服部 剛 2011年7月18日22時49分から2011年10月13日19時44分まで ---------------------------- [自由詩]幸福について /服部 剛[2011年7月18日22時49分] 炎天下を汗だくで歩いて  デパートに入ったら  ひんやりとして、幸せだった  しばらく涼んでTシャツの腕が寒くなり  外へ出たら  暖かくって、幸せだった  人の幸せなんぞというものは  人それぞれに勝手なもので  かくいう私も、人であり  「上辺の幸福」に麻痺した  現代人の私は公園のベンチに腰かけ  噴水の水の形を眺めつつ  人の心の意識下に流れる  (ひとすじの水)についてものを思い  頬杖ついて  ロダンになったふりをする  目の前を、無邪気な足音が駆け抜け  ふいに、顔を上げると  若い母が幼い息子を抱き上げる  「一枚の絵」が視えた  ひと時、私の肩にとまった蝿が  笑って何処かへ、飛んでいった  ---------------------------- [自由詩]新しい体験 /服部 剛[2011年7月27日22時17分] 再び僕等は、ヴェールが落ちるのを見る。  いつも目にする当たり前の風景達が囁き始める。  新しい星空が僕等をさし招き  魂は更なる旅路を、歩むだろう  世界は僕等のまわりで  新しいサークルの秩序をつくる。  そして童心になった僕等は  儚い調べの中に置かれる。  だが、今夜は遠い過去から  遥かな思いが煌(きらめ)きながら、やって来る。  星は落ち、新たに生まれ  空間が空虚になったことはついにない  魂は転んでも、また起き上がり  無限の中を呼吸する  一度は断ち切られた糸で一層美しく  これからの物語は織り成されるだろう    ※この詩はヘッセの詩を異訳したものです。  ---------------------------- [自由詩]坂の上にて /服部 剛[2011年8月4日23時27分] 「人生は、まさかという名の坂がある」  ある日、同僚は言った。  愛する女(ひと)と結ばれた僕は  30年住んだ実家を出て  12年詩を朗読していた店が閉まり  10年働いた職場から異動になった  「まさかという名の坂」を  上り切った断崖に立ったら   目の前には  ましろい空間が広がり  隣に、腹の大きい嫁さんが  にこりと微笑んだ  足元には只、一本のペンと  空白の日記帳が、置かれていた。    ---------------------------- [自由詩]声援/服部 剛[2011年8月4日23時40分] デイサービスに初出勤の日  助手で乗った送迎車の窓外に  前の職場の老人ホームを去る時  手を握りあったお婆さんが散歩道で  杖をつき、せっせと坂を上っていた  ( 僕も、新たな日々の坂道を    意気揚々と、上りたい――― )  無言で誓う僕の目線の先に  お婆さんの姿は  瞬く間に  小さくなっていった    ---------------------------- [自由詩]充電器 /服部 剛[2011年8月5日23時11分] 一日の仕事を終えて家に帰り  コンセントの穴から  線をつないで  充電器に、電話を置く  旅先の長崎で出逢った  お爺さんがくれたマリアのメダイを  両手に包み瞳を閉じて  僕はソファに、腰を下ろす  「この体という器に納まる  一つの青い魂を漲(みなぎ)る程に、充電せよ」  明日も誰かの連絡に 電話はぶるっと鳴るだろう  僕は天からの連絡を 受信するものになろう  ---------------------------- [自由詩]目を開く /服部 剛[2011年8月5日23時43分] 繰り返される日々の只中で  長い間蹲(うずくま)っていた私は立ち上がり  澱みきった自分の姿に  力一杯ひとつの拳を、振り下ろす。  