唯浮 2005年9月22日18時40分から2013年11月21日22時19分まで ---------------------------- [自由詩]卵の憂鬱/唯浮[2005年9月22日18時40分] たゆたふ明日にさようなら 今宵の星にお辞儀する 母上は魚を捌き 父上は機械を解体する ワタクシは殻と戯れ幼児退行 「この球は割れないよ」 小さな赤子の澄んだ眼に 穢れを知ってさようなら 「今から何処にゆかれます?」 たゆたふ今日は明日に続く 寸詰まりの時間枠 呆れて間延びする御面 ワタクシは殻が破れてどろぉりどろり ---------------------------- [自由詩]宇宙鳥/唯浮[2005年9月23日4時00分] いつか食卓に青い鳥 それは一羽で充分過ぎる メインディッシュは程遠い 一体何羽を食したか 前菜鳥 前菜鳥 前菜鳥 カリカリになった白い骨 ただ白き色をしゃぶる日々 いつか食卓に青い鳥 それは一羽で充分すぎる 二つの意思が反発し 今宵も腹の宇宙は伸縮する 青い鳥 青い鳥 青い鳥 その蒼き羽を宇宙に沈めよ 満ちては欠け欠けては満ちる デザートは別腹ゆえ御安心を ごちそうさまでした… ---------------------------- [自由詩]灰被り女/唯浮[2005年9月26日4時11分] 0時はとっくに過ぎたとさ 枯葉の筋に老いを知る 彼はグレーの服ばかりを着る そして私はシンデレラ 王子様には成り切れない 名は?みゅんひはうぜん? 嘘の上手いガラスの靴 大根足は入らない 入るのはヒビばかり      過ぎ去りし夢の日々… ---------------------------- [自由詩]ふらすとれーしょん/唯浮[2005年9月27日4時05分] 波紋の中に波紋あり 中心で蠢くものを鷲掴み 掌で光合成するツートンカラー 「モチベーションは何ですか?」 頷く森の梟よ 私は首が回りません ---------------------------- [自由詩]小人の叫び/唯浮[2005年9月28日4時49分] 賑やかなるは人の群れ 震える瞼は今何処 卓上実技の儚さよ 脱力演技の獏が云ふ 小さき戸口の優しさに 独りぼっちの眼球と 手に手を取りて 試作の詩作に思索する ---------------------------- [未詩・独白]白き腕/唯浮[2005年9月30日2時26分] サロメは報われない恋心を抱いていた預言者ヨハネの首を欲したが、 私は彼の腕を欲す。 その腕の白きこと蝋を塗りたるが如し。 繊細なる指から零れ出づるピアノの音色。 彼の全てが欲しい等とは言わぬから、せめてあの白き腕だけでも…。 そう思うことは罪なるかな、罪なるかな…。 ---------------------------- [自由詩]秋の口笛/唯浮[2005年9月30日16時00分] 空に唸るは誰かの口笛 いづれの日にか朽ち果てる 転がる銀杏のお誘い文句 「さぁ選び取れ!幼子よ!」 静かに身を横たえて 排水溝が今宵のお相手 疾走する虚無たちよ 口笛なんぞは助けてくれない ---------------------------- [自由詩]夜に啼くは…/唯浮[2005年10月2日1時27分] 月が回って溶けてゆく オレンジ色の火花を散らして バッハ『インベンション第13番イ短調』 堕ちて行くのは君の声か私の声か 螺旋階段の果ては無く 「何故手を離したの?」 折り重なる指と指 パラボナアンテナの焦点に 幾重にも幾重にも幾重にも 「ここは暗くて冷たいの…」 か細き声が… 月は回って溶けてゆく オレンジ色の火花を散らして 夜の焦点はきっと私の胸の中 螺旋階段が閉じ込める ---------------------------- [自由詩]ココロノ?ドク?/唯浮[2005年10月3日4時01分] 心の海は ?ジエチルエーテル? 醜い嫉妬は ?火打石? カチリカチリと… 追い詰められた 時間は短い 導火線 軽い火傷か 重症か 逝くか堕ちるか還るのか 粉々に散ってゆくのは… 「       」 取り扱いにはご注意を ---------------------------- [自由詩]ヒトガタ/唯浮[2005年10月4日3時51分] 棚に飾られた人形 一体全体何処も見てない ガラスの瞳に溜まるのは 精一杯の誇りでしたか? 