若原光彦 2006年2月8日3時43分から2007年4月21日21時03分まで ---------------------------- [自由詩]暖春/若原光彦[2006年2月8日3時43分] 蜂が蜜を集めている 花に頭をつっこんで こんなちいさな生き物でも 死ぬことがあるなんて レモンの香りが漂っている あれを持っていたのはだいぶ前なのに 刺すように つんざくように 顔の中を満たしてくる 泣いている 激しく どうして 飲んだ手紙を吐き出すために 駄目なんだ きっとぼくは散りかけなんだ 笑いそうになった散りかけなんだ きっと海を殴ってしまったから その罰を受けているんだ ---------------------------- [自由詩]シチュー/若原光彦[2006年2月17日19時09分] こんな寒い日は どうしてもシチューが食べたくなる 早く帰ろう 家に帰ろう どうしてこんなところにいるんだろう まったく馬鹿みたいだ 足を踏まれるために都会へ来ている 糞を踏んだ足が さらに糞を踏んだ足に踏まれる 夕日が夕日に焼かれ 木は木に遮られ 声は声によって届かず 闇の中では闇も見えない ミートボール ソーセージ 玉ねぎ グリーンピース ハートの型で抜いたニンジン スプンですくって 口に含む とろり飲み込む 胃に流し込む こんな寒い日は シチューのために生きている ぐつぐつと煮込んで 湯気が立っている 早く帰ろう 家に帰ろう 俺にはシチューがあるのに どうしてハンバーガーなんか食っているんだろう 夕日が夕日に焼かれ 木は木に遮られ 声は声によって届かず 闇の中では闇も見えない 体は体ゆえに老い 心は心であるぶん脆い 本心は本心という盾に隠れて 夢は夢と呼べるほど無力だ ブロッコリー マッシュルーム 鶏肉 猫背のエビ ベーコン 刻んだパセリ コーン クルトン 鍋の中から皿の上へと すべては絡まって おいしいシチューになる おいしいシチューになる こんな寒い日は どうしてもシチューが食べたくなる 魔法のような幸運を求めてた 迷子になってもお菓子の家があるって ぼくにもプレゼントがある筈だって 帰りたくない 動きたくない 料理をする気力はない 寝るためだけに帰るなら このまま凍え死んだ方がましだ その方がいい 俺は何を言っているんだろう まったく馬鹿みたいだ 早く明日にならないかなあ 早く未来が来ないかなあ!!! 夕日が夕日に焼かれ 木は木に遮られ 声は声によって届かず 闇の中では闇も見えない 体は体ゆえに老い 心は心であるぶん脆い 本心は本心という盾に隠れて 夢は夢と呼べるほど無力だ 人は人を動かしながら生き 暮らしは暮らしに費やされる 言葉は言葉を増やすばかりで 力は力になってはくれない こんな日は こんな日はどうしてもシチューが食べたくなる ぐつぐつと煮えた あたたかいシチューを 熱いシチューを また馬鹿が何か言ってるよ!!! どんな味がするよ!!! 鍋の中から皿の上へと すべては絡まって おいしいシチューになる おいしいシチューになる ---------------------------- [自由詩]誰かが君を責めていた時/若原光彦[2006年6月4日21時45分] 誰かが君を責めていた時 君にちょっとした落ち度があって むしゃくしゃした奴が教育にかこつけていたあの時 僕はそいつを責めていた お前に言われちゃおしまいだよと 偉そうなことを言える立場かと思っていた 憶えておくがいい そして誰かが君をあざ笑っていた時 数人が罠を仕掛けて 派手に転んだ君を遠慮なく笑っていた時 僕はそいつらを冷笑しようとしていた 馬鹿ってのは一ヶ所に集まるもんだと呆れていた 相手にするまいと胸に誓った 憶えておくがいい そして誰もが君を避け始めていた時 どんなに賑やかな集まりも 君が通りかかると急に静まりかえっていた時 僕はそいつらを置き去ろうとしていた 偽善的な連中を見限って そこを捨てて行くことにした 憶えておくがいい そして誰もがいつか君を忘れてしまった時 君に誰がいつ何をしたのか きれいさっぱり忘れてみんなが盛り上がっていた時 僕はそいつらのことを忘れることに決めた こんな奴等と過ごしていられるほど 僕の時間は長くはない お前達などどうにでもなれ 僕には一生関係ないと思った 憶えておくがいい さようなら君 さようならくだらない奴等 さようなら厭らしい場所 さようなら さよなら 二度と僕に関わってくるな ねえ君 昨日のことのように思い出す 君は罪作りな奴だった 君と居ると誰もが苛々した 必ず気まずい気持ちになった 無視できる奴は無視するしかなかった 当たるしかない奴は当たるしかなかった みんな徐々にすさんでいった 君は憎しみを引き出していった みんなを汚していった 君がみんなを悪人にした でももう 何年も前のことなんだね ねえ君 元気にしているだろうか とりあえず無事だろうか 今もどこかで責められ続け 笑われ続け 避けられ続け 忘れ続けられているのだろうか 僕の知ったことではない 憶えておくがいい すまない 君のことは忘れない 忘れたことなどない ---------------------------- [未詩・独白]イメージを…(誤訳)/若原光彦[2006年7月3日19時22分] 原文 閉じられた扉をこじあける力より 閉じられた扉を塗り込める力がほしい もっと全てのイメージを