yoshi 2007年1月28日3時06分から2011年5月8日2時31分まで ---------------------------- [自由詩]煙/yoshi[2007年1月28日3時06分] もしもあなたがいなくなったら ごはんなんていらないな あるくことも しゃべることも おふろだって はみがきだって なんだって したくない もしもあなたがいなくなったら まいにちにいみがなくて しごとも れんあいも ともだちづきあいも もうなんだってきっとめんどうで なんにも しないだろうな もしもあなたがいなくなったら はれてても あめがふってても ゆきがふってても かんけいなくって ただそらをながめては きっとためいきばっかり ついているはず だから あなたには わたしのそばにいてもらう わたしのことずっとみててもらう そうやってずっとおもってきたよ だって わたしのいみは あなただから わたしからあなたをうばったら わたしはきえてしまうから なのにとつぜん いなくなってしまって なんのまえぶれもなく いなくなってしまって つめたくなって かたくなって もうてのとどかない ふわふわのしろい けむりになってしまった おふろもはいらずに はもみがかずに しごともれんあいもともだちづきあいもせず わたしはそんなおんなに なれるのかなって その ふわふわのしろい けむりをみながらかんがえた あんなに かくしんをもてたことだったのに けむりをみていると だんだんとじしんがなくなって わたしはおうちにかえって あたたかいおゆにつかりながら あなたをおもって なきました あなたがいなくなっても わたしはきえませんでした ---------------------------- [自由詩]ひとり/yoshi[2007年2月5日0時31分] 一日に 何度もキスをして 一日に 何度も見つめて だけど 会えない日曜日は あなたはどこかで 私の知らないあなたになって きっと 街で偶然会っても 気づくことさえないだろう あなたの両手は 小さな手を握り締めて 私はそれを 見る勇気が無いから 日曜日には 街を歩けない ---------------------------- [自由詩]恋心/yoshi[2007年2月5日0時36分] 中学生に戻ったような 淡い恋心 あなたは私が 元気になる言葉を知っていて 私は何度も あなたに救われた 私の恋心を とがめる人もたくさんいたけれど 私はあなたに救われたし 私もあなたを救いたかった ただ それだけだった あなたが 私より早く生まれて 私より先に 家族を作っていた ただ それだけだった 中学生のような 淡い恋心 禁じられても 構わなかった ただがむしゃらに 走っていこうと あなたと初めて会った時から 決めていたんだ 失うものを 数えることを やめた ---------------------------- [自由詩]初恋の日々/yoshi[2007年2月14日20時01分] 雲間に見え隠れする太陽が 時おり暖かな日差しをくれて 今日は暖かくなりそうだと ラジオが言っている 私は 学生カバンの蓋を 開けたり閉めたりしながら となりに座っている老人の聞く ラジオの音に耳を傾けた いつも来る この公園のベンチで いつもの角度で彼を見る いつもの老人の いつも聞いているそのラジオ番組は 妙に気が抜けていて 耳に心地いい 彼が グローブからボールをこぼし 先輩からやじられながら 駆け足でボールを拾いに行く ボールがこちらへ転がるから 私は目を伏せる 時おり暖かいけれど 冷たい風の吹くその公園のベンチで 私は今日も彼を見る ラジオの音が 聞こえなくなった いつの間にか老人はベンチを立ち 木立の中を北へ向かって歩いている すっかり冷え切った指先を 吐息で温めて 私もベンチを立つ 彼は今日も いつもの笑顔で笑っていた 彼がいつまでも その笑顔を忘れないでいてくれたら 私はきっと 明日もあさっても このベンチに座り続けるだろう これが 初恋なんだな ---------------------------- [自由詩]桜の木/yoshi[2007年2月19日22時51分] 僕は 君の存在が永遠で ずっとずっと僕の側で 微笑み続けてくれる事を 信じてきたんだ だから 暖かい言葉や 甘い言葉を 言わなくてもいいと思ってきたんだよ 君に 全部を伝えなくても きっと君はわかってくれていると 思っていた 庭の桜の木がつぼみを付けた時 君が嬉しそうに僕に報告してくれた でもあの時 僕は笑顔を返しただろうか 目を 見てあげただろうか すまない 自信がないよ 長男が産まれたときに 君は僕にそっくりだと 喜んでくれたから 