服部 剛 2013年5月14日22時53分から2013年7月23日23時22分まで ---------------------------- [自由詩]岐路の瞑想 /服部 剛[2013年5月14日22時53分] もしその道を歩んだらと   目を瞑り、想像(イメージ)してみる  そこに光が射すなら――  すでに・今  道は始まっている    ---------------------------- [自由詩]日向の祈り /服部 剛[2013年5月14日22時58分] 私は私を晒(さら)すように  自らを日向に、置いてみる。  天の願いは地へ下り   自ずと夢は実るような気がしてくる  ---------------------------- [自由詩]はーもにー /服部 剛[2013年5月23日20時10分] え?って思っても  ちょっと自分のエゴをずらして、さ  ちょっと相手に合わせてみりゃあ  案外、うまくいくもんだ  ---------------------------- [自由詩]霊の家 /服部 剛[2013年5月23日20時16分] 誰かを大切に思う時  心の家に住まう  何者かの気配を感ずる    ---------------------------- [自由詩]空 /服部 剛[2013年5月23日20時23分] 赤信号が、青になる瞬間(とき)  気づいたら右足はアクセルを、踏み  車は、動き出していた  まっさらな明日へ至る  まっすぐな道を走る時  ハンドルを持つ  私の脳は、空(くう)になる  道と、山と、空と  車内の私  は  一枚の絵画となり  (時の無い世界)の道をつらぬいて   車は小さくなってゆく     ---------------------------- [自由詩]透き通った女の目 /服部 剛[2013年5月29日23時38分] 目が、後ろから、僕を視ている。  空気に溶けた、透き通った目  の  声がする  (負けないで…)  なんでこんなにもじんわり  ハートに滲み入るのだろう  (どくり…どくり…どくり…)  もう、この世にいない女(ひと)なのに  体の消えた歌姫なのに  (音の無い生(なま)の歌声は  ふいに耳元に囁くのです――)  日々の場面に  どん!  と  足を踏み入れる時  その女の  声援を秘めた熱いまなざしは  不思議なほどに  たよりない僕の背中をぐいと、押し出す。  ---------------------------- [自由詩]重力の在る世界で /服部 剛[2013年5月29日23時47分] 俺は  俺以上でも  俺以下でも  無い  みじめな俺も、俺。  時折かっこイイ俺も、俺。  どちらも、俺。  ならば?  悩みの全ては外面上の(夢)であり  俺は俺として、俺を背負い立てるか  いかんに、かかっている  ---------------------------- [自由詩]悩み解消法 /服部 剛[2013年5月29日23時59分] なんだかわからない(イチモツ)を持ち、  浮かない顔で、うす暗い町を漂っている。  病のような、玉のような、見えないもの―  コイツを断ち切れたら、どんなに晴々晴々(せいせいはればれ)  するだろう?僕は、もう待たない!何を? 変革を!(日常にちょいと一匙入れる迄)  の物語の幕を開けるのは誰?(悩み)なん  ぞのへその緒を裁断するのは誰?ほれ、浮 かぬ顔の僕よ、そこに置かれた鋏を手にし  てごらん。  ---------------------------- [自由詩]空の波紋 /服部 剛[2013年6月5日23時11分] 犬が一人きり、吼えている。   見知らぬ国の  誰も行ったことのない森の  ごわごわ風に身を揺する  名も無いみどりの木の下で  その遠吼えは  あまりに切なく  心を貫き、刺すように  真空のそらへ  波紋を広げゆく――    *  その頃、都会の雑踏に塗(まみ)れ  無数の靴音の只中で  立ち止まる、仕事に疲れた男は  ビルとビルの間の青に  ひと時、広がる  空の波紋をみつけた  ---------------------------- [自由詩]果物夫婦/服部 剛[2013年6月5日23時19分] 「二十世紀」と「ラ・フランス」は  親しげに肩を並べ  (互いにちょっとの、すき間を空けて)  顔も無いのによろこんで、佇んでいる。  「偶然だねぇ」  「ふしぎねぇ」  ほの青さを皮に浮かべた彼と  熟した身を火照らせた赤い彼女の  丸い体と長い体は  ひとつになり、地に影を伸ばしている     ---------------------------- [自由詩]絵画の中を歩く /服部 剛[2013年6月5日23時30分] あの紅葉に燃える木の下にいってみよう  あのみどり深い木の下にいってみよう  あの石橋の向こうの赤い屋根の家の窓から ひょいと顔を出して、世界を眺めてみよう   戻ってきたら、石橋の(絵の中心)に立ち  遠くからこちらに漕いでくる川面の舟に  目を細めよう  あぁ、世界というものは  たった一つの風景の中でも  いつ、何処に立つかで  全く違って視えてくる  最後に、木の舟に乗り  まっすぐ寝そべってみた  それぞれの風景の全てを  空はまあるく、包んでいる  ---------------------------- [自由詩]ビリヤード/服部 剛[2013年6月8日21時58分] もし、緑の台の上に  停まっている、黄色い玉が  あなたなら  男が狙いを定めた、棒の先に  打とうとしている  あなたの運命(さだめ)は  一体何処へ転がるだろう?  