服部 剛 2011年10月13日19時53分から2012年1月7日23時59分まで ---------------------------- [自由詩]シンクロニシティ /服部 剛[2011年10月13日19時53分] (汽車は鉄橋を渡る)という詩を読んだ時  僕の乗る列車はまさに鉄橋を加速して 大きな川を渡っていた  人生には時折、そんな  場面と場面の符合する  シンクロニシティがあらわれる  ふいに見上げた車内の天井に   一瞬、天使が横切っていった    ---------------------------- [自由詩]人形の瞳 /服部 剛[2011年10月20日20時21分] 電車の中で、遠藤先生の本を開き  アウシュビッツを訪れた日の場面を  旅人の思いで共に歩く     *  昔、囚人だったカプリンスキー氏は  黙したまま背を向け  赤煉瓦の古い建物に入っていった  (ポーランドの真青(まっさお)な空の下   梢にとまる小鳥等の唄に   積もった方々の雪は煌(きらめ)き )  囚人が虐殺されたガス室を出た廊下の  壁に貼られた無数の人々の写真があり  モノクロームの過去から、痩せこけた囚人達は 見開いた人形の瞳で、こちらをじっと視つめ―― 旅人の遠藤先生は、立ち止まる  カプリンスキー氏の指がゆっくりと  無数の囚人の中の  頭を剃(そ)られた姉の瞳を、指さした     *  本を閉じた、僕の後ろの席で  白人の幼い姉と弟が  互いの手足でじゃれあいながら  車内に笑い声を響かせていた   ※この詩は、遠藤周作・十一の色硝子(新潮文庫)に掲載の    「カプリンスキー氏」という短編を参考に、書きました。  ---------------------------- [自由詩]魂の器 /服部 剛[2011年10月20日20時35分] 僕等は、いつのまにか  否応無く人生という列車に乗っていた  やがて、この列車は  御他聞漏れず地上から浮遊してゆく  いつか、必ずブラックホールの暗闇を  一度は通過するという  だから僕はあの日、飲み屋の暗がりで  友達に「この世は夢だ」と語らいつつ  互いのグラスを、重ねた  もし、この世が全て消える  夢ならば  僕は魂の器を沈黙の闇にそっと置いて  何処からかそそがれる  ひかりの液で充たし この胸に輝きを増すたった一つの魂を   今日という日に、放射する  ---------------------------- [自由詩]あの頃の青年 /服部 剛[2011年11月3日23時53分] 仕事帰りの若いサラリーマンが  夢庵でネクタイを緩めて  しゃぶしゃぶ定食を食べていた  思えば僕にもそんな  寂しさにみたされた夜があった  職場の老人ホームで  お年寄りが喜んでくれた日も  何故か埋まらぬ  たった一つの穴があった  今・僕には互いの足首を結んで  不恰好にも、二人三脚する妻があり  胸に抱(いだ)けばあったかい赤子がおり  今日は恩師の先生と  久しく語らう昼の食卓に、妻は    おいしい和食を運んでくれた  車で駅へと送った別れ際に  定年を過ぎた先生の素朴な瞳が  いつになく輝いていた  今日という日を  思い返す夢庵にて――  少し背を丸めた若いサラリーマンは  レジで財布を開いている  時折街で見かける 寂しげな青年は皆  あの頃の自分に似た  黒い影を地に落としているので  その都度僕は  (良き出逢いを――)と呟きながら  家路につく  いつもの灯(あかり)が窓にともる  我が家の方へ  ---------------------------- [自由詩]湯呑み /服部 剛[2011年11月3日23時58分] あんまりがんばり過ぎちゃうと  ぐったり疲れてしまうので  心の中にたった一ヶ所  小さい風の抜け穴がほしい  あんまりまじめに働くと  人々の囁く声が気になって  ろくに寝れなくなるので  一つ位は、仕事を置いて帰ればいい  ある日、湯呑みになみなみ入れ過ぎて  どっと溢れてしまってからは  ちょっと、控えめにそそいでいます  「いのちの息は一体何処を巡るだろう?」  そう問いながら、私は覗く  湯呑みの余白の空間を  ---------------------------- [自由詩]出航 /服部 剛[2011年11月5日19時35分] この手から放った  いくつものテープを握りながら  私を見送る人々が  埠頭に小さくなってゆく  船は往く、二度と戻れない国へ  別れのテープは千切れても  消えない人の契りを胸に  私は明日へ出航する   ※ 初出:神奈川新聞(平成23年8月28日)に掲載。    ---------------------------- [自由詩]掌の器 /服部 剛[2011年11月10日23時59分] 生まれた時から  小さい掌は、何も持っていなかった  大人になるにつれて  大きい掌は、様々なものを持つようになった  やがて訪れる夜、掌は「闇」に覆われるだろう     *  ある美術館に飾られた絵で   「魂の抜け殻」になった人が  魚の目で、こちらを視ている  開いた両手を、空にして    *  もし、人が一切を捨てた時  目に映る日常に、残された  ひと・ものに  言葉にならぬ震えが伝わるように  私は両手をそっと、さしだす     ---------------------------- [自由詩]天のポスト /服部 剛[2011年11月11日0時00分] いま「時」は体を傾(かし)げて、私にふれる  あの不思議な金属音に  私の感覚はふるえる、そして感じる  私にはできると――  (それは遠いスクリーンに   映し出されている、まことの夢)  ぴたり、と止まった永遠(とわ)の世界を  繰り返される日々の世界に  重ねて視る時  手許の小さいものさえも  生きものになり  何かを、語り始める  そうして私は、知るだろう  日常の些細なものこそ  無限の愛をそそぐべく  愛しさを秘めていると――  かれらの囁きに耳を澄ます時  生まれる一篇の詩という手紙を捧げるように   この両手を一杯に伸ばし   目には見えない天のポストに、投函する  ---------------------------- [自由詩]風の塔 /服部 剛[2011年11月29日23時03分] 世の人々が何処までも積み上げた  バベルの塔が崩壊した後  全てが消えた荒地の空に  崩れることなく  透き通ったまま立っている、風の塔  全ての者が去った後  たった独りで荒地に立ち  風の塔の輪郭を  じっと見据える者がいる  あなたは何を問うている?  虚空の一点に穴が開くほど  じっと視つめるパスカルよ  やがて荒地の歪んだ地平に陽は沈み  暗闇に覆われる夜の淵にも  燭台に踊る小さい炎が  彼の頬を照らしている  ---------------------------- [自由詩]四つ葉のクローバー /服部 剛[2011年11月29日23時06分] 誰もが四つ葉のクローバーを、探している  三つ葉のクローバーとは呼ばないが  四つ葉のクローバーという名は、しっくりする  三つ葉のクローバーは(ふつう)だが  四つ葉のクローバーは奇形だという  自分の姿を見出せず  (ふつう)という薄っすらとした闇に塗れて  足掻いている人々がいる  ほんとうは誰もが、探している  ふいに足元から風に囁く  四つ葉のクローバーのような  奇形という名の幸福が  稀に輝く、あの瞬間を  ---------------------------- [自由詩]窓 /服部 剛[2011年11月29日23時19分] 神保町の古書店でみつけた  亀井勝一郎の本を開く  薄茶けた頁の紙を捲れば  文中の「純粋」の粋のところに穴が開き  前のページの「醜」という字が穴に重なり  「純醜」という言葉になった  まったく違った意味である  二つの文字が、一つになり  違った二つを抱えたそれは  まるで私のようであり  まるでこの世のようであり  ぱたん、と閉じた古書の上には  ?がひとつ、浮かんでいた  ---------------------------- [自由詩]涙の泉 /服部 剛[2011年12月7日23時36分] 生まれたばかりの娘が  心臓を手術して  暗闇に頭を抱える父がいる  夫と別れた後  アパート暮らしで  幼い息子達を必死で育てる母がいる  人はそれぞれ何気ない顔で  日々を過ごしながら  仮面を外せば  胸底にひとつの  碧(あお)い泉が湧いている  それぞれの重荷を負い  この坂道を歩むほど  湧き出ずる不思議な泉よ  彼等はきっと、互いの瞳をみつめる時  胸底の泉の水がひかるだろう  密かに反射しあう  涙のように  ---------------------------- [自由詩]オルゴールの唄 /服部 剛[2011年12月7日23時51分] 