僕もすごく嬉しかった 僕はこの子を愛して 君の事もずっと愛し続けるよ あの時 君の目を見て 言った言葉だ なのに僕は 君の寂しさや 君の辛さを 知ろうとせず目をそむけ続けた いつからか 君の目を見る事が少なくなっていった 今年も桜の季節が来たよ この前 庭の桜がつぼみを付けたんだ 僕は君の笑顔を思い出した 君の顔を見て 報告したかったけれど もう 君の姿はこの家にはない 今頃 どこで桜を見ているんだろう どんな気持ちで つぼみを探すんだろう 僕は 君を失った事をまだ 受け入れられていないよ 僕の心の中の桜は きっとずっと つぼみのままだ ---------------------------- [自由詩]強がり/yoshi[2007年2月20日1時10分] 苦しいからもがいていたんだよ、悪い? 雑音が多すぎて耳をふさいでいたの だからあなたの言葉なんて聞こえてなかったわ 缶コーヒーをぐっと飲み干して かっこよくくしゃくしゃに潰したかったのに 缶が硬すぎてつぶれなくってイライラした 缶ビールにすればよかった アルコールも手伝ってあいつの言葉なんて 忘れられたかも知れないのに あいつの掴んだ幸せは 私のおかげだと思う 本気でそう思う 誰があいつをおしゃれにしてあげたんだよ 誰があいつを男にしてあげたんだよ 乱暴にタバコの火をもみ消しても 少しだけ火が残って いつまでも煙が立つさまに また少しイライラした あなた私を慰めようとしているの? だったら無駄、無駄 諦めてよ あいつの横顔がまぶたにちらついて さっきから苛立ってるの 私は若かったの あの頃はまだ・・・ あいつに返して欲しいけど 時間はもう戻せないから でも悔しいから 目いっぱい もがいてもがいて 悪あがきをしようと決めたんだ ねぇ あなたは私を救おうとしているの? 泣いてないよ 泣いてないけど 泣かせてくれるなら 泣いてもいいよ ---------------------------- [自由詩]自信/yoshi[2007年2月22日0時58分] あなたの指し示すその方角へ 私は黙って歩を進める あなたの見上げるその空を 私も黙って見上げる あなたのすくったその水を 私は黙って飲み干すだろう あなたといる限り 私は真綿に包まれたように やわらかいやさしさの中で 微笑み続けていられると 思ったから あなたの薬指を握り締めた あなたの背中が 小さくなっても 私はあなたを見つける自信があるから いつかふいに いなくなっても大丈夫 あなたはきっと 私の元へ お土産を片手に 戻ってくるだろう あなたを 愛するという事にかけて 私はプロだ ---------------------------- [自由詩]影/yoshi[2007年2月22日22時48分] 私は影でした ずっとあなたの側に寄り添い どんなときもあなたと 歩を共にし あなたの見るものすべてを見て あなたの感じる事をすべて知っていました 太陽の方角によっては あなたの横顔しか見れないときや あなたの後姿だけを見ているときがあって あなたの顔を正面から見たいときは じっと時を待ったものです 夜になると太陽が沈むので あなたとは会えなくなり 私は闇の中でひとりひざを抱えました 最後に見たあなたの顔が 悲しそうだったり、辛そうだったりすると 私はその夜一晩中 あなたの気持ちで眠れぬ夜を過ごしました 私はあなたを 愛していたのかもしれません だけど 憎んだ事もあるように思います あなたは私を見てくれないから 私を感じてくれないから 私はあなたに踏まれても 耐え続けていたからです ある日の帰り道 夕日の綺麗な日でした 川原に降りるための幅の細い階段に あなたは腰掛けていました 足元に落ちている石を ぽんぽんと投げています その時私はあなたの正面にいましたから あなたの顔がよく見えました 泣いているように見えました 笑っているようにも見えました 仕事で何かあったんだろうか オフィスの中の事を知る事が出来ない私は とても心配しました だけど私は思いました 私が心配をしたところで あなたの力にはなれない あなたを想っても想っても あなたは私には気づかない 私は太陽が沈みかけたとき 街灯の灯りにうっすらと照らされながら 頑張ってあなたの側に居続けました 消え入りそうな私は 憎らしく思った事 愛しく思ったことをいくつも 思い出していました だけど私は やはり あなたの側にいたい あなたの影でいたいと思いました 私は あなたに愛されない事を あなたに気づかれないことを 受け入れようと思いました あなたの姿や あなたの笑顔を 見れなくなる事よりも 今の私の存在を 私自身が受け入れなければと 思いました 私はその時 