若原光彦 2007年3月8日23時02分から2018年3月3日7時40分まで ---------------------------- [未詩・独白]うちくび/若原光彦[2007年3月8日23時02分] 聞き捨てならんな お前はあれを首と呼ぶのか 2メートル以上はあるあれが首か そりゃキリンにだって首は要るだろうよ 持ってたいだろうよ なくしたか無いだろうよ 頭と胴体のあいだにキュッと一本ほしいだろうよ しかしあれはやり過ぎだろ あれはもう首じゃないだろう あれが首か どこが首だ あんなに長い首があってたまるかと言うのだ あれは首じゃないもう全く別のものだ 頭でも胴でも肩でも咽喉でもない何かだ 俺らの頭を支えてるもんとは全く別の超物質だ 汗のかき方も風の感じ方も ちょっとしたかゆみも首の比じゃねえんだ多分 それでもお前はまだ言うのか あれを首だと キリンの首は長いとか言えるのか ゾウの鼻も長いとか言う気か たぬきのきんたま八畳敷きとかヌカスのかこら ちょいと小ぶりな首してっからっていい気になってんじゃねえや そら見ろキリンも迷惑してるぞ こっち見てるぞ 悲しそうな目でこっち見てっぞ よしよし自慢の器官を首よばわりされて可哀想になあ 悔しかったろうなあ傷ついただろうなあ ちったあキリンの身にもなれ ずが高いひかえおろう ---------------------------- [未詩・独白]放送の途中ですが若原光彦が壊れました/若原光彦[2007年3月24日0時14分]  へそ るふりんくるりんえいぱっぱヒョイ おへそが二つになっちゃったよ おなかにへそ あたまにつむじ とりかえたら頭ハゲ 腹ギャランドゥ  プリン プリンが稲妻に撃たれたよ ぷりんぷりんしていたよ 爆発したよ  ニュートン ニュートンはえらい人 でもニューマンさんのあだ名 ねえニュートン こっちむいて  ペッパー チョッパーペッパーちょいペッパー 連隊組んでじごく行き チョッパーチョッパー超チョリソー からいからキライ ああおいしい  マグナム マグナムごっこ ばばんばん いい湯だな ばばんばん ビリーワイルダ ばばんばん おば ばばばば おおばば んばばばばん ジャイアント ばばばん か バーン  レベルアップ レベルが上がって 経験値きえた 腕がちょっとムキムキになって 剣がちょっと軽くなった でもヨロイ邪魔 前の戦士がもっと邪魔 パーティーアタック  ありがとう サンキュー ロック つまりロッキュー いや 6×3×9だから モンテスキュー  バリア バリアを張るんだバリバリ バリカンで張るんだバリバリ バリカン星人だふぉっふぉっふぉ 星に帰りたい  愛ちゃん 愛ちゃんを愛する人は ややこしいとおもう 愛ちゃんを愛してるのか 愛を愛してるのか あいあいあい おさるさんだよー  たまご たまごはへんな形 持ちにくい 割りにくい 割れにくい だからいいのかな 食べやすい だからいいのかな 星に帰りたい  温度計 温度計で 体温はかったら ぞくぞくした 毛穴ひらいた そういえば犬の体温は 肛門ではかるらしい やってみたいけどやらない お母さんに頼む  ピンチ ピンチヒッターはピンチを待つので ピンチじゃないと出てこない チームのピンチが彼のチャンス チームの連勝が彼のピンチ ピンチヒッターかわいそう かっこいい ドラえもんみたい  ロボット 弟そっくりのロボットを作って マナカナとダブルデートさせる計画あり ロボットを引いた方が当たり 実際の弟は 足くさいから  ベア ベアベアベアベア ナックルベア 流れる流れる流れる流れる サケつかむ夢つかむ 山がおいらの仕事場ベア 山師ベア流れ作業 ベルトコンベアー  たこあげ たこを上げたら 液が出てきた くさい 揚げたら イカフライ かたい たこ焼きグッバイ  めぐすり 右目にさしてから 左目にさすと 右目をひいきしたみたいな気がして なんだかいや 左目はお姉ちゃんなんだから いい子で待ってなさいみたいで なんだかいや 二丁拳銃ならぬ 二丁目薬でどう ばんばばばん 世界平和  家族 弟は死にました 生まれる前に死にました 受精卵になる前に死にました こんど生まれるのはべつの人 もとはドロドロ みんな最初はドロドロ 最後はホネホネロック おはよう  クリームパン カスタードクリームは カスタードさんが作ったらしいよ といったら笑われた でもタキシードは タキシードさんが作ったんだと思う 自分はむしパンしか作れない ---------------------------- [自由詩]プロファイル/若原光彦[2007年4月21日21時03分] 名前は? ――ああ 血液型は? ――知らない 歳はいくつ? ――忘れた 住所は? ――もうない 家族は? ――いなくなった 家出か? ――かもしれない したのか、されたのか? ――最初から 国籍は? ――わからない 最終学歴は? ――関係ない 出身校は? ――ない 資格は何か? ――もうない 持病は? ――わからない アレルギーとかありますか? ――知らない 最も嬉しかったプレゼントは? ――比べられない それで今日のご相談というのは? ――いい こいつを知っているな? ――知らない 誰に頼まれた? ――知らない 吐けば楽にしてやるぞ? ――このままがいい もみあげどうしましょうか? ――かまわない 好きです、つき合ってもらえますか? ――わからない キスしてくれる? ――任せる 赤と緑、どっちを切る? ――気にしない ご感想をひとこと? ――とくにない 決まったか? ――おそらく 決めたか? ――なにひとつ 雲雀について話したか? ――言えない なにか買ってきましょうか? ――いらない 夢はねえのかよ? ――かもしれない 害者の身元と死亡推定時刻は? ――答えられない 生年月日は? ――とうに どうしてこんなことに? ――わからない 今夜はいかがでした? ――静かだ モテただろ? ――憶えていない ご職業は? ――もう お煙草お吸いになられますか? ――持っていない どこの所属だ? ――遠い 鶴が三羽、亀が四匹、足は何本? ――見えない これって何語? ――聞こえない 天国と地獄どっちがいい? ――どちらでもない 燃やしちゃうの? ――どれもいい 生まれ変わったら何になりたい? ――ひとつ ご結婚は? ――もうない 子供は何人? ――世界中 言い残すことは? ――残らない 気分はどうだ? ――ない おみやげは? ――もういい いいか? ――途中だ 忘れ物は? ――ぜんぶ ---------------------------- [自由詩]写真うつりも気になるのだ/若原光彦[2007年4月27日22時08分] 書いてみたのだ へのへのもへじを 思い出せなくなって 目を閉じ黙想してみたがどうにも曖昧だったので チラシをひっかきまわし裏が白いのを見つけて そそくさと書いてみたのだ しかしおかしいのだ 女の子になってしまったのだ これは何かの間違いだともう一度 すると今度はふたこぶラクダになってしまったのだ いかなることかと見つめていたが ラクダは何も答えない ああそうかきっと紙が悪いのだと すずりを出し墨をすって半紙に起筆してみると 今度は毛をむしられたペンギンになってしまった これにはさすがに取り乱した 自分がへのへのもへじひとつ書けない奴だったとは