服部 剛 2012年2月18日0時08分から2012年4月5日23時15分まで ---------------------------- [自由詩]手品詩 /服部 剛[2012年2月18日0時08分] テレビの中のマジシャンが  逆さに置いたシルクハットから  花吹雪が舞い上がった  一日に一つ位  そんな手品があってもいい  さぁ、この詩の中の  机に置いたシルクハットを  ぱっ!とあなたに見せた  小さい ○ から  一体何が出るでしょう?  ---------------------------- [自由詩]夢の部屋  /服部 剛[2012年2月18日23時59分] ある夜の夢の中で  誰かの拳が  木のドアをノックする  乾いた音が部屋に響く  テーブルの向かいに座った  瞳の澄んだその人は  (私はいつも共にいる・・・)  と言ってすぅっと、消えた  目が、覚めた。  すでに台所に立つ妻が  まな板に置いた野菜を  とんとん刻む音が聞こえる    *  今日という一日の中に  必ずやって来るという  夢の人  毎日会う人の背後に  初めて会う人の背後に  透き通った面影で 姿を重ねている   日々、目の前に現れる隣人の  瞳の奥から聞こえてくる  夢の中のあの声が――  ---------------------------- [自由詩]スタートライン /服部 剛[2012年2月20日23時31分] 「位置について、用意」  乾いた鉄砲が空に鳴ったら  時を忘れて  自らの存在が溶け去る迄  只、走り続けよ  脳内から分泌される  あどれなりんの快楽が  体内を巡り  魂の入口に入る時   屍だった体は生き始める  気づいたら  一日を走り終えた、背後に  ぽっかりとした  夢の時間を振り返り  安堵のため息をつけるように  布団を被って夢見る寝顔の少年は   明日の朝日に燦燦(さんさん)と照らされた  スタートラインで、身構える  「位置について、用意」  ---------------------------- [自由詩]向日葵の夢 /服部 剛[2012年2月20日23時51分] 昭和5年の夏、関西のとある町にて  縁側に横たわり昼寝する  少年が目覚めた頃、母親は  まっ赤に濡れた西瓜(すいか)を  お盆に乗せて、持ってきた  庭に立つ一輪の向日葵(ひまわり)は  西瓜をかじる少年に  いつまでも微笑んでいた  そんな夏休みの幸福なひと時を綴る  「微笑について」という本を  平成24年の冬、東京のとある古本屋で  僕は偶然、手に取った  その作家は、すでに世を去って久しい。  その古本を読んだ人の行方は、誰も知らない。  それからというもの 私のこころの風景に  ずっと消えずに咲いている  あの、夏休みの向日葵  ---------------------------- [自由詩]いもと嫁さん /服部 剛[2012年2月26日21時12分] 結婚前の嫁さんを僕は(きれいだなぁ) と、うっとり見ていた  結婚後にいつも一緒の嫁さんは、時折  いもに見えることがある  高熱にうなされ  布団からふらふら身を起こした僕に  嫁さんは、蒸かしいもを持ってきてくれた  この手を暖める蒸かしいもには  嫁さんのまごころが宿っている  どんな天気の日にも共に歩むひとがいるのは  困った時に助けてくれるひとがいるのは  なんとありがたいことだろう  いもを食べ終えて  水を1杯飲んだら  ようやく目が覚めてきた  いもだった嫁さんの顔が  ひとに戻った  ---------------------------- [自由詩]夢の朗読会 /服部 剛[2012年2月26日21時17分] 38度の熱が出て、楽しみだった  僕の出版記念朗読会が、中止になった。   