あなたを愛し続けることを 決めたのでした あなたの 側に居続ける事を 覚悟したのでした 街灯の灯りの下 時おり瞬く灯りのせいで 少し消えかけながらも 私はあなたの背中にすがるのでした ---------------------------- [自由詩]影2/yoshi[2007年2月22日23時18分] 小さな頃から影踏みが好きだった だから 今でも雨の日は気分が憂鬱になる 晴れの日は決まって 誰も来ない工場の裏手の空き地に向かった 降り注ぐ陽光の中 僕は自分の影が伸びたり縮んだりするのを 面白く眺めては 飛んだりはねたりして遊んだものだった 友達はいなかった 正確に言えば 友達は欲しくなかった 一人が好きで だからといって孤独感はなかった 感じないようにしていただけなのかもしれないけれど そんな僕にも好きな子が出来た 高校1年のときだ 1年最後の席替えのときに 初めて彼女の隣の席になった 髪の綺麗な子で 笑うと右頬にだけえくぼが出来た 僕は彼女に気持ちを伝えようと 来る日も来る日も作戦を練った あの工場の裏手の空き地で 毎日毎日作戦を練った 目の前に落ちている影が 長く伸びる頃 やっと腰を上げ家に帰る そんな日々を送っていたある日の事だ 僕はいつものようにいつもの通学路を いつものスピードで自転車をこいでいた 前方に同級生らしき女の集団が見えた 時おり聞こえてくる会話の中に 彼女の名前がちらちら出てきている 僕は女達の話に耳をそばだてた 断片的に聞こえてくるその話の内容に 僕はショックを隠しきれず ペダルをこぐ足が石のように重くなっていった 彼女は 体を壊したらしかった 僕らの住む街の一番大きな病院に 入院したと言っていた 退院してくる頃には卒業式も終わっているはずだと・・・ 僕は彼女を見舞うべきか悩んだ 悩みに、悩んだ 今まで練ってきた作戦は当然パーだ 作戦を練り直さなければならないだろう 受験シーズンも架橋を迎え 進路の決まったやつらは既に登校してきていない 後は卒業を残すのみなのだ ひと月足らずの時間しかない 僕は 1年生のあの席で隣になって以来 彼女とは言葉を交わしていなかった どの面下げて 見舞いになんて行けるものか 何度考えても 僕の中で彼女の見舞いに行ける口実など 見つかりようがなかった 結局 彼女に会えぬまま卒業式が終わり、 春が来て僕は都会の街を一人歩いていた ぶらぶらと あまり意味のない4年間を過ごし いつの間にか ネクタイを締めていた 雨の日は今も苦手だ あの空き地に行って影踏みが出来ないから 勇気を持てず彼女の気持ちに応えられなかったから 2年前の同窓会で 彼女の友達だった女に会った 彼女の病気は悪化の一途をたどったそうだ 27歳の誕生日を迎える事が出来ず この世を去ったのだ そしてその女は言った 彼女は僕の事がずっと好きだったと 何もしてあげられなかった どんな言葉もかけられなかった 僕は なんて臆病者なんだろう しかし 僕の中で 彼女は永遠となった 雨の日は憂鬱だ あの空き地にいけないから 上司はさっきからグダグダと小言を言っている 時おり声を荒げながら怒鳴ったりしている 夕方、営業先から帰る途中にある大きな川の川辺で 彼女の事と仕事の事を 半分半分に考えながら 僕は手にした石を ぽんぽんと放り投げた 応えられなかった愛に 応えられなかった期待に 僕は正面から向き合おうと思った それがまず 始めの一歩のような気がしたから ---------------------------- [自由詩]さよなら/yoshi[2007年4月2日23時35分] 遠くの月が淡く光を放ち 少し風の強い街の中を 一人歩いた 僕はもう この街をあとにして 君のいない街に行かなくてはならないよ さっきの君の涙に しばらくは縛られて 身動きが出来なくなった心を 持て余してしまうんだろう そんな事を思いながら 散りかけた桜の木を見上げた 僕の気持ちを なじった君は でも どうにもならない事をどこかで知っていて 最後には じゃあね と言った 僕は 君の決意が見えた気がして じゃあね と繰り返す 涙がつたった君の頬に 薄く涙の跡がある オレンジ色の照明が反射して 淡く光っている 汗をかいたグラスを おしぼりで拭いながら 君は言う あなたがいなくても平気 あなたがいなくても楽しいはずよ あなたがいなくても出来る事じゃなく あなたがいないから出来る事を探すわ うつむいた君のまつげに また新しい涙がぶら下がる 拭ってあげたいけれど 僕にはもう 君の涙は拭えない 今日は風が強い 明日には随分と桜が散っているだろう 月と桜と 君の涙を 心に焼き付けて 君の知らない街へ行こう ---------------------------- [自由詩]男/yoshi[2007年4月8日21時25分] 大丈夫?