こんな愚か者が運転免許など持っていてよいのか いつか誰かを轢き殺すのではないか ああ私はもう駄目だ人間失格だとへこんだのだいやいやいやいや こんなことあるわけがないこれは無いまず無いわはははははは ちょっとしたジョークだ手品だイタズラ心だそうだ 魔がさしたのだそれしか有り得んとおのれを励ましたのだ そしてゆっくりと気を静め 姿勢を正し呼吸を整えてもう一度書くと やっと男の顔ができあがった なつかしい見憶えのあるマヌケ顔 そうだこれがへのへのもへじだ 一時はどうなることかと思ったがへのへのもへじだ 見れば見るほどへのへのもへじだ その筈なのだがこの違和感は何だと胸騒ぎがしてならないのだ これは本当にへのへのもへじか おいへのへのもへじと呼んでみたところで へのへのもへじは何も答えない ううむと腕組みして考え込んでいると お前また珍しいことをしておるなと父が覗きに来た おお父よいいところにこれを見てほしい これが何に見えるか率直な意見をお願いしたいのだ ふむ水墨画かなかなか巧いなお前にこんな才があったとは しかしひいじいさんの顔なんてよく憶えてたな そう言われたときには腰が抜けるかと思ったのだ 実際には目玉が飛び出たのだ耳を疑ったのだ ちちちち父よこれがひいじいさんか確かかと聞くと 何だ違うのかと父は憮然としていたのだ ちっちちちっ父と全く似ておらんではないかと指摘すると 隔世遺伝だお前は似ておるとぬかしよったのだ ぬああ自分はへのへのもへじに呪われているのだうあああああ そうとしか考えられない禁忌だ暗部だ駄目だ触れてはならなかったのだ 父よそれはあなたで始末してくれ誰にも言うな何も聞くな独りにしてくれ 恐ろしくて恐ろしくてその日はそのまま泣きはらしたのだ 以来怖くて怖くて鏡がまともに見られんのだ ---------------------------- [川柳]雑句(2007-04-14、2007-05-27)/若原光彦[2007年5月31日0時23分] ・2007-04-14 このごろは平和が白く見えますね 錠剤の錠という字に諭される 東ハトは菓子屋なんだよなあ中田 百円で三分動きますけれど 尻尾にはピアスを開ける予定です みたらしの二刀流にはまだ早い 恐竜の塗り絵に挑む余地がある 昨日から電子レンジがにゅっとする バスタブで増えるワカメがしてみたい 温かい乳でも揉んで寝ましょうか 男なら読まねばならん本がある ・2007-05-27 東方に住みたることの罪深し 紅鮭をパンに包んで食べて吐く ああなんだ嫌われるのは簡単だ 眼に刺した九月が朝になって咲く 太陽が浴びせる尿の暖かさ 花丸におまけですよと書き添える 綿を抜き雲を詰めたる抱き枕 銃をくれ銃弾をくれ的をくれ 桃太郎以後の世界に鬼は今 岩壁に一擲散れやさざれ石 先頭を蹴りたいだけで二位になる 嫌われる顔と名前でプレイする ご期待に応えて今日も馬鹿は馬鹿 世が世なら人も人だと君は言え 電網は感電すると思ってた しゃれている下着を脱がせタグを見る 悪党は無名であった方がいい キリギリス死ぬのを見てた奴がいる レコードは何色だろう来世紀 鉛筆を操る俺の権力か セキュリティ穴があるなら入りたい 式神の逃げたる後の懐手 哀しみを他人の海が邪魔をする ですからね古びた美女がうちに来る みくろんはかわいい単位なんですよ 気に入った紫色に塗ってやる イルカはね果物なんて食べないよ 俺が殺るいいや俺だと殺し合い 大丈夫この山うちの山だから 肩幅に足を開いてずんばらり 各駅に超特急で乗る義兄 全国のいかりや姓が立ち上がる なんつうか底なし沼に沈めたい 夏なのでナツオと名乗る観光地 カタカナの色から選ぶことにする まゆげから間抜けになって湯気が出る ---------------------------- [未詩・独白]静物/若原光彦[2007年5月31日0時28分] 忘れかけていたフレーズが 検索にたまに現れて クリックしそうになることを 僕は言わなくちゃいけません 気にしないなんて言ったのは 誰にも興味がないためで アイスクリームが好きだから 僕は笑ったりしたのです たくさんの人が去ったので 視界は静かになりました 遠くの景色がよく見えて 僕は泣かなくちゃいけません ---------------------------- [未詩・独白]植物園まで/若原光彦[2007年6月1日22時23分] 植物園まで はちの子を送っていく バスは回ってこないから 自転車でまいあさ運んでやる 自由ぐらい自分で守れと けさ見た夢の話をしながら ペダルをこいで坂道を登る はっぱの裏に書いてあることが 大人の私にはもう読めない 石橋で牛車とすれ違う かごの中から漏れている 香の匂いにちょっとよろめく 息を止めて通り過ぎてから はちと顔をみあわせて笑う いつのまにか雲がひとつくずれて そのぶん空が広がっている 平原を抜けて自転車をとめる おはようおはようと先生方が頬笑む さあいってらっしゃいと 私ははちの子にかばんをかける はちの子はこくりと頷いて まっすぐ植物園に入っていく 花の間をすりぬけてゆく はちのスモックが花粉で汚れる 土に帰るまでが遠足です それでいいと私は笑う ---------------------------- [川柳]雑句(2007-06-04〜2007-06-21)/若原光彦[2007年6月21日21時25分] ・2007-06-04 日本でガンマンになる覚悟かな 許可なんてあとで貰えば済む話 よく見てろ四番がここでバントだぜ 墓場ですそう言いながら誰か来た 出来るのはアコースティックピースだけ この国でブルーハーツがまだ売れる ただなのにどうして惜しいこの命 広島は被害者だから見に行こう 魂魄も余裕で入るコンパクト 占いに言い当てられて怒り出す 酔えるけどそれだけなんだ缶ビール 分解のできない場所にヤニが着く 新しい靴だけあって新学期 どのへんが怪談だっけ笠地蔵 ファミレスで水栽培にされてみる ご先祖のGoogleキャッシュ誰が消す やくじゃですヤクザのような役者です 無職にも貴賎があるという仮説 青森のエレベーターに拒まれる どの亀も助けてやればさようなら 路地裏に今ならペアでご招待 形にはこだわらないでクビになる mixiで借金取りの歳を知る この服を着ると足元見られがち 長靴にマリオが入る面もある 兄さんがきのこを食ってでかくなる どのお茶も調べてみれば堅苦し 眩しくて耳から青い旗が出る 内海に取り残されて進化する 天竺の残念賞を持ち帰る 手荷物がみんな鈍器のようなもの 三千の枕詞にはらたいら サーカスに居場所がないという辛さ ・2007-06-06 悪食が怒涛となって押し寄せる 声優になれると思う若さかな ・2007-06-10 タイトミニフリルプリーツ足二本 珍獣が息をするとはめずらしい セイメイワカリテシメイノナイタスク 地球から遠く離れて紅葉狩り タキシード仮面もしょせん変態だ document.write("Kilroy was born"); ・2007-06-11 甘きこと簡便にして角砂糖 六十の春分ぞろり銃後かな よそにある愚民思想は厭らしき 万巻の書に京兆の嘘があり ・2007-06-15 脳内のチアリーダーが若返る いつかまた髪切らされる俺だろう あの夏のハフマン島を忘れない 夢日記かなえるものになかりけり