嫁さんのお腹がふくらんだ頃に  富山に嫁いだ姉から  大きなダンボールに詰めこんだ  育児セットが届いた  やがて赤ちゃんが生まれてからの日々を  哺乳瓶や抱っこひもが  育児に追われる嫁さんを助けてくれた  3ヶ月を過ぎた赤ちゃんが  だんだん笑い始めた頃  僕が働く日中に  嫁さんはダンボールから  子守唄のオルゴールが鳴る  メリーゴーランドを取り出すと  ひとりでに縫いぐるみ達は回り出し  夢の音楽を奏で始めた  嫁さんの大きい瞳は  じわっと潤んでゆく  弟夫婦のために  たくさんの育児セットを詰めこんだ     富山の姉の無言の思いに  回るメリーゴーランドをみつめながら  ---------------------------- [自由詩]絵の世界へ /服部 剛[2011年12月7日23時58分] 今日、天は私に  新たなる日々の舞台を与えた  「12月から服部君がうちに来ます」  会議で所長は皆に、言った  「これからの現場をつくる1人になりたいです」  密かな決意で、あいさつをした  ひと時、暖かい拍手に包まれながら  私は武骨に、頭を下げた。  帰りの下駄箱で  私は礼を言いたかったが、何故か言葉が出なかった  所長も何か言いたげだったが、言葉を胸にしまっていた  今迄道草をしていた10数年は  今日へと至る  長い回り道であった  これから幕を開ける  舞台の上で  私は私という役を演じるだろう  日常の素朴な場面が  一枚の絵画に生まれ変わるように  目の前にいる隣人に  私は自らをまっすぐ捧げる――  ---------------------------- [自由詩]自然治癒力 /服部 剛[2011年12月10日23時17分] 数日前にすっと切った  指の傷口を ほうっておいたら  裂けた肉と肉の間を  細い血の糸が縫っていた  心の傷もきっと  体の傷とおんなじで  あれこれ穿(ほじく)ってしまうより  一度は力んだ手を開いて  しばらく、ほうっておいたらいい    ---------------------------- [自由詩]東京動物園 /服部 剛[2011年12月10日23時28分] 金曜の休みに出かけた日  終電に近い電車で帰ったら  くたびれ果てたいくつもの寝顔が  ネクタイを緩めて、右に左に傾いていた  サラリーマンの皆様の顔を見て  (これがほんとの疲労だろうか?)と  吊り革にぶらさがりつつ  僕は密かに、問いかける  今よりもっと若い頃  「サラリーマンにはなりたくねぇ」と叫ぶ  ロックンローラーに痺れていたが  人並みに妻子を持つ今となっては  都会のすべての人々が  「トーキョー」という檻に入った  様々な愛しい動物達に視えてくる・・・  僕自身がひとりの 呆けた猿であることも忘れて  ---------------------------- [自由詩]酒をつぐ /服部 剛[2011年12月10日23時45分] 都会には「タテマエ」と書かれた  大きい看板に、ひとりの顔が  ニッコリ営業スマイルをする  そんな看板の全てを引っ剥がした  後に残る (ほんとうの顔)と  一度、ゆっくり話してみたい  らんぷのぶら下がった飲屋の座敷にて  互いの手にした盃を交しながら    ---------------------------- [自由詩]縁の糸 ー法然と親鸞展にてー /服部 剛[2011年12月12日22時21分] 数珠を手に坐る  法然と親鸞は  21世紀の上野の美術館内に  少し離れて向き合っていた  親鸞像の瞳は、無言で  (この数珠を見よ・・・)と呟き  両手の間で輪になる数珠を見ているうちに  私の胸に「和」という文字が  滲んで刻印されてゆく  法然像の背後に吊られた  薄い布に透けている  後ろ姿から漂う  不思議な安堵感に私は   (ついてゆきたい・・・)と呟く 師弟のふたりを見つめた後  ガラスの内側に置かれていたのは  親鸞84歳にして3ヶ月で書き上げた  「法然の言葉」を直筆で綴る厚い一冊の本  首から紐でぶら下げた音声ガイドは  ヘッドフォンで塞いだ私の耳に古(いにしえ)の物語を語り  21世紀の上野の美術館内で  互いに向き合い坐るふたりの  永遠(とわ)に消えない縁(えにし)の糸が視えた  ---------------------------- [自由詩]不思議な声ー法然と親鸞展にてー /服部 剛[2011年12月12日22時51分] 