数々の再会の場面が夢になり・・・ 僕は今、ふとんに足を入れて  ランプの灯を頼りに、この詩を綴っている  あぁせめて 今日の集いを楽しみにしていた皆が  ぽっかり予定のあいた空白の時間に  恵みのひかりを注がれますように・・・  ふと見上げると、嫁さんが壁に貼った  ポスターで眉間に皺を寄せて  頬杖をつく遠藤先生が、呟いた   「−と思う出来事の中にこそ   +の種は潜んでいるのだよ」  その言葉を信じて僕は  巷にかぜの菌達が牙を剝き  北風に舞う冬の季節を越えて  陽ざしに蕾のひらく春に  再び集う皆の笑顔がひらく場面を夢見て  ふとんを被り、ランプを消した  ---------------------------- [自由詩]旅の夢 /服部 剛[2012年3月4日23時11分] 旅から帰った若き詩人は  傷ついた木の机に凭れて  部屋一杯に射すひかりの中で  そっと瞳を閉じていた  思い出すのは  避暑地で過ごした夏のひと時  夏空に浮く一艘の舟  ゆっくり時を奏でる水車  古びた旅の手帖を捲れば  ふいに脳裏をよぎるのだ  人それぞれに  笑い悩んで織り成す日々は  いつか何処かへ目を覚ます  ひとつの夢であるならば――  ---------------------------- [自由詩]イーハトーヴの国 /服部 剛[2012年3月6日23時43分] 生まれ育った故郷の林が大好きな  賢治の妹トシは額に汗を滴らせ  まぶたの裏に  この世という牧場の出口で  風に開いてゆく、木の扉を視ていた  息を切らして、家に戻った賢治が  震える指で、ましろい指に渡す  二本でひとつの、松の針。  うれしそうに受け取った  緑の針で頬を撫でれば  トシの寝顔は  一瞬火照った、幼子になり  ましろい指からふと、落ちて  枕に置かれた、松の針。  細い寝息で夢見るトシは  くらかけ山の麓に広がる草原に、独り立ち  ひとつひとつの草々が  遥かなる永劫(カルパ)の風にめらめら踊り  透き通ってゆく全ての景色の背後から  イーハトーヴの国が あらわれる  ---------------------------- [自由詩]夢の都 /服部 剛[2012年3月6日23時55分] 私は今、遠い異国の空の下  遥か昔に栄えた、廃墟の前に立っている  まっ青な空に輝く太陽に照らされた  誰ひとりいない古代の都市で  幾百年の時を越えて吹く風に  角の溶けた無数の柱の間から  透き通った人々の賑わいが、視えてくる  どんなに時が流れても  どんなに言葉が違っても  透き通った人々の胸には  皆同じ形をした  魂の器に、陽をそそがれている  風の唸りを聞きながら  異国の空の陽を浴びて  旅人の私は今 瞳を閉じる  手のひらを胸にあてる――  ---------------------------- [自由詩]瞳の奥に /服部 剛[2012年3月8日18時56分] 私はずっと気づかなかった  霧の向こうのお日様が  銀の色にかがやいて  あなたの瞳に宿っているのを  ---------------------------- [自由詩]銀の鏡 /服部 剛[2012年3月8日19時07分] ある朝、霧の中に立つ少年に  旅人は声をかけました  「何をしてるの?」  「霧の向こうのお日様は  銀の鏡のようですね 」  「私も銀の色をした、一つの石を持ってるが   あんなに光りはしないので、もっといいのはないものか   ここまで遠い道程を、独り歩いてきたのです     」  そうして旅人と少年は  童話の世界の中で「銀の鏡」を探しにいきました     *  童話の本を、閉じた後です。  私達の過ごす一日の  あちらこちらにひっそり隠れて  ぴかりと反射する「銀の鏡」をみつける  宝探しが始まるのは    ---------------------------- [自由詩]不思議な扉 /服部 剛[2012年3月13日18時52分] 今僕は、東京へと走る列車に乗っている  結婚前の妻と出逢ってからの数年間  毎日顔を見ない日はなかったが  今日から三日間  我が家を離れ、旅に出る  今僕は、妻と幼い周から  どんどん離れて、列車が加速するほどに  (僕等は三人なんだ・・・)と実感しながら  脳裏に浮かぶ夜空には  三ツノ星が縁(えにし)の糸で結ばれて  不思議な三角形の星座をつくっている  これから東京駅で新幹線に乗り  約1年前の震災が無数の家族を引き裂いた  福島・宮城・岩手へ走る  暗闇の空間を通過する時  僕は一体、何を思うだろう?  