服部 剛 2012年3月24日21時53分から2012年5月24日23時18分まで ---------------------------- [自由詩]花巻の宿にて /服部 剛[2012年3月24日21時53分] 旅の時間に身を置くと  宿で食べる朝食の  目玉焼きの黄味や 納豆の一粒までも  電球の日に照らされて 嬉しそうに皿に盛られているのです  小皿には仲良く並んだらっきょうの間に  もうひとつの小さいらっきょうが挟まれ  我が家に残してきた妻と子と僕の  3人のようであり  ふと見上げた向かいの席は  若い夫婦と幼い娘で机を囲み  食後のお茶が3つ  ゆらりと湯気を昇らせています  窓外に広がる銀世界を背にして ---------------------------- [自由詩]ある酒場でのおじさん達の会話 /服部 剛[2012年3月24日22時04分] 「何事も、前向きに考える」  「ゆっくり、飲ませてくれ」  「マイペースでいこうぜ」  「ワイングラスになみなみ注(つ)いだら、美味くない」  「長く、死ぬまでのみてぇなぁ・・・」  「ヴァレンタインの30年も空けたけど」  「体のことを考えたら焼酎がいいだろう・・・」  「でも、美味いのはやっぱり、日本酒だな」  「結局は何事も、気分の問題さ」  ---------------------------- [自由詩]実験台で○○しよう /服部 剛[2012年3月28日23時35分] そろそろ何でもない日常の革命を起こそうか  お爺ちゃんやお婆ちゃん達の前で  昨日都内の喫茶店で、偶然  美川憲一さんに遭遇したという   一期一会の詩を、朗読してみようか  職場の仲間のメールで  「春になったら利用者の皆さんを車椅子に乗せて   満開の桜の下で飲んで、歌って、踊ろうよ」って  一斉送信、してみようか  一回きりの人生という、実験台で  たとえ百回失敗しても  百一回目の(あの瞬間)を夢見て  さぁ今から、人とちょっと違った  実験台で○○しよう  ---------------------------- [自由詩]夢の電車 /服部 剛[2012年3月28日23時54分] 五年程前に、上のの美術館で見た  山下清の描く「地下鉄銀座線」    暗い線路のトンネルに  あたらしい昭和のライトを灯して  完成したばかりのホームに  ゆっくりと入ってきた  平成二十四年の都営新宿線に乗る僕は ドアに凭れて、背後にもやもやした  煙のような重荷を背負う人々を眺めている  日本で初めての地下鉄に乗った頃は  遊園地よりも夢のひと時だったろう  夢の電車は今、時代の闇を抜けられぬまま  トンネルにがたごと輪音を響かせている   もし(詩情の目)を開く時  すぐ目の前の場面から  あたらしいものは  こちらにサインを贈っている  ---------------------------- [自由詩]はたらき/服部 剛[2012年3月29日23時56分] 「働き」といえば  重荷を負ってゆく坂道が視える  「はたらき」といえば  風になった自らが視える  矛盾にみちた一日の  狭間に開く   一輪の花を揺らす  あの風に  私はなれるだろうか?    ---------------------------- [自由詩]夕暮れの海 /服部 剛[2012年4月3日23時59分] 誰かが自分に投げた棘を  この両手でつつめるだろうか?  私は弱いので  すぐ相手に投げ返してしまう  後から思えば  それは些細なことであり  体を少し斜めにすれば  宙に消えゆく棘であり・・・  また、失敗するかもしれない  でも、もう一度  ふいに飛んでくる棘を  この両手でつつんでみよう  (たとえ一筋の血が流れても) それができるまで  この狭い心は  夕凪に照らされて詩(うた)をさざめく  あの憧れの海じゃない  ---------------------------- [自由詩]長島三芳さんを偲ぶ ー画廊喫茶ラバン・アジルにてー /服部 剛[2012年4月4日0時05分] 画廊喫茶ラバン・アジルに  人生の四季を旅してきた詩人は集い  Jazzの流れる店内は  セピア色の電球に照らされ  白髪の詩人達は  在りし日の詩人の魂と  いくつもの思い出を語らい  夕陽が海に沈む頃  店のドアから出ていった  