アンドリュウ 2014年6月9日13時05分から2015年5月24日18時32分まで ---------------------------- [自由詩] 遥かなる旅路/アンドリュウ[2014年6月9日13時05分]                  この地球を構成する118種の元素                   水素から〜eka-ラドンに至るまで                  この地球が作ったものは一つもない               あの太陽でさえ水素からヘリウムを作っているだけ                  最後に超新星になって爆発する時に                かろうじて酸素までの軽い元素を作れるだけ                金や銀や銅はどこからやってきたのだろう               太陽の何十倍何百倍という途轍もなく大きな星が                    超新星となって爆発する時                 想像を絶する高温と圧力の中で生まれた                      もっと重い元素は?                スプーン1杯が地球より重いという中性子星               その二つがぶつかって生じる100兆℃のクラッシュ                 そのすざましい状況の中で生まれたのだ                    そうやって出来た元素達は                    宇宙空間に塵となって飛び散る                    気の遠くなるような時を経て               それらは又徐々に集まり太陽や地球を作ったのだ                    この地球を形造っているもの全て                    私やあなたを形造っているもの全て          炭素もカルシュウムもチッソも鉄もアルミもウランもコバルトも全て                     どこかの星のかけら 残骸                         全て借り物                     あなたも私も遠い遠い宇宙を                      遥かな遥かな長い時間                         彷徨い続ける                           旅人                         今この瞬間も! ---------------------------- [自由詩] 祈り/アンドリュウ[2014年6月10日20時59分] 私にもようやくわかってきた 一番粗末にしてるものが 一番大切なものなんだと 水、空気、光、国、家族、そしてリコ(犬) 手の届かない所にあるものは たとえどんなに輝いて見えても 私を幸せにしないだろう 当たり前のようにあって なんの気も使わせずに 私に与え続けるもの 水、空気、光、国、家族、そしてリコ たとえ一日の終わりの一秒でも 私はそれらに丁寧に礼を云おう ありがとうと言葉に出して云ってみよう 私の意識の外側にあって 私を支え続けるもの それらの存在を見失わないでいよう 守るべきものの中に あすへの扉はあるような気がするんだ ---------------------------- [自由詩] ある日/アンドリュウ[2014年6月11日20時19分] ある日おふれがあって 自分を優しいと思うものは右に そうでないものは左に並びなさい そしたらどうする あなたは右に並ぶのか はたまた左に並ぶのか どうする? ある日 大きな船がやってきて 自分に生きる価値があると思う人は乗りなさい そういって船長がウインクする あなたはタラップを上がろうとして 乗客の顔を見上げる 誰もが自信に溢れた目をしている あなたはそのまま乗船する 私は残してきた飼い犬の顔を思い出し タラップを降りる そして船は出港する それから先の事は知らない ただそれだけのこと 人生はそれの繰り返し 気がついたら こんな処にきてた ここは居心地がいい 優しいパートナーもいる それにしても なんと殺風景なとこだろう まあいいさ どこのカラスも黒いだろう さあ 次の船がきた 今度は乗ろうかな ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)] スペアー/アンドリュウ[2014年6月11日20時28分] 同僚の佐伯の様子がなんか変! 受け答えもそつがないし仕事も捗ってるようすだけど ヤッパリなんか変!他の人の目は誤魔化せても私の眼は誤魔化せない たとえば、トイレに入ったとき必ず口ずさむミスチルのあの歌を歌わないし 手なんか洗ったことないのに洗ってる 「よう!お前なんかあったん?」 「別に いつもと変わらないよ」 でもやっぱり変!昼飯の時もいつもはまず味噌汁を一口すすって(ふうー)ってため息をつくのにハンバーグから食べてる といっても 姿形も声も佐伯なんだし…。  次の週の月曜日の朝状況は一変した 事務所の扉をくぐると真っ黒に日焼けした佐伯がそこにいた 皆には土日とスキーに行って雪焼けした等と説明している どうもスキーの焼け方とは違うようだ 訝しく思った私は奴のスラックスをちょいとはぐってみた 案の定 そこには真っ黒に日焼けした素足があった 「………」 睨みつける私を佐伯は目くばせしてボイラー室に誘った 「よく見破ったな、でもこれから話す事は口外しないと約束してくれ」  その週の週末私は佐伯の描いた地図を頼りのとあるビルの地下に辿り着いた 会社の名前はスペアタイヤード研究所と書かれている なにも知らない者はタイヤ関係の会社だと思うに違いない 私にしたって佐伯に詳しく聴いてなければ決してこの会社のドアをノックする事はなかった 佐伯の奴この会社のシステムを利用して一週間南太平洋のクック諸島でバカンスを楽しんでいたらしい 「S14563」ドアホンに向かってそう告げるとドアは自動的に開いた 「ようこそスペアタイヤードへいらっしやいました えーっと佐伯様の紹介ですね」 「システムについては詳しく佐伯から聞きました実は来週どうしてもご利用したいんです」 「そうですか困りましたね…予約は三週間前という事になってるんですが」 「どうしても来週 来週でなきゃ駄目なんです」 「こまったなあ…クローンの方があいにく全部出払ってまして」 「そこをなんとかVIP様にいくつか予備があるのでは…」 「vip用は使うことはできませんが…お客様がどうしてもというのであれば只今テスト中の新製品が一体あるのはあるのですが…」 「ああそれで構いません とにかく何としても来週ニューヨークへ行きたいのです長いこと音信不通だった妹がオーディションに受かって初めてミュージカルの舞台に上がるんです ほんの端役なんですがこの会社を知るまでは絶対にいけないとあきらめていたんですが…佐伯の話を聞いて是非行きたいと思うようになりました」 「わかりましたそれではここにサインをしてコピールームへお移り下さい」 「くれぐれもこれは新型で充分テストされてない事をおわすれなく もし万が一何か起きたとしても当方では責任は負いかねます」 「ひとつだけ質問! 新型とはどこが改良されたのですか?」 「あなたもお気づきのように従来型はそつなく本人の代役を果たしますがそつがない故に対応が事務的で ごく親しい人には違和感を抱かれるという欠点がありまして新型ではそこを改良しました」 「という事は…」 「つまりよりリアルに欠点や癖や本人の願望も含めてコピーいたします」 「それなら問題ないじゃないですか」 「そこはなんともいえませんまだ実験段階でして今回の緒方様の貸し出し結果も実地テストとしてデータを有益に使わせていただきます」  翌々週アメリカから帰国した私は多少ドキドキしながら出社した 先週一週間の私がスペアだったことは佐伯にも伏せてある そうしろとの研究所の指示だったのだ どういうのだろう 何となく雰囲気が違うような気がする 皆の視線がなんとなく以前と違うのだ 何というのだろう好意的とでもいうのだろうか 部下も上司も同僚も皆がほほ笑みながら私を見ているのだ 留守中の仕事の推移については詳しい報告が昨夜のうちに伝送されていたから支障はないのだが… そういう視線にうまく対応する事が出来ずに私の態度はぎこちなくなっていった 休み時間に佐伯が目くばせして私をボイラー室に誘った 「お前スペアーだな…緒方はどこへ旅に出たんだ?」 そういってじっと私の眼を覗き込んだ。 「……。」  その日会社が終わると私は急いで研究所に向かった 「困りましたね〜 つまりクローンの方がよりあなたらしかったとそう云う事ですよね」 栗田と名乗る研究員はそういってにやりと笑った 「それで私どもにどうしろとおっしやりたいのですか?」 「とにかく困るんですよ 影武者は本人を越えてはならないのは常識でしょう 本物の私がクローン扱いされるなんてはなはだ不愉快です」 「そんな事言われても あなたには注意してさし上げたし第一あなたは契約書にサインされてる」 私はなんだか急に眠たくなってきた 出されたコーヒーに何か薬が入っていたのか…。 遠のいてゆく意識の中で栗田の甲高い声がきこえる… 「それに契約書には書いてあります クローンが本人を上回った場合本人の処分に同意する事、だいいちあなたの会社ももう三分の一は我々クローンなんですよ ハハハ」 「どうやら薬が効いてきたようだわな この調子でいけば十年もすればこの国は我らクローンのものになるわな うひょ〜」 (…た たじけて〜) ---------------------------- [自由詩] again/アンドリュウ[2014年6月12日19時11分] 何も言えない奴だったけど いつもじっと私を見ていた 嬉しい時も悲しい時も いつも私の方を向いていた 私は良い飼い主ではなかったから 抱きしめてやることもしなかった 時たま気まぐれに荒々しく触るだけ それでも嬉しそうに尾を振っていた あの夏の日 ひどい雷の後で 私に拾われてから どんなにひどい扱いをしても いつも私をみてくれた 真っすぐな曇りのない目で いつでも私のそばに寄り添っていてくれた 私がどん底を這いずり回っている時も いつも私の傍らにいて 見えない長い舌で私の心を全身を 舐め続けてくれた オマエガいてくれたおかげで 私はなんとか今日まで生き延びてきた だのに最近はお前がそこにいる事を 当たり前の様に思い込み 粗末に扱っていた そしてある日突然 オマエは消えた そして私は犬を亡くした 一番そばにいて 言葉のいらない 裏切る事の意味さえ知らない 本当の心友をなくした 10年の間 ありがとう 楽しかったぜ! もしこの世の 生きとし生けるものが 輪廻を繰り返すのなら 姿かたちは変わっても またオマエに逢いたい see you again! ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)] 違反/アンドリュウ[2014年6月15日16時17分] 駅を出たとき  ビーッ!  鋭い笛の音で呼び止められた な 何です なんですじゃないだろう  君の捨てたゴミがボックスの外に落ちたんだ  軽犯罪法違反並びの公衆道徳の県条例違反に該当する わ わかりました  私はあわてて捨てたメモを拾いゴミ箱に入れた しばらく歩いていると  ビーッ!  また鋭い笛の音だ 腕に交通監視委員の腕章を付けた中年の男が二人私をを指差して叫んだ 道路は端を歩いて下さい 道路交通法違反で検挙しますよ は はいわかりました またしばらく歩いていると  ビーッ! 鋭い笛の音だ  今度はなんなんだ あなたのそのカバンの持ち方が公序良俗法に違反してます  きちんと正しく小脇に抱えて下さい は はいわかりました まったくもう どうなってるんだ違反違反違反 頭がおかしくなりそう ビーッ  鋭い