早くに別れる家族があり  遅くに別れる家族があり  いずれの家族も  三人なら、永遠(とわ)なる三人  五人なら、永遠なる五人  として  いつか離れれば離れるほど  僕等の不思議な心は幾重にもかさなり  いつもともにあるだろう    *  旅の始めに、地元の駅の本屋に寄って  鞄に入れた一冊の本を、取り出す。  ランプの灯の下で  世を去った愛する女(ひと)と  透明の手を重ねて  思いを綴る作家の本を  ぱっと開くと、本は語った。  「亡き人は、悲愛の扉から訪れる」  ---------------------------- [自由詩]ひかりの風 /服部 剛[2012年3月13日19時04分] 12色のビー玉が入った瓶を  逆さに持って  机にこん、と落ちた一つは金色の  きらり、と光る玉でした  もし、空の上に  あなたを主役にした作家がいるなら  筋書きの無い物語を  彼にまかせてみませんか?  そうして一つの場所に引き寄せられた  人々の間に吹き抜けるのは  きらり、と光る風でしょう  ---------------------------- [自由詩]賢治のいのり /服部 剛[2012年3月13日20時05分] 賢治は今も、救霊している――  僕は、言葉を信じたい  暗闇に射す光のように  震える魂を再生する、詩の言葉を・・・  今・ここに集う僕等は  数えるほどの人かもしれない  でも、一度は闇に葬られた  全ての魂に念じる時  無数の見えない心は  乱反射して、ここに集うだろう  今・ここにいる無力な僕が  誰かを助けられるわけじゃない  在りし日に、真(まこと)の詩人であった賢治は  まっ青に澄んだイーハトーヴの空から被災地へ  只、両腕をひろげている  賢治は今も、救霊している――  ---------------------------- [自由詩]虹のありか /服部 剛[2012年3月14日20時40分] 新しい、新しい、と未来ばかりに手を伸ばし  追えば追うほど、幸いの虹は逃げてゆく  古(いにしえ)の魂の形象を宿すものこそ  今・ここに新しい  古の魂をそっと胸に納め  自らの魂と一つに重なる時  心の空に ひとすじの虹が架かる     ---------------------------- [自由詩]東京駅にて /服部 剛[2012年3月14日20時49分] 3月9日・19時51分  新幹線の待合室のましろい空間  いくつか穴の開いた空席に  吸い寄せられるように、一人・・・二人と座る  一人・・・二人と、すくっと立っては  待合室を出てゆく  それは誰もが  人生の季節の中で  一日の場面の中で  幾度かすくっと決意する  あの瞬間に似ている     ---------------------------- [自由詩]日々の言葉 /服部 剛[2012年3月17日23時27分] 「こんにちは」  「いい天気で」  「お元気ですか?」  世の人々の関わりは  シンプルな門答で成り立っている  妻や子との会話が  日々そうであるように  その(あたりまえ)さに  今迄随分悩んでみたが  天才的な話術を知らない私は  そろそろもう少し素直になってもいい頃だ  ふいに脳裏をよぎるのは  ある求道者と対話した   あの日の一言(ひとこと)  「質問は、愛です」  やがて今日という日も暮れてゆき  我が家の玄関のドアを開けば  日にちの数と同じだけ  妻は今夜も言うだろう  「おかえりなさい」  「お風呂とご飯どちらにする?」  ---------------------------- [自由詩]言葉のゆげ /服部 剛[2012年3月17日23時43分] 震災から1年の3・11に復興を願い  仙台で行われた朗読会の前  主宰者の南ダイケンさんは  「これ、心ばかりですが・・・」と言い 直筆で「謝礼」と書いた 白い封筒を、僕に手渡した。  