もっと全てのイメージを もっと全てのイメージを力強く 夢を見る必要がないくらい 目を閉じて飛んでいる鳥を思い浮かべている 60分の1秒ごとにかたちを変える翼がある 晒しもののその秘密が知りたい 奇跡をおこなう側に変わろう 飛ばないものをぶっ飛ばしてやりたい 閉じられた扉をこじあける力より 閉じられた扉を塗り込める力がほしい 内側に向かって開かれていく箱に 大きな窓をひとつ作ろう 唇をふさぐ指を立てよう もっと全てのイメージを もっと全てのイメージを もっと全てのイメージを力強く 二度と夢を見る必要がないくらい 幸せになる必要がないくらい強く 神様を拾ってしまいそうなくらい計りしれなく 誤訳A 閉じた扉を開くんじゃなくて 閉じた扉を 塗り込められるようになる あらゆる想像 あらゆる想像 もっとあらゆる想像を鮮やかに 夢を見る必要もない 飛んでいる鳥を目を閉じて思い描く 1コマごとにフォームを変えていく翼 野ざらしのたちの秘密を教えてよ 奇跡をおこなう側に成長しよう 飛ばないものを突き飛ばして遠く 閉じた扉を開くんじゃなくて 閉じた扉を 塗り込められるようになる 壁に囲まれた広い空間に 天窓を用意しておくよ あなたのくちびる 指でふさいであげる あらゆる想像 あらゆる想像 もっと あらゆる想像を鮮やかに もう夢を見る必要もない 幸せを祈る必要もない 狂うほど 神様を拾ってしまうなんて考えられない 誤訳B 閉ざされし門を開け放つ資格など要らぬ 閉ざされし門を塗り込める者で居よう 全ての千里眼を超える 全ての千里眼を超える 全ての千里眼を繋ぐ千里眼を 予想に期待に憶測も必要無い 飛ぶ鳥の姿が瞼に再現する 無限に柔らかな翼を知っていた オープンソースの秘密の再理解を望む 奇跡を取り仕切る一群の升席 飛ばない者達を飛ばすこの腕を持て 閉ざされし門を開け放つ資格など要らぬ 閉ざされし門を塗り込める者で居よう 箱は内側に拡張し続ける 光を取り込む窓がひとつ 秘密を守るための命令がひとつ 全ての千里眼を超える 全ての千里眼を超える 全ての千里眼を繋ぐ千里眼を もう予想に期待に憶測も必要無い 幸福などはもう語るに墜ちた 神様を拾えるほどに超えてゆく 誤訳C しめだされちゃったドアのカギなんかほしくないよ そんなドアならこっちがしめだしてやるんだ もっとなにもかも見ていたいんだよ もうなにもかも見ていたんだよ もっとなにもかも鮮やかになるよ 夢を見る必要もなくなったね いつか見た鳥の姿を思い出してるのさ みるみるうちに翼が風をつかんでいた むきだしの魔法を解明したいのさ 魔法使いに生まれかわるんだ 飛べないという気持ちをまず飛ばしてみるよ しめだされちゃったドアのカギなんかほしくないよ そんなドアならこっちがしめだしてやるんだ どんどん深くなっていくよこの箱は 窓をひとつだけ添えておくから だれにも言わずに飛び込んでおいで もっとなにもかも見ていたいんだよ そうなにもかも見ていたんだよ もっとなにもかも鮮やかになるよ ああ夢を見る必要もなくなったね 幸せなんか望みもしないよ 考えられない神さまを拾ってしまいそうだよ 誤訳D 扉を押し開く豪腕よりも ここに扉を埋め立てる技術力を今 今以上に完全な世界を 今以上に完全な世界を エネルギッシュに完全な世界を 妄想している場合ではない 飛んでいる鳥を脳裏に活写する 全ての時間に違った形がある 素肌の秘密を流し込んでくれ 奇跡的な加害者として旅立つとしよう 飛べぬ者達を吹き飛ばしつつ 扉を押し開く豪腕よりも ここに扉を埋め立てる技術力を今 内面に展開する立体へ 大きなスクリーンを掲げるとしよう あらゆる発音を禁じるとしよう 今以上に完全な世界を 今以上に完全な世界を エネルギッシュに完全な世界を 妄想している場合などではない 満たされることをもう期待などしない 神を見い出してもなんら不思議はない ---------------------------- [未詩・独白]地下鉄アフロ/若原光彦[2006年7月22日2時14分] アフロヘアーを見た どんなアフロかと言われても きのこ雲のようだったとしか言えない 爆発なのかと言われても わからない作り方を知らないからとしか言えない ただ憶測でいいなら ドリフの雷様と 実験失敗した博士と助手を足して割ったような感じ つまりドリフなのか と言われても困る そうじゃない そうじゃなくて アフロヘアーを見た 地下鉄で 乗ったら居た もさもさしてた カリフラワーとブロッコリーを足して割ったような感じ 真向かいの席が空いてたけど 面と向かう意気地がなかったのでその席は避けた 途中の駅でアフロヘアーは降りていった 窓から見ると エスカレーターに並んでた 男性と言うより アフロヘアーに手足がついてるみたいだった 一瞬アフロヘアーが膨らんだような気がしたけど 光のかげんに違いない ---------------------------- [未詩・独白]ウフォ/若原光彦[2006年7月23日2時18分] きいてきいて UFOに乗ったんだよ 嘘をつくな嘘を ほんとだって 目が覚めたら知らない場所で 宇宙人に連れ去られたってのか そうだったみたい ああそう そりゃよかったな ぶじ帰ってこれたしね 寝ぼけてただけだと思うがな いいや あれは確かにUFOだよ 銀色でピカピカしてたのか いや 給湯室みたいで狭かった