二十一歳の人型 一体全体何もしてない 粘膜の眼に浮かぶのは 虚勢を張った希望です 対峙する時間の流れは いずれ今を出発点として いつか還って来るのでしょうか? そして衝突するのでしょうか? 人形も人型も難しいことは、 ね… だからこうして ポーカーフェイス ---------------------------- [自由詩]血脈/唯浮[2005年10月5日5時17分] 白い咽喉仏を 伝うものを見ずにはいられず 愛おしければ尚の事 枝葉の若いものは 根っこの存在を感じつつ きっと知らないのでしょう 何を養分に今在るのかを 伝って落ちたものが 今は亡きものの嫌う色で そう、自ら色に塗れたのです 種を残せないのですよ 大木よ、倒れますか? 一枚の若葉のせいで 望み焦がれるのは 地に固まり変色したもので あぁ、それは 夜明けの色に似ているのです ---------------------------- [自由詩]十六の声/唯浮[2005年10月6日6時07分] 彼女は飛んでいってしまった 灰色のコンクリートに 白い羽を数枚残して 夕日目指して飛んでいった だめだよ あまり高く飛んでも あまり低く飛んでも 失墜する ほらイカロスのように 大きすぎる翼を持つと 堕ちてゆくのが決まり 残された羽を胸に取り バラバラになった言葉を 掻き集めて 僕が言えたことは 「さようなら」 それだけだ… ---------------------------- [自由詩]クォーター/唯浮[2005年10月7日17時57分] 切り取られた空を 更に4分割してみると あなた・わたし・からだ・こころ 世界がよく見えてきた 泳げる空と 沈んでゆく空 飲み込む空と 突き抜けてゆく空 ほら簡単 結局ね 私もあなたもバラバラ 窓枠を外して 空に溶け込みましょう 染まず漂ふ 白鳥よ哀しからずや? ---------------------------- [自由詩]真夜中の鬼/唯浮[2005年10月8日3時31分] 初秋の真夜中には 静かな鬼がひそんでいる カラメルの味を口一杯にして ゆっくり天井へと吹けば セピアのまぁるいシャボン玉 鬼は大事そうに掌にのせ 凪に向かって謡うのだ ?天国での罪を今、晴らします? 紺碧の山々を 夜霧と共に撫ぜてゆき 贖罪の波が揺れて 静かな鬼はゆっくりと セピアのまぁるいシャボン玉 飲み込んで咽喉を鳴らす カラメルの味、ただ哀しく… ---------------------------- [自由詩]生身/唯浮[2005年10月12日3時01分] 蝶の軌跡は有刺鉄線か 剥れゆく皮膚を剥れるままに 見るもの見るもの 瞼を伏せ、視線を逸らし、 目を両手で覆いたくなるような 垢に塗れた赤黒いそれ 剥き出したままに 海の風が轟々と 悲鳴は掻き消され 蝶は嗜虐の輝きをもって 飛び続けている 野に牧歌を鳴らす羊の群れか 海に子守唄を紡ぐ人魚たちか 境に立って泣いている 赤黒く腫れ上がったそれ 渦潮の渦に向かって 行方の知れぬ蝶を追う ---------------------------- [自由詩]ソラノハナ/唯浮[2005年10月15日3時18分] 真っ白な紙面に 溶けて流れる 心臓を内側から貫く穴 何億光年もの時 繋がっている 夜空を縫う一筋のレール 賛美歌の音色 安らかな顔をして 真っ白な紙面を 溶けて流れる 一つの星が死を向かえ 艶やかなエネルギー やがてレールを伝って 溶けて流れ込む 暗く漫ろなる胸の内 静かに広がるは バラ星雲 ---------------------------- [自由詩]猫の子守唄/唯浮[2005年10月26日7時52分] 蜜のために眠るストレイキャット 廃墟の揺り篭は懐かしいか チョウセンアサガオは雨に報復を受け 明日は古びたレコード盤のために きっと声を張り上げて歌うのだろうよ おいでおいでストレイキャット 蜜のために眠らずに コンクリートの壁に埋れてゆくな ---------------------------- [自由詩]鶏鳴/唯浮[2005年10月30日21時21分] 反芻する嘴に傷をつけないでくれないか 誰が為に歌っているのでない 鷹になれ!この目! 兎になれ!この耳! 犬になれ!この鼻! 