上野の美術館内で  ガラスの内側に坐る法然上人は  時を越えて歩いて来た  旅人の私を待っていた  少し猫背に身を屈め  指のすき間から数珠を垂らし  700年前に描かれた  色の薄れた絵の中にいる  法然上人と目があう時  心の救いを密かに求めてやって来た  21世紀の旅人達の頭上から    人生の旅を労(ねぎら)う不思議な声が  館内の何処からか囁いて  心の鏡に木霊(こだま)した  ---------------------------- [自由詩]船に乗る日 /服部 剛[2011年12月13日20時37分] 妻の運転する車に乗り  CDの再生ボタンを押す  「状況はどうだい、居ない君に尋ねる」  新たなる日々が、始まろうとしていた。  3年前、自ら世を去った友を思い出していた。  この歌をイヤホンで聞きながら  朝の交差点を渡る僕の頬には、あの日  とめどない涙が、溢れていた  「強く手を振ってあの日の背中に   サヨナラを告げる現在地   動き出すコンパス   さぁ行こうかロストマン   」  異動の決まった職場には  暗闇から這い上がって復帰した  僕の新たな、友がいた  「これが僕の望んだ世界だ   そして今も歩き続ける   不器用な旅路の果てに   正しさを祈りながら  」  妻が僕を目的地に運ぶ  朝の一本道の上に  あたらしい太陽が昇っていた  妻がブレーキを、踏んだ。  僕の顔は、涙でぐしょぐしょだった。  接吻をした ドアを閉めて、手をふった  ようやく本当の道を・・・歩み始めた。  国道1号線の先にある  これから僕の生きる施設が  まるで何処かへ出航しようとする  巨きな宝の船に見えた  感極まった顔のまま  僕は歩道を歩いてゆく  施設の正面玄関の開いた自動ドアを  無心のままに、入る  いつもより早く来ていた所長が  僕を見て「よろしくな」とひとこと言って笑った  感謝の言葉をのどに詰まらせ、 この心臓の音が 新たな予感に高鳴るまま  僕はまっすぐ、頭を下げていた   ※「   」内はBUMPOFCHICKENのアルバム    「ユグドラシル」(トイズファクトリー)の収録曲    「ロストマン」の歌詞より引用しました。  ---------------------------- [自由詩]渋谷一軒屋の夜 /服部 剛[2011年12月17日22時57分] 渋谷のライブハウスgeeーgeに入ると  唄歌いの君は  カウンターで手づくりのおでんを  皿に盛り、お客さんに手渡していた  若い歌姫が「涙そうそう」を歌い  チャイナ服のバンドの「モンキーマジック」に湧いて  ウクレレおじさんがしんみりと弾き語り・・・  手拍子をする合間に  ゆげの昇るおでんをほおばる客席の人々  福岡から来た人も  名古屋から来た人も  みんな一つに集い  老いも若きも「音を楽しむ」  ライブハウスgeeーgeが  一つのおでん鍋になり  北風吹く渋谷の街に  人間(ひと)のハートが高鳴ってゆく  渋谷一軒屋の夜  ---------------------------- [自由詩]絵手紙のこころ /服部 剛[2011年12月17日23時36分] ほんとうの深呼吸をしよう  北国を旅した時に泊まった宿で  火鉢の前で両手を暖めるひと時のように  ほんとうの手紙を書こう  血の通わない文字のメールを 百通送信、するよりも  旅の便りを かけがえのない誰かに、投函するように  僕は今迄、日常に追われながら   どれほどの言葉を  両手からこぼれ落ちる砂のように  無駄にしてきただろう  もっと耳を澄まそう  もっとさりげない言葉を贈ろう  日々、目の前に現れる  あなたの目を  まっすぐに見つめて  ---------------------------- [自由詩]はぶさん /服部 剛[2011年12月20日22時43分] はぶさんは、いつも  ぺっぺっと唾を吐く  所構わずトイレになる  介助しようと抱きかかえれば  細い手足で、殴る、蹴る  そんなはぶさんの細枝のような体が  実は末期癌に蝕まれていながら  痛みさえも忘れ果て  寝たきりの病人にもならず  一日、車椅子に座っている  「認知症」と診断されても  細い木の体に宿って ぼぉ と燃えるいのちの炎  ほら、油断すると  あごの下から小さい拳が、飛んでくる  危うく顔を避けた次の瞬間  「あたくしのおうちはどこお?」  