お前それでなんでUFOって言えるんだよ だってなんだかフワフワ揺れてたもん お前が揺れてただけなんじゃねえの だってUFOって言ってたもん 焼きソバなんじゃねえの 宇宙人がUFOですって言ったもん UFOってのは地球人が付けた名前だ 奴らが言うかアホ だって言ったんだからしょうがないじゃん 宇宙人がお前に何の用だってんだバカらしい しらない でもこれもらったの なんだよこれ 知らない 捨てて来い 今すぐ捨てて来い 危ないものなのこれ いいから今すぐ宇宙へ捨てて来い ねえなんなのこれ 知らん 宇宙人に訊け俺は知らん ---------------------------- [未詩・独白]人の会話/若原光彦[2006年7月31日20時33分] 白八木くんから手紙が来た 南米出張から帰ってきたとのこと ぼくはていねいに返事を書いて出した 数日後かれからまた手紙が来た 風土病を持ち帰ってしまっていたと書いてあった 特別な医科にかかっているらしい ぼくはまたていねいに返事を出した 数日後またまた手紙が来た 頭が重くてたいへんなのだと書いてあった すっかりベジタリアンになってしまったともあった ぼくは電話した 「もしもし」 「はい白ヤギの形態です」 ---------------------------- [未詩・独白]感受性応答セヨ/若原光彦[2006年8月7日0時08分] ある朝きみは命を拾う 実際には夜かもしれない でも それに気付くのは朝だ 夢で獄死してからだ 答以外を聞かせてほしい 色の名前を教えてほしい 集めた感情をまとめてほしい 楽器の供養を講じてほしい 刃物の発展を語ってほしい 人の全容を告げてほしい 星の種類を説いてほしい 無駄死にの歴史を述べ切ってほしい 残り時間を示唆してほしい そしてそれらを一蹴し木っぱ微塵にしてほしい わたしの心臓を飼ってほしい 嫌なら いい 投げるから 打ち飛ばしてほしい 卵を叩き起こしてほしい ある朝きみは世界を拾う 実際には 世界に拾われたのかもしれない  わたしは世界に焼き上がる    世界がわたしに焼き付く! ---------------------------- [未詩・独白]月の裏側には湖があって/若原光彦[2006年8月17日21時05分] 月の裏側には湖があって そこではフナがよく釣れる 月のフナは泥臭くなくとても美味である レンズで焼くと水色に変わる 透明になる直前までよく焼くのだ これは父の好物でもあった あなたにも食べさせてあげたい でもそれは叶わないだろう あなたはここを何にも知らない 月の裏側には果樹園があって オレンジと洋梨がとくに優れている 私の曽祖父が開墾し祖父が育てた 今では私が預かっている 虫が居ないので管理は楽だ 受粉の季節には蜂を放つ 月の蜂はとても頼もしい そして美しいがすぐ死んでしまう 死んだ蜂は蛍のように光る 光の帯になって巣箱に帰ってくる 月の裏側には学校があって 工場と病院も兼ねている 先生と呼ばれているのは私のいとこで 彼女は美人でやや背が高い 学校ではすべてを作っており 私も何度か苗や釣竿を都合してもらった 例の巣箱を作っているのもここだ 人間や学問も作ったらと冗談を言うと いとこは寂しそうに笑って避わす 月の裏側には図書館があって そこには一冊の本もない そこには必ず誰かがいて 色んな話を飽くまで聞ける 先日は老人から巣箱の仕組みについて 工具の歴史について教えてもらった ドライバーとネジは同時に発明されたのだという 今日は私が若者にその話をしてきた あの若者なら新しいものを作ってくれそうだ 月の裏側には砂漠があって すべての季節が吹き込んでいる 全部の色を混ぜると灰色になるだろう 今これを書いているのもその砂漠だ 足元を雲が泳いでいく 愛らしいが嵐が来る前に帰ることにする さっき採った虹を同封する 皿に活けるとしばらくは持つのだが 届く頃には蒸発しているだろう ---------------------------- [未詩・独白]ハートフルヴォイス/若原光彦[2006年8月28日0時56分] お前 生きてしまえよ 時代がどうだとか言う奴もいるよ 金だ鉄だと騒ぐ奴もいるよ いいんだよもうそんなことは お前生きてしまえよ お前生きてしまえよ 花を盗ってきてやるよ 王宮があるだろ そこに咲いてるだろう あの花 盗ってきてやるよ そんな程度で終わりゃしないんだ お前の国旗を作ってやるよ お前 生きてしまえよ 生きちまえ こぼしたよ記憶 ははは 俺もパジャマだよ まるで脱走患者だよ 毎日がどしゃ降りだ ずっと いつか青い車に乗ろうよ なあお前 50円しかないけど なにかうまいもん食いに行こうよ ---------------------------- [自由詩]遺書/若原光彦[2006年8月29日6時02分] 私が死んでも 私を壊した人達は きっとなんとも思わない ごめんね ごめんね 私は毎日懸命に死のうとしているよ いくつも戦いに出向いてきたのは 誰かが私を殺してくれるんじゃないかって 私から全ての力を 希望を奪ってくれるんじゃないかって でも違った 私が会えたのは無神経な人達で 優しくて鈍感で無礼で適当で手ぬるくて温かくて 軽はずみに 命をつついてきただけだった 誰も私を止めてくれなかった 直してもくれなかった 人殺しが好きなんだよ 私は みんな殺してしまいたいの 殺されたいの