言葉にならない叫びが  青い空の鏡を、震わせる迄  ---------------------------- [自由詩]誕生 /服部 剛[2011年8月11日22時58分] 幕開け前の誰もいない舞台に  一つの卵が置かれている  (あの中に、瞳を閉じた胎児の私がいる)  ぴしっと殻を破り  世界に顔を出す瞬間を夢見て  (胎児の小さい心臓が、高鳴っている)  もし、大人になった日常が  色褪せてしまった夢ならば  いつのまにか、自らを覆っている  透きとおった卵の殻を破り  もう一度、世界に向かって顔を出そう  自らが新たに生まれる時  風の絵筆は日常の場面を撫でてゆき  花々がゆっくり開くように  世界の色はあらわれる  ---------------------------- [自由詩]妻の寝顔 /服部 剛[2011年8月11日23時11分] 夢の中に美人女優が現れたので  ふら〜りと吸い寄せられていったら  ぱっと姿が消えて、目が覚めた。   隣には、妻が小さい鼾(いびき)をかいていた。  起き上がって、ソファに腰を下ろすと  机の上には   先に寝てしまった後、深夜まで  妻が打ってくれた僕の原稿が印刷されて  そっとノートに、挟んであった  原稿を手にした僕は  無垢な姿で両手を胸にあてた  世界にひとりの女(ひと)である  妻の寝顔を、しみじみ眺めた  ---------------------------- [自由詩]夕焼けの詩 /服部 剛[2011年8月11日23時36分] 久しぶりに実家でゆっくり過ごし  今は亡き祖母の和室に坐り  夕暮れの蜩(ひぐらし)の音を聴いている  掛け軸には富山の姪っ子の  書き初め「広いうみ」が  悠々とクーラーの風に揺れている  額縁には色褪せた大きい写真があり  在りし日の祖母が三味線を抱き  ぴん、と張りつめた弦を  象牙の撥(ばち)で震わせる  今頃富山の姪っ子は  夏休みの一日を終えて  蜩の音を聴いているだろうか?  いつしか午睡に俯いていた僕の夢に  あの日祖母が昇った夕空の  遥かな国の方角から  「夕焼け小焼け」の  オルゴールが聴こえてくる  ---------------------------- [自由詩]ゴッホの瞳 /服部 剛[2011年8月14日23時27分] ゴッホが描いた「向日葵(ひまわり)」の  地上に堕ちた太陽に  人は感動するのではない  今にも動き出しそうな  何かを語りかけそうな  「向日葵」の背後に視えるのは  瞳のレンズに「向日葵」を映し  何かに憑かれたように  時を忘れた境地で  キャンバスに挑み、絵筆を握る  燃えるような画家のうしろ姿  額縁という「窓」の向こう側から  過去と現在を射抜いて  ぎらりと澄んだゴッホの瞳が 絵の前に立つ、あなたを視ている  ---------------------------- [自由詩]白いキャンバス/服部 剛[2011年8月14日23時41分] 目の前の何でもない風景は  独りの画家が絵筆を手に取れば  真っ白なキャンバスにあらわれる  一枚の美しい夢になる  たとえばそれは  陽炎(かげろう)揺らめく夏の坂道を  杖をつく老婆と  手を取りゆっくり歩む女の後ろ姿  たとえばそれは  団地の部屋の布団まで  体の動かぬ大男を  額に汗を滲ませ運ぶ、二人の男の後ろ姿   かれらは皆  一日の労働を終えて家に帰れば  安堵のため息を吐きながら  重い腰を下ろすだろう  全ての日々は、自らの身を捧げて  (これでよかった・・・)と呟ける  あの優しい夕暮れのために  独りの画家が  真白なキャンパスに没頭して  いのちの絵画を描くように  君よ、明日も  日常という名の風景画に  炎となって突入せよ  ---------------------------- [自由詩]箱を置く /服部 剛[2011年8月16日23時42分] ありきたりの日常に頬杖をつく人が  目玉を丸めて、飛びあがる  手造りのびっくり箱を  日々の暮らしに、仕掛けよう  ---------------------------- [自由詩]無数の手 /服部 剛[2011年8月16日23時56分] 新しい職場の老人ホームで  初めて司会のマイクを持った日  お年寄りの皆さんに  塗り絵用の色鉛筆を渡した  十二色の鉛筆の先っぽは  どれもきれいに尖っていたので  今日は鉛筆削りの手間が省けた  昨日は塗り絵が終わった後に  