ひとり残った僕に、髭のマスターは語り出す  「店の名は兎が跳ねるっていう意味でね、   無名の頃のピカソやユトリロが夢を語り   会話をはずませた店もラバン・アジルで・・・」  Jazzの流れる無人の店で  グラスと酒の片づいたテーブルに  僕は頬杖つきながら  在りし日の詩人の面影を  先ほどまで語らっていた  夢の余韻に浸っている  やがてウイスキーの酔いも覚め  素面(しらふ)の右手は、ペンを取る  在りし日の詩人が  人生の出口の闇を見据えながら  夏の向日葵に心を重ね  生の決意を語る詩を   セピア色に照らされた原稿用紙に  僕は綴り始めた  ---------------------------- [自由詩]道/服部 剛[2012年4月5日23時15分] 秋の日の銀杏並木を歩き  ふと、見上げた高い空  背の高い銀杏の黄色に縁取られ  ひとすじの空の道になっていた  これから私が旅をする  未知なる道も  あの空のひとすじになろう  そっと、胸に手をあてる  精神のしろい炎は燃えさかる  いつか夢で見た  遥かな明日へまっすぐのびてゆく  あの道が  瞼を閉じた  無明の世界にあらわれる  ---------------------------- [自由詩]詩人の目薬 /服部 剛[2012年4月5日23時40分] 鞄から引っ張り出したノートの角が  勢いあまって目に入り  白目に赤い線がひとすじ入った  思わず両手で片目を抑え  あいたたたたた・・・とうずくまり  まったくついてねぇや、と目医者に行った  想定外の出費でもらった  目薬に「よく振って下さい」とあり  しゃかしゃかしゃかしゃか  ばーてんだーなりきって  天を仰いだ瞳には  透明の滴をぽたり、と落とす  机の上には  風に吹かれてこちらをみつめる  賢治さんが表紙の本があり  それを枕に転寝(うたたね)をする    *  そこはどうやら  いーはとーぶにあるBarで  カウンターの中に立つ  蝶ネクタイの賢治さんは  琥珀の酒をぐらすにそそぎ  僕に一杯、手渡した  (きみ、さっきの目薬をさすとね、   なんでも詩に視えてくるらしいよ・・・)    *  不思議にぬくもる声の木霊(こだま)に、目が覚めた。  顔をあげ、机に置かれた本の表紙から  いーはとーぶに吹き渡る風の音(ね)が聴こえた  ---------------------------- [自由詩]空の銃声 /服部 剛[2012年4月9日20時44分] 変えよう、昨日まで濁っていた空気を  変わろう、まあたらしい明日を演じる役者へ  昔の僕は、めんどうくさいと思っていた  今の僕は、仲間と一つになってゆこうと思う  3・31という日付は、年度末の緊張がみなぎり  4・1という日付の幕が上がった空白の台本へ  明日の僕等は  あらたな一歩を踏み出すだろう  時の境目で  横一線に並んだ僕等は  それぞれの役という名の  位置について――  傍らに立つひとが  右手を上げて  ぴすとるの口を、空に向ける  ---------------------------- [自由詩]ひとりの木 /服部 剛[2012年4月9日22時22分] 僕の前に、一つの丸い窓がある。  春の嵐にずぶ濡れて  身を撓(しな)らせながら、葉をきらめかせ  必死の思いで立っている  ひとりの木  それは今夜も  世界の何処かで萎(な)えそうな  君の心の闇を見せる  ひとりの木  手の届かない窓越しで  只、突っ立っている僕は  (折れるなよ・・・)と呟いた  丸い窓越しに立つ、ひとりの木は  明日の雲間から射す日を全身にあびるだろう  諸手(もろ)をあげて天を讃える人のように  歓びの枝を無数にひろげて  ---------------------------- [自由詩]みどりの切符 /服部 剛[2012年4月11日23時11分] 今迄きらいと思った人と  互いの気持をぶつけた後で  くるり、と心が回転して  鳥の場所から眺めれば  思いもよらぬ親しみが  じゅわっと胸に湧いてくる  その時ようやく私は 私のみの願いを離れ  賢治さんが好きだった  イギリス海岸のほとりで仰ぐ  夜空に敷かれた線路が  うっすら視えてくる  銀河を走る列車の目指して走る  「幸福の国」への旅は始まり   