肩にかけた ――じゃあ、お先に ――良い旅を 寂しくも嬉しそうな初老の父の背中が 古びたリュックを揺らしつつ 段々小さくなり 五重塔の脇道に吸い込まれていった   ---------------------------- [自由詩]夕景/服部 剛[2014年7月18日23時29分] 遠い夕陽の揺らめく畑で 夫は手にした鍬で土を耕し 赤子をおぶる妻はそこへ 種を蒔く 貧しい日々の暮らしに 俯きあう ふたりの野良着は 仄かな金に縁取られ 夕陽に瞬く無数の種は 畑の穴へ、ちらちらと 妻の指先を離れる   ---------------------------- [自由詩]陽炎の道  /服部 剛[2014年8月4日23時19分] それは二度と帰れない季節 それは陽炎(かげろう)の向こうの想い出 もう、手の届かない恋があり これから手を伸ばす、夢があり 永遠(とわ)に年齢の無い旅人のまなざしで 今日から僕は世界に、恋をする ――草よ、花よ、樹よ、人よ ――織り成す日々の出来事よ 日々に塗(まみ)れて、歩みつつ 額に垂れる、汗を拭って あの陽炎の揺らめく明日に やがて薄っすら視えてくる 約束の物語を描こうと 青空に浮かぶ不思議な 手の像に 握られた、天の絵筆が   ---------------------------- [自由詩]姉さん女房に捧ぐばらっど/服部 剛[2014年8月4日23時46分] ふだんは優しい女房が 時折、般若の顔になり 言葉の弾丸は だ・だ・だ・だ・だ だ・だ・だ・だ・だ だ・だ・だ・だ・だ 柳のような面影で げっそりとした 僕の髪を靡かせ 遠い彼方へ通過してゆく 「うん、うん、そうだな…」と頷きつつも (男はつらい…)とうつむきつつも 少し離れた公園に散歩して避難して よーく考えりゃぁ 詩人なんぞを志す薄給の夫を掌の上で泳がす 姉さん女房に(やっぱり頭があがらんわ…) そうしてようやっと感謝の念はじわり…湧き 木の葉を揺らすそよ風は胸にひりり…吹き なんとかふんばって支えてくれる 女房だって、人間(ひと)であるゆえ 時折疲れちゃった日は (さんどばっくを買って出よう!) そんな妙な勇気に、僕は 公園のベンチから立ち上がるのです そうして再び公園の木々の葉を 風は吹き過ぎ――僕は思う 百の言葉の弾丸が過ぎた後 旦那と女房の間に残る 食卓の 静寂(しじま)について   ---------------------------- [自由詩]夢の木/服部 剛[2014年8月4日23時56分] 君はちょっと人より黒目が、大きいね 君はちょっと人より睫毛が、長いよね 今夜も、薄ら目を開いて眠り 夢見る二才の君は 人より染色体が一本多くて まだ喋らないし、歩かない ちょっと風変わりな君だけど きっと(何か)を、持っている 天の神さまが 君のこころの世界に植えた 一本の木は、すくっすくっと 空に向かって何処までも伸びるだろう すやすや眠っている、周よ 今夜、パパには視えるんだ 緑の葉群を 優しく風にそよがせて 世界にたった一人で立っている あの夢の木が   ---------------------------- [自由詩]形見の杖  /服部 剛[2014年8月14日19時51分] 親父の血管は動脈硬化で、か細くなり 心もとないこれからの日々を思い 深夜にぱっちり目覚めた、僕は 汗を拭って、身を起こす 今頃、隣町の空の下 親父はすやすや寝ているだろうか? 気が気でないまま、壁に立てかけた 祖母の形見の杖を、手に取り 両手で握り 暗がりに懐かしい面影を浮かべ 懐かしい瞳をみつめる 祖母が旅立った、朝 (あちらの世界)から 寝ている僕を呼び起こした あの叫びを思い出し、今度は僕が おーーーい おぉーーい ぉーぃ……… 親父を、助けてやってくれぇーー…!! 