黄色い玉が緑の台を、今  まっしぐらに転がった――          からん  ---------------------------- [自由詩]心音/服部 剛[2013年6月8日22時05分] この胸にぽつん、と備わっている  暗闇のメトロノームは  絶え間なく、高鳴ってゆく――  ---------------------------- [自由詩]窓を拭くひと/服部 剛[2013年6月8日22時18分] 高層ビルの屋上から  ロープに吊り下げられた  ゴンドラに乗り  清掃員は10階の窓を拭く  (決して、下を見てはならない)  気紛れな北風に  ゆさぶられ  風の刃は頬に冷たい  向かいのビルの珈琲店から  遠い朧(おぼろ)な絵のように、目を細め  僕は独り、問うている  「生きる為に、窓を拭くのか?   窓を拭く為に、生きるのか?」  ---------------------------- [自由詩]種子 /服部 剛[2013年6月11日22時11分] 梅干の種には、味がある。  檸檬の種にも、味はある。  誰にも固有の種があるように。  ---------------------------- [自由詩]NOMOの生き方 /服部 剛[2013年6月11日22時21分] 僕をみつめる妻の目に、炎がめらめら燃えている。  「人の意見に惑わされずに   あなたの道を、往きなさい」  「椅子の足の一本が折れたらどうなる?   あなたの姿を、信じなさい」  ふいに手にしたリモコンで  テレビを点けたら  海を渡りL・Aドジャースのユニフォームを着た  往年のNOMO英雄が  誰もやらない(竜巻投法)で    ずばん  巨漢はバットを振り抜いて  球はミットに納まった  ---------------------------- [自由詩]朝の目覚め /服部 剛[2013年6月11日22時33分] 心象の野原に並ぶ  秋桜の群のひとりは  しきりに、揺れて  無音の声で僕をみつめ、囁いている  花弁の淡い唇をみつめるほどに  野原は時のない国になり――  若き日の父母の間に  手をつなぐ  無邪気な僕の笑い声が  はっきり響く、夢の青空    *  目が、覚める。  暗がりの、朝。  雨戸の細いすき間から  一条の日がこちら側に射している  そういえば――  風邪をひいた妻と子は下の階だと、思い出し  のびをする  ---------------------------- [自由詩]弘法の池 /服部 剛[2013年6月20日21時37分] 弘法の池の隅にある  小さい洞窟の中に  水に身を浸し、両手を合わせる  弘法大師が立っていた  揺らめく水面に映る  弘法大師は目鼻の無い顔で  鏡の世界から こちらを視ていた  僕も身を屈め、両手を合わせる。  池の周囲の木々の間を  はらはら若葉をはためかせ  一陣の風が、吹き抜けていった  ---------------------------- [自由詩]窓を開ける /服部 剛[2013年6月20日21時41分] 風を入れよう  部屋の窓を開けて――  カーテンが膨らみ  風が巡れば  生々発々と充ちてくる  我が心はまっさらな  空になる  ---------------------------- [自由詩]ブラームスの海 /服部 剛[2013年6月21日23時36分] 名曲喫茶ライオンの店内は   五十年前のコンサートが流れ  ブラームスの魂が  地鳴りを立てた、後の静寂(しじま)に――  (ごほ…ごほ…)  無名の人の、堪(こら)え切れない咳込みは  幾度も、幾度も、ホールに響く  まさか予想しなかっただろう  その人は、自分の咳が  五十年後の名曲喫茶に  ふらり訪れた僕の気に留まるとは  無名の人よ、あなたは  今、何処にいるのか  もしくは風になったのか  僕がコンサートに行って、もし   (ごほ…ごほ…)と咳込んだら  五十年後の誰かも、聞くかもしれぬ  ――思い巡らせ瞳を閉じた、暗闇に  いつしか、時を越えて広がってゆく  ブラームスの海  ブラームスの空  ブラームスの夢  波間に輝く黄金(きん)の音符等を  絶え間なく、明滅させて  ---------------------------- [自由詩]質問箱/服部 剛[2013年6月21日23時59分] 口下手で悩んでいた、僕は  ある日突然、目の前にいる人が  ?の文字を秘めている  黒い人影に視えてきた  その人の瞳の奥にある   不思議を求め  些細な一つの質問で  もしも、口が開いたら――  質問箱のような  心の引き出しの中には  どうやら 謎めく宇宙が広がっている  ---------------------------- [自由詩]朝の声援 /服部 剛[2013年6月24日20時51分] 朝、カーテンを開いたら  眼下に広がる野原に幾千人のブタクサが  黄色い房の身を揺らし皆で何かを言っている。  