これ以上壊れたまま壊れた町で 壊れた人達と壊れた毎日を続けていたくないの 壊れた自分を完璧に始末したいんだよ 戦って 戦って大好きな殺し合いの中で 最高の戦闘で絶命したいのよ 私が死んでも きっと誰もなんにも思わない ごめんね そうあるべきなの 私にはそんな価値ないんだよ ただ死のうとしているだけなのに もう生き返りたくないのに 戦うたびに強くなってしまって またいい加減に生き残っていくんだよ ---------------------------- [未詩・独白]Not Found/若原光彦[2006年8月29日16時39分] ――きみはやさしいから   ホームページなんか作ってはだめだよ   ウェブ日記なんかもってのほかだ と 言われたことがある ずいぶんとむかし まだネットが一般的でなかったころ 私の髪が短かったころ 作品ノートが九冊目にさしかかったころ 私は彼の言いつけを破って サイトを作り リンク集を設け たまさか慇懃なメールを打った キリ番を踏み倒し ハンドルネームは四つになった ――きみはやさしいから   (中略)   そのままでいてくれよ 彼とはそれきり会っていない 本当にやさしかったのは 彼だと思う もし彼と会うことがあったら 伝えてほしい やさしいあなたは いつか僕と会っても はじめましてと名乗るのでしょう それは僕の罪でもあります でもお願いですから そんなことはなさらないで下さい やさしすぎます もう 駄目なのです 僕にはそういうのは ---------------------------- [自由詩]桃太郎/若原光彦[2006年9月30日4時29分] むかしむかしある所におじいさんとおばあさんが居ました おじいさんはエベレストへ柴刈りに、 おばあさんはアマゾン川へ洗濯にいきました おばあさんが、川で洗濯をしていると、 川上から大きなワニが《どんぶらこ・どんぶらこ》と流れてきました 《まあ、なんて大きなワニなんでしょう》 おばあさんはそのワニをおじいさんと食べようと思って、 棍棒で叩いて気絶させて、クール宅急便で家に送りました 一方のおじいさんは、エベレストに登る途中で吹雪に遭っていました 食料も燃料も底を尽き今はただただ助けを待つのみです 《抱き合って肌を温めよう》とパートナーの八っつぁんがいいました その後のことは、おじいさんの名誉のために伏せておきます そのころおばあさんはタライに乗って家に帰ってきたところでした おばあさんが《がらがらがら》っと玄関を開けると、 家の中ではワニが子を産み繁殖していました おばあさんは一匹目を桃太郎、二匹目を金太郎、三匹目を浦島太郎と名づけ、 四匹目を山田太郎、五匹目を岡本太郎、六匹目をウルトラマン太郎と名づけました そのころおじいさんはなんとか山から下山したところでした 通りすがりのバットマンがふもとまで送ってくれたのです おじいさんはバットマンとバットモービルにお礼をしたいと思ったのですが、 何もあげられるものを持っていませんでした そこでおじいさんは八っつぁんにいいました 《八っつぁん、バットマンに貰われてくれないか》 バットマンは《ハッハッハアアッッ》と笑いました《ユアクレイジー・ノーサンキュー》 三人は大いに笑いました そのころおばあさんはまだワニに名前をつけていました 二十七匹目をゴウタマシッダール太郎、二十八匹目を高村光太郎、 二十九匹目をサラリーマン金太郎、三十匹目をタンタンたぬきの金太郎、 三十一匹目をサーティーワン太郎、三十二匹目を三十二太郎、 三十三匹目を三十三太郎と名づけました おばあさんを責めてはいけません おばあさんは、その時まだ若かったのです そのころおじいさんはなやんでいました 登山に失敗したとはいえ、 おばあさんに焚き木を持って帰らなければならないのです おじいさんはふもとの村で焚き木を買いました お金は八っつぁんに吐き出させました しかし問題がありました バットマンが降ろしてくれたふもとはネパール側ではなく、中国側だったのです 《なあに、関係ないね》そういうと八っつぁんは ポケットからどこでもドアを取り出しました 《そんなものがあるなら早く出せよ》とおじいさんは思いました そして自分だけどこでもドアに飛び込むと、 《がちゃっ》とドアにカギをかけて、それを自分のポケットにしまいました おじいさんを責めてはいけません おじいさんも、その時まだ若かったのです そのころおばあさんはまだワニに名前をつけていました 八十二太郎、八十三太郎、八十五太郎、八十六太郎、八十七太郎、 八十八太郎、八十九・米寿の翌年太郎、九十歳太郎、九十一歳太郎、九十二歳太郎 そこまで名づけたところでおばあさんは《しまった》と思いました おばあさんは雌ワニにも太郎と名づけてしまっていたのです 《あちゃー》しかしおばあさんを責めてはいけません バラと呼んでいる花を、たとえべつの名前で呼んでも、 香りが変わるわけではないのです むせ返るワニの臭いにつつまれておばあさんが立ちすくんでいると 《がらがらがらっ》と玄関が開きました 《いま帰ったぞーおばあさああーんぅわああワニいい》 おじいさんは大量のワニに驚きました おじいさんの絶叫におばあさんも驚きました《うおおおっ、びっくりしたっ》 おばあさんに自分を驚かれて、おじいさんはショックを受けました 二人は二日間話し込みました 離婚の際の財産分与について、ワニの養育権と養育費について 