ボランティアのおじさんが  黙々と鉛筆を削る後ろ姿を見たせいか   杖をつくお爺さんの腕を支えて  一緒に歩く今日の僕は不思議と  胸の暖炉がめらめら燃えていた  僕は今、一日の仕事を終えた後の  マクドナルドで、こんな詩を書いているが  手にしたペン、文字を綴る原稿用紙  支える机、照らすライト  胃袋に入ったハンバーガー  それら全ての  見知らぬ場所で仕事をする  名も無い人々の「無数の手」につくられた もの達の集う風景に、今・僕はいる  ---------------------------- [自由詩]雪ダルマを、押す /服部 剛[2011年9月2日21時28分] 出産後の妻とゆっくり過ごす為  休みをもらった日の午後  テレビをつけたら  決選投票で選ばれた  次期の首相が熱く語っていた  「政治というのは、坂道を皆で押す雪ダルマ。   あいつがどうだ、こいつがああだと言いあっ  てては、ふくらむはずの雪ダルマも、坂道を  転げ落ちてしまいます。         」  思えば僕もいつのまに  自分の弱さを棚に上げ  人の弱さを突っつく奴になっていた  この休みが明けたら僕も  たった一つの雪ダルマを  皆と一緒に押す、ひとりになりたい。  雪ダルマのふくらむ重みを  掌にずしりと感じる時、僕は見るだろう  白い塊に喰い込む、隣人の掌を    ---------------------------- [自由詩]明日の信号 /服部 剛[2011年9月2日21時46分] 道に信号があるように  私達の日常の旅にも、信号がある  「赤」で立ち止まる時があり  「黄」で慎重になる時があり  「青」で迷わずゆく時があり  ゆずること、待つこと  走り出すこと―――  道はいつも、語っている  私達がどのように走ればいいかを  旅路はいつも、導いている  それぞれの私達がゆくべき、一つの場所を  前を向いて歩く あなたの視線の先で  明日の信号が「青」になる  ---------------------------- [自由詩]亀のつぶやき /服部 剛[2011年9月4日22時26分] 今日の入浴介助は  全身をばねにしてバリバリ働くAさんと  一人すろーに働く僕のペアで  一人のお年寄を介助する間に  Aさんは三人位してそうで  天井あたりから 数時間の動きを見ると  何だかとっても滑稽な  チャップリンの無声映画に見えて来る  昔は介護に関しては  (早けりゃいいってもんじゃない) と頑固に愚痴ったものだが  中年親父になりつつある僕はようやく  (世の中は、兎と亀で回ってる) ということがわかってきた  亀の歩みの僕でさえ  日々の暮らしを人並に  汗水垂らして生きてると  いつのまにやらとっぷり陽は暮れ  夜の公園のベンチに腰かけ  上から照らす街灯を頼りに  こんな詩をノートの白紙に綴っています  亀はじいっと、考える  一日の快い疲労と共に 自分の信じる世界を創る  素晴らしい明日の舞台を夢に見て  ---------------------------- [自由詩]幸いの虹 /服部 剛[2011年9月4日22時40分] 自然の水はあふれんばかりに、今日も  泉に湧き、滝から落ち、川を流れ  人間(ひと)の哀しみさえも  自然に湧き出ずる水の如く  美しい涙の滴(しずく)は   君の瞳から、頬を伝うだろう  友よ、窓外をごらん  先ほど迄、世界を洗い流していた  激しい雨のシャワーが嘘のように  雲間からあたらしい太陽は顔を出して  本の頁(ページ)を捲るように  地上を覆う巨きな影は  日なたに生まれ変わってゆく  これから君は、きっと探しに往くだろう  この世界の何処かで今・姿を現し  旅人の訪れを待っている  あの幸いの虹を  ---------------------------- [自由詩]野球少年 /服部 剛[2011年9月14日21時17分] あの日、少年が追いかけて  精一杯伸ばした、グローブの先に  白いボールは、転がった―――  夢中で土の上に飛びこむ少年の姿が  大人になったこの胸を  無性に揺さぶるのは、何故だろう?  