ポケットにみどりの切符を入れている  密かな旅の一員となるのです  ---------------------------- [自由詩]賢治の影絵 /服部 剛[2012年4月11日23時36分] 障子に無数の白い桜が舞っている  流れてないのに流れてる  風の姿であるように  旅先の花巻の宿にて  窓から射す日向には  あの黒い帽子を被りうつむいて  畑を歩く賢治さんの影絵が  すーと過ぎてゆきました  (今日という日は夢であり   夢というのは今日であり・・・)  在りし日の詩人の姿を追いかけて  一面ましろい雪に覆われた  イーハトーヴの国へ  (賢治さんの眠る墓前を目指し)  旅の一歩を、踏み出します  ---------------------------- [自由詩]春のうた/服部 剛[2012年4月11日23時43分] 町の喧騒の外れで 川のほとりに佇み  一台の車が、風を切って  傍らの道を通り過ぎた  ふと、耳にした水の音に  下の方、下の方へと  へりくだってゆく  水のすがたを思う  長い冬を越え、ようやく訪れた  春の日射しをそそがれて  ひらき始めた  川の両岸の桜並木に  何処までもへりくだってゆく  川の音が  遥かな水面で瞬くひかりの音符となり  春をうたっている  ---------------------------- [自由詩]1ピース /服部 剛[2012年4月12日23時17分] 床屋さんで伸びた髪を  ぱさぱさ、切った  エプロンの上に  切り落とされる髪は  いつのまにか  白髪交じりになっていた  青年と呼ばれた頃よりも  白い髪が増えた分  こころの熟れた大人になって  若き日の夢を叶えたい  日々の仲間が  ひとつのパズルになるような  それ自身では小さいが  それがないと絵にならない  1ピースに僕はなりたい  ---------------------------- [自由詩]夢の惑星 /服部 剛[2012年4月12日23時53分] あぁ全てのひとは  透きとほったぜんまいを背中に巻かれて  晩夏に樹からぽてっと落ちる  あの蝉に似ています  (宇宙の銀河の果てから観れば   ひとの百年は一瞬です・・・)  あぁ全てのひとの 体内にエレキの電流は巡っており  今日も私は息を吸っては吐いており  あなたの心臓はぽんぷとなり  西へ歩むひとあれば  東へ走る車もあり  街全体が、ひとつの呼吸をしています  (果てない宇宙に、ぽつんと光る   青い地球という惑星(ほし)は  凄い速度で、今も回っているのです)   ---------------------------- [自由詩]ぴかぴかの机 /服部 剛[2012年4月17日23時57分] うつを抱えながら、日々がんばっている彼が  汗だくで机をぴかぴかにした後  休憩室で青い顔してのびていた  あんまり一生懸命だったので  (無理すんな)とは言えずにいたが  ぐったりしている彼を見て  「明日の余力をとっとかないと」と思わず  少々、きびしく言った  それははじめて僕が心から  彼を思えた言葉であった  春の嵐の夜だったので  着替えて休憩室を出る前に  「じゃあ、運転気をつけて」と言い残し  僕は職場を、後にした  今頃、ハンドルを握り  生まれて間もない赤ちゃんのいる家へ走りながら  ワイパーの動くガラス越しに彼は  僕のひとことを、思い出すだろうか?  ---------------------------- [自由詩]川になる /服部 剛[2012年4月18日21時59分] つまらぬことで口げんかをして  下の階にいた嫁さん・子供を呼んできて  布団の上に座らせて  ごめん、ごめん、と育児にこった肩をゆっくり揉んだ  布団の上にひとりあぐらをかいて腕を組む、午前2時。  (男は海でなけりゃあならぬ・・・)と呟いて。  