ぼくだけがリンドバーグを覚えてる お前らが薄情なのは知ってたよ 戦争が起きないかぎり戦後です 消しゴムで消せるくらいの雲ひとつ 石を持て吟遊に出る家出とか こりん星ぐらい自分で片付けろ ・2007-06-16 駅前にコイン精米ある町さ ・2007-06-18 日にひとつ茶色いものを産み落し ログインしつまらぬ物を斬っている 頂きに鴉が一羽ペンギン舎 銀蝿に拝み倒され夏腐る 無難には益なきことのバニラかな 五、六枚抜かれてやっと二枚舌 充電の終わりを待って家を出る 居酒屋でたぬきにもたれ掛かられる 恋人の傘よく見れば核の傘 悲しさは彼の自伝の薄さにて 4ギガに焼かれて終わる骨ひとつ 教鞭を取り出すごとに呆れられ とりあえず寝ているひとの横に寝る 竜宮で舞妓の鯛は食べられず ハエ叩き世界王者の戸田の母 我れはゆくさらばスパムよいざさらば ・2007-06-19 勢いで股間のことを打ち明ける コピー機でうしろ頭を撮ってみる 小次郎と武蔵おとなげないったら たなびける手紙一枚文字六個 知恵熱の出せる機械をうらやみぬ 無人島漂着直後自殺完 いわゆると褒められたって喜べず おもしろき鳴かせてみよう法隆寺 もうひとつ調子に乗ってさしあげる わけもなく真水憎んで深夜二時 隣人と分かち合ってる壁ひとつ でがらしの玉露がついに白湯を出す 当たりでも外れでもいいおまけ付き テトリスは共産主義じゃ流行るまい 合格の鐘まちがえて鳴らされる いい国になったんですか鎌倉は ・2007-06-21 私より先に死ぬなよHD 誕生日マイナス1を掛けてみる ゼロ割って種無しぶどう食べている あしたからあしたをみればまたあした コーヒーを仇のように飲み下す 水はけの悪いあたりにコロの骨 花束を一輪残し捨てていく ぬいぐるみみたいにきっと待っている 容疑者はまだ犯人じゃないけれど 宿題の続きをずっとやっている 山下は盾と結婚したらしい 落ちてきた太陽ひとつ打ち返す 言いかけた時点ですでに負けている メレンゲに思わず首を投げ入れる 愛なんてものをもらって身に余る 回線の先から膿みをしぼり取る やっぱりだ天使はぱんつはいてない 赤くない消火器ひとつ見落とした ---------------------------- [川柳]雑句(2007-06-27〜2007-07-18)/若原光彦[2007年7月19日19時53分] ・2007-06-27 みみたぶが東海道をつかまつる 石橋を渡ったあとで叩き割る 挨拶が済んだ途端に落とされる ワカバラじゃないので席を立ちません 青からず赤からずして好画題 とつぜんの尿検査にもちゃんと出る ラケットで寒天の玉叩っ斬る ウエディングケーキが熱で溶けている 印度から上陸本場加齢臭 抜けた毛を必死になって植え戻す 西部から浪速商人やってくる まるですね丁寧に言やおまるです 人魚ですまちがえました魚人です 将軍のごほんも前は隠します 亀ガメラ恐竜ゴジラ俺ミイラ ちくわ部はどんな大会あるでしょう ・2007-07-01 ひとやすみする場所もない虹の橋 二つ傷ひとつを対へ移したし 利き腕の後天性に胸痛む 逃げ出した先はいつでも夜だった りんどうにりんどうのはなみつけたり 信じないものばかりまだ憶えてる 二階からぼたもち月とすっぽんぽん ・2007-07-07 青空に痛いのせいの飛んでいけ ・2007-07-16 投げられた匙をひろって投げ返す 頭ってなんていいものなんでしょう コーヒーとコーヒー味がありますが ガチャガチャにシークレットの父入る あすは晴れときどき内緒なのでした あそこにもお経書いたか芳一よ 産むだけで育てないから花はいい 転校後コールタールを見ていない 過去形で言わない彼の優しさも 日の落ちたあたりはきっと暑かろう 地獄耳地獄でさほど役立たず 目を閉じて日陰にふたつ目を隠す 死んだ彼ばかり好かれていますよね ドナルドに餌をあげてはいけません ・2007-07-18 いい人と思われたのかねこがきた 馬鹿なので馬鹿と呼ばれて振り返る 対義語を求めて勇者旅に出る 心臓も図案のほどに丸くなく 裏切りの前後に文を書き起こす スパイクで知人の顔の影を踏む 折り返し地点と知らず行き過ぎる 外すとき風鈴やたら多く鳴る 名ばかりの会員名簿名ばかりの 落とし穴不発を夜に埋めに行く ---------------------------- [未詩・独白]花/若原光彦[2007年8月24日1時10分] 世界の片隅に咲く花を うつくしいと言うことはできない ぼくはその花を 見たことがないのだから その花自身は なにも語らないのだから あなたが 浮かんでいる雲を見て 自分にも翼がほしいと思うのはいい それを話すのもいい なにかに書いてもいい 絵にしてもいい それのどこが悪いのか あなたはまだ知らないのだから 世界中のうつくしいものを一箇所に集めたら そこが世界で一番 うつくしくない場所になる ねえぼくは 必死でそこへいこうとしてる 誕生日おめでとう でもあなた 家に帰るべきじゃないかな あなたが 子供のころを思って 遠くまできてしまった気がする と思うのはいい それに気づくのはいい 考えてみるのもいい すぐに忘れてもいいし ずっと忘れないでおこうと決めてもいい それのどこが恥ずかしいのか あなたが知らないでいてくれるなら ぼくは あなたに 世界の片隅に咲く花を贈る あなたのために 咲いていました ぼくにはそう見えました 名前をつけて下さい 花を拉致した ぼくのかわりに あなたが その花を見たいと思うのはいい 花の香りを想像するのもいい 花瓶を探しておくのもいい でもあなたが 自分もいきたいと言ったら ぼくは止めるよ そんな花はないんだって言う ---------------------------- [川柳]雑句(2007-07-21〜2007-08-11)/若原光彦[2007年8月24日1時48分] ・2007-07-21 おうさまは裸だぼくも脱ぎましょう 生きている人のものだね神様も 俺の血でいい子を産めよ蚊のばばあ 脱獄のあとでこっそり寝に帰る 行間にアンゴルモアを棲まわせる ・2007-07-22 手品師が鳩もろともに消しまして 中東で油を売っておりました 観覧車ほんじつ二倍まわします フラダンスフラミンゴにはフラメンコ 観覧車あしたは逆にまわります ・2007-07-23 ペット屋にもぐら叩きも置いてくれ ケーキ屋でシフォン論など聞かされる 理髪師の転職先に美容院 バス停でタクシー止めて離脱する 電話機の居留守機能をオンにする 偵察のついでにひとり大をする 父の見るビデオの方が趣味がいい 砂時計一秒用は二万円 プリンタのインクが高いせいにした ・2007-07-28 空港でおもてへ出ろと脅される 宇宙人らしく付け耳しています のび太さん責任とってちょうだいよ もう家に帰りたくないアスベスト ちょんまげの定位置以外日焼けする ・2007-08-01 人気って言っていいのは五人から 新聞に乗ってるタンス韻を踏む 誕生日テレビ欄には赤い枠 ・2007-08-05 天然のすごさが雲を突き抜ける つっこみを急所に受けて死にかける あの月を丸めるだけでヌ億年 ガレージで壊れた兄を組み立てる ハチ公の悲しむべきは犬であり 兄でなく弟でなく居候 極楽は四季がないのでつまらない 我々に含まれている外野席 爆竹で祝えるところあと二発 ・2007-08-07 やあななむいつようみふたひとでなし 空海は哀しからずや鳥の白 ・2007-08-11 蜘蛛に巣を教わっている蟹がいる かきわけて毬藻のつむじ指で押す 牛乳が生き別れした乳母の味 紅白の勝者はやはり聞いておく ---------------------------- [自由詩]私が死んでしまったので/若原光彦[2007年12月9日2時55分] 私が泣いている 私が死んでしまったので あんなに手塩にかけて育ててやったのに 小さな頃はあんなに可愛かったのに どうしてこうもあっけない 未来がぱちんとはじけてしまう 私のいないこれからを 私はどうして過ごしてゆけばいい だからといって泣く必要はない 私はなぜ泣いている わからないまま わからないから泣いている 泣けば誰かが助けてくれるものとでも思って 私が泣いている 私が死んでしまったので あんなに頼もしかったのに優しかったのに 形あるものはいつか滅びる いつかはいつでも訪れる こうなることはわかっていたのに わかっていてなぜ泣いている もう誰も私を守ってくれないからか これで孤独になってしまったからか 私が私のように振舞えないからか わからないまま わからないから泣いている 泣けば私も死んでしまうとでも思って 私が泣いている 私が死んでしまったので 私はなんて愚かなのだろうと 私も私も私もみんな偉大だったのに みんなみんな先立ってしまって 私だけが気拙く生きさらばえて もう私は私を慈しまないだろう もう私を尊敬しないだろう 私は私に優しくしないだろう 私を認めないだろう 屑のように扱うだろう 心配しないだろう 私は冒涜されるだろう 私は搾取するだろう どうして私だけが生き残っているのだろう わからないまま わからないから泣いている 巧く泣けば私たちがみんな帰ってくる気がして 私が泣いている 私が死んでしまったので 生き残った私はどんどん泣き方が巧くなる 悲しみ上手になっていく そして悟っていく なんて私は死に易かったんだろうと 私も私も死にたかったのかと やはり私は愚かだった 私たちは愚か者だ だからといって泣くことはない 笑ってもよかった 盛り上がってもよかった 面白がってもよかった ふざけていることにすればよかった なのにこうして泣き続けている わからないまま わからないから泣いている 愉快な私がみんな消えて もう私には泣くことしかできないのか 私が泣いている ついに私も死んでしまったので 私のそばで私が泣いている いつまでもぐずぐずしている 私は私に泣くなとは言えない 何をしろとも言えない するなとも言えない 私は私に何もして欲しくない 私はもう何も望まない 私はいつまでも泣いている このままでは私も死んでしまうなと思う 私は私もやはり私なのかと思う 私もやはり私だったのかと思う 私の気配がふっと消える 私はどこへ行ってしまったのか 私にはわからない わからないまま わからないから泣いている 私はいったい誰なのだろうと呆然として 私が泣いている 私が死んでしまったので これから私は私にならなければならない 私にならなくてはいけない 私の残していった名で呼ばれて 私の使っていた姿をして その負債を知って どうして私に全てが託されたのだろうと思う 私は私を選んだのだろうと思う 私は虚空に呼びかける おおい生きている私がいたら返事をしてくれ 私はここにいるぞ誰もいないのかと叫ぶ 部屋の中はがらんとしている どの方向からの返事もない ---------------------------- [川柳]雑句(2007-09-09〜2007-12-13)/若原光彦[2007年12月13日20時31分] ・2007-09-09 頭脳線ふたつに裂けてゆく体 あっぽうと呼ばれて赤くなる林檎 煙草から目薬にして十日間 この中にまわしを取った奴がおる ・2007-09-12 この家にいつまた春が来てもいい 台風の目はもう何も見ていない 性別を超えた化粧であるべきだ 海で泣き火山で死んでダストレス 光速が目にもの見せてくれやがる ブルマーは二十世紀の遺物です 鼻に付く常識人が板に憑く 仏壇がお気持ちだけを受領する 次はいつ止まるんだろう腕時計 ゼロになる犯罪などは在りもせず 人類はもう充分に強いです ・2007-09-28 ンジャメナと言わせた君の勝ちでしょう 釣針を抜けば語尾上げ魚の口 ・2007-10-03 向日葵の敵ほうぼうに退きぬ 函館の箱の中身は何だろな なにガラの枕か知らず今日も寝る 慣用句辞典のような人でした ルイージの弟達よ今いずこ 禁煙の効果が股にあらわれる じっと手を見れば指紋で目を回す 水かきが邪魔で指輪ができません 怒らんと言った自分に腹が立つ 先生はチョークの無駄が多いです ・2007-10-07 ゲシュタルト崩壊してる天皇家 恥ずかしい柄のテレカは早く減る きみに屁を聞かせるために芋を食う かまくらのなかは鎌倉時代です ・2007-10-13 サザエさんみたいな国にさようなら ピノキオは愉快に暮らしましたとさ その首の喉笛おれが吹いたるわ それ以上言うなフラグが勃ちそうだ ドーナツの穴あ食ったと思いねえ だがしかし私はしゃべる馬のエド ・2007-12-13 押入れのにおいがするよドラえもん 純と鈍あまりにすぎているために ガムシロを入れる手前の手を抑え 印刷でモノクロになるなれるきみ A型の血液さえも足りません 実はもうルパン四世なのでしょう ほりいさんぼくのじゅもんがちがいます 我々と言えないでいる我々の ---------------------------- [自由詩]プロパゲータ/若原光彦[2008年4月20日3時14分] 「何度も言うように   それは私ではないのですけれども    ある方はそれをとても大切になさいます 「何度も言うように   それは私ではないのですけれども    ある方はそれに語りかけておられます 「何度も言うように   それは私ではないのですけれども    ある方はそこに息吹きがあるとおっしゃいます 「何度も言うように   それは私ではないのですけれども    ある方はそれを人生そのものだとおっしゃいます 「何度も言うように   それは私ではないのですけれども    ある方はそれに問いかけておられます 「何度も言うように   それは私ではないのですけれども    ある方はそれに問いかけられておられます 「何度も言うように   それは私ではないのですけれども    ある方はそこから私に興味をいだかれます 「何度も言うように   それは私ではないのですけれども    ある方は私を真似ることからお始めになります 「何度も言うように   それは私ではないのですけれども    ある方は私に支援を申し出られることもあります 「何度も言うように   それは私ではないのですけれども    ある方は私に誓いを述べられることもあります 「何度も言うように   それは私ではないのですけれども    ある方は私に助言をお求めになります 「何度も言うように   それは私ではないのですけれども    ある方は私に希望をお感じになります 「何度も言うように   それは私ではないのですけれども    ある方はそれが私の使命なのだとおっしゃいます 「何度も言うように   それは私ではないのですけれども    ある方はそれを私に代わってお伝えになります 「何度も言うように   それは私ではないのですけれども    ある方はそれをとても大切になさいます」と 「何度も言うように   それは私ではないのですけれども    ある方はそれを自分のことのようにお話しになります ---------------------------- [自由詩]むずかしい散歩道/若原光彦[2008年5月4日20時37分] 糞は飼い主が持ち帰ることになっているので 俺は俺の糞を持ち帰らねばならぬ。 ---------------------------- [自由詩]水の空席/若原光彦[2008年5月15日20時32分]  カメラに向かい  天気図を背にして 「午後から雨になります」  と伝え  小さく頭を下げ  辞表を提出し  その日の午後  先生は雨になった    それは小さな雨だったが  傘を持たなかった者を  したたかに罰した  (私も 彼も)    それは小さな雨だったが  だからこそ跡に  くっきりと虹を残した ---------------------------- [自由詩]モニタリング/若原光彦[2009年2月19日0時14分] 俺一人なら 太陽を 片手で隠すことができる 誰の眼も 塞がずにだ 暗くしてよ あんたに この入れ墨を読まれたくない 値打ちのねえ 光が 一字一句を書き移す そのたび死にたくなる奴が ここにも居たらしいぜ そこからなら 夜を スイッチを あるべき時に戻してやれる 頼むよ 夢だけ見て 寝てくれないか ---------------------------- [自由詩]若原光彦ではありません/若原光彦[2009年6月18日21時20分]  1 この話は 映像も感情も引き出しはしなくて もしそうなってしまったなら この話はなかったことにする  2 あなたは 私達と呼ばれることを拒むので 私達ではない 私は あなた方と呼ばれることを拒むので あなた方ではない ここには 私達も あなた方も居ない ここには誰も居ない  3 言葉を守るには その言葉を使わなければいい 私は今 この言葉らを殺していくところだ  4 あなたが 何かを求めてここに来たのなら あなたは ここには最後に来るべきだった あなたが もし今最後なら あなたは ここにしか来る場所はなかった 私は 最初から最後なので 私のいるべき場所にいる  5 あなたがここにいるとき ここ以外の場所に あなたはいない あなたがここにいないとき あなたは ここ以外のどんな場所にも存在できた あなた方は ここに あなた方を連れてくるべきではなかった 私は 私を逃がしてきている ここ以外の全ての場所に この話をしていない私がいる  6 私達は 誰もが私なので 私は私達のなかで 私を保つことができない あなた方は あなた方でひとつなので あなたを保つ必要がない むしろあなたがいないことを そうあなたあなただ あなただよと 呼ばれないことに満足している あなた方は あなた方のままで居続ける幸福を 守ろうとしている  7 どこかにいる私は 夢を見ている 私がどんな夢を見ているのか それはあなた方にもこの話にも関係がない 関係がない という事実のみが この話に関わる  8 この話には 終わりも始まりもない あってはならないが もしそうなってしまった時は 消えてしまったあなたと 生まれてしまったあなた方と 生まれてはいけなかった私達と ここにはいない私へ 繰り返されるものとする  9 この話を理解するには この話を知らなければいい 今ここで 私だけが この話を聞く立場にない ---------------------------- [自由詩]スクレロフォビィ/若原光彦[2009年8月23日21時25分] こういう場所に来ると スクレロフォビィによく会う スクレロフォビィが いちばんいなさそうな場所なのにね なぜか集まってるのは スクレロフォビィばっかりだったりする    * 私達が 全てと呼ぶもの それが私達の全てだ 私達には とんでもない力がある その程度だ    * ねえスクレロフォビィ こういうの知ってるかい 人間の体の70%は 水でできている でも水じゃあないんだよ それは水とは言わない 人間の体の70%は水でできている なんて言う人は 人間より水のほうがきれいだと思ってる ま たしかに 水はこんなこと言わないもんね 人間が 増えすぎたんだ それは自然なことだよ    * あらゆる生きものの死因は たったひとつしかない 取り返しがつかくなったからだ あなたの父は 母は 取り返しのつかないことをした いずれ死ぬだろう あなたも 取り返しのつかないことをしている    * ねえスクレロフォビィ 僕たちは ほかの生きものを食らって生きてる それはいいんだ 人間だって生きものだもの そんなことが言いたいんじゃなくて そうじゃなくて あのさ 神さまは 何人ぶんの命でできてるんだろう どうして誰もこのことを言わないんだろう きみはどう考える 僕はそう思うね    * 世界じゅうの いい匂いがするものを集めて 香水を作ったんだ ごらん それがあの茶色い うんこなんだよ 私達は みんな危険で それなのに私達が平然としていられるのは 私達が 危険だからにほかならない    * スクレロフォビィ 僕はね もっと鈍感になりたかったんだ でもそんなふうに考えてたのは 僕が鈍感だったからって気もするんだな スクレロフォビィ 教えておこう きみは病気だ スクレロフォビィは病気だ    * 全ての痛みに効く 痛み止めはない そのことが 私達の痛みをやわらげる あるいは深める あなただけが辛いのではない あなたはひとりではない それ以下だ どうでもいい人なんて この世のなかにひとりもいない だからあなたのことはどうでもいいんだ    * ねえスクレロフォビィ 僕たちは 数に数えられない はっきりしてるのは はっきりしてないってことだけだ スクレロフォビィについて書かれたものはたくさんあるけど それはみーんな 何がスクレロフォビィでないか いかに誰しもがスクレロフォビィか ってことを書いてるだけだ そしてそうやってくとね スクレロフォビィなんて どこにもいなかったんだってことになっちまうんだよ いつか きみは忘れるだろう スクレロフォビィとは何なのかってことを どこかに誰かがいないなら その誰かはどこでどうしてるのかってことを いないわけじゃないんだってことを スクレロフォビィ 今を憶えておくべきだ だってきみはいるんだから    * 私達が問題にしていること それは問題だ 私達が問題にしていないこと それも問題だ 私達には問題がある でもそれは 誰の問題なんだろう 私は問題になどしなかった 私が問題だったから 私が問題になっていたとき 私はそこにいなかった だからそこには 何の問題もなかった このお話は次のように書き出されている これは 言葉ではない 言葉の問題だ たとえば たとえない ---------------------------- [自由詩]かいそう/若原光彦[2009年10月9日22時36分] 俺は夜道 コンビニからの帰り道 考えごとをしながら歩き 歩きながら考えごとをし メモを取ろうとふと立ち止まり ああ手帳は 置いてきたのだったとふと 星のない空を見上げ 生気のない壁を眺め 振り返るとそこには 