明日の天気について、来年の結婚記念日について、などです おじいさんは、おばあさんにいいました《愛してる》 おばあさんは、おじいさんにいいました《愛してた》 ワニは、ワニに、いいました《ぎゃおおおおーす》 バットマンは、八っつぁんにいいました《行くぞロビン》 ウルトラマン太郎は、サラリーマン金太郎にいいました《ぎゃおおおおーす》 岡本太郎は、高村光太郎にいいました《ぎゃおおおおーす》 おじいさんはおばあさんに焚き木をさし出しました 苦労して取ってきたエベレストの焚き木です、世界一の焚き木です おばあさんはだまってそれを受け取り、かまどに火をおこしました おじいさんもそれを手伝いました そしてワニをさばき、味噌でよく煮てふたりで食べました しょっぱくてあまりおいしくなかったそうです 作りすぎてしまったので、ふたりはどこでもドアでアメリカへ売りに行きました 味噌ワニは、アメリカでは飛ぶように売れました それはもうすごい売れ方でした はるばる日本から買いに来るあんぽんたんが居るぐらいでした 味噌ワニを食べたジョージ・ワシントンは 《ワニの、ワニによる、ワニのための料理》と絶賛しました ジョージ・ワシントンも若かったのです おじいさんは大金持ちになりました おばあさんは大金持ちになりました ふたりはとても幸せでした 幸せかどうかなんて、考えもしないぐらいに幸せでした みんな、みんな若かったのです またたくあいまに、時間は過ぎてゆきました あれだけたくさん居たワニも、最後の一匹になりましたが、 ふたりは最後の二万六千五十九太郎を、いつもと同じように仕込みました そしておじいさんは、おばあさんにいいました《わたしたちで食べようか》 おばあさんは、おじいさんにいいました《おじいさんが先に食べるなら、食べる》 ふたりはなかよく味噌ワニを食べました《うーん、まずい》 やっぱりしょっぱくてあまりおいしくなかったそうです その夜、おじいさんはおばあさんにいいました 《あの時の焚き木だけど、ごめん、あれは、ふもとの村で買ったんだ》 《焚き木って、エベレストの》《ごめん》《なんで》 《遭難して柴刈りどころじゃなかった、バットマンが助けてくれたから帰ってこれた》 《そうじゃなくて、なんで、なんで、それを今ごろになって話すのよ》 おばあさんがおじいさんを許したかどうか、伝説には伝わっていません ただ、四十年後、おじいさんとおばあさんが離婚したのは、 別の理由によるものだったそうです ---------------------------- [自由詩]そう言ったところで/若原光彦[2006年12月19日18時25分] 百万本の薔薇 咲きほこっている そう言ったところで それが造花であることをあなたは知らない 一匹の狼が 肉をはんでいる そう言ったところでしかし その肉が何の肉か あなたは知らない 知る必要もない 自転車で少年が駆けていく お年玉を使い果たしに 一人の女性が 駅に立っている 電車に乗ったら自分が変わってしまいそうで恐れている 火事で黒焦げの二階を見上げながら老人は 一本のカセットテープとその中身について考えている ハミングが聞こえる あなたの前には 飲みかけのコーヒーが残っている 暗い 冷たい 甘い 苦い コーヒーが 波打っている そう言ったところで あなたは そのコーヒーが最後の一杯とも知らずに あなたは その一杯を飲み込んでいく 今誰かが涙をこらえている そう言ったところで    * 違うんだ 百万本の造花なんてないんだ ましてや薔薇なんかじゃないんだ アイウエオでできた花なんだ 狼は文字を食べてたんだ 少年は数字を減らしに行ったんだ 女性の中はからっぽだっただけ 老人の耳には風が吹いてただけ どんな音も匂いもしなかったんだ ごめんね みんな言葉だったんだ そう言ったところで    * あなたはコーヒーを飲み終わる あなたは私に どうしたの と言う こないだのあの人 誰だったっけ 名前じゃなくてさ 誰だったっけ そう言ったところで 玄関のベルが鳴る どうしたの おじいさんから花束が届いたよ ---------------------------- [自由詩]まだ生きています/若原光彦[2006年12月21日1時16分] 今日からちょうど一週間前 私は死にました 居眠り運転で突っ込んできた トラックにはねられたのです ビルの壁面に叩きつけられ 頭蓋骨骨折で即死でした あまりに一瞬の出来事だったため 何が起こったのかわかりませんでした それでも私は生きています そして翌日 私はいつも通りの夕食を食べ終え お風呂に入っていました なんだか外が騒がしいと思い風呂から出ると 廊下が炎に包まれていました そして私は死にました 焼死したのではなく 一酸化炭素を吸い込んで酸欠になったのです 煙で出口がわかりませんでした それでも私はまだ生きています そんなことがあった次の日 私は何事もなく職場に向かいました 食事は駅の売店で買って済ませました ホームで列車を待っていると よろめいたおばあさんに突き倒されました 私はホームに転落し 入ってきた列車の車輪に切り刻まれました バラバラ死体が一セット出来上がって 私は死にました 竹を何本もまとめて踏み潰したような 酷い音がしたのを覚えています それでも私はこうして生きています そして今日からちょうど四日前 私は何もかもが嫌になって公園でじっとしていました 