なんて 声をかけないでください 恥ずかしくも 涙をこらえていますから 今は 大丈夫です と 言葉を返す事は出来ません 電車は容赦なく 扉をぴしゃりと閉めてしまいました たった今の事です 彼女の右側から見る横顔が好きだったから こっち側の席に座ってくれるかなと 目で追ってみましたが 彼女の姿は何処にもなく せめて最後に 横顔だけは見たかったなんて考えると また涙が溢れてきてしまいました 僕は男の癖に 泣いてしまいます 君の事になると どうしても泣いてしまいます 君は 僕のこういうところがキライだって 言ってたな 僕は強くなれなかった 君の事に関しては まったく強くなれなかった 別れが悲しくて 駅のホームで泣いている僕を 頼むから 見てみぬ振りをしてください お願いだから 大丈夫?なんて 声をかけないでください 体調が悪いわけでも 救急車を呼んできて欲しいわけでもありません ただ僕は たった今失ったものを 取り戻したいだけなんです ---------------------------- [自由詩]プロポーズ/yoshi[2007年5月8日20時49分] 歩こうか まっすぐ まっすぐ 歩こうか この道の先に 何があるのかなんて わからないけど 不思議と 君となら 君と手をつなげたなら この道の 先の先の先まで 歩いていけそうな 勇気がもてそうな そんな そんな気がするよ もしかして 道端の花に心を奪われたり レストランから漂う美味しそうな匂いに 少し くらくらしたりするのかもしれない 君の手を握りながらでも 行く先を見誤って 横道に逸れたりするのかもしれない 僕は 道草や 寄り道が 大好きだからさ でもね 君が 君の手が 僕の中にある限り 僕はきっと 行くべき道を 見失わないことができると思うんだ 君の声や 君の息遣いを 僕は手のひらで感じながら 君を守るために 一歩一歩 踏み出す足に 力を入れることができると思うんだ 歩こうか ゆっくりゆっくり 歩こうか 君がもしも 僕の手を握ってくれたのなら 明日は きっと晴れだろう ---------------------------- [自由詩]晴れ/yoshi[2007年6月23日13時24分] バカにすんなって、空に思わず毒づいたよ 昨日あいつに「顔も見たくない」 なんて言われてさ 酒かっくらって気付いたら朝で カーテン開けたらさ、どピーカンでさ あまりに眩しくて頭痛くなった そりゃぁ泣いたよ、涙が枯れるかと思ったね 男の癖に情けないけどさ 俺の生活のすべてだったからね、あいつは あいつの為に、バイトして買ったリングも あいつ、失くしたとか言うんだよ 「また買ってね」だって ふざけるなよって思うよな 誰だって思うよな でもよぉ 俺 かわいいなって思っちゃうんだよ その にこりって笑顔 にこりって感じがぴったりの笑顔がさ すっげぇかわいいなって思っちゃうんだよね 多少無理できるかなって 多少なら大丈夫だよなって 笑顔がいつも眩しくてさ 自然に目を細めちゃったりして 俺なりにさ、大事にしてさ あいつの為にって思って 頑張ってきたのにさ あいつ もう別れたいなんて、突然だよ 好きな男が出来ましたなんて マジでしんじらんねぇよ 俺が この俺様がだよ? バイトに明け暮れている最中にだよ 男作ってんだよ しんじらんねぇよな すがったんだよなぁ、俺 あいつの腰にしがみついてさ 別れたくないよぉって みっともねぇよなぁ わかってたんだけどさ、みっともないって だけど バイクのシートんとこ、誰かにカッターで裂かれててさ そう、バイトの帰りに気付いたの んでブルーになってるところに あいつの話だったんだよね 号泣よ 号泣 ほんとだめな男だよ、俺は あいつが浮気してて、んでそっちに乗り換えますって言われてんのにさ 怒鳴る事すらできないんだぜぇ だからもう昨日はベロベロ 相当飲んだよ 体中の水分が全部アルコールかって位にね だけどさぁ 俺がどんなにつらくてさ 俺がどんなに愛に飢えててもさ 世界は回ってるんだよな 朝が来て 夜が来て となりのOLなんかもさ 俺が前日の夜にどんなに号泣しようが きっちり翌日朝7時には家を出るわけよ かちゃかちゃって鍵をかける音がして 俺は現実に引き戻されたね あぁ みんなちゃんと生きてるんだなぁって 俺さ あいつの事まだ好きだけどさ とりあえず、バイト頑張るわ しばらく自分の為に頑張ってみようと思う 何も無理せず、自然に流れていくような生活を してみたいじゃん もうあいつに振り回されなくていいわけだし 明日晴れたら 素直に喜びたいしさ ---------------------------- [自由詩]女であるということ/yoshi[2007年6月24日18時10分] 好きだった男の背中に爪を立てた次の日 その男の妻が現れて私に平手打ちをした ちょうど 仕事でミスをして上司にこっぴどく叱られた日 男に慰めてもらおうと男の帰りを待っていた時だった わけもわからず私は妻にお茶を出す 妻は言う 節操がどうの 家庭がどうの 愛情がどうの これはピンチです ピンチですよね?