貫く空に顔向けが出来るように 蝙蝠が夜明けを見送って 遥か先の朝を感じ取るみたく 鋭く尖った嘴で 誰が為に歌えようか 傷だらけの蝋燭に揺らめく炎のため 声高に叫びたいのだ! その叫びが歌となってくれたなら ただ今此処に在ることを 素直に受け入れようではないか 感謝の念を抱こうではないか 反芻する嘴だけが知っている ---------------------------- [自由詩]白い音/唯浮[2005年11月2日6時03分] ぼーん ぼーん 内側から鳴り響く 真白いカルシウムの固まり共 ぼーん ぼーん 時を記すのではないのだろうに 余計なものを剥ぎ取った痕 ぼーん ぼーん そこは特に空っぽだから 音が共鳴して抜けてゆくよ ぼーん ぼーん 迎えの合図さ よくよくお聞き ぼーん ぼーん 欲はない あゝ良くはない ぼーん ぼーん 生きていたい! あゝ生き抜きたい! ---------------------------- [自由詩]朝日に窓枠は枯れて/唯浮[2006年1月15日0時18分] 朝日に窓枠は枯れて 錆付いたカーテンからは 夜が死んだ匂いがする 炊き立ての白いご飯が 今日はもう仕方が無いんだよ と生きる糧を与える 箸に摘めるだけの物を 夕餉のために取っておこうか 遠くで寝坊した鶏が ばつ悪そうに提案する 一日は丸い輪っかで それはきっとメビウス 枯れた窓枠に腰掛けて 体内時計の壊れた女が 可もなく不可も無く 幸も不幸も一定なり と言って欠伸をする 床に散らばるロジックパズル 枕に今日の夢としようか 咳をして日常に線を引き こんこんと昏々と 世界が起きて女は眠る 電気の輪や日常の輪 それは天使のエゴだから 女の眠りを妨げる だから思うにだね ご飯の湯気が一番正しい ---------------------------- [自由詩]体内の揺り籠/唯浮[2006年1月25日0時06分] 癒着する襞の呟きに 「寂しからずや」 と夜が往く 薬指は今宵も夢を見れず 「あな哀し…」 と月に憩ふ 胎動することと 何ら変わりは無し 女が腐食してゆく ---------------------------- [自由詩]あを/唯浮[2006年3月4日3時10分] ここにたつあを つれゆくあを すいてもすけぬ ながるるままに こころおきなく こころにもなき ことばをはきて うたはすてよ うらごほし たちかれるきぎ うらさびし はるのめぶき しろをひき くろをひきて さめやらぬは ゆびのさき うちふるえては あををだく とほくとほくへ たちきえるか こころもとなし あけのゆめ ひとたりかわき そこにある ここにたつあを つれゆくあを すいてもすけぬ ながるるままに こころおきなく こころにもなき ことばをはきて うたはすてよ ---------------------------- [自由詩]卵の憂鬱?/唯浮[2006年5月27日23時36分] 卵が割れてまた割れて 中途半端がどろりどろぉり 二進も三進もいかない生 ハウスダストやカビたちに あらゆる雑菌病原菌 もういいから寄生しなさい 変色するほど侵食していい 巣から蹴落としたから 親鳥の羽は疲れてしわしわ 籠の内と外との行き来 見えない空に疲れた寝床 からからに乾いた殻 ぽつねんと転がるがまま 丸まった時間の反復横跳び 陰影の薄い能面 誰かが踏み潰すまで 未練がましい粘着音 王子様を待っている 足跡を付けてくれるような ---------------------------- [自由詩]虚/唯浮[2007年7月15日23時44分] 畳一枚に張り付いた背中 切れかけの電気が最後の瞬き 嗚呼…お前と心中しようか 死ぬ時は誰でも独りだって そうは言っても寂しいんだよ 大きな揺れを期待してみるも 窓ガラスは微動だにしない 無風で乾いた笑みも霧散して 疲れた目玉の円運動 見栄を突き出した双丘 いっそ誰かにくれてやろうか おもいどっしりとした何か 圧し掛かる巻きつく剥がれない 切り取るとしても畳は凹むまま 魂の重さは21グラムだったか ちっとも軽くならない重み 変わらず抱える気だるさに 変わらぬ染みついた尊さよ 騙し騙しの息継ぎをして 天に背を向け仰向けて 生ある限りに生きてゆく 虚生を張って生き抜いてゆく ---------------------------- [自由詩]点人/唯浮[2007年11月3日22時38分] 時を巻戻すのは 解せぬ言葉 時を先送るのは 返せぬ欲望 消えない内に 証明したくて 見えない儘に 軸から外れる 隙間に伸ばすのは 足か手か 糧も枷も得られず 目眩き廻りて ---------------------------- [自由詩]実守る日々/唯浮[2008年7月14日0時28分] 葉に翳る白桃の 香に透き通る憂い 