祖母がいなくなってから、五年 僕は初めて 杖の取っ手に額(ぬか)づいて 声無き叫びで 夜の静寂(しじま)が震えるように   (あちらの世界)の祖母を、呼ぶ   ---------------------------- [自由詩]地球ノ時間  /服部 剛[2014年8月14日20時21分] 太陽は常に西の空へと往きますが この地球上に立っていると まるで停まっているようです 花はゆっくり開いてゆきますが 開花はまるで、魔法です 孤児を育てる里親さんは、言いました 「親の愛を知らずに、過ごしてから  我が家に来た子は皆ゆっくり育ちます」 僕の息子は染色体が、一本多くて 3才になっても歩きませんが 家に帰ると足に抱きついて 疲れた心も、癒されます ほんとうに大事なものは 夢も、人も、植物も (地球ノ時間)で育ちます 今も確かに――回っている この青い惑星(ほし)の上で   ---------------------------- [自由詩]笛を吹くひと  /服部 剛[2014年8月23日23時15分] 公園広場の人だかりに囲まれて 学ラン姿の少年は、笛を吹く。 指をぴろぴろ躍らせて 黒い瞳は魚(うお)のよう。 楽しいメロディ奏でつつ 耳はだんぼに開いてる。 身も心も空っぽにして。 音楽の神様が背後で振っている あの透明の指揮棒が 風を、切る たまたま遠くから聴こえた、君の音(ね)に 足を止めた大人の僕も、日々の動作で 魚の目になり (無心の時)を泳ぎたい   ---------------------------- [自由詩]遍在する顔 /服部 剛[2014年8月30日20時04分] 或るロシア画家の 画集をぱらぱら、捲っていたら 苦悩する女の肖像画に 薄っすら滲む イエスの顔があらわれた 神や仏はいつも隠れている 画家の描く、キャンバスに 彫刻家のほる、木の内に 今、僕が書いている この詩の余白や 机の木目や 窓外に鳴く鈴虫の叢(くさむら)にも   ---------------------------- [自由詩]旅人の靴  /服部 剛[2014年8月30日20時22分] 2013年・2月に行われた 渋谷Bunkamuraで 美術館の入口に、足を踏み入れ ぬうと目の前に現れたのは 1760年頃描かれた 白隠禅師の自画像で ぎょろり開いた目玉は、僕に云う (今もわしは、ここにおる) 巨きい絵を仰いだまんま 立ちすくむ僕の前に ひょいと 生きてた頃に履いていた 片方の靴を手に、差し出して   ---------------------------- [自由詩]夜の池/服部 剛[2014年9月17日20時17分] 丸い月を映す池の、水面(みなも)はゆれ   草の露に宿る月も、風にゆれ    僕が苦手と思っていた あの人の瞳の奥にも もしや 僕に似た心象の水面に、ゆれる 月のひかり   ---------------------------- [自由詩]燃える男/服部 剛[2014年9月17日20時39分] 白球は時に、燃えている。 ふいに巡ってきた 体調不良選手の、代役出場。 3回表、2アウトランナー2塁のピンチ。 1年中ぱっとしなかった、彼の 守るレフトの後方に 打者の打った白球が 虹を描いて、飛んでくる 斜め後ろに走りつつ、 だんだん大きくなる球をめがけて、飛ぶ! さし出す…グラブ! 何万人もの拍手が一斉に響く 東京ドームの外野席で 僕も立ちあがり 100メートル先で脈うつ、彼に 届くよう拍手して、叫ぶ 「やのけんじ〜…!」 3回表、ベイスターズの攻撃を終えて マウンドからベンチへ戻る、後輩投手は くるり ふり返り、一礼する。 ぱん と手を重ねて彼はベンチの奥へ、入っていった ジャイアンツカラーのオレンジの血液が流れる 僕の両目に白球は炎と燃えて… フェンス越しに遠のいていった、彼の ユニフォームに透けて 白球はめんらめら…燃えていた。   ---------------------------- [自由詩]机上のワインー珈琲店・エルにてー  /服部 剛[2014年10月5日21時26分] 遠藤文学講座の後に、皆で語らう この店で僕は、受洗を決意した。 この店で僕は、息子の障がいに泣き崩れた。 四ツ谷の地下の珈琲店・エルは 奇遇にも 遠藤先生の命日である、今日 四十五年の歴史に、幕を下ろす。 人それぞれの想い出達を そっと宝箱に仕舞うように 生涯、僕は忘れない。 