空は曇り空でした 何時間雲を眺めていたかわかりません 午後になると空腹に襲われました あまりにおなかが減っていたので 買い物に行く気も起きませんでした 私は自分が惨めになって 公園のぶらんこによじ登り ぶらんこの鎖で首を吊りました そうして私は死にました 自分の体の重さが首に集まってきて痛かった それでもほら私はまだ生きています 私が公園で死んだ翌日 私は考えを変えることにしました ひどい人生かもしれないが 人の役に立つことぐらいあるだろう 私は町のごみを拾いながら歩いて歩いて ごみ箱を見つけると拾ったごみを捨てて またごみを拾って歩いていきました 気がつくと私は見知らぬ土地にいました ヘルメットを被った人がいたので私が近寄ると 相手は一目散に逃げました 私はおーいこの辺にごみ箱はないですかあと叫びました 相手は何も言いませんでした そのかわりにライフルで数発私を射ちました 私は地面に倒れこんで その拍子に地雷に触れて爆死しました 私は両足を失い出血多量で死んだのです それでも私はまだ生きています そしてほんのおとついのこと 私は見知らぬ土地の名も知らぬ病気にかかって死にました おなかがすいてめまいもしていたので 適当に果物をもぎって食べたのが いけなかったのかもしれません 私が脂汗を浮かべて倒れていると ひとりの女の子が通りかかりました 女の子は私を見るとやはり一目散に逃げました そして大人を連れて戻ってきて 私に火をつけて焼きました 私はご迷惑おかけして申し訳ありません と言いたかったのですが朦朧として何も言えませんでした 私はただ焼かれるままでした そうして私は死にました それでも私はまだこの通り生きています そしてこれは昨日のことです 私は家に帰って焼け跡からナイフを探しました いつもジャガイモの皮をむくのに使っていたやつです 魚をさばくのにも使っていました 台所の消し炭から見つかったナイフは柄の部分が溶けていましたが ナイフとしての機能は失っていませんでした 私はナイフを両手で握ると 刃を自分の胸に突き刺しました まだちょっと浅いと思ったので 刃が深く食い込むように うつぶせに倒れもしました そうして昨日私は死にました どうせ死ぬならやっぱり自分の家がいいと思ったのです それはともかく 私はやはりこうしてほら生きています そして今日ついさっきのことです 私は今日どうやって死のうかと考えていました そんなに毎日死ぬことはないじゃないかとも思いましたが どうにかする必要があるようなそんな気もしたのです もう何もしたくないという気持ちと 何かしなければならないという義務感と そのはざまで私は迷っていました これが私の一週間の出来事です そして一週間に一日ぐらいは休日にすべきだと 私は明日までこうして生きています ---------------------------- [未詩・独白]おはよう、地獄の戦士たち/若原光彦[2007年1月31日3時53分] もっとみんなが傷つけばいいな 何日も布団の中で過ごさなきゃならなくなるくらい コップをつかむ力すら出なくなるくらい そしてもっと憎しみあえばいいのにな どうして自分がこんな目にあうんだと言って 誰のせいなのか見当をつけて言いがかりをして悪者を作って 無言電話かけて動物の死骸を送りつけたりして 不眠症にでもなんにでもしあえばいいのにな 相手を絶対に許さなければいいのにな もっと恨みあえばいいのにな あんな奴いなければいいと願ったらいいのに 本気で誰かの死を祈ればいいのに 他人を変えようとするとか勝とうとするとか 不幸を祈るとかそんな生やさしいものじゃなくて ギラギラ光る包丁を握って決意したらいいのにな 殺しあえばいいのにな そして本当に純真な人だけが残る なあんてことも起こらないほうがいいな そんな希望はちりひとつ残さないで 誰もがくまなく劣悪になって うらぶれた気持ちになって 何故だどうしてだ何がいけなかったんだって 取り返しのつかない気持ちで息絶えたらいいのにな 地獄を定員オーバーにするんだ こんなシステムはぶち壊しにするんだ 囚人たちが全員みんな 自分は悪くないって言い出すんだ 処刑道具で鬼や悪魔に襲いかかって 罪深い人間が天国へあふれ出して 憤りに血走った目で 聖人たちの喉に剣を突きつけるんだ 誰もこんなの望んじゃいなかったと言って お前らも同罪だお前らが元凶だと口々に叫んで 全ての神を屠っていくんだ それから勝利を宣言して ミッションを負傷を死闘を自慢しあって 散らばっていくんだ それぞれの家へ たがいに二度と出会わないことを願いながら 帰るんだ 新しい地球へ ---------------------------- [自由詩]世界以外の全て/若原光彦[2007年2月7日3時36分] そうだその矢を射るんだしっかりと狙え 手を離してそいつを送り出せそうしたらすぐに 届いて愛せるようになっていくだろう世界以外を 駄目だ力むなそうじゃない思いだせよく聴けいいか この世界では射った矢は必ず何処かに当たる 何処にも当たらなければ何処かを飛び続ける そんなもの拒否すればいいのではないか わたくしの矢はこの世界から消えましたとわかるか わかったら構えろそんなに構えるな違う違う違う 歌を歌いたいんじゃなかったのか世界以外についての歌を 金を掻き集めるというのもいい世界以外のすべての金だ 