神様。 昼間に会社で上司に怒鳴られているときに 頭の中で鳴ったアラームがまた 鳴り響く 男と別れるか別れないかを執拗に問い詰められ 実家の両親を思い出す 私が高校生の頃には会話の無かった両親 愛情とは何なのか、彼らから学ぶ事は 結局無かった 妻の言う 男の愛情とはどんなにたいそうなものなんだろう 私は 男の愛情なんて、欲しいと思ったことが無かったから あの男のためにこんなに必死になれる妻がうらやましかった そんな事を考えていると いつの間にかアラームが鳴り止み コーヒーカップに添えられた妻の手の 薬指に光るリングが眩しく、そして 取り乱している彼女がかわいらしく思えてくる 私は涙を流す ピンチのときはこれに限る 早くこのピンチが過ぎ去りますように そんな思いを込めて涙を流すんだ 妻が帰った後 タバコに火をつける 煙を肺いっぱいに吸い込みながら考える やはり 愛情を勝ち取る事よりも 死ぬまで女で居ることに価値がある、と ---------------------------- [自由詩]再会/yoshi[2007年7月16日0時31分] テーブルの向こう側で 少し緊張気味に彼が笑う あんなに長い時間を 過ごしてきた彼は いつの間にか手の届かない存在になっていた 街角や 喫茶店に置かれたフライヤーで 彼の笑顔や 彼の横顔を見た 大事に取っておいた彼のメールアドレスは 私にとって 命綱のようなものだった 勇気さえあれば 彼に会えるかもしれない そう思いながら 長い長い年月が過ぎた 少ないけれど 数人の人と恋をした そのときはその恋に おぼれる事も出来た だけど そんな時でさえ 街角で見かける彼の笑顔や 彼の横顔を 忘れた事は無かった 最後の恋に破れたときに 気付いたら 彼のメールアドレスを眺めていた あれから13年が経った まだ10代だった私達は 良くも悪くも大人になり 私は 彼の笑顔を消化する自信があったから 彼にもう一度会いたい そう思った 手をつなぐ事や 唇を重ねる事でさえ 戸惑っていた私達は 13年後の再会では そんな事がいともたやすく 出来る様になっていた 彼の手のひらを握り締め お酒に飲まれながら 私は考えた 彼と恋をする事は 辛い事だったんだな 若かった私達は そんな事を感じる余裕さえも無く ただ淡々と別れを選んだけれど 今考えればあれは 気持ちが悲鳴をあげていたんだなと 彼は大人だった 私も大人になった 手をつなぐ事や 唇を重ねる事に それほどの意味が無くなってしまっていた それは切ない再会になった ---------------------------- [自由詩]意気地なし/yoshi[2007年7月16日0時43分] 彼女が指を絡ませる 僕の指に絡ませる くるくると表情を変えながら 楽しそうに話をしている 行きつけのバーに彼女を連れて行くと マスターが僕に言う 随分可愛い子つれてきたね 僕は気分がいい お酒も美味しいし 彼女の笑顔もとても素敵だ 彼女が結婚をして だけど幸せになれなくて もがいているのは知っていたけれど 僕がしてあげられることは 無いだろうと思っていたし 彼女と会えばきっと 恋をしてしまうと知っていた だから会うのが怖かった 彼女からの電話で 会いたいと言われたときに 断る勇気が無かった 彼女に嫌われるのが怖かったから 僕は意気地なしだ テーブルの下 指を絡めた手を見下ろして それでも僕は 気分がいい 彼女と別れて 家に帰って シャワーを浴びよう 僕は シャワーを浴びながら きっと落ち込んでしまう そんなことさえ 今すでに もうわかっている ---------------------------- [自由詩]独り上手/yoshi[2007年7月18日0時16分] あなたが 自分を必要としていると 思い込んでいて 勝手に 色々無理をしたりしました 勝手に 疲れたり 勝手に 悲しんだりもしました だけど それは全部私の独りよがりで あなたはもしかして あの時も あの時も 私の頭の向こう ずっとずっとあっちのほうを 見ていたのかもしれません あっちのほうに あの人が居たのかどうか わたしにはわからないけれど あの人のことを あなたが必要としていると知ったとき 私はそれほど驚きませんでした 