服部 剛 2011年11月29日23時06分から2012年1月19日0時33分まで ---------------------------- [自由詩]四つ葉のクローバー /服部 剛[2011年11月29日23時06分] 誰もが四つ葉のクローバーを、探している  三つ葉のクローバーとは呼ばないが  四つ葉のクローバーという名は、しっくりする  三つ葉のクローバーは(ふつう)だが  四つ葉のクローバーは奇形だという  自分の姿を見出せず  (ふつう)という薄っすらとした闇に塗れて  足掻いている人々がいる  ほんとうは誰もが、探している  ふいに足元から風に囁く  四つ葉のクローバーのような  奇形という名の幸福が  稀に輝く、あの瞬間を  ---------------------------- [自由詩]窓 /服部 剛[2011年11月29日23時19分] 神保町の古書店でみつけた  亀井勝一郎の本を開く  薄茶けた頁の紙を捲れば  文中の「純粋」の粋のところに穴が開き  前のページの「醜」という字が穴に重なり  「純醜」という言葉になった  まったく違った意味である  二つの文字が、一つになり  違った二つを抱えたそれは  まるで私のようであり  まるでこの世のようであり  ぱたん、と閉じた古書の上には  ?がひとつ、浮かんでいた  ---------------------------- [自由詩]涙の泉 /服部 剛[2011年12月7日23時36分] 生まれたばかりの娘が  心臓を手術して  暗闇に頭を抱える父がいる  夫と別れた後  アパート暮らしで  幼い息子達を必死で育てる母がいる  人はそれぞれ何気ない顔で  日々を過ごしながら  仮面を外せば  胸底にひとつの  碧(あお)い泉が湧いている  それぞれの重荷を負い  この坂道を歩むほど  湧き出ずる不思議な泉よ  彼等はきっと、互いの瞳をみつめる時  胸底の泉の水がひかるだろう  密かに反射しあう  涙のように  ---------------------------- [自由詩]オルゴールの唄 /服部 剛[2011年12月7日23時51分] 嫁さんのお腹がふくらんだ頃に  富山に嫁いだ姉から  大きなダンボールに詰めこんだ  育児セットが届いた  やがて赤ちゃんが生まれてからの日々を  哺乳瓶や抱っこひもが  育児に追われる嫁さんを助けてくれた  3ヶ月を過ぎた赤ちゃんが  だんだん笑い始めた頃  僕が働く日中に  嫁さんはダンボールから  子守唄のオルゴールが鳴る  メリーゴーランドを取り出すと  ひとりでに縫いぐるみ達は回り出し  夢の音楽を奏で始めた  嫁さんの大きい瞳は  じわっと潤んでゆく  弟夫婦のために  たくさんの育児セットを詰めこんだ     富山の姉の無言の思いに  回るメリーゴーランドをみつめながら  ---------------------------- [自由詩]絵の世界へ /服部 剛[2011年12月7日23時58分] 今日、天は私に  新たなる日々の舞台を与えた  「12月から服部君がうちに来ます」  会議で所長は皆に、言った  「これからの現場をつくる1人になりたいです」  密かな決意で、あいさつをした  ひと時、暖かい拍手に包まれながら  私は武骨に、頭を下げた。  帰りの下駄箱で  私は礼を言いたかったが、何故か言葉が出なかった  所長も何か言いたげだったが、言葉を胸にしまっていた  今迄道草をしていた10数年は  今日へと至る  長い回り道であった  これから幕を開ける  舞台の上で  私は私という役を演じるだろう  日常の素朴な場面が  一枚の絵画に生まれ変わるように  目の前にいる隣人に  私は自らをまっすぐ捧げる――  ---------------------------- [自由詩]自然治癒力 /服部 剛[2011年12月10日23時17分] 数日前にすっと切った  指の傷口を ほうっておいたら  裂けた肉と肉の間を  細い血の糸が縫っていた  心の傷もきっと  体の傷とおんなじで  あれこれ穿(ほじく)ってしまうより  一度は力んだ手を開いて  しばらく、ほうっておいたらいい    ---------------------------- [自由詩]東京動物園 /服部 剛[2011年12月10日23時28分] 金曜の休みに出かけた日  終電に近い電車で帰ったら  くたびれ果てたいくつもの寝顔が  ネクタイを緩めて、右に左に傾いていた  サラリーマンの皆様の顔を見て  (これがほんとの疲労だろうか?)