体験記も出版しろ世界以外について世界以外の言葉で 君のものなんだ世界以外の全てがもっとゆったりやれ 世界でなければ日本ですかってこんな時に冗談か君は 違う空想世界でもない別の宇宙でもないあのな 精神世界でもない何でそうなる本当に飲みこみが悪いな君は この世界もどの世界もない世界以外だ何度も言わせないでくれ 世界以外の方向を狙うんだそっちじゃない誰か通ったら危ないだろうが そっちでもない鏡を割ってなにが楽しい違う違う違う 外す方が難しいんだぞ普通わかってんのかわかっててわざとやってんのか 君の目玉はガラス玉かいい加減にしないと怒るぞもう一度だ そう集中しろ力むなよ馬鹿もの誰がおのれを射てと言った死ぬ気か君は 自分は世界に入らんとでも思ったか阿呆なぞなぞやってんじゃないんだよ いい加減その貧弱な世界から離れろ世界以外だ世界以外 ---------------------------- [未詩・独白]庭で子どもたちが泣いている/若原光彦[2007年2月9日19時37分] 庭で子どもたちが泣いている ちいちい ちいちいと泣きながら 翼をぱたぱたさせている それだけで 私ももらい泣く 私は狂ってしまったんだと思いながら泣く そして何を悲しんでいたのか わからなくなる わからないことに泣く 辞書で自分をひいて 今日をひいて 自分をひいて 載っていないことに泣く 空は 青くなかったと思うのだ こんな色じゃなかった筈なのだ ずっと緑色だったはずだ 手の届く色だった筈だ それがどうして 冷たい面になっちまった 遠い星になっちまった 青い空に 子どもたちが飛んでいく 私は 絶叫する そっちへ行ってはいけない そこへ行ってはいけないと叫ぶ 叫びながら泣く 泣きながら追う お菓子をあげるからと絶叫する 私の体が 思わず浮く ---------------------------- [自由詩]シチューを煮込む鍋のとなりで/若原光彦[2007年2月12日22時19分] シチューを煮込む鍋のとなりで 牛が熱心に腕立て伏せをしている ぼくは牛に近づいて 両腕を切り落とす そして二本とも鍋に放り込む 牛がうらめしそうな目でぼくを見る こちらもギッと睨み返すと 牛はふてくされて スクワットを始める フンフンと言いながら汗だくになっていく その頃あいを見て ぼくは 背後から牛を蹴り倒し 両足を切り取って やはり鍋に入れる 牛がまたもうらめしそうな目で ぼくを見る ぼくは黙々と鍋をかき混ぜる 牛が牛語でひとこと悪態をつく なにか問題でも とぼくは女王牛語で呟く 牛が顔を赤らめる のそのそと 今度は背筋をはじめる 見逃すわけにはいかない ぼくは牛に馬乗りになり 背をこそげ落としかき集め 鍋にたたき込む だんだん息が合ってきたようだねとぼくは思う 牛が もうやめてくれ といった目でこっちを見ている お互いの仕事をしましょう とぼくは古代牛語で言う 牛はぶるぶる震えながら きわめて控えめに おそるおそる腹筋をはじめる そうだよ とぼくは牛をほめる ほめながら牛の腹をザクザク刺す 切っては切っては鍋に投げ入れる 牛は歯をむき出しにし 鼻息を荒くして怒っている 鼻の穴がぺこぺこ開いたり閉じたりしている どう見ても笑いをかみ殺しているようにしか見えない ぼくは牛のくちびるを裂き舌を抜く 尾と骨と首だけになった牛がばたばたと暴れる 暴れた部分をさらに切る どっさり得られた肉塊を掲げてぼくは これも鍋に入れるよ と標準牛語で牛に言う 牛はぜえぜえと息をしているだけで 何も言わない ぼくは掲げていた肉塊を かたわらのゴミ箱に捨てる 牛が NOOoooooouuu! と絶叫する ぼくは笑ってゴミ箱を逆さにし 肉塊を鍋に流す 牛があえぎながら あのそれで 次は と言う 次はない とぼくは笑ったまま答える ドナドナを口ずさみながら鍋をかき混ぜる 社交ダンスのようにくるくるくるくる ドナドナ・ドーナー・ドーナーの部分を この牛の名前にすることも忘れない 牛がしくしくと泣き出す どうして牛に生んだんですお母さん と呟いてこと切れる 鍋はぐつぐつとうまそうな音をあげている うんうんとぼくは頷く 牛が完全にくたばるのを待って ぼくは鍋の火を止める あつあつの鍋をひっつかみ 窓の外にぶち撒ける ---------------------------- [未詩・独白]うちくび/若原光彦[2007年3月8日23時02分] 聞き捨てならんな お前はあれを首と呼ぶのか 2メートル以上はあるあれが首か そりゃキリンにだって首は要るだろうよ 持ってたいだろうよ なくしたか無いだろうよ 頭と胴体のあいだにキュッと一本ほしいだろうよ しかしあれはやり過ぎだろ あれはもう首じゃないだろう あれが首か どこが首だ あんなに長い首があってたまるかと言うのだ あれは首じゃないもう全く別のものだ 頭でも胴でも肩でも咽喉でもない何かだ 俺らの頭を支えてるもんとは全く別の超物質だ 汗のかき方も風の感じ方も ちょっとしたかゆみも首の比じゃねえんだ多分 それでもお前はまだ言うのか あれを首だと キリンの首は長いとか言えるのか ゾウの鼻も長いとか言う気か たぬきのきんたま八畳敷きとかヌカスのかこら ちょいと小ぶりな首してっからっていい気になってんじゃねえや そら見ろキリンも迷惑してるぞ こっち見てるぞ 悲しそうな目でこっち見てっぞ よしよし自慢の器官を首よばわりされて可哀想になあ 