青く伸びやかに 移ろう若き眼よ 白墨の粉に指を染め 唇は今日も弛緩する 午睡の夢に残り 紙の切れ端に 忘れんとする戸惑い まだ熟れぬ実よ 涼やかに飲み干せよ 湧き出づる内 思惑のまにまに ---------------------------- [自由詩]題名/唯浮[2010年9月23日22時46分] 題名は最期につけましょう 果たしてそれすら叶うか解らないけど 言葉として形を得れるか解らないけど 残したい 概念としての存在ではなく きちんと具現化をして たとえ 他人の言葉が彩って 一人歩きをしたとしても ほんとうを私が知っていればいい そして 恐れられたり 愛されてみたり 忘れられたり 思い出されたり 無題でもそれが題名であるように そっと 私だけが 最期につけましょう 原点へと戻るために ---------------------------- [自由詩]シンダーガールの目覚め/唯浮[2010年10月1日15時33分] 主の居ない壊れかけの蜘蛛の巣に わざわざかかった薄茶の蛾 そこに光でも見えたのかい でも人工的なものなんだよ ごらん、あれが唯一のものだ 電線が張り巡らす中 四角い結界にみっしりと 埋まっている 斜に傾いた半月 ごらん、あれが無二のものだ かかるべきは此方と彼方 吸い寄せられて見失わず 視線が邪魔だったか 悲しい束縛にホームのイスが 無人を告げても時遅し 来るべき時に来た列車と 自分の信じた安全圏 境目がぱっくり開けた黒い口 よく言われていたっけな 幼い頃から野良猫に 落ちるなよ  足を踏み外すな   よく足元を見よ この目玉の奥の部屋に しっかりへばり付いていたけれど 嗚呼、落ちてゆきました 幻想即興曲を弾いた時の靴 片割れだけが吸い込まれて 上やら下やらへの 疑問符を押し込めた鞄 ネクタイの長さを 気にしている中年男 適齢期が埋もれている 洗濯物の制服の皺 汗ばんだ腋の下を 気にしている若い女 其れ等が押し込められた中に 自身も押し込められて 残った靴で裸の足を そっと後ろに隠す 誰彼も己のみが唯一無二と 醸し出された違和感やら 全くもって見えないらしい そんな彼等に只今 瞳に映っているであろう光は 人工的か否か 列車は明るく照らしてゆく 海苔のような田んぼの群れ そうだ、これがありふれた風景だ 黒地に灰色の縞々模様 混沌としていて悠然としている 未だ足を守っている靴 忘れようとするだろう 捨てられる運命ならば 境目に取り残された靴 そうだ、これがありふれた日常だ 踵を返すまでもない 非日常に逆行したり 抵抗して揺れている贅肉たち そうか、それらは予期せぬ現実か 朝焼けの中ですぐに見つかった 孤高に限りなく 確信に到った自身で 片割れの靴、ぽつんと 毅然と変わり果てて 野良犬にも見捨てられていて 安全圏の舞台から飛び降りる 風の青色と見守るレンガ 一緒になって胸に抱き上げて 美しい靴を黄色い線の内側に そっと儀式的に置いて 履いてみるずたぼろの靴 そうして 嗚呼、漸くの事 私は唯一無二 隅々まで満足した ---------------------------- [自由詩]思考の公園/唯浮[2010年10月4日22時46分] 大人はうそつきだから 子供の反論はそれです 二つの間を 誰も座っていないブランコが きしきしと ぎこちなく ざわざわと せわしなく さらなる高みを目指そうと 宙をくるりと回りたくて はがれて落ちる青いペンキが ぱらぱらと たえまなく くるくると あどけなく 私の顔にかかるので 砂山を作って埋めました 疑問符や感嘆符の団子玉と これで寂しくないんだよと だから早速のこと 建前のスコップで 本音のトンネルを 掘り続けてみましょう 伸ばした指先と指先が 触れ合った感覚 きっとそこにこそ あるのかもしれません ブランコで宙を回った心地が ---------------------------- [自由詩]路程/唯浮[2013年11月21日22時19分] 血潮の騒ぐまま 夜の徒然なるままに 繰り返す螺旋の疑問符 指でなぞる唇が冷え切って 斜め上を見やってみる 月と自分と枯葉の声 教えてほしいのは 問いかけてほしいのは 答えを知らぬふりをする 一つ目の角を曲がり 二つ目の角を曲がり 今では幾つ目なのか もうそろそろ直進しても 妥協する肩を抱きしめて 嘯く道を誘われるまま 頬伝う潮のままに ---------------------------- (ファイルの終わり)