やがて少年も大人になり  陽が昇ってから暮れる迄  一緒に歩む日々の仲間と瞳(め)をあわせ  無数の見えないボールを  一人ずつ、一つずつ キャッチボールするだろう  あの日、白いボールに飛びこんで  泥に汚れたユニフォームで、立ち上がり  野球帽の下に滲んだ汗の輝く  永遠の野球少年のままに  ---------------------------- [自由詩]はじまりの詩/服部 剛[2011年9月14日22時42分] そろそろ(忘れるコツ)を身につけたい僕は  凹んでしまいそうな夜にこそ  「Today is anotherday」と言ってみる  自分の落度に指をさされて  眉をしかめそうな時にこそ  人に無償のSMILEを―――  煉獄に落ちそうな心に  じわり・・・と何かが広がってゆく  午前には、火花が散りそうな人とでも  午後には、瞳と瞳を合わせて   しっかりバトンを、この手で握る  誰だって、時には大きな嵐の只中を  歯を喰い縛って潜り抜け  輝ける一日へと至るのだから  さぁ、今夜もぐっすり眠り  童心の寝顔で、夢を見よう  窓外に朝陽が昇る頃には  昨日までの些細な全ては、Resetされる  「Todey is anotherday」と呟いて  前を向く、目線の先に視えて来る  あの日向(ひなた)へと、僕は往く  ---------------------------- [自由詩]天の声 /服部 剛[2011年9月15日23時55分] 世界を征服した、孤独な高い塔の上から  広い地上を見下ろすより  たった数人で集う、ひとつの場所を  素朴な日向(ひなた)でみたしたい  「私は正しい人である」  と胸を張るより  「私は正しくなれません・・・」  と頭を垂れる稲穂になりたい  時折、天から吹き渡る  (風の目)が、空にひっそり目蓋(まぶた)を開けば  地上の小さきものにこそ  「愛しい吾子(あこ)よ・・・」と呼ぶでしょう    ---------------------------- [自由詩]青春遠望 /服部 剛[2011年9月16日21時12分] 朝の浜辺を散歩する  夏休みの終わりに  金髪の青年が2人、遊び疲れて  またを開いてぐっすり寝ていた  ある意味遊ぶということは  若人の仕事でもあり  大人と言われる年齢(とし)の僕は  今日一日の場面の中に  あの頃のような  (青春の瞬間)を見出すことが  大人のだいじな仕事と思う  振り向けば、背後に小さく横たわり  浜風に包まれた2人の青年を眺めつつ  砂浜の足の窪(くぼ)みも心地よく  歌う歩調で一日を歩めそうな予感のする  夏の終わりの、朝の散歩  ---------------------------- [自由詩]雲の旅人 /服部 剛[2011年10月6日22時58分] 心に棘の刺さった時は  真綿のように包んで  黙って何処かへ流れゆく  雲の旅人になろう  あの空から地上を見れば  大きな荷物を背負った人も  小さい蟻に見えるだろう  あの空にぽっかり浮かぶ  雲になれたら  気の重かった昨日さえ  だんだん遠のいてゆく     まあたらしい明日の空へ   雲は吸い込まれてゆくだろう  ---------------------------- [自由詩]給料日 /服部 剛[2011年10月6日23時11分] コンビニの銀行にカードを入れたら  先月よりも数日早く、今月の給料が入っていた  新たな職場に移っても  相変わらずの安月給ではあるが  ATMの画面に増えた金額を見た時  今迄とは違うずしっとした重みがあった  一ヶ月という日々の舞台を  どれだけ本当の自分でみたしてゆくかに  比例する、給料日の歓び  今夜、僕は安月給の入った茶封筒に  「いつもありがとう」と書いて  両手で嫁さんに、渡そうと思う。    ---------------------------- [自由詩]鏡の世界 /服部 剛[2011年10月6日23時25分] 生きていれば、時折  苦い薬を飲むような一日がある  目の前を覆う靄(もや)のような  掴みどころの無い敵が  心の鏡に映っている  靄の向こうのまっさらな  日々の舞台は、待っている  目を瞑(つむ)った一念で  あなたが  鏡の世界へ、踏み込むのを    ---------------------------- [自由詩]太陽の国 /服部 剛[2011年10月7日23時14分] 安っぽい微笑みは、もういらない。  