と  吊り革にぶらさがりつつ  僕は密かに、問いかける  今よりもっと若い頃  「サラリーマンにはなりたくねぇ」と叫ぶ  ロックンローラーに痺れていたが  人並みに妻子を持つ今となっては  都会のすべての人々が  「トーキョー」という檻に入った  様々な愛しい動物達に視えてくる・・・  僕自身がひとりの 呆けた猿であることも忘れて  ---------------------------- [自由詩]酒をつぐ /服部 剛[2011年12月10日23時45分] 都会には「タテマエ」と書かれた  大きい看板に、ひとりの顔が  ニッコリ営業スマイルをする  そんな看板の全てを引っ剥がした  後に残る (ほんとうの顔)と  一度、ゆっくり話してみたい  らんぷのぶら下がった飲屋の座敷にて  互いの手にした盃を交しながら    ---------------------------- [自由詩]縁の糸 ー法然と親鸞展にてー /服部 剛[2011年12月12日22時21分] 数珠を手に坐る  法然と親鸞は  21世紀の上野の美術館内に  少し離れて向き合っていた  親鸞像の瞳は、無言で  (この数珠を見よ・・・)と呟き  両手の間で輪になる数珠を見ているうちに  私の胸に「和」という文字が  滲んで刻印されてゆく  法然像の背後に吊られた  薄い布に透けている  後ろ姿から漂う  不思議な安堵感に私は   (ついてゆきたい・・・)と呟く 師弟のふたりを見つめた後  ガラスの内側に置かれていたのは  親鸞84歳にして3ヶ月で書き上げた  「法然の言葉」を直筆で綴る厚い一冊の本  首から紐でぶら下げた音声ガイドは  ヘッドフォンで塞いだ私の耳に古(いにしえ)の物語を語り  21世紀の上野の美術館内で  互いに向き合い坐るふたりの  永遠(とわ)に消えない縁(えにし)の糸が視えた  ---------------------------- [自由詩]不思議な声ー法然と親鸞展にてー /服部 剛[2011年12月12日22時51分] 上野の美術館内で  ガラスの内側に坐る法然上人は  時を越えて歩いて来た  旅人の私を待っていた  少し猫背に身を屈め  指のすき間から数珠を垂らし  700年前に描かれた  色の薄れた絵の中にいる  法然上人と目があう時  心の救いを密かに求めてやって来た  21世紀の旅人達の頭上から    人生の旅を労(ねぎら)う不思議な声が  館内の何処からか囁いて  心の鏡に木霊(こだま)した  ---------------------------- [自由詩]船に乗る日 /服部 剛[2011年12月13日20時37分] 妻の運転する車に乗り  CDの再生ボタンを押す  「状況はどうだい、居ない君に尋ねる」  新たなる日々が、始まろうとしていた。  3年前、自ら世を去った友を思い出していた。  この歌をイヤホンで聞きながら  朝の交差点を渡る僕の頬には、あの日  とめどない涙が、溢れていた  「強く手を振ってあの日の背中に   サヨナラを告げる現在地   動き出すコンパス   さぁ行こうかロストマン   」  異動の決まった職場には  暗闇から這い上がって復帰した  僕の新たな、友がいた  「これが僕の望んだ世界だ   そして今も歩き続ける   不器用な旅路の果てに   正しさを祈りながら  」  妻が僕を目的地に運ぶ  朝の一本道の上に  あたらしい太陽が昇っていた  妻がブレーキを、踏んだ。  僕の顔は、涙でぐしょぐしょだった。  接吻をした ドアを閉めて、手をふった  ようやく本当の道を・・・歩み始めた。  国道1号線の先にある  これから僕の生きる施設が  まるで何処かへ出航しようとする  巨きな宝の船に見えた  感極まった顔のまま  僕は歩道を歩いてゆく  施設の正面玄関の開いた自動ドアを  無心のままに、入る  いつもより早く来ていた所長が  僕を見て「よろしくな」とひとこと言って笑った  感謝の言葉をのどに詰まらせ、 この心臓の音が 新たな予感に高鳴るまま  僕はまっすぐ、頭を下げていた   ※「   」内はBUMPOFCHICKENのアルバム    「ユグドラシル」(トイズファクトリー)の収録曲    「ロストマン」の歌詞より引用しました。  ---------------------------- [自由詩]渋谷一軒屋の夜 /服部 剛[2011年12月17日22時57分] 渋谷のライブハウスgeeーgeに入ると  唄歌いの君は  カウンターで手づくりのおでんを  皿に盛り、お客さんに手渡していた  若い歌姫が「涙そうそう」を歌い  チャイナ服のバンドの「モンキーマジック」に湧いて  ウクレレおじさんがしんみりと弾き語り・・・  手拍子をする合間に  ゆげの昇るおでんをほおばる客席の人々  福岡から来た人も  名古屋から来た人も  みんな一つに集い  老いも若きも「音を楽しむ」  ライブハウスgeeーgeが  一つのおでん鍋になり  北風吹く渋谷の街に  人間(ひと)のハートが高鳴ってゆく  渋谷一軒屋の夜  ---------------------------- [自由詩]絵手紙のこころ /服部 剛[2011年12月17日23時36分] ほんとうの深呼吸をしよう  北国を旅した時に泊まった宿で  火鉢の前で両手を暖めるひと時のように  ほんとうの手紙を書こう  血の通わない文字のメールを 百通送信、するよりも  旅の便りを かけがえのない誰かに、投函するように  僕は今迄、日常に追われながら   どれほどの言葉を  両手からこぼれ落ちる砂のように  無駄にしてきただろう  もっと耳を澄まそう  もっとさりげない言葉を贈ろう  日々、目の前に現れる  あなたの目を  まっすぐに見つめて  ---------------------------- [自由詩]はぶさん /服部 剛[2011年12月20日22時43分] はぶさんは、いつも  ぺっぺっと唾を吐く  所構わずトイレになる  介助しようと抱きかかえれば  細い手足で、殴る、蹴る  そんなはぶさんの細枝のような体が  実は末期癌に蝕まれていながら  痛みさえも忘れ果て  寝たきりの病人にもならず  一日、車椅子に座っている  「認知症」と診断されても  細い木の体に宿って ぼぉ と燃えるいのちの炎  ほら、油断すると  あごの下から小さい拳が、飛んでくる  危うく顔を避けた次の瞬間  「あたくしのおうちはどこお?」  ふにゃりと笑って、僕に聞く      ---------------------------- [自由詩]斧と氷塊 /服部 剛[2011年12月20日22時55分] 日常に潜む「?」という文字から  背を向けてないか?  逃げようとしていないか?  いつからか、目の前に  私と等身大の氷塊が、ある。  足元に一本の斧が、置かれている。  目を凝らしてみつめる氷塊に宿る  「?」の文字が視え・・・ 私は、予感する。  (あの中にまことの私がいる)  恐れてないか?  手にした斧を  一心に、振り下ろす時  無数に輝く水晶の  砕け散った後に姿を現す  (まことの私)と目の合う瞬間を ---------------------------- [自由詩]妻のひとこと /服部 剛[2011年12月31日21時54分] 職場で調子が出なかった日  凹んだまま布団に包まり、さっさと寝た。  目が覚めて、妻が見ていた  朝のニュースは  白鳥(スワン)の舞を 世を去った母に捧げる浅田真央  場内の大歓声に  僕はますます、目が覚めた。  次に出てきた村上佳菜子は  やりづらさを隠せずに  ものの見事に つるん、と滑ってずっこけた  競技の後のインタビューでは  「転んじゃった」と、大笑い。  「あなたも、あれでいいのよ」  そんな妻のひとことに  心の凹んだ穴はふさがり  僕は今朝も、歩いていった。  