この店で分け合った数々の痛み   幼い頃の原爆で 母を亡くした娘が大人になるまでの 哀しい物語 若い娘を病で亡くした、暗闇を 打ち明けた母親の頬に伝う ひとすじの涙   生涯、僕は忘れない。 在りし日の遠藤先生が 体の無い姿で、ふらり この店を訪れるように 待ち侘びて… 今日も机に置いた 献杯のワイングラスを   ---------------------------- [自由詩]盲目のひと/服部 剛[2014年10月5日21時42分] 朝の信号は、青になり 盲目のひとは白いステッキで 前方をとんとん、叩きながら 今日も横断歩道を渡ってゆく 日々の道程(みちのり)を歩く 惑い無き後ろ姿は 人混みに吸い込まれ 段々…小さくなってゆく 模範解答の無い人生に 心配事はつきもので 不安を膨らませれば果てしない この世界で 私は毎朝、目を凝らす。 ゆっくりでも確かな道を とんとん、進む あの白いステッキに   ---------------------------- [自由詩]夜の来訪者/服部 剛[2014年10月22日22時48分] 昨年、天寿を全うし、肉体の衣服を脱いだ 山波言太郎先生の御魂に捧ぐ手紙を綴り 我が家の神棚に、お供えした。 妻が蝋燭に、火を点けた。 少しして、じいぃ・・・と言って 火は、消えた。   ――風も無いのに、不思議ねぇ・・・ ――山波先生、いるのだろうか・・・ その夜、書斎で本を読み いつしか瞼は、重くなり 山波先生に (日本が平和でありますように) と一言祈り、眠りに落ちた。 ふいに目覚めた、午前三時。 (誰もいないのに、誰かいる・・・) ひと時の後、眠ったが 朝起きてからも、忘れ得ぬ 夢か現か(あのひと時)       透きとおる面影で立っていた 異界からの来訪者   ---------------------------- [自由詩]茶碗のゆげ/服部 剛[2014年10月22日22時53分] 一つの苗を手にした、僕は じぃ…っと屈み 水面(みなも)に手首を突っこんで 柔い土に、苗を植える どんなに風が吹こうとも どんなに雨が降ろうとも どんなに陽が照ろうとも いたずらな童子が 裸足のまんまで踏み荒らそうと 翌朝、のこのこ僕はやってきて 再びひとつの笛を、手に じぃ……と屈み 震える手で、苗を植える (いつの日か――必ずや) 暖かい灯のともる とある家庭の夕餉にて 父と母のまなざしをそそがれる 幼子の楓(かえで)の両手に包む、茶碗から しゅるしゅるゆげを、昇らせる 絵画の情景を――夢にみて   ---------------------------- [自由詩]雨の合唱/服部 剛[2014年10月22日23時07分] 無数の雨達はアスファルトに、跳ね 世界を覆う ざわめきを鼓膜に残して 私は夢から、目を覚ます。 布団から身を起こし、のびをする 朝のひと時。 夢の中で、瞬く間に 姿を消す雨達と 地球という仮の棲家で 儚い一生を生きる人々 降りしきる、雨達も 夜空に囁く、星達も 人の姿の比喩である。   布団から抜け出し、立ち上がる 朝のひと時。 不思議な夢に降っていた 雨の合唱は体内にざわめくまま 何の変哲も無い 今日が始まる。   ---------------------------- [自由詩]洗濯日和  /服部 剛[2014年10月28日19時58分] 母ちゃんが、洗濯物の皺をのばして 竿に衣服を干している。 実家を離れて久しい 娘についての深い悩みを ひと時、忘れて。 日にましろく照らされた タオルを 丹念に、のばして。 僕は、幼い頃の姉と 笑ったり泣いたり ケンカした部屋の 窓枠から いのるように、見る。   息子の里帰りに 背すじを少し、のばした 初老の母ちゃんを。   ---------------------------- [自由詩]霧の時代/服部 剛[2014年10月28日20時25分] きみは、掴まねばならない その手をまっすぐ、明日へのばして 耳を澄ませば――確かに聴こえる 言葉ではない、不思議な呼び声 黙したまま私達を待つ 二十一世紀の霧の向こうの、朧(おぼろ)な灯 長い間、血の気の失せていた 胸に、脈打つ音よ、蘇れ 世の中の饐(す)えた冷気に 悴(かじか)んでいた掌よ、ゆっくり開け あの日――世で掴むべき夢の為に きみの産声は天まで、轟(とどろ)いた   やがて霧の幕は開かれ 刷新されるべく、この世界で   ---------------------------- [自由詩]草ノ声ー知覧にてー/服部 剛[2014年11月6日23時53分] 知覧の草は、さやさや…哂(わら)う 川のせせらぐままに、身を揺らし 昔――ここから近い滑走路で 戦闘機に乗り、飛び立って 眼下に広がるいちめんの 海の彼方へ  お母さん…! 敵艦に突っ込む いまはのきわの絶唱で 粉々に砕け散った者達の御霊(みたま)は あの日から姿を変えて 時には柔いみどりの草となり 時には風として吹き渡り 川辺の岩に腰かける 旅人の我が影に 何やらしきりに囁くように 知覧の草はさやさや…哂う   ---------------------------- [自由詩]日向の道ー武家屋敷にてー/服部 剛[2014年11月6日23時58分] 雲は、風の吹くままに 落葉は、川の流れるままに 我もまた 自らに内蔵された方位磁針の、指すままに 旅の鞄を背負い 腰かけ石から立ち上がる 我が影は 更なる一歩を日向へと、踏み出さん 風に袖をふるわせて 川のせせらぎに背を押され 方位磁針の、指すままに 何処までも明日へ伸びゆく 石畳の道を   ---------------------------- [自由詩]どんぐり君/服部 剛[2014年11月9日22時26分] 机に置いた 一人のどんぐりが ランプに照らされ、光ってる 胸に心があるように 誰かが云った (どんぐりの背くらべ)である中の 彼こそが 何かを識っているように   ---------------------------- [自由詩]朝の日記/服部 剛[2014年11月9日22時56分] 染色体の一本多い、3才の周が 初めて言葉を発した 「それ…」 僕は身を乗り出して、聴き直す 「え、なに?」 目が覚めた――(なんだ、夢か…) 布団からひょっこり顔を出して 周はまだ、寝息を立てている もう少しで周は 布団からむっくり身を起こし 小さい両手で、のびをする時間だ   (いつになったら喋るのやら…) ふだんは妻にも、口にしない その言葉に蓋をして 心の中で言い直す (彼には彼の、道がある…) 布団からひょっこり出る ぬいぐるみのような周の寝顔を じぃ…とみつめる、朝のひと時 待つ――という秘儀を想いつつ 今日の出勤の為にのびをする、僕は 窓越しに 朝のひかりを浴びて 布団から立ち上がる   ---------------------------- [自由詩]夜の信号/服部 剛[2014年11月28日23時21分] 夜の人気無い交差点で 暗闇の赤信号の中 ひかりの人が立っている。 ゆるぎない姿勢で こちらに何か、云いたげな 未知の国から訪れた旅人のように。 かれは 赤い世界に包まれた 情熱の使者 信号の中から、こちらへ とこ…とこ…闇を歩み出し 白い梯子の横断歩道を、渡ろうと 息を呑み 明日を待つ――この胸に 不思議な足音が、入っていった   ---------------------------- [自由詩]旅の列車にて/服部 剛[2014年11月28日23時23分] 平日の空いた車内に腰かけて 「記憶のつくり方」という本を開いたら 詩人の長田弘さんが、見知らぬ町を旅していた。 喫茶店に腰を下ろした詩人は ふぅ…と溜息をひとつ、吐き出し 哀しい歴史を帯びたルクセンブルクの 素朴な珈琲カップの柄を愛でながら ずず…と啜る。 列車の中で読書して すっかり旅人気分の僕は 昨日の喫茶店で啜った 珈琲の苦みを、味わっていたろうか。  急ぎすぎちゃあいないか?  深呼吸はしているか?  瞳は曇ってないか? そんな内面への問いに、耳を澄ましてい たら 車内に一瞬――夕陽が射した。   ---------------------------- (ファイルの終わり)