私は 恋をしたような気持ちになっていました 恋をして 悲しんで 恋をして 怒って そんな日々を送っているんだと ドラマの主人公になったような ちょっぴり気恥ずかしいような そんな気持ちでした あの人は あなたの事を 待っていたのでしょうか 私と居た あの少ない季節の間も あなたを 待っていたのでしょうか それならばいい それならば私は 少し 安心するのですけれど ---------------------------- [自由詩]仲直り/yoshi[2007年7月18日0時24分] 試しにね 目を瞑ってみたの 取り乱したり 泣き喚いたりは 絶対にしたくなかったから あの人の言う事 ちっとも意味が分からなかったけれど 全部が言い訳に聞こえたけれど 取り乱したり 泣き喚いたりせずに 目を瞑って 息を整えて 両手をあの人の膝の上に置いてみた 体温が伝わってね 興奮しているあの人の膝は 思った以上に暖かくて そしたらね 気付いたら あの人の頬を両手で包んでた ほっとしたような 拍子抜けしたような表情がこぼれて そしたら少し 私の気持ちも落ち着いてきて 涙が一粒こぼれたの あの人はただただ言い訳がましく 言葉を並べ立てては 私の顔色を伺ってた こんなヤツって思った こんなヤツって思ったけれど 包んだ頬は 私の手のひらに奇妙になじんで あの人の体温は すぐに私の体温と同化した 包み込むことが出来るのは 私だけなのかもしれないって また少し勘違いをして 私達は仲直りのキスをした ---------------------------- [自由詩]結論/yoshi[2007年8月22日22時08分] その時私が出した結論が 間違っているのか それとも正しいのか これほど悩む事になろうとは 今となっては 二人の歩む道が別々である事や 二人の望む時間の濃度に あんなにも温度差がある事が ちっぽけで、馬鹿馬鹿しく おかしく思えてくる事が 不思議でたまらない 歩く速度とか 食べ物の好みとか 面白いと感じる事が ことごとく違っていたけれど それをそれとして 幸福を感じる瞬間を いとおしく思える余裕が もてなかった事について 私は私を 責め続けるんだろう あなたという人に もう一度巡り合えるのか それが不可能である事を知っていたから 情けなくも私は リダイヤルボタンを押してしまう ---------------------------- [自由詩]ハイヒール/yoshi[2007年10月17日0時34分] 君は強いね 同僚の男性社員にそう言われた日 ハイヒールのかかとが折れた 折れたかかとを拾い上げ 折れたままのハイヒールを履いて 電車に乗った 折れたほうのハイヒールのせいで そのまま立つとバランスが悪く 爪先立ちでつり革につかまった 他人のミスで怒鳴られて 頭を下げながら過ごした年月が 私をここまで強くしたのかな そう思いながら 車窓に映る疲れた30おんなの顔を眺める 愛する人を 追いかける事も出来ない 離れていくあの人に 泣いてすがる事も出来ない いくら評価される仕事をしても 埋まる事の無い隙間を 今でも心に隠し持ち 私は明日もハイヒールを履く 私は強い 自分でもそう思ってた ハイヒールのかかとを響かせ スーツを着こなして風を切る自分が 誰よりも強いと思っていた あなたに会って あなたと愛し合い あなたと別れたときから 私の心の中のハイヒールは かかとが折られたまま そのハイヒールを私は いつまでも捨てることができずに 今でも私は バランスを取りながら生きている 強い自分と 弱い自分で ぐらぐらしながらも なんとか生きている ---------------------------- [自由詩]回る/yoshi[2007年10月22日21時52分] 君が誰かを好きで 誰かが君を好きで でも僕は君が好きで 複雑で 面倒な 恋をずっと何年も煩って 時間はものすごく駆け足で 僕の周りを回りながら だけど時に 執拗なくらいのろのろと 僕を痛めつけたりもして 仕事とか親とか 君以外の事に心を砕いても 僕のいる場所は 一向に変わる気配がない どんな事があっても 君を好きでいるんだろう 辛いけど そうなんだろう 君を幸せに出来るのは きっと僕なのに 君がそれに気付くのは ずっとずっと先だろうか 時計がぐるぐると回って 何度も何度も挫折して それでも僕は 君に気付いて欲しくて だから僕は ずっとここにいるよ ---------------------------- [自由詩]だから/yoshi[2007年10月22日22時00分] あなたの言っている事は 至極まっとうで 正義感があり 正しい だから私は あなたが嫌いだ ---------------------------- [自由詩]守りたいもの/yoshi[2007年10月24日22時25分] 僕の役目は彼女を守ることだ 彼女は毎日目覚めてからすぐに手を洗い、歯を磨く 30分、時には1時間をかけてその行為に没頭する その間、僕の声は聞こえていない どんなに大声を出しても聞こえていない 僕は聞こえないのを知りながら、毎日彼女に話しかける 僕の出かける時間が来る 彼女はまだ歯を磨いている 聞こえていないのを知りながら「いってきます」と声を張り上げる 彼女は気の済むまでその行為に没頭し、その後放心したように動かない お気に入りの窓の下にお気に入りの椅子があり 一日中窓の外を見ながら過ごす テレビも、ラジオも何もないあの部屋で 彼女は一日中外を見て過ごす 時々、飛んでいく飛行機や蝶々や鳥に声をかける 「こんにちは」だったり「お久しぶり」だったりするが 明るく、健やかな笑顔を持って声をかける 僕の帰る夕方くらいになると、不意に立ち上がり、手を洗い始める 僕が帰ってきても、「ただいま」と声を張り上げても彼女は振り向きもしない 僕は考える 愛情を持って接すると言う事と、人が死なないために正義感からそれを食い止める という行動の違いを、もしかしたら彼女は察しているのではないか 彼女がそれを察しているかどうか 僕は彼女を愛しているのか もはやそれはどうでもいい事のように思えた それがはっきりしたところで、彼女が救われるわけではない事はわかっているからだ 彼女の奇行が始まったとき、僕は恐怖におののいた 僕が彼女を壊してしまったと思った 「心の病気」だと周りは言った 周囲はいつだってやじうまだ 傍観者の癖に意見だけはしたがる、やっかいなものだ 僕は「環境を変える」事で彼女がもとどおりになるなんて そんな安易な事は ありえないと思った だって僕は、彼女が壊れるに足る事をしてしまったのだから 反省とか後悔とかそんなものはし尽くした 僕が本当に大切に思っていたものは彼女だったのだと 彼女が壊れたとき思い知らされた もう何年何ヶ月彼女と言葉を交わしていないだろう いつかそれが出来る日が来るなんて、今はもう想像すらつかない 今日も彼女は洗面台に立つ 忙しく、リズミカルに歯ブラシを持つ手を揺らしている 生真面目に眉間にしわを寄せて そんな彼女は 娘の母であり、僕の妻だ ---------------------------- [自由詩]あの頃/yoshi[2007年11月15日20時08分] 寂しかったけど それは言っちゃいけない事だと思ってて あなたの幸せとか あなたの成功とか 祈っている振りをした 寂しさを噛み締めて あなたの夢が叶うのを願うなんて 自分はそれほど大人じゃなくて ただこの現実を 受け止める事だけで精一杯だった やがて あなたのいない部屋や あなたのいない休日に慣れていくと あなたを愛しく思うあまりに あなたの存在がある事が 余計私を苦しめた 余りにも不確かな約束に しがみついていた あの頃 ---------------------------- [自由詩]放課後/yoshi[2007年11月29日0時28分] 真っ白な 雲の向こうに見えた君の笑顔は いつの間にかぼんやりとぼやけていく 夢の向こうの向こう側 机の上に突っ伏して 開いた教科書の中にいる ふてぶてしい男の顔には マジックの髭がある 隣の席のイイジマが ゆさゆさ膝をゆするから カタカタカタカタと 机が小さく泣いている オンナが出来たイイジマからは 似合わないコロンの香り くしゃみが出そうになるのをこらえて ケツの穴に力が入る せっかくあの子の夢を見てたのに 誰かのくしゃみで目が覚めた ボールペンをくるくると器用に回しながら あの子の笑顔のその次に 焼きそばパンを思い出す 学食裏のプールに続く階段の 下から数えて3段目 お気に入りの場所でかぶりつく 焼きそばパンのあの匂い 想像していたらムショウに腹が減ってきて 腹の虫が鳴かないように もう一度ケツの穴に力を込める あとで3組に行ってみよう あの子の笑顔が見たいから 努めて用事がある風を装って イケメンのオオタに部活の相談を している振りをしながら ついでな感じであの子を誘おう 一緒に焼きそばパン食べようよ 僕のお気に入りの階段に座って ---------------------------- [自由詩]ぼくの手帳/yoshi[2007年12月27日23時45分] 君の予定に合わせられるように いつも真っ白なぼくの手帳 12月から1月へ 少しずつさかのぼると いくつか君と会ったしるしがある 君のとなりで笑っている事が ぼくのしあわせさ もしもしるしがつかない月があっても