犬大好き 2014年6月16日23時48分から2014年7月13日17時34分まで ---------------------------- [自由詩]夢のふりかけ/犬大好き[2014年6月16日23時48分] あなたの枕から蕎麦殻を掻きだして あなたの見たゆめのかけらもろとも 炊きたての ごはんにかけて食べる ふりかけみたいに食べる なみだとはなみずがだらだらと流れて きっとしょっぱい きっと切ない あなたの枕から蕎麦殻を掻きだして あなたから 掻きだして きっと切なくて 少し興奮する なみだとはなみずをだらだらと流しながら ---------------------------- [自由詩]夜のドライブ/犬大好き[2014年6月19日0時47分] また 銀色の肌に しばらくこらえていた雨つぶが 金属の糸みたいに 細く流れては 消える びしょびしょのアスファルトの 真っ黒な海に ふたりの車も 雨つぶみたいに細く 細く 流れていく  ……なんかカエルの臭いするよね  これ大群だね どっちかのためいきに 窓ガラスは白く 密閉された 夜の ふたりの車内には 雨音も遠い また 銀色の肌に 街灯やネオンを映した雨つぶが 虹色の糸みたいに 細く流れては 消える  もいっかい  ためいき ---------------------------- [自由詩]だいこんおろし/犬大好き[2014年6月19日21時49分] だいこんおろしはきれいだな ヒマラヤみたいにきれいだな 炊きたてごはんに 白いお豆腐 白い小女子きれいだな だいこんおろしはきれいだな だいこんおろしているうちに 残酷なことを考える それでもやっぱりきれいだな 南極みたいにきれいだな 夢中でごしごし おろしていると ガリっとつめが鳴りました それでもやっぱりきれいだな ---------------------------- [自由詩]ハートの密談/犬大好き[2014年6月28日22時05分] そう言った彼の心臓を 想像するとハトだった つぼみのようにはねを絞った てのひらサイズのむらさきのハト それがたいらな胸骨を つくつくつくつく、つついてる やっぱりわたしの心臓も ピーマンサイズで ほどよくなめらか 想像するとハトだった それがたいらな胸骨を つくつくつくつく、つついてる 雛鳥みたいに卵を割って いまにも産まれてしまいそう ---------------------------- [自由詩]芝の上のカラス/犬大好き[2014年6月30日1時08分] 倒れてるカラスを蹴ると、 どんどん分解して 溢れるあの雨雲みたいな、ありんこの群れに変わるよ 倒れてるカラスを蹴ると、 思ったより軽くて かさっとした感じで、やっぱり死んでるって雰囲気だったよ まだ明るい芝の上で どんどん分解しながら 薄い水色の空の層を、ぼやーっと見つめてたよ かげっていく太陽の 連続する六角形の、マンガみたいな六角形のひかりを ぼやーっと見つめてたよ まだツヤツヤの黒いめだまに びびってちびりそうなあたしが、小さく揺れていたよ ぐにょーっとゆがんで揺れていたよ 倒れてるカラスを蹴ると、 思ったより軽くて かさっとした感じで、やっぱり死んでるって雰囲気だったよ ---------------------------- [自由詩]ゆりの花、いちじくの実/犬大好き[2014年7月8日23時36分] 庭にゆりの花を植えると病人が絶えない そう教えてくれたのはあなただった。 家長がほいほい死んでしまうから、とも言ってた。 そして笑いながら、赤黒い球根を掘り返した。 秘密を知られている そう思われるフシがたびたびあった。 あなたがたまに笑うとき、ご飯をつくるとき、 洗濯物をたたみながらためいきをつくとき、 ずいぶん昔にパージした果実が、 地面にぽたと落ちてから、どんなふうについばまれて、腐敗していったのか あなたの植物でいっぱいの、やけに湿度の高いこの部屋で、 わたしはだまって解剖されていく。 秘密を知られている そう思われるフシがたびたびあった。 あなたはゆりの花みたいに深く、がっくりと首を折り曲げて、 またひとつ重いためいきをつく。 わたしたちは帰らないひとのことなんてさっさとあきらめて、 いっそグーで殴り合えばよかったのだ。 ふたりがこんな風にだまりこんで、 なにも言い出せなくなる前に。 秘密を知られている そう思われるフシがたびたびあった。 あなたの植物でいっぱいのこの部屋に、夜はとろとろ横たわり 窓のそとには雨粒が落ちはじめた。 庭のかたすみにひっそりと咲く ゆりの花にも落ちはじめた。 ---------------------------- [自由詩]きれいなものが結構見つかる/犬大好き[2014年7月13日17時34分] きれいなものが結構見つかる たとえば、スマホを引っ掻いてるお姉さんの青い爪 赤ん坊の透明な耳たぶと、三角形の耳のついた帽子 きれいなものが結構見つかる たとえば、合わせ鏡みたいに続く、となりの車両の、そのまたとなりの車両 手すりに映り込む円筒形にゆがんだ世界 グレーのスーツの人がにゅーっとやってきて、通りすぎる めっちゃ細長いのに、あるとき急に横に伸びる 手すりのなかで目が合ったりする 通常よりぶさいく度の高いわたしのアップ だけどやけに目がでかい、なんて思ってるうしろを にゅーっと通り過ぎていくリュックの人 きれいなものが結構見つかる たとえば、透明とピンクのストライブの中身の見えるバック そのなかの色とりどりのこもの 水色の手帖に少しくたびれたポーチ、細いヒモみたいの、 それとあれは鈴? ほらまた、にゅーっと通り過ぎていく細長い人かげ きれいなものが結構見つかる たとえば、窓のそとを流れていく知らない家のあかり 赤と青のネオンがたまたまとなりあって染めあげた紫の夜空 ---------------------------- (ファイルの終わり)