夜、一人になったホテルの部屋で  封筒の中をつまんで取り出す一枚の紙から   暖かいゆげが出ていた  それは3年前に僕が都内で主宰していた  「ぽえとりー劇場」に  はるばる仙台からやって来た ダイケンさんが朗読した時  素朴なラーメンの詩を書いた紙と  彼の訛った言葉から  闇の静寂(しじま)に昇っていた  あの日と同じ、ゆげだった  ---------------------------- [自由詩]さそり座の女との遭遇 /服部 剛[2012年3月20日23時30分] 今、神保町の珈琲店・さぼうるで  赤煉瓦の壁の地下にある席で  珈琲をすする僕の目線の先の1階では  美川憲一・はるな愛・ノブシコブシの吉村さんが  おいしいナポリタンをフォークで  すくってしゅわっと湯気が昇っている  さきほど隣のテーブルの女の子が  「あ!美川憲一だ」と言うや否や  店内の客の目線の先が一つになり  咄嗟に鞄に、手を突っ込んだ僕は、自分の書いた   「あたらしい太陽」という本を取り出し、立ち上がり  地下と1階の壁のすき間から  右手をめいっぱい伸ばす  「あの、これ、さそり座の男が書いた本です」  「あらぁ、ありがとう   愛ちゃんこれ、さそり座の男が書いたんですってふふ・・・」  椅子に着席した僕に  地下と1階の壁のすき間から  もう1度、美川憲一さんはこちらを覗いて  「ありがとうございます」と丁寧に、会釈した  テレビカメラの回る間も  「あたらしい太陽」を大事そうに手にしているのが  なんだかとっても、嬉しかった。  僕は明日、この出来事と美川憲一さんの人柄を  職場の皆さんや詩の仲間に、ちゃんと報告しようと思います。  ---------------------------- [自由詩]ゲーテさんと晩酌 /服部 剛[2012年3月20日23時43分] ビールを飲んだ僕のからだは  北国の暖炉みたいにほてっとあっだがぐなってくる。  心臓がどくりどくりと高鳴ってくる。  このボールペンを持つ手も、震えてくる。  しゃんそんっていいなぁ・・・  薄明かりの店内で  無数の音符等が浮遊して、踊っているよ  人生とはきっと  全ての出来事にきすする為のもの 今日僕は、ゲーテさんが好きだったという  けすとりっつぁしゅばるつびぁを飲み  生まれて初めて、ほんとうの酒の味を知った。  このテーブルの向かいの席には  透きとほったゲーテさんが  美味しそうに黒いビールの入ったグラスを 今、ふわりと傾けています  ---------------------------- [自由詩]らんぷの灯 /服部 剛[2012年3月20日23時57分] 人生は素晴らしい――  という言葉はいらない  洋鐙のらんぷの灯る名曲喫茶にて  物語の「   」だけが、真実です。  ---------------------------- [自由詩]約束 /服部 剛[2012年3月22日23時59分] 年度末の会議の後  僕は所長に  新たな年の契約書を、手渡して  旅の報告をした  「 石巻の日和山から見渡す一面の荒地に    ひとり・・・ふたり・・・と    笑顔の花を咲かせたいです――    」  年度末の夜  日々、不器用な僕の目をみつめ  肩に手を置いてくれた所長と   パート職員の僕の間に     最も大切な約束が視えた  ---------------------------- [自由詩]花巻の宿にて /服部 剛[2012年3月24日21時53分] 旅の時間に身を置くと  宿で食べる朝食の  目玉焼きの黄味や 納豆の一粒までも  電球の日に照らされて 嬉しそうに皿に盛られているのです  小皿には仲良く並んだらっきょうの間に  もうひとつの小さいらっきょうが挟まれ  我が家に残してきた妻と子と僕の  3人のようであり  ふと見上げた向かいの席は  若い夫婦と幼い娘で机を囲み  食後のお茶が3つ  ゆらりと湯気を昇らせています  窓外に広がる銀世界を背にして ---------------------------- [自由詩]ある酒場でのおじさん達の会話 /服部 剛[2012年3月24日22時04分] 「何事も、前向きに考える」  「ゆっくり、飲ませてくれ」  「マイペースでいこうぜ」  「ワイングラスになみなみ注(つ)いだら、美味くない」  「長く、死ぬまでのみてぇなぁ・・・」  「ヴァレンタインの30年も空けたけど」  「体のことを考えたら焼酎がいいだろう・・・」  「でも、美味いのはやっぱり、日本酒だな」  「結局は何事も、気分の問題さ」  ---------------------------- [自由詩]実験台で○○しよう /服部 剛[2012年3月28日23時35分] そろそろ何でもない日常の革命を起こそうか  お爺ちゃんやお婆ちゃん達の前で  昨日都内の喫茶店で、偶然  美川憲一さんに遭遇したという   一期一会の詩を、朗読してみようか  職場の仲間のメールで  「春になったら利用者の皆さんを車椅子に乗せて   満開の桜の下で飲んで、歌って、踊ろうよ」って  一斉送信、してみようか  一回きりの人生という、実験台で  たとえ百回失敗しても  百一回目の(あの瞬間)を夢見て  さぁ今から、人とちょっと違った  実験台で○○しよう  ---------------------------- [自由詩]夢の電車 /服部 剛[2012年3月28日23時54分] 五年程前に、上のの美術館で見た  山下清の描く「地下鉄銀座線」    暗い線路のトンネルに  あたらしい昭和のライトを灯して  完成したばかりのホームに  ゆっくりと入ってきた  平成二十四年の都営新宿線に乗る僕は ドアに凭れて、背後にもやもやした  煙のような重荷を背負う人々を眺めている  日本で初めての地下鉄に乗った頃は  遊園地よりも夢のひと時だったろう  夢の電車は今、時代の闇を抜けられぬまま  トンネルにがたごと輪音を響かせている   もし(詩情の目)を開く時  すぐ目の前の場面から  あたらしいものは  こちらにサインを贈っている  ---------------------------- [自由詩]はたらき/服部 剛[2012年3月29日23時56分] 「働き」といえば  重荷を負ってゆく坂道が視える  「はたらき」といえば  風になった自らが視える  矛盾にみちた一日の  狭間に開く   一輪の花を揺らす  あの風に  私はなれるだろうか?    ---------------------------- [自由詩]夕暮れの海 /服部 剛[2012年4月3日23時59分] 誰かが自分に投げた棘を  この両手でつつめるだろうか?  私は弱いので  すぐ相手に投げ返してしまう  後から思えば  それは些細なことであり  体を少し斜めにすれば  宙に消えゆく棘であり・・・  また、失敗するかもしれない  でも、もう一度  ふいに飛んでくる棘を  この両手でつつんでみよう  (たとえ一筋の血が流れても) それができるまで  この狭い心は  夕凪に照らされて詩(うた)をさざめく  あの憧れの海じゃない  ---------------------------- [自由詩]長島三芳さんを偲ぶ ー画廊喫茶ラバン・アジルにてー /服部 剛[2012年4月4日0時05分] 画廊喫茶ラバン・アジルに  人生の四季を旅してきた詩人は集い  Jazzの流れる店内は  セピア色の電球に照らされ  白髪の詩人達は  在りし日の詩人の魂と  いくつもの思い出を語らい  夕陽が海に沈む頃  店のドアから出ていった  ひとり残った僕に、髭のマスターは語り出す  「店の名は兎が跳ねるっていう意味でね、   無名の頃のピカソやユトリロが夢を語り   会話をはずませた店もラバン・アジルで・・・」  Jazzの流れる無人の店で  グラスと酒の片づいたテーブルに  僕は頬杖つきながら  在りし日の詩人の面影を  先ほどまで語らっていた  夢の余韻に浸っている  やがてウイスキーの酔いも覚め  素面(しらふ)の右手は、ペンを取る  在りし日の詩人が  人生の出口の闇を見据えながら  夏の向日葵に心を重ね  生の決意を語る詩を   セピア色に照らされた原稿用紙に  僕は綴り始めた  ---------------------------- [自由詩]道/服部 剛[2012年4月5日23時15分] 秋の日の銀杏並木を歩き  ふと、見上げた高い空  背の高い銀杏の黄色に縁取られ  ひとすじの空の道になっていた  これから私が旅をする  未知なる道も  あの空のひとすじになろう  そっと、胸に手をあてる  精神のしろい炎は燃えさかる  いつか夢で見た  遥かな明日へまっすぐのびてゆく  あの道が  瞼を閉じた  無明の世界にあらわれる  ---------------------------- (ファイルの終わり)