ぼくは辛抱強く君を待つ 2008年の手帳には しるしがたくさんつけばいいな ぼくはまた 新しい手帳を買う 年末のしあわせそうな街へ出かけて ---------------------------- [自由詩]大切な人/yoshi[2008年1月21日20時13分] しわしわの手を握り締めて眠ったあの頃 ばあちゃんのぬくもりを探して足をばたつかせた布団の中 夏休みの宿題を昼ドラを見ているばあちゃんの横で ぶつぶつ文句を言いながらやった チャンネル争いでいつも負かしてた そんな事を思い出しながら高速道路を飛ばす 母からきた1通のメールを 何度も何度も読み返してみては 現実感が沸かずに苦しんだ しばらくは 遠い思い出を思い浮かべては、現実に起こっていることを 消し去ろうと必死にもがいた 流れ去る景色の中に いつか行った旅行先の風景が重なる いつまでも元気でね、ばあちゃん そう書いた作文を読んで聞かせた時の涙 若いばあちゃんでうらやましいなぁって、友達がうらやんでた事もあったのに いつの間にかばあちゃんの体は、黒く犯されてしまっていた 鍵っ子になりかけた私を、一生懸命面倒を見てくれた 私の中で両親よりも近くて、両親よりも信頼していた人 なのに、悲しませた事もたくさんあった それもすべて些細な事で 病床のばあちゃんを見たとき、遠く離れて暮らしていた私は 絶句してしまった 変わり果てた表情、どす黒い顔色、浴衣からのびる驚くほど細い腕、苦しそうな息 食べる事があんなに大好きだったのに、のどを通らないままの料理を目の前に 肩で息をするばあちゃん そっと頬に触れ、暖かさを確かめる私 涙が止まらず、でもその涙が不安を掻き立てるのではと必死でこらえた 両親の名前はもう言えないらしかったのに、私の名前はきちんと言ってくれた 肩で息をするほど苦しそうなのに、食事は大丈夫か?気をつけなさいよと 私の心配をしている 小さくなってしまった肩に触れて、じゃあね、と別れたその数時間後 私は今来た途をまた逆戻りすることとなってしまった ばあちゃんが天に召されてもうまる4年が経った 結婚式はばあちゃんの死んだ日の3ヵ月後に予定されていた 3ヵ月後、私は花嫁衣裳を着た ばあちゃんが、死ぬほど楽しみにしてるよって言っていた私の結婚式 私も大好きなばあちゃんに一番見て欲しかった そしてわがままを謝りたかったのに、ばあちゃんはもう戻らなかった 結婚式では、ばあちゃんの席を用意してもらった だから、高砂の席から見る親族席はぽっかりと1席空いていた キャンドルサービスの時にキャンドルの炎の先にばあちゃんの背中が見えた気がした 私はばあちゃんの暖かさを感じながら、キャンドルに火を灯した ---------------------------- [自由詩]手をつなごう/yoshi[2008年10月21日23時04分] 手をつなごう 君が雲の向こうに行っても 僕はその手を探し出し しっかりと しっかりと 握り締める 手をつなごう 君が苦しいときに 助けを求める相手は いつだって僕であって欲しいから 僕はいつでも待っている 手をつなごう どこか遠くへ 素敵な場所へ行こう 海でも 山でもいい 素敵な景色を 君と見に行こう そんな事を思いながら 毎日を過ごし 両手に何も持てなくなった僕には 結局なんにも残らなかったけど 思い出だけは残ったよなんて 少し強がりを言ってみたりする 少し風が冷たくなってきた秋の夜 僕は僕の両手を見つめる 僕は君がどこに居たって どこに行ったって 探し出すと言っただろう? 少しだけ待っていて そしてもう一度 手をつなごう ---------------------------- [自由詩]間違い探し/yoshi[2008年10月21日23時08分] 几帳面でまじめ 比較的穏やかで優しい そして一途 私は違う こんなのは私じゃない って 知ってるのは私だけ 昨日の私も きっと明日の私も 間違っている事を 私だけが知っている 生きづらくって しょうがない ---------------------------- [自由詩]風/yoshi[2011年5月8日2時31分] ひとつ ふーっと 風が吹いた 後ろ髪が 揺れて 視界が 澄み渡る あの人の くれたメールが 脳裏をよぎる あの人の 後姿が 癖のある歩き方が 瞼の裏を揺らめいた またひとつ ふーっと風が吹いた 弱い けど 気持ちのいい風だった 携帯電話の灯りが 私の顔を照らす 弱く でも 力強く 指は 勝手に動く 風は 私の熱を持った頬を やさしく冷やす さよなら 携帯電話を閉じたら またひとつ 風が吹いた ---------------------------- (ファイルの終わり)