物書きを志す故(ゆえ)に   家族に慎ましい日々を送らせてしまっている  痩せっぽちな主の僕の傍らに立ち、妻は言う。  「ほら、草々もあんなに   声援を贈ってくれているじゃない」 カーテンを閉め、背を向けて  (よっしゃ!)と心に気を入れて  一歳の周の寝顔をじっと…見てから  玄関のドアを開き、車の助手席に乗る。  妻の運転する車は、僕を乗せて  風に靡(なび)いたブタクサ達の  合唱を背後に 今日の糧を得るべく現場へまっしぐら――   一本道を走っていった  ---------------------------- [自由詩]まかせる /服部 剛[2013年6月24日21時15分] 私は人に、まかせます。  一つの大事なお仕事を。  おまかせするということは  人のこころにいらっしゃる  神におまかせすることです。  そうして神のお返事は  日々、目の前にあらわれる  こころを通していただきます。  ---------------------------- [自由詩]谷中日和  /服部 剛[2013年6月24日21時30分] 谷中ぎんざの通りには  石段に腰を下ろした  紫の髪のお婆さんが  せんべいを割り  群がる鳩に蒔いていた。  向かいの屋台は  木の玩具屋で、おじさんは 「ほれっ」とベーゴマを   巻いた糸から台の上に、放ち   野球帽の少年に手本を見せた。  今は亡きちいたけおさんが  旨そうにメンチをほおばる 写真のある店で  僕もメンチをほおばりつつ  色々な店で人の賑わう  谷中ぎんざを、ゆっくり歩く。  遠くから、喪服姿の青年と  遺影を両手に持つ父親の  不思議なほど日に照らされた  親子三代のほほえみが  僕の傍らを通りすぎていった。  ---------------------------- [自由詩]水彩画 /服部 剛[2013年7月14日22時51分] 雨は、あなたを育むでしょう  私もいろいろな雨に、降られました  きりさめ  にわかあめ  長い長い雨だれの音が  ぽつり、ぽつり、と滴るごとに――   潤う土の根を伝い  茎を伝い  身を寄せる紫陽花達の色彩は   心の画布に滲むでしょう    ---------------------------- [自由詩]精神の木 /服部 剛[2013年7月14日23時04分] 僕、という人の  頭蓋骨にぴし、と亀裂が入ったら  無数の 存在 という二文字があふれ出て  ばらら、ばら、ばら  僕の周囲に散らばり、落ちた。  ふいにしゃがんだ、僕は   存在 という無数の文字を  夢中で両手に掻き集め  頭蓋骨の割れ目から  しゅる、しゅる、しゅるる…  もう一度、入れた。   ――この体内には精神の木がいるらしい――  今、この瞬間(とき)も   みるみる枝葉を広げている    ---------------------------- [自由詩]窓辺の日記 /服部 剛[2013年7月14日23時15分] 明日は誰にもわからないので  次の頁(ページ)の空白に  栞を挟み、ぱたんと閉じて  日向の机に置いておく――  ---------------------------- [自由詩]風鈴の絵 /服部 剛[2013年7月16日20時10分] 暑中お見舞い申し上げます――   越後湯沢の詩友から届いた風の  便りには自筆で風鈴の絵が描い ており、葉書の真中の空白から  ちり〜ん と風に靡く紙の下から密やかな 鈴の音が、鼓膜の内に響きます。  いつの時代も人は言葉で  日頃は引き出しに 仕舞っている  密かな思いを伝えます。      時に詩人は言葉にならない 祈りを    風にのせ   青々とした夏空へ、放ちます――    ---------------------------- [自由詩]風のひと /服部 剛[2013年7月16日20時42分] 緑の庭の階段で  座る少女に  覆いかぶさる葉群から  木漏れ日はふりそそぎ  何かを両手に包む、少女は  嬉しそうにこちらをみつめ  テラスの椅子は かたかたっ…と風に揺れ  静まり返った真昼の庭に 体を持たない誰かが  テラスの椅子に、腰かけた     ---------------------------- [自由詩]聖銭(ひじりぜに)  /服部 剛[2013年7月23日23時22分] 僕がある記事を書いて  入ったお金を  そのままぽんと、妻に渡そう。  なぜなら妻は、もうすぐ2歳の周を抱えつつ  僕の書いた原稿を活字に打ってくれたり  郵便ポストに入れたり 手づくり詩集を印刷したり      深夜に駅まで車で迎えに来てくれたり  原稿料を渡すだけじゃあ、足りないか…  僕の原稿による臨時収入は  そんな理由(わけ)で(タダ)で、いい。  妻は無償のこころで働き  僕も無償のこころでペンを持ち  天下を回り回って  お金というものが、もし  愛を帯びたものに変換されるなら――  一枚の小銭さえ  瞳を閉じた闇の中   ちゃりーん、と尊い音(ね)を立てる  ---------------------------- (ファイルの終わり)