ほんとうは自然な笑みを浮かべる  案山子(かかし)になって突っ立っていたいものだが  この世には、隙を伺う者があり  調子に乗ってる奴があり  土足で踏み込む輩(やから)もあり  たとえそれが本意でなくても  般若(はんにゃ)の面を、被らねばならぬ  木刀で周囲の邪気を、斬らねばならぬ  全ての芥(ごみ)が火中に消え去れば  般若の仮面を剥がした顔は  白く輝く太陽になるだろう  隣の人も仮面を剥がし  その隣の人も剥がし  太陽の顔はつらなるだろう  そして頭上に昇るまことの太陽は、照らし出す  手をつないで輪になる、僕等一人ひとりの素顔を  ---------------------------- [自由詩]光の音符 /服部 剛[2011年10月7日23時32分] 生まれながらにリスクを負った  大江健三郎の息子・光君は  日々お婆ちゃんの看病をする  お母さんの誕生カードに  (つらいかた)と書いた  (つらいかた)とは何だろう?  老いたお婆ちゃんのことなのか  看病するお母さんのことなのか  (つらいかた)という五文字の裏側に  (かなしみ)という曲をつくった彼の  光る涙の音符達が  うっすらの滲んで視えて来る  ---------------------------- [自由詩]夕暮れの坂 /服部 剛[2011年10月11日23時25分] ある画家の内面を映し出した  目の前のキャンバスには  ふたりの男が描かれ  荷車を曳く者と  荷車に乗る者と  ふたり共、哀しく頬がこけている  その画家は  「生」という題を名付けた  重たそうな足どりで  ゆっくり上る荷車の  不思議と美しい世界の中を   夕空へ伸びる――ひとすじの坂道  ---------------------------- [自由詩]手のひらの詩 /服部 剛[2011年10月11日23時54分] 君がつくってくれた朝食の  おかゆを食べ終え  茶碗の運ばれた、広い食卓に  何とはなしに手を置けば  木目に残る余熱は  一つのぬくもりのように  指から皮膚へ  皮膚から体内へ  体内から心へ伝わり  私は一つの熱に、浸されてゆく  私は来月あったまり場という  心を病んだ優しい人達の集いにいって  共に過ごして語らうが、きっと  今の時代の多くの人の心の暗闇から  聴こえてくる、糸電話よりも小さい叫びは  求めている  今朝の食後  食卓の上に、何とはなしに置いてみた  この手のひらを浸した  たった一つの、ぬくもりを  ---------------------------- [自由詩]掌の器/服部 剛[2011年10月11日23時57分] つよく握りしめていた  拳を、そっと開いてみる  この掌は、いつのまに  透き通ったひかりの泉が湧いてくる  不思議な器になっていた  ---------------------------- [自由詩]残りもの家族 /服部 剛[2011年10月13日19時44分] 今夜も、仕事から帰った家で  待っていてくれた嫁さんの  台所で、とんとん 野菜を刻む音がする   僕の安月給でやりくりする  我家の食卓     昨日炒めた野菜の残りでつくった 焼きうどんの上で   鰹ぶしがめらめら踊っている  赤ちゃんをだっこする嫁さんと  今日の出来事を語らいながら   昨日よりも出汁(だし)の滲(し)み出た うどんをするするすする  「残りものってうまいねぇ・・・」  「残りものには福があるって言うからねぇ・・・」  安月給で暮らす僕等も、ある意味  社会の残りものかも?しれないが  今夜の食卓に並ぶ  焼きうどんといくつかの  あたり前の顔をした素朴なおかず等で  残りもの家族の僕等のお腹は  「福」で一杯になりました  ---------------------------- (ファイルの終わり)