悔しかったろうなあ傷ついただろうなあ ちったあキリンの身にもなれ ずが高いひかえおろう ---------------------------- [未詩・独白]放送の途中ですが若原光彦が壊れました/若原光彦[2007年3月24日0時14分]  へそ るふりんくるりんえいぱっぱヒョイ おへそが二つになっちゃったよ おなかにへそ あたまにつむじ とりかえたら頭ハゲ 腹ギャランドゥ  プリン プリンが稲妻に撃たれたよ ぷりんぷりんしていたよ 爆発したよ  ニュートン ニュートンはえらい人 でもニューマンさんのあだ名 ねえニュートン こっちむいて  ペッパー チョッパーペッパーちょいペッパー 連隊組んでじごく行き チョッパーチョッパー超チョリソー からいからキライ ああおいしい  マグナム マグナムごっこ ばばんばん いい湯だな ばばんばん ビリーワイルダ ばばんばん おば ばばばば おおばば んばばばばん ジャイアント ばばばん か バーン  レベルアップ レベルが上がって 経験値きえた 腕がちょっとムキムキになって 剣がちょっと軽くなった でもヨロイ邪魔 前の戦士がもっと邪魔 パーティーアタック  ありがとう サンキュー ロック つまりロッキュー いや 6×3×9だから モンテスキュー  バリア バリアを張るんだバリバリ バリカンで張るんだバリバリ バリカン星人だふぉっふぉっふぉ 星に帰りたい  愛ちゃん 愛ちゃんを愛する人は ややこしいとおもう 愛ちゃんを愛してるのか 愛を愛してるのか あいあいあい おさるさんだよー  たまご たまごはへんな形 持ちにくい 割りにくい 割れにくい だからいいのかな 食べやすい だからいいのかな 星に帰りたい  温度計 温度計で 体温はかったら ぞくぞくした 毛穴ひらいた そういえば犬の体温は 肛門ではかるらしい やってみたいけどやらない お母さんに頼む  ピンチ ピンチヒッターはピンチを待つので ピンチじゃないと出てこない チームのピンチが彼のチャンス チームの連勝が彼のピンチ ピンチヒッターかわいそう かっこいい ドラえもんみたい  ロボット 弟そっくりのロボットを作って マナカナとダブルデートさせる計画あり ロボットを引いた方が当たり 実際の弟は 足くさいから  ベア ベアベアベアベア ナックルベア 流れる流れる流れる流れる サケつかむ夢つかむ 山がおいらの仕事場ベア 山師ベア流れ作業 ベルトコンベアー  たこあげ たこを上げたら 液が出てきた くさい 揚げたら イカフライ かたい たこ焼きグッバイ  めぐすり 右目にさしてから 左目にさすと 右目をひいきしたみたいな気がして なんだかいや 左目はお姉ちゃんなんだから いい子で待ってなさいみたいで なんだかいや 二丁拳銃ならぬ 二丁目薬でどう ばんばばばん 世界平和  家族 弟は死にました 生まれる前に死にました 受精卵になる前に死にました こんど生まれるのはべつの人 もとはドロドロ みんな最初はドロドロ 最後はホネホネロック おはよう  クリームパン カスタードクリームは カスタードさんが作ったらしいよ といったら笑われた でもタキシードは タキシードさんが作ったんだと思う 自分はむしパンしか作れない ---------------------------- [自由詩]プロファイル/若原光彦[2007年4月21日21時03分] 名前は? ――ああ 血液型は? ――知らない 歳はいくつ? ――忘れた 住所は? ――もうない 家族は? ――いなくなった 家出か? ――かもしれない したのか、されたのか? ――最初から 国籍は? ――わからない 最終学歴は? ――関係ない 出身校は? ――ない 資格は何か? ――もうない 持病は? ――わからない アレルギーとかありますか? ――知らない 最も嬉しかったプレゼントは? ――比べられない それで今日のご相談というのは? ――いい こいつを知っているな? ――知らない 誰に頼まれた? ――知らない 吐けば楽にしてやるぞ? ――このままがいい もみあげどうしましょうか? ――かまわない 好きです、つき合ってもらえますか? ――わからない キスしてくれる? ――任せる 赤と緑、どっちを切る? ――気にしない ご感想をひとこと? ――とくにない 決まったか? ――おそらく 決めたか? ――なにひとつ 雲雀について話したか? ――言えない なにか買ってきましょうか? ――いらない 夢はねえのかよ? ――かもしれない 害者の身元と死亡推定時刻は? ――答えられない 生年月日は? ――とうに どうしてこんなことに? ――わからない 今夜はいかがでした? ――静かだ モテただろ? ――憶えていない ご職業は? ――もう お煙草お吸いになられますか? ――持っていない どこの所属だ? ――遠い 鶴が三羽、亀が四匹、足は何本? ――見えない これって何語? ――聞こえない 天国と地獄どっちがいい? ――どちらでもない 燃やしちゃうの? ――どれもいい 生まれ変わったら何になりたい? ――ひとつ ご結婚は? ――もうない 子供は何人? ――世界中 言い残すことは? ――残らない 気分はどうだ? ――ない おみやげは? ――もういい いいか? ――途中だ 忘れ物は? ――ぜんぶ ---------------------------- (ファイルの終わり)