すうはあ、と 息の二重奏をかなでるふたりの傍らに  僕も横たわる棒になり  すうはあ、はあ、と   夜明けまで3つの口をあける  僕等は「川」になった    ---------------------------- [自由詩]おさなごの夢ー遠藤先生の墓前にてー /服部 剛[2012年4月18日22時32分] 桜のつぼみが口をひらいた3月27日は  遠藤周作先生の誕生日で、奇遇にも    結婚前の僕等が恋人になった日なので  府中の遠藤先生のお墓参りに行った   生後7ヶ月の周の、旅の始まり  「外に出ると赤ちゃんってけっこう多いのね」  互いにベビーカーを押しながら  通りすぎた婦人を見て、妻は言う  いくつもの電車を乗り継いで  駅から駅へと歩くたび  ホームにエレベーターがあり  杖をつくお爺さんが「どうぞ」と言って  僕等を先に入れてくれた  そんな小さな人の優しさが  今も街の何処かで生まれ  ベビーカーに宿る星の数ほど  散らばってゆく、春の始まり  あの日、ろざりおの指輪を交換した  遠藤先生の墓前にて  あたらしい家族3人で並んだ  僕等は稲穂の姿で、頭を垂れる  父親になって間もない僕が  (ありがとうございます・・・)と両手をあわせ  瞳を閉じた時、観えたのです。  人より染色体が一本多い、と診断された  (その一本のかがやき)が  さっき迄ベビーカーですやすや夢を見ていた  周の寝顔に  ---------------------------- [自由詩]ひとの器 /服部 剛[2012年4月19日23時38分] 今日という日を  宇宙にひとりの自らでみたす迄  私の体は幽霊です  机の上に置かれたコップは  水を入れるために、ある。  窓から射す日に  水面のひかる あの瞬間を、待ちわびて  ---------------------------- [自由詩]まなざし /服部 剛[2012年4月19日23時48分] お年寄りの入浴介助前に  同僚のU君が着替えた後はいつも  僕の下の引き出しが閉まらないまま  脱いだ衣類が、もりあがっている  引き出しを開けるたび  骨が折れるが  日頃の僕にも気づいていない  (もりあがり)があるかもしれない  日々こつこつ働くU君が  脱いだ服のもりあがりを  小さい心でゆるす時  ふと、背後に感じる  日々不器用に生きている僕を すでにゆるしてくれている  もっと寛い(何者かのまなざし)を  ---------------------------- [自由詩]山の笑い /服部 剛[2012年4月19日23時59分] お玉杓子のような百舌達が  雨上がりの空に  ばらまかれては、舞い下りて  すすき野原にすーっととまる  静寂のひと時  ばらばらだった者達は  ひとつになり  きらきら光るすすき野原の  背後にひろがる山々は  まぶしそうに笑っています  ---------------------------- [自由詩]虔十さん /服部 剛[2012年4月21日23時59分] 昔々、虔十さんという風変わりな男は  ぶなの木の葉がちらちら揺れて煌くほどに  もう嬉しくてたまらなくなり  一枚々々の葉のひかりが  自らの体内に踊っているかのように  いつのまに、ぶなの木そのものになり  からだ全体の発光する  木のひとになった虔十さんは  うすら笑いの口をあけ  この世の畑を夢見ています  今日も風に吹かれて  やって来る虔十さんは  この世の何処かに・・・あなたの前に うっすら姿をあらわします  ---------------------------- [自由詩]言葉の寺 /服部 剛[2012年4月27日23時58分] つらい出来事があった時  詩は、きみのしょげた背中をそっと押すだろう   現実の壁が立ちはだかる時  詩は、きみの涙に濡れた瞳をまっすぐ前へ向けるだろう  詩は、暗闇に射すひとすじの光  詩は、哀しみの内に芽生える種  僕はそろそろ生きる言葉を探しに  「言葉の寺」の山門に、入ろうと思う。  (そこではもう一つの目が、開かれる)という  古(いにしえ)の言い伝えを、観るために  ---------------------------- [自由詩]松島・石巻小品集ーおくのほそ道をゆくー /服部 剛[2012年4月27日23時59分] 松島の丸い湯ぶねに身を浮かべ  きらりと笑う枯葉舟かな  さやさやと幹に映る光と影は  旅する我の心鏡(しんきょう)となり  歓びを天(そら)いっぱいに広げてる  白、白、白の木蓮の花  蟻々の働いている石段を  登ってゆけばあかるい神社(やしろ)  門前にでんと坐った石蛙  日をそそがれて目玉は潤み  御仏は瞳を閉じて、目をあわせ  叢(くさむら)に立ちよろこんでいる  松島の海にはばたく鴎達  自由を詩(うた)いあぁあぁと鳴く  ゆらゆらと身をゆらしてるほそ柳  又三郎が、あらわれそうだ  電飾の豆らんぷ等と思ったが  真昼の椿の葉群であった  つくし等は寒そうに震えているけれど  茎はまっすぐ天を指さす  しゃかりきに眼下を横切るありんこに  「がんばれよ」と言い、我は歩まん  旅先の日和の山を巡りつつ  桜のつぼみと夢を語らん  亡き人よ、地上に立った僕達は  肩を並べて第九を詩う  目に視えるすべてのものが、詩なのです。  ---------------------------- [自由詩]めおと島ー松島にてー /服部 剛[2012年5月19日22時13分] 夫婦みたいに並んでいる  ふたつの小島の周囲には  ひかりの宝石を無数に散りばめた  松島の海が穏やかに  さらさら滑ってゆくのです  先ほど赤い福浦橋の上から  遠い空の下にいる嫁さんに  旅の便りの電話をしたが  他愛の無い会話より  もっと大事な情景を、僕は今見ている。  夫婦のような  ふたつの島の周囲にきらめく  無数の宝石等はきっと  僕等の日々の周囲にも散りばめられ  目を凝らせば  見えないサインが、贈られている  この旅から家路に着いたら  松島の風が唸って歌い  幾千本の松の針が踊っている  木陰のベンチで書いたこの詩を  嫁さんと周に、読んでやろう。  あぁ、今、天空の雲がよけて  ひかりの宝石がさらさら滑ってゆく海と  日をそそがれる頬がほこり、とあったかい  ---------------------------- [自由詩]ルノアールの少女 /服部 剛[2012年5月19日22時27分] ふと手にした一枚の紙切れに  優れた画家のデッサンが浮かぶように  鏡は少女の清らかな  一瞬の微笑を映すだろう  ほのかな灯(ともしび)のひかりの中に  明け方の少女がひとり  密かに息づく現実(うつつ)の顔は  ルノアールの絵になる  その瞳は暖炉の炎が  しだいに煤(すす)け、燃え尽きてゆくのを  いつまでもじっと、視ている  生の視線、永久(とわ)に失われた生の視線よ。  あぁ、まことの地上の喪失を  一体誰が知るだろう?  絶え間なく賛美する声音(こわね)を持って  全体の中に生まれる詩情を歌う者の他に――   ※この詩はリルケの「オルフォイスへのソネット」を   異訳したものです。  ---------------------------- [自由詩]あかるい骸骨ーセザンヌ展にてー  /服部 剛[2012年5月23日19時24分] 机上の聖書の上に置かれた  ひとりの骸骨が  遥かな明日の空を視て、笑ってる。  骸骨は、恐いものと思っていたが  全てがそうではないらしい  どんな人もいつかきっと骨になり  顔の無い風の姿になり  空に溶け去る時  密かなサインを地上の誰かに贈るという  不思議な日向(ひなた)になっている  窓辺の机上の骸骨は  空に吹く  風のサインを受け取って  ふにゃりと、笑っているようだ    ---------------------------- [自由詩]今日の一匙ー婆ちゃんの格言ー /服部 剛[2012年5月23日19時33分] 在りし日の婆ちゃんが  出来たての熱いスープを出した後  つぶやいた、あの日の一言。  「ちょっとしたことで料理は、変わる」  さて、あの頃よりも 少々大人になった僕は 今日の場面にどんな一匙(ひとさじ)を入れようか?  ---------------------------- [自由詩]道草の花 /服部 剛[2012年5月24日23時18分] 乗り換えの駅で、旅の電車を下りた。  無人駅の小さいホームから  遠くに重なる山々の  西へ伸びる線路を往くか?  東へ伸びる線路を往くか?  (次の電車まで、あと1時間・・・)  この駅にはいつか来たような  あるいは初めて来たような  ふたつの心が重なっている  少々不思議な、旅のひと時。  こうして遠い空の下までやって来ると  日頃は身近な両親や 僕に微笑む妻子までもが  不思議な人達に視えてくる、旅のひと時。  待ち時間に暇をつぶした  畑の道の傍らに  今にも歌い出しそうな  黄色い花の蕾に耳を澄まし   春の日向に、しゃがんでみる  ---------------------------- (ファイルの終わり)