俺がしまったという顔で立っているのだ だが俺もどうせ しまった畜生といった顔で 振り返っているのだろう どちらともなくにやにや笑いを浮かべ ごみはごみ箱へという標語がなぜか頭に浮かび 俺はぷいと前を向いて歩き出す するとそこには しまった畜生といった顔をした 俺が振り返っているのだ なんてこったよわかっちゃいたがと 笑いを禁じえず頭が痒くなり もじもじとしていると 俺はぷいと前を向いて すたすた歩き去っていくのだ そうだろうともそうだろうとも そうでなくてもそうだろうとも どこか遠くで救急車のサイレンが聞こえ 地平線の斜めうえ 満月へ向かう秋月が眠そうに膨れ 最後に泣いた日から 随分と掛け替えのないことをした 俺はもう家に帰っているだろうから 俺ももう家に帰らねばなるまいよ 考えごとは 皆で考えたらよかろう あと一周 あと一周だけしたら お前たちも帰ってくるがいい ---------------------------- [自由詩]途方へ/若原光彦[2009年12月10日20時01分] いつか この空に 熱い虹をかけよう お前には 手紙をあげよう いつかお前が 書くはずだった手紙を 銃口が 火を吹くと 我々は喋りだす いつか この空に 熱い虹をかけよう お前には ソースを塗ってやろう たっぷりと 両手には いっぱいの日付けを乗せて 銅が 熟れて行く みなぎれば夕暮れ 十本の指で 掴むのかね 靴底を いつか遠い 道を轢き殺すだろう お前も 我々も かたくひきしぼった あの山々さえも ほうら お前があがくと 宇宙がよろこぶ いつか 人のなかに あしたを殴る滝をおとそう お前には 頑丈な歌をあげよう お前が すっぽりと入る からっぽの歌を 視界 いっぱいの 触れられぬものを添えて ---------------------------- [自由詩]ピチカカ反応/若原光彦[2010年6月27日17時24分] PART ONE 馬鹿に屁理屈は効かない………………………………… 9 セメントの唄を歌いましょう…………………………… 20 汚いのはだれ……………………………………………… 35 気体はどこまで入り込む………………………………… 44 折りたたんだ手を伸ばせ………………………………… 61 紙飛行機を常備せよ……………………………………… 68 カメラを向けてはいけません…………………………… 80 そして調書に書かれる…………………………………… 92 素数は乱数に見えやすい…………………………………107 ジャングルの中で月面を思え……………………………126 消費は物語ではない………………………………………134 質を蓄えて…………………………………………………148 PART TWO 最後の一日の最初の一秒…………………………………161 壁を使え……………………………………………………172 ガムがないならケーキを食べよう………………………186 愛していたらできないこと………………………………201 八千万分の一または五……………………………………214 経典を読んだらもう教徒…………………………………229 賢者は近道していった……………………………………247 テーブルかそれともステージか…………………………263 尻が隠れる前に尻尾を切れ………………………………275 もしも偶然が続いたら……………………………………288 ユニプット…………………………………………………299 PART THREE 名前を変えると顔も変わる………………………………310 上手になりたきゃ楽譜を見るな…………………………329 シフトを組んでトンネルを掘れ…………………………339 本物の証明書は偽者のためにある………………………352 光は入れる場所……………………………………………365 青い鳥の卵が青色とは限らない…………………………377 ヒーローを消費せよ………………………………………388 続いてのお便り……………………………………………402 知らないやつらは悲しまない……………………………411 PART FOUR プラグを抜く前にしておくべきこと……………………426 星をちゃんと使えたなら…………………………………438 告白は後にしろ……………………………………………451 コスチュームとユニフォームの違い……………………463 質的優位はすぐ陳腐化する………………………………481 よくも言葉にしやがったな………………………………498 切られた梯子………………………………………………516 百分の百またはゼロ分のゼロ……………………………526 一発残せ……………………………………………………534 ピチカカ反応………………………………………………550 許可の要らない方法で……………………………………566 同じものなどない…………………………………………579 ---------------------------- [川柳]雑句(2007-12-14〜2010-01-26)/若原光彦[2011年1月5日19時47分] ・2007-12-14 西口のトマソン前で待ってます 妹が重いりんごを食べている 胡蝶骨はばたき呼べよテンペスト 自分より小さいものとやり合うな 石はまだ鮎を守っているかしら 桃太郎一人で行けばいいのでは 著作権だけじゃ操を守れない 笑えない喜劇のために顔を塗る ・2008-03-03 なめくじに塩ふりたくて科学の子 値段より多少はうまいうまい棒 歯医者から口がでかいとほめられる 乗り降りに邪魔な天馬の羽根を斬る 諭吉さんあなたは誰が好きですか 古本の誤植の良さを買い入れる 海パンを焼いてバターを塗って食う ・2008-05-10 朝顔の演奏法がしりたいな 見たままを書いたと言えど夢日記 朔日をゆすると星が落ちてくる ・2008-06-22 比較から始まるものはもういいよ 墓地までの道たずねれば人逃げる 裁判の愛想笑いの手紙来る 校長の呪いが骨に染みている 禁煙のたびに祖父母が老いてゆく 詫びもなく向日葵がもう咲いている ・2008-06-28 醒めたからいい夢だったようでした 手だけ見て話を聞かぬ占い師 誰の田の誰の蛙の誰の恋 新しい名前のことは言ってない ・2008-07-10 いみじくも香車の前の歩にあらば 降る雨の色予報には出ざらまし 曇天に銀色のもの打ちめやも 亡き人の知らぬ明日を我知らず 去る者に加わりそびれ昇進す 綱渡り用のロープを編んでいる パンのみに生くるにあらずネオソフト さいころの目が閉じたので今日は寝る ヤアヤアと鳴る電話にはもう出ない ・2008-11-11 薬莢を拾いし母校ばかりかな 名前負けする運命の新生児 平成の次は生き抜けないだろう 蠍座が正しく見える星に居る ・2009-10-07 白鳥の影も鴉も黒くあれ トナカイを鹿せんべいでおびき出す 一畳に満たない部屋で尻を出す 日本は筋肉質な土地にある ラーメンの器をかぶる役だった 爆発が芸術だとは言っとらん 規約には死ねと書くなと書いてある 頭からハウリンウルフかけてくれ 服を脱ぐ前に彼女と素手になる ・2009-10-09 新しき酒は新たな胃に入れよ もうひとつあってもいいぞ充電器 手をかけてひねった箇所がぶち切れる 祢宜ケ沢上の女の家に雪の振る ・2009-12-20 首のつく部位をしこたま温める 禁煙で味の変わったハーモニカ 伸びてきた体の先を切り落とす 隣人の改築でもう陽が射さぬ お年玉あげる権利を行使せず アルバムに転職前の名刺貼る 犬用に残したものを食べて寝る がきどもの慰めになれ包装紙 ・2010-01-26 ひもじさにかぼちゃの馬車を煮て食べる 先生も自分の子には難読名 忍法じゃないのがじつに悔やまれる ネクタイで釘が打てると思います ドラえもんのび太のドラミ争奪戦 しってます寝言でぜんぶ聞きました ---------------------------- [川柳]雑句(2010-06-21〜2011-01-04)/若原光彦[2011年1月5日19時52分] ・2010-06-21 西はもう狼走れ西はもう 火縄銃伝えし者は何処で死に 手も羽根も望みて絶えた鳥ありや 肛門のように無口な奴である 悪人を捕らえる奴等さぞ悪し 手放しで喜び落とすものふたつ 歴史から寿命を引いた日に産まれ 爆弾を忘れた罪はどう重い 扇風機くびふるまでの命かな 愛想も袋も要らず釣りくれろ 濡れ鼠禁煙のガム雨の味 漕げば漕ぐほどよく光る帰り道 例文を書く奴ばかりしたり顔 流星も低きに流れ手を伸ばせ ありがとう紙につつんでくずかごへ 涙腺のゆるんだ豆腐四ツに切る ∵ ∴ ∃ ⇒(なぜならば ゆえに 存在する ならば) 愛したりしたら飛行機雲かじれ 猫だってお前のことは知らんじゃい 祈るより誓え誓うよりも動け 心臓のないものばかりBランチ 霊魂の宿っていない爪を砥ぐ ・2010-11-12 改札が開いてお金ならあるよ 空想でいろんなものに角を足す シンプルな問題だから解けないな 海底がよく足裏を刺激する 天罰を嘲った俺に流れ弾 ギロチンでワンレングスに整える 大臣の服は馬鹿でも見えますな ブラジャーの中は冬でも暖かい 絵に描いた餅は焼けても黒焦げる すれ違い通信をしに秋葉原 劣情がスイングバイで遠ざかる 爆弾は爆発までが仕事です 帰る家なくて遠足終われない 嘘吐きは嘘に命をかけている 落ちるたび頑丈になる例の橋 看板に傷増えてゆく通学路 見る阿呆ごとに儲かるワンオーダー ・2011-01-03 隣人の欠席の日の風通し ひとしれず屋上にある雪だるま 機械的作業は機械には出来ず 吐く息の白さの映える黒い靴 何故指輪している野菜室の葱 屁が出ると言って煙草を吸いに出る そういえばサンタがいないままだった あとがきが面白かった105円 均等に太っていったいい夫婦 心配したからなぐさめたりしない 無香料だから罪悪感はない アダルトな楽しみかたが増える箱 脱水に耐えたお前に日は昇る 花あってこその花より団子かな コピー機で増やして使うカレンダー 新聞はおこたの中にありました 漬け浸し揉み踏み濯ぎ色移る ひったてい今すぐ俺をひったてい 大声を出したり出たり入ったり キャンペーン終了記念キャンペーン 今買うともれなく当たる付属品 左利きだと思われていた彼女 乾電池抜きの暮らしに戻れない 気球から小便をする夢を見た 歯ブラシの硬さが妻の気に召さず 影踏みをしながらいつか佐多岬 ・2011-01-04 高校も組み体操の下のほう 手を入れて引き抜けたなら腹の虫 左手で鉛筆削る右で書く 宇宙から帰ってきたらひとっぷろ 食欲がなくてもかかる食料費 新橋でサラリーマンを撮る作業 駄菓子屋の売れ残ってるフラフープ また何か隠してますねお医者さん 地縛霊ですねですかねレントゲン いつ来てもよく冷えている聴診器 一二五(こたつ独立国)事件 毛穴からこみあげるもの引っこめる 乙女座の男は悩み乗り越える 国連で歌いたい歌ベスト100 このマンガ描いたのきっと変態だ 手がかりが知りたい夜のカーラジオ 〆切を守れる子から伸びていく ---------------------------- [自由詩]たわしアーキタイプ/若原光彦[2017年11月13日19時04分]  惣菜売場に、大量のたわしが売られていた。欲しいぶんだけ各自で容器に取り、レジへ持っていくと、個数に応じた値段が求められる。それらはじゃがいもを茹で、潰し、丸め、ころもを着けて、油で揚げたものであって、それはたわしではない。たわしは食べ物ではない。あれはたわしではない。あれは、ではどうして、手書きポップにもレシートにもたわしと書かれていたのか。  帰宅し、メモ用紙に、たわし、と書いてみた。平仮名で書き、その下に片仮名で書いた。さらにその下に、レシートにある印字を、図案を模写するように、きっかりと書き写してみた。それらを上から順に、声に出し読んでみる。たわし。たわし。たわし。なぜこれでたわしと読めるのか。私にはわからない。  風呂場へ向かい、我が家のたわしを手に取った。そうこれがたわしだ。いわゆるたわし、本寸法のたわしである。ものを洗う際にこすりつけて使う。なぜ。こんなもので板をこすれば細かな傷がつくし、布をこすれば繊維を痛めるに決まっている。ではこれは、なんだ。  風呂場の鏡を一瞬、巨大なたわしが横切った気がした。こわごわ覗くと、当たり前だが私が映っていて、私の頭をたわしが覆っていた。違う。これはたわしではない。もちろん食べ物でもない。これは人の頭から伸びている、毛、そう毛の集まりなのであって、洗い物に使う道具ではない。じゃがいもの茹でて丸めて揚げたものや、頭の毛の集まりは、たわしではない、が、人はそれをたわしと呼ぶ。いつから。どうして。  居間に行きテレビをつけた。いろいろな人物が画面に映る。その頭にあるものは、やはりたわしである。あれらをなんと言うかと人に訊けば、たわしだと言うだろうし、私もそう言うだろう。あれはたわしではないのにか。  そうだ辞書だ、と思い立った。辞書に手がかりがあるだろう。棚から取り出し、ページをめくる。たりき、なあに、たわわ、たわみ、あった。たわし。名詞。たわしのこと。  和英辞書ならどうだ。たわ。た、わ。あった、たわし。ティーエイ・ダブリュエイ・エスエイチアイ。tawashi。確かにたわしは、たわしなのであって、ほかに言い様はない。確かめるまでもない。  ふと自分は、一体なにを、なんの役にも立たないことでせいているのだろうかと、無惨な気持ちが襲ってきた。たわしに疑義を唱えているのは世界中で私ひとりだろう。こんなことは誰も考えても望んでもいやしない。たわしと呼ばれるものがたわしと呼ばれていて、それでなんの不都合がある。たわしはたわしでいいではないか。  そんな筈はない! 遠い未来か別の宇宙か、きっとどこかにこの話の通じる世界がある筈だ! そこではたわしとたわしでないものが明確に区別され、そのことでたわしもたわしとしての尊厳を大切にされ、人はたわしに限らず多くの物事をより賢明に捉え敬っている筈だ!  だがもしそんな世界があったとしても。そこでも私は別のなにかにいきり立っているだけではないのか。別のなにかに。 ---------------------------- [自由詩]フォッサマグナ/若原光彦[2017年11月13日19時05分] 出したい 出したい 口に出したい いま声に出したい フォッサマグナ 意味も いわれも てらいもないさ ただ刹那に 発する フォッサマグナ どこにいるのか オレゴン州 もえろ 深紅の ゼラニウム 飛びたつ イスラマバード くらえ 大腸菌 つぶやくつぶやくつぶやくつぶやく ブロックされる 無教養 不寛容 お空に太陽 かなしいかな 甘い罠 デュラムセモリナ ジンクピリチオン ピカデリー ひびくだけたマシーン 含み損 エンパワーメント カニバリズム アフォーダンス アルルカン キャピタルゲイン プライベートバンカー オクタン価 プラスドライバー フォンドボー ---------------------------- [自由詩]光の海/若原光彦[2017年11月13日19時05分] 「だいぶ明るくなってきたね。  やっと車幅灯が消せるな」と私が言う。 あなたは「消さないほうがいい。  朝夕の時間帯がいちばん事故が多いから」と言う。 「なら消さずにおこう」と私は言う。 だからってわけじゃないが 「すこしどっかで止まって休みたいな」と私は言った。 あなたはなんの思い入れもないみたいに「さんせい」と言った。 さんせいみたいに聞こえた。 車から降りて 私が背骨をひねっていると、 あなたがふいに 「星が見える?」と言った。 「もうこんなに明るいんだから星は無いよ」 「ちゃんと探した?」 「いや」 「あれなんだけど」 とあなたがさした東の方角に、 明星が たしかに残っていた。 「よく気づいたねえ」 「慣れてるから。この時間帯に。  みんなちょっと明るくなったり、雲があったりするだけで、  もう星なんてないと思っちゃうんだろうけど。  知ってるからね。知ってれば見えるよ」 と言ってあなたは、 満足そうに口角を上げた。 あなたが得意げなので、私はひそかにうれしい。 「なるほどね」と感心を口にして 私が目線を空に戻すと、 そこに星はもうなかった。 「手品みたいだな」と私が言うと、 あなたは「見えなくなったの?」と言った。 私はおどろいてたずねた。 「あなたには、まだ見えてるの?」 「見えてる。ひとの目はひとによって違うからね」 「なんだか、損だな」 「損得じゃないでしょう。  わたしだってもう1分ないぐらいで見えなくなると思うよ。  いまにも朝日が昇りそうだし」 無言でふたり、 東に向かってぼうっと立って、 空をながめて、 そのうちあなたが「うん、見えなくなった」と言った。 「そう。行こうか。  それとも日の出も見てく?」と私がきくと、 あなたは「どっちでもいい」 とほんとうにどっちでもよさそうに言って消えた。 ---------------------------- [自由詩]どうぞお食べ/若原光彦[2017年11月14日19時15分] わたしはきみに 食べものをあげたい それもできるだけ おいしいものを選んであげたい おなじ食べものなら おいしいほうがいいもの すこやかなカラダに役立ったり 役立たなかったりしてもいい きみはわたしの子供ではないのだけれど またわたしはきみに 便利なものをいっぱい知らせてやりたい 便利なものは便利だから むずかしいことが簡単になったり つらいことがラクになったり 気もちわるいことが気もちよくなったりする なにより便利なものは 使わないとしてもいじくりまわしているだけで 日が暮れてしまったりする そしてきみは 銃にたまをこめる わたしはきみに その引きがねを引かせてあげたい きみがそうするしかないとか そうしたいのだとかであれば そうさせてあげたい そしてわたしはきみ以外のだれも きみを止めたり追いかけたりするなと言おう そんな認めは出ておりません 逆らわば罰します ひとりも動くなと わたしは神ではないのだけれど それでは とひとだかりのひとりが言った あなたはいったいなんなのですか 配達夫です あまねくお伝えごとを 持ってまわっております それを聞いていたきみが ひょいと飛び出してきて言った わたしもなれますか わたしも配達夫になれますか なれますよ 配達夫になんて絶対ならないと つよく思い続けていればね ---------------------------- [自由詩]ぬ/若原光彦[2017年11月17日18時38分]  私の仕事は「ぬ」である。  なぜ「ぬ」が「わ」だの「た」だの「し」だの「の」だの「こ」だの「濁点」だの「と」だの「は」だの「かぎカッコ」だの使いやがるんだ、とおっしゃるかもしれないが。それは貴方にしたって同じではないか。貴方は全ての言葉を使うことができる。  何を「ぬ」ふぜいが生意気な、一緒にしてくれるんじゃないよ、とお思いだろうか。それならそれで仕方がないのだろう。私は「ぬ」である。私がいなければ、沼も、塗り絵も、ヌートリアも、アフタヌーンティーやベルヌーイ、イヌイットやカリブルヌスも存在できない。だが、それに感謝する者が果たしているか。いやしまい。それでいいのだ。私達のなりわいとはそういうものだ。  もちろん個別によるところはある。「あ」や「い」はその存在感たるや著しい。タ行の連中もサ行の連中も、その仕事量は尋常でない。またハ行に一目置かれるのももっともなことだ。彼らにはそれだけの華と、個性と、なによりニーズがある。「ぬ」にはない。  貴方がたが、たかが「ぬ」と思う、それは勝手だ。お前なぞいなくても、ウェヌスはビーナスとして通用するし、むしろお前がいるからボツリヌス菌もあるのだと、そう思うならそれも勝手だ。私にしてみれば、かような時期はとうに昔だ。幾ら蔑もうと自棄を起こそうと、私が「ぬ」である事実が変わるわけではない。  私の仕事は大半が否定の末端である。ならぬ。たりぬ。せぬ。こぬ。どちらかといえば気の重い役目だろう。「ない」や「ず」では勤まらないケースが私に回ってくる。そして私がとどめを刺すのだ。問答無用に撥ねつけるように。ひと文字「ぬ」と言うとどうしても気の抜けた印象を持たれがちだが、実務はいつも厳粛だ。  もちろん「ぬ」の出番が全てが暗い役目ばかりというわけではない。絹のあるところに私はいるし、私なくては絹も成り立たない。シルクと呼びたければそうするがいいが、それで絹の何が揺らぐわけでもないだろう。  ことは私だけではなく、それぞれの仕事で皆それぞれにありうる。たとえば「ん」は「ん」なりに、自分を抜いては腰砕けだと自負しているかもしれない。「と」は「と」として、安易な登場をしぶしぶこなしているのかもしれない。しかしそれもまた勝手な考えだ。私が思うに、消えていったものもいるなかで、ただ残るものが残るべくして残った、それだけのことなのではないか。 ---------------------------- [自由詩]あかいてのまあち/若原光彦[2018年3月3日7時40分] さんがつのあきのかぜ さんがつのあきのかぜ さんがつのあきのかぜ さんがつのあきのかぜ さんがつのあおいそら にくらしいえりくび とり いきているとして すとうぶ もやせ くえ いいから うまわれたのだから さんがつのあきのかぜ さんがつのあきのかぜ さんがつのあきのかぜ さんがつのあきのかぜの さんがつのいいほね かわいいおほね すべらないしまじま いわえぬものへ いわ ふゆよまたこい ものわすれのはげしい ぼくのため えしをかりとれ でんわ なれ しんぶん つまれ てがみ とはえ だいどころ ものおけ なつ か しぬな さんがつのあきのかぜ さんがつのあきのかぜ さんがつのあきの さんがつのあきのかぜを さんがつの はな ぎりぎりまで かみすすらえ うずかえ さけ くだけちれ とおれ ---------------------------- (ファイルの終わり)