タオル 2017年9月6日20時54分から2019年2月10日18時22分まで ---------------------------- [自由詩]点字/タオル[2017年9月6日20時54分] あなたのその愚かな 姉 の ようなほほえみを 点字にしてずっと撫でていたい  の だ 知らない男がしゃがんでいる あきらめた花がぽとぽと落ちてくる庭の木の下にバケツを置いて ---------------------------- [自由詩]坂/タオル[2017年9月28日22時19分] 私は手提げ袋をぶらぶらさせながら 坂をのぼっていた そうしながらよく似た家々の それでもはっきりたちのぼってくる個性のひとつひとつに ていねいなあいさつをしていく 首をわずかに動かす程度のあいさつさえも 家主たちと交わさぬというのに あの家は窓が開かない わかっている あすこの洗濯物はずっと濡れたままだ ガラスには白々と花びらが貼りついて バタン、とドアが閉まる ほったらかしの花水木が今年も満開だ 「まだですか?」 私は窓口にぬっと顔を出して聞く 「終わりました」 と係員の声。 どこから始まったかもわからないのに 終わった 花水木の花びらは掌に似ている 私はまた手提げ袋を持ち直す 胸いっぱいに薄闇を吸いこみ坂をのぼる ---------------------------- [自由詩]豊かな生活/タオル[2017年11月19日10時12分] 転がっていく 林檎が レモンが いっしょうけんめい転がっていく いつか終わる坂道で かけっこのように追いかけあって いきいきと 私はからっぽになった紙袋をさげ なんとなく笑いながら坂道を下っていく 彼らはもう止まっていた あんなにキラキラ走っていたにもかかわらず すっかりくたびれた、老いたような顔で道ばたですくいを求めていて 紙袋からこぼれたもの を 順々に 拾う 林檎とレモンそれ以外のものも 手がいちばん確かめているすべての重み 生活の続きを始める もう一度坂をのぼる ---------------------------- [俳句]一句/タオル[2017年11月25日15時38分] あおぞらをしずかにたたむ よるのまえ ---------------------------- [自由詩]メロウクリスマス/タオル[2018年3月10日9時43分] やがて舟が来て ここから出ていく サンタクロースの長いてあし 踏みつけられた赤い帽子 全裸の女に灯りをともす 「おなかいっぱい だから痛いの」 部屋からとても甘酸っぱい匂いがして   春 クリスマスに死んだ彼女の薫りは 裏のドブ川に流れてゆく ---------------------------- [自由詩]正午/タオル[2018年11月6日2時14分] うたかたをさっと掬う行為 明日の たましい がまったく籠ってないと言われる わたしやあなたたちは青空の下の 小さく、古い音楽室で 自称音楽教師…妙齢の女の、に叱られる 誰かが、「果てしない…」とうたう 女教師がすかさず手をあげる てきとうだからかよくわからない ただみんなも果てしない…は嫌だなと思った 太陽は真上でみんな暗く黒っぽい むきだしの地面に 草が生えていた 草むしりでもいいからここを出たい ---------------------------- [自由詩]はろうぃん/タオル[2018年11月6日2時31分] お菓子はいらない 甘いお菓子も辛いお菓子も かおぜんたいに塩をまぜた泥を急ピッチで塗る やってくる小鬼 かべぜんたいににんげんを押しつける 「エサ!」 でっかいこえ いつのまにか這いつくばる幼い老人達 「私らのエサは、ここよ」 浮遊物のおおいスープ ずるずるとご相伴に預かる ふゆはめったに来ないはずだった、 その入り口で凍死したにんげんのかずだけかぞえて帰る 不肖アルバイトの交通調査員 ---------------------------- [自由詩]みかづき/タオル[2018年11月11日23時34分] みかづきをみた。 空は真っ青なよる。 すべりこみセーフならいい、 いや別にどっちだっていい。 たるんだ自転車のハンドルをふらふらさせて、 よみち。 狸がひらいた居酒屋があるんだって、 と友だちが言った。 うそぉ いやほんとだって、 どこ? 置いてきぼり 真っ白なよる 狸のかおがかいてある、おしぼりを渡された 中のジョッキでしずかに乾杯する 暑いね 暑い ビールおいしい? うーとくにおいしくもないしまずくもない ビールあたりまえのビールの味だねえ やるせなくなった 青い背のさかな、青い背筋なんてえいえんにうつくしい …褒められても、食べられないで生きていたかったろうけど みかづきおいしい大好きって言ってみる ハン!? と聞き返される おしぼりでなんとなくカウンターを拭く 眠たくなる 穴みたいな暗く湿ったとこで 小さな盃を狸と酌み交わして にんげんなんかキライ、 そういうみかづきのかお。 ---------------------------- [自由詩]かなしみにも陽があたる/タオル[2019年2月10日18時22分] 街1 好きでもないまち、でもきらいとまでいかないまちに 好きなきみがいるのはたしかなことだった きみは本が好きで きみに好かれている本をわたしはちかいうちに読もうと思っている 風とか、ごくごく ありふれていて いいね   頁がいっせいにざわめくように バイバイ    バス停できみがふりかえる 目をほそめ、光をもとめている道に  はぐれたような立ち方をして    どんな本もいらない気がして     字を読まないできみだけの いっしょう言葉を聴いていたい 街2 一人で大きな十字路を渡っていた あまりに大きく、中心に向かうほどじぶんが渡り鳥の群れの 一羽になっている気がして、 すこし高揚するほどの 見ればまわりの人々もたしかにそうで 翼のように足を伸ばし、ながく続く白い縞を踏みしめていた 渡りきるとき、不意に感じた この街は巨大で、いまここにもそしてきっとわたしのまえにも 不具の心を抱いて歩いている者がいたこと あたりまえのこと それが街ということ 皆の横顔の表面しか見えない でもそれが時代というもの どこの時代にもいたあたしのような―― ……「かなしみにも陽があたる」 だれのものでもない アナウンス 心のなかの太陽はいつもしんとひかりをひろげて      ---------------------------- (ファイルの終わり)