水鳴ハヤテ 2015年6月21日10時29分から2015年7月6日23時01分まで ---------------------------- [短歌]過去たちの春夏秋冬/水鳴ハヤテ[2015年6月21日10時29分]    【春想】   春桜 曜の朝はゆるやかに光っている時間があって薄紅の花   紫    あたたかなひかりのなかで流れゆく時をからめて今日も旅行く むらさきの朝が来るたび思い出す君の歌声もう遠くなり   淡き春 どこまでも手を伸ばし待つ春という光に不断桜震える かなしいか水鳥のゆく川原にて幼き日々の足跡に泣く   葉 はれていることにとまどいながら占める扉の鍵の木の葉の形 【夏祈】   夜風 ひたむきに藍を奏でる風ひとつあなたは雨を探していますか   雨 二首 霧雨と呼ぶにはひどく傘が濡れる露しとしと鳴る由良三丁目 寂しげな瞳の色に似る雨の香に入り混じるゆうげの笑い   熱帯夜 熱帯夜花に例えば朱紅色のようなものですこの感傷ゆえの 熱帯夜窓を開ければ重苦し空よりさえも垣間見えぬ月 熱帯夜君を思えば短夜もとわのしじまと思うだろうか   七夕 探索の五色眩しき食堂で翻りたる人生の青 田舎でも星は見えなくなりました。夜明けのガスも温暖化する ここいらで腰をおろして寂しさと銀河の流れを聞き分けている   滴る雨 透明な音が夜闇をしめらせて水無月の色花染めてゆく   夏の風 木々の葉の影をなぞった夕暮れはゆらぐ砦にひと夏の風      猫と蝉しぐれ 蝉時雨すだれを抜ける陽の入る朝の二畳で伸びしたる猫   夏の終わりは ひたすらに如雨露(じょうろ)で水をまく日常 夏の終わりと知っていながら 数えれば雨が多くて向日葵を描くことさえ忘れていた日 三杯酢少々なめてその味で知った夕日の澄んだかなしみ 【秋愁】   秋桜 まだ残る夏の微熱をはかる朝百葉箱でコスモスを飼う   すすき 好きなのはススキです。と笑むひとは遅れた秋に揺らめいている   満月 散らかった部屋で見ている満月のなめらかな笑みそれだけの夜 ここのえの花 夜ごとにくる青こばみ部屋にいるただそれだけの九重の花 【冬夢】   高空 冬を待つ空の高さを思うとき帰らぬこだまあると身にしむ      初雪 くもりぞら迎える季節は重たいか    北では雪が近かろうとな   夕暮の街にいた 冬靴で枯葉を砕く夕暮れの曲がり角には面影がいる 牛乳とたまごとバターとコンソメの匂いが胸をしめる夕暮れ 君は笑み笑にこのさきの三叉路で強く握った手を振っていた さようならさえ書く場所がなかったか日暮れに届く木の葉一枚   トンネル 入り口は夏金木犀通過して出口は白くまだかすみおり ---------------------------- [俳句]水無月の手紙/水鳴ハヤテ[2015年6月21日10時54分] 水色の小鳥のような手紙かな 便箋の紫陽花に触れおれば雨 改行の少なきひとの笑みおもう もうはるか遠い水無月の消印 メ ---------------------------- [短歌]きっとたくさんの七夕があるだろうけれど/水鳴ハヤテ[2015年7月6日23時01分] 星野ない夜などなくて祈ることない夜もなくて 雨、雨が降る 短冊に幼い文字は連ねられもう届かない夏の日がある 欲望と祈りの区別がつかぬまま声に出さない笹の葉、さらさら ---------------------------- (ファイルの終わり)