不器用な自分の影さえ  意気揚々と、引き連れて    ---------------------------- [自由詩]夢の階段 /服部 剛[2011年12月31日22時04分] 何もない所に 一つのドアと 見知らぬ場所へ昇ってゆく 階段があった 昔見た夢で ドアの向こうの階段に どう抗っても行けない所で ぱっと目が覚めたが 僕はこれまでの生の歩みで 何度も不思議な階段を 昇ってきたのだ 自分でも、知らないうちに ほら、ふりかえった背後に 伸びている 長い長い階段を下ってゆけば 開いたドアの向こうから あの日別れを告げた かけがえのない人々が 全く同じ年齢と姿で これから旅に出る僕に 無数の手を いっせいに、ふっている  ---------------------------- [自由詩]家族の船 /服部 剛[2012年1月1日13時49分] 一年の仕事を終えて  家に帰った年の瀬の夜  テレビで久しぶりに  「ガソリン値下げ」のニュースを見て  はじめて(嬉しい)と思う自分に少し驚く  僕の顔に似た赤ちゃんを  今夜も嫁さんはだっこしている  今年親父になった僕は、気がつくと  少したぶたぶの船長服を着て  すでに出航している 「家族の船」に乗り  めらめらと初日の昇る水平線に 目を凝らし  舵(かじ)の前に、立っていた    ---------------------------- [自由詩]甘酒の味 /服部 剛[2012年1月6日0時07分] お正月に風呂屋へ行き  入口でもらったサービスの甘酒を手に  目に入った「足湯」に  ズボンをまくって、足を浸す  紙コップから一滴(いってき)の甘酒がこぼれ  お湯が一瞬、白く濁り  数秒後には何もなかったように  透明のお湯に戻った  人間という一滴もいつか  透明の世界に消えるだろう  手にした紙コップの甘酒を  一口、啜る  おいしい  ---------------------------- [自由詩]明日のドア /服部 剛[2012年1月6日19時58分] 愛する女(ひと)と結ばれる前  この手は一度、天にあずけた  働く場所が決まる前  この手は一度、天にあずけた  これから家族3人で  叶えるたった一つの夢の為に  妻のぬくもる手を握り  息子の小さい手を握り  全てを天に、ゆだねよう  僕等の目の前には  明日へと入る、ドアがある  頭上の晴天に燃える  ひかりの顔が照らし出す   地上の夢を  ---------------------------- [自由詩]人の器 /服部 剛[2012年1月7日23時59分] 人は皆いつか「自分」という 透けた衣服を、脱いでゆく  その日まで誰もが人という  何処かが欠けた、器です。   (器にはゆるしという  一滴(いってき)の水が響く  )  「自分」という 透けた衣服を脱ぐ日  初めて人は、器になります。   かけがえのない人々の胸に  消えることない、面影を残して  ---------------------------- [自由詩]燃える人 〜箱根駅伝を見て〜 /服部 剛[2012年1月8日0時03分] 国道1号線を渡る前  信号待ちの車の窓から、遠のいてゆく  最下位のランナーのもつれた足で走る後ろ姿に  歩道から無数の旗をふる  人々の声援が、彼の背中を押していた  国道1号線を渡って  風呂屋に入り、店内のテレビでは  1位のランナーが瞳を燃やして  たすきを繋いだ仲間の待つ ゴールへの道を、走っていた  甘酒を飲みながら  足湯に入り  明日の仕事始めを思う  僕の体内で、今  ふつふつと  エンジンが燃えている  ---------------------------- [自由詩]「 ON AIR 」/服部 剛[2012年1月8日20時02分] 僕の背後にはいつも  ひとつの透明なカメラが浮いている  カメラを意識すると  この胸の奥で燃え始める  小さい太陽  日々目の前に現れる一人ひとりと  私がともに織り成す  全ての風景は  生放送の番組になる  宙に浮く透明のカメラは 歓びに、少し震えて  振り返った僕の目線の先から  ぱっと消えた    ---------------------------- [自由詩]さけび /服部 剛[2012年1月13日23時35分] なかなかはいはいが進まずに  布団に顔を埋めた周(しゅう)を  仰向けにしてやったら  全身を真赤(まっか)にしてうああ、と泣いた  周は、悔しがっているのだ。  夢中で声援を贈りながら  床を這って見守るパパとママに  もっといいところを見せたい、と――  がんばって、疲れた周に  思わず両手をさしのべて  胸に抱き、頭をなでれば  数分後には腕(かいな)の中ですやすやと  天使の寝顔は、夢を見る。  布団に埋めた顔を上げ  うああ、と叫びながら、前へ、前へ  小さい手足で布団を這った  周のガッツに  じーん・・・と打たれてしまったパパは  我が胸に抱く、天使の寝顔に誓うのだ    間違いだらけの日常を  うああ、と叫び  お前のように、這ってゆく  ---------------------------- [自由詩]夫婦の星 /服部 剛[2012年1月13日23時51分] 浜辺にて、両手で掬った  無数の砂に  たったふたつの光った粒は  あなたと私  無限に広がる宇宙の闇に  ぽつん、と浮かんだ地球の中で  たまたま出逢った  あなたと私 たとえ、世界のすべてが背を向けても  唯一の味方として  互いの手を握り  深い穴から這い出すように  いかなる天気の日にも  ふたりの思案をひとつに重ね  ふたりの夢をひとつに重ね  明日へと続く長い長い一本道に  足跡をつらねてゆくことは  どんなにかけがえのない日々でしょう  あなたもいずれ  潮騒の響く浜辺にて  両手で掬った  無数の砂に視るでしょう  ふたつの星の、瞬きを  ---------------------------- [自由詩]宝もの /服部 剛[2012年1月13日23時59分] 一日の仕事を終えた後  同僚がデジタルカメラの中から出した  小さいカードがないと言い  皆でうろうろ  あちらの引き出しを開き  こちらの机の下を覗いた  15分後、元気印のAさんが  束ねた書類のすき間から  ぽろっと落ちたカードをつまみ  右手をあげて「あった!」と叫び  皆揃って拍手をした  一日働いて疲れた後なのに  皆で一つのものを探して  気づくと僕も重い腰をあげていた  職場も  家庭も  世の中も  地球という名の惑星(ほし)に住む  全ての人も  探しているのかもしれない  幼き頃に夢見たような  たった一つの宝ものを  ---------------------------- [自由詩]永遠の海 /服部 剛[2012年1月16日23時56分] 朝焼けに染まる海  昼の青空の日に煌(きらめ)く海  夜も更けた月の光を映す海  時に凪いだ小波(さざなみ)は  時に唸る大波は   絶え間ない交響曲を奏でる  小さい布団に  星の両手をひろげて眠る幼子は  瞳を閉じて  永遠(とわ)の海の夢を見ている  遠い記憶の波打ち際で  自分を腕(かいな)に抱く母の  優しい唄を聞きながら    ---------------------------- [自由詩]千鳥の群 /服部 剛[2012年1月16日23時59分] 国宝館に展示された  古の絵巻に描かれた  松林の青空を  千鳥の群が  羽ばたいていった  国宝館の外に出て、仰いだ  古の都の青い空にも  千鳥の群の 後ろ姿は消えていった  胸中に無数の羽音のざわめくまま  家路に着いて、夕餉の煮物を  箸でつまんで口に入れる頃  ふと、思う  あの千鳥の群は今頃  何処を飛んでいるだろう  ---------------------------- [自由詩]雲間の窓 /服部 剛[2012年1月19日0時29分] お年寄りが耳から外した  補聴器の電池が外れて  キーと、鳴っている  僕自身の内にある  電池も少し、外れているので  脳の何処かが キーと、鳴り  雲に覆われた空から (天の声)が聴こえない  だから僕は今日も職場で  誰かと争いそうになったのだ。  自らを小さく卑下してしまうのだ。  この胸の内にある  小さい太陽電池の丸みを  所定の位置にぐいと押しこみ  (もう一つの眼)を開く時   争いそうな人のこころに  縮まりそうな僕のこころに  雲間の窓が、開かれる  ---------------------------- [自由詩]空缶ノ声 /服部 剛[2012年1月19日0時33分] 道の暗がりに棄てられた  凹んだ空缶を拾い、日溜りに置いた。  遠ざかり、振り返った僕を呼んで  透きとほる手をふっている  ---------------------------- (ファイルの終わり)