ふにゃりと笑って、僕に聞く      ---------------------------- [自由詩]斧と氷塊 /服部 剛[2011年12月20日22時55分] 日常に潜む「?」という文字から  背を向けてないか?  逃げようとしていないか?  いつからか、目の前に  私と等身大の氷塊が、ある。  足元に一本の斧が、置かれている。  目を凝らしてみつめる氷塊に宿る  「?」の文字が視え・・・ 私は、予感する。  (あの中にまことの私がいる)  恐れてないか?  手にした斧を  一心に、振り下ろす時  無数に輝く水晶の  砕け散った後に姿を現す  (まことの私)と目の合う瞬間を ---------------------------- [自由詩]妻のひとこと /服部 剛[2011年12月31日21時54分] 職場で調子が出なかった日  凹んだまま布団に包まり、さっさと寝た。  目が覚めて、妻が見ていた  朝のニュースは  白鳥(スワン)の舞を 世を去った母に捧げる浅田真央  場内の大歓声に  僕はますます、目が覚めた。  次に出てきた村上佳菜子は  やりづらさを隠せずに  ものの見事に つるん、と滑ってずっこけた  競技の後のインタビューでは  「転んじゃった」と、大笑い。  「あなたも、あれでいいのよ」  そんな妻のひとことに  心の凹んだ穴はふさがり  僕は今朝も、歩いていった。  不器用な自分の影さえ  意気揚々と、引き連れて    ---------------------------- [自由詩]夢の階段 /服部 剛[2011年12月31日22時04分] 何もない所に 一つのドアと 見知らぬ場所へ昇ってゆく 階段があった 昔見た夢で ドアの向こうの階段に どう抗っても行けない所で ぱっと目が覚めたが 僕はこれまでの生の歩みで 何度も不思議な階段を 昇ってきたのだ 自分でも、知らないうちに ほら、ふりかえった背後に 伸びている 長い長い階段を下ってゆけば 開いたドアの向こうから あの日別れを告げた かけがえのない人々が 全く同じ年齢と姿で これから旅に出る僕に 無数の手を いっせいに、ふっている  ---------------------------- [自由詩]家族の船 /服部 剛[2012年1月1日13時49分] 一年の仕事を終えて  家に帰った年の瀬の夜  テレビで久しぶりに  「ガソリン値下げ」のニュースを見て  はじめて(嬉しい)と思う自分に少し驚く  僕の顔に似た赤ちゃんを  今夜も嫁さんはだっこしている  今年親父になった僕は、気がつくと  少したぶたぶの船長服を着て  すでに出航している 「家族の船」に乗り  めらめらと初日の昇る水平線に 目を凝らし  舵(かじ)の前に、立っていた    ---------------------------- [自由詩]甘酒の味 /服部 剛[2012年1月6日0時07分] お正月に風呂屋へ行き  入口でもらったサービスの甘酒を手に  目に入った「足湯」に  ズボンをまくって、足を浸す  紙コップから一滴(いってき)の甘酒がこぼれ  お湯が一瞬、白く濁り  数秒後には何もなかったように  透明のお湯に戻った  人間という一滴もいつか  透明の世界に消えるだろう  手にした紙コップの甘酒を  一口、啜る  おいしい  ---------------------------- [自由詩]明日のドア /服部 剛[2012年1月6日19時58分] 愛する女(ひと)と結ばれる前  この手は一度、天にあずけた  働く場所が決まる前  この手は一度、天にあずけた  これから家族3人で  叶えるたった一つの夢の為に  妻のぬくもる手を握り  息子の小さい手を握り  全てを天に、ゆだねよう  僕等の目の前には  明日へと入る、ドアがある  頭上の晴天に燃える  ひかりの顔が照らし出す   地上の夢を  ---------------------------- [自由詩]人の器 /服部 剛[2012年1月7日23時59分] 人は皆いつか「自分」という 透けた衣服を、脱いでゆく  その日まで誰もが人という  何処かが欠けた、器です。   (器にはゆるしという  一滴(いってき)の水が響く  )  「自分」という 透けた衣服を脱ぐ日  初めて人は、器になります。   かけがえのない人々の胸に  消えることない、面影を残して  ---------------------------- (ファイルの終わり)