ty 2005年1月30日0時43分から2012年3月26日1時52分まで ---------------------------- [自由詩]春(その5)/ty[2005年1月30日0時43分] ライトアップされた満開の夜桜は どこか 厚く化粧をした 美しい女を思わせ その穢れた美しさが 夜の闇をいっそう暗いと想わせる 赤いぼんぼりが 点々とぶら下がっている 風に揺れ 大きくなったり小さくなったりにじんだりする 赤い光 人は邪悪な動物だと ヒステリックに そう想う 春の夜 ---------------------------- [自由詩]熔ける夕ぐれ/ty[2005年2月9日2時31分] 夕ぐれの 青とすみれ色が 熔けて混ざり合う 冷たい熱 夕ぐれが沸騰しているのだ 夕ぐれは 物体だったのか? 突然 ここがどこなのか わからなくなった 私 ---------------------------- [自由詩]鳥影/ty[2005年2月11日0時58分] 鳥影は かなしくさせる 水辺で 鳥影を目で追う 目の動きだけがあり もう鳥影をみていない その向こうの そのまた向こう 考えのたどりつけない 向こうを 見たいと願う ---------------------------- [未詩・独白]untitled/ty[2005年2月24日19時45分] ものごとに集中できないのは この世の外の亡霊が ドアを叩いているからなのか 背を向けたドアを 激しく 静かに 叩く 海鳴りのように そんな亡霊は本当はいない それは私の欲望の亡霊 形のとりようもなく さまよう ---------------------------- [未詩・独白]RIVER MAN(Played by Mehldau)/ty[2005年3月4日17時17分] 川はざわめく サイダーの泡のように 流れとよどみ くるぶしまでつかって やってくる 男の影 不協和音が ざわめかす アンビバレンス どこかで いつも見る あの男 黒い人影 知り得ない人 不協和音が かきたてる 無から有を 流さなかった 流すはずのない 涙を 不協和音が 垣間見せる 光をはらんだ雲の 空の果てを ---------------------------- [未詩・独白]愛について1/ty[2005年3月10日22時54分] 愛 だなんて まやかし 手垢にまみれた言葉を 思い浮かべながら 使い古された言葉の 無意味さを 苛立ちながら (煙草が苦い) 窓 ガラスに雨跡 曇り空 下方に 錆びた青の 荒れた海 (プランクトンに 愛はあるのかな) 波が砕け とけあい 幻のように 明滅する その夢幻の 反復 ---------------------------- [未詩・独白]愛について2/ty[2005年3月10日23時18分] お互いの 眼球に映る 自分の姿に ほほえむ くちびるをゆがめ ほんとうは 私はあなたではないから あなたは私ではないから 憎んでいるの 時々つねりたくなるのは そのせい ハートに ピストル型のくぼみ 何かの跡かな 遠い昔に 何かあったのね きっと ---------------------------- [未詩・独白]ジム・モリソン/ty[2005年3月12日13時43分] ジム・モリソンは 私の ネガティブなスター ドラッグで死んだから 昏い目をしていたから 死は怖い 私は臆病者だから せいぜい アルコールの海で 泳ぐくらい 死なないように 浮輪につかまって 血の海が くるぶしまで ひざまで 胸元まで 満ちてくる 怖い やっぱり私は 浮輪につかまって はなうたまじりに マクドナルドまで 泳いでいこう ---------------------------- [自由詩]リアル ワールド/ty[2005年3月23日1時51分] どこにある リアル 北朝鮮で 執行される 公開処刑 光の中 子供の 無邪気な 笑顔 倒産や自殺 猫が伸びをする ファンタジーとリアルの モザイク 深々と突き立てる ナイフ 流れ出す血は リアル なのかな ---------------------------- [自由詩]ジム・モリソンとマクドナルドで/ty[2005年3月26日12時20分] マクドナルドで ジム・モリソンが お前は何を信じてる? と言った 神か? 魂か? 宇宙か? 自分か? 富か? 名声か? 俺は何も信じてはいなかった いや ただひとつ信じていたのは のたれ死ぬ自分の最期 そう言って ハンバーガーとコカ・コーラを ジムはおごってくれる これは俺の肉、俺の血 だと言って ---------------------------- [未詩・独白]Nirvana/ty[2005年3月30日1時28分] Nirvanaは どこにある Nirvana それは何 無って どういうことだろう 猟銃で 自分の頭を吹き飛ばした Kurt Cobain 彼の歌声が好きだ 迷い子のような メロディーが 魂の端を やさしく捕らえ 落ち着かせてくれる 半分死んだみたいに 有であふれた 快楽と苦の満ちあふれた世界を 水底から 見せてくれる 青いフィルターのむこうに 遠いところに 夕暮れ 薄暗い部屋で 膝を抱えてじっとしていた 子供のころのように 飛び散った 彼の脳髄の中に あるだろうか Nirvana ---------------------------- [自由詩]ブランコ/ty[2006年11月10日1時33分] いつまで揺れているんだろう このブランコ いっそのこと 鎖が切れればいい 墜ちて 地面にめり込んで やっと息が止まる あわいピンク色や水色のブランコ 断ち切れた鎖がからみつく 墓標にも似て 一度死にたい 夢の中では この間お葬式をした ---------------------------- [自由詩]no rules/ty[2006年12月3日12時13分] (昨夜は眠れなかったの) このサバイバル・ワールドに ルールは無い 傷つく 無防備な心こそが罪であるのだ 心を守らないことが 怠惰なのだ (好きにすればいい 私もう知らないよ) 傷つけられたとき 傷つけられた と言っているようではすでに 存在は失われている ---------------------------- [自由詩]存在しない声/ty[2007年12月22日19時15分] いつまでも迷っているのは 今にも耳もとで 判断を下す声を 待っているからだろうか いつまでたっても 聞こえない声 求めても決して 訪れない存在 それは誰だろう ---------------------------- [自由詩]レジスタンス/ty[2008年6月9日1時23分] こぶしを握りしめている 曇天の下 行くあてのない 迷彩柄のズボン 自動販売機と線路 かすかに歪んだ道 降りてくる ゆううつな気分 どこへも行けない 線路沿いの家で 一家惨殺がある 『シャイニング』で使われたよりもたくさんの 血糊が必要だっただろう イッてしまっている殺人者の視線の その先が見たい ---------------------------- [自由詩]夢の中で語りかける/ty[2008年10月6日22時50分] ねえ 世の中のくだらないことごとに ひれふすことはないよ 何故みんなが笑っているかわからないのに わかると思いこまなくていいよ 秘密の石の人形を恥じることはない たとえそれがどんなにおぞましくても 自分の狂気を大事にしていいんだよ 父も母も神も 存在しないんだよ それは幻なんだ お前を殺すことはできないよ お前は今日も街の中で笑っているとき 同時に寂しい川のほとりに倒れていたんだろう 血を流しながら 誰もお前を殺さない 殺してくれはしない そんなのはおとぎ話さ 結末はもっと不可解なものじゃないだろうか 時間がどんどん流れていくんだ ---------------------------- [自由詩]言葉の悲しみ/ty[2008年10月6日23時06分] 現実の錘がついた言葉を手に入れると 笑顔の中に空虚が生まれる 意味という無意味 無意味という充実 立錐の余地は無い 猫の額ほどの地面ならばいらない それはあっても悲しいだけなのだ ---------------------------- [自由詩]青空/ty[2008年10月6日23時16分] もともと 昏睡状態にあることに 無自覚なだけだったのかもしれない スクリーンを流れていく 大きなもの あれが大地だろうか 空中ブランコに さかさまにぶらさがって 考えている ---------------------------- [自由詩]無題/ty[2009年9月18日0時21分] 雨音が わたしの想いを 紫に染めた だから 許される気がした ---------------------------- [自由詩]雨/ty[2009年9月18日0時22分] 洗い物をしていると 流しの窓を雨が叩いた 蛇口から流れる水 あなたへの想い 床に水たまりをつくる ---------------------------- [自由詩]月/ty[2009年9月18日0時31分] ふりむいた 満月が煌々と輝いていた ほつれた髪が頬にかかる 月はあまりにも正確な円型だった 知らずに涙が流れた 影が含み笑いをしていた ---------------------------- [自由詩]台風の後/ty[2009年10月8日23時51分] 台風の後 荒れた神社で 社の赤い扉に 血管がくっきりと浮き出し脈打っている 光と影のモザイクの底から 顕れる巨大な神の相貌 影の溜まりの中から欲望に満ちた目が光る 地を這い始める血液 世界は 唾液を垂らされたようにキラキラと光り 犯された裸体のように横たわっている ---------------------------- [自由詩]【断片】月01/ty[2009年10月15日0時29分] 月は クレーターの刺青から 見えない血をにじませている 朽ちた古代都市のようだ とても静かだが 魂がざわめいているのか 存在を感じる あるいは 夜の空に穿たれた眼球 うらがえる狂った白目 だがそれは狂気も正気も超えた場所からの 悪意のない哄笑なのである ---------------------------- [自由詩]ロードムービー01/ty[2009年11月12日0時32分] 暗い森が はるか高みにある光に向かって 触手を伸ばしていた 不可解だ 生命とはなんだろう 雲は渦を巻き その向こうで太陽は 自らを燃やし尽くしながら 圧倒的な光を創り続ける 東名のサービスエリアの広大なパーキングを 森の影が覆っていく ---------------------------- [自由詩]灯油販売所/ty[2009年11月12日1時01分] ホームセンターの背後には 深い森が広がっている 夜 広大なパーキングの隅にある 灯油販売所に蛍光灯が点る 私は 200km向こうの実家を思い出す ---------------------------- [自由詩]ロードムービー02/ty[2009年12月11日1時07分] この広い世界 高速道路の神殿の柱の裏側は冷たく青ざめている 柱と柱に切り取られた 古代ローマの郊外の風景 鳥がやって来る 木々は赤い実をつけて鳥を待ち受ける 谷底の墓地はいつも日暮れている 白と黒の墓石のオセロゲームは勝敗を繰り返しながら 時間を貫いて続いていく 森は髪を乱して眠りにつこうとする もつれた髪の巣の中にうずくまる もう冬なのだ 目を閉じた後の世界は何色だろうか ---------------------------- [自由詩]断片「祈り」01/ty[2010年3月1日2時07分] ブロンの空き瓶が 転がっている 日が傾きはじめている サイレンが鳴っている エフェドリン 西日の向こうの森が霞む 神 神 神 神はいると思う ---------------------------- [自由詩]【詩_20120320】/ty[2012年3月25日4時58分] 孤独になりたいという 私の第六の人格 バーコードと 樹木と 宇宙を映し出す目 ∞ 泣き出しそうな 青灰色の空に 不在の鳥の 鳴き声の残響 黒いセロファン カミソリ 煙草の灰 ---------------------------- [自由詩]landscape_01/ty[2012年3月25日5時01分] 鳥の形の窓の向こうに 冷たい雨を含んだ雲が 垂れ籠める空 とおくに 黒点のように 鳥が数羽舞っている ねじが壊れたオルゴールの メロディーを忘れた曲が鳴っている 顔がない写真のように 首吊り死体がかすかに揺れている 風景のひとつとして 誰もいない 何とも繋がらない 不動な どこかで 虹のように 風が鳴る音 ---------------------------- [自由詩]待つ方法/ty[2012年3月26日1時52分] 玉葱を 両手の平に包み込む しばらくして 光が洩れ 一瞬煙が立つ 永い時間が経ったのだ うたた寝でそんな夢を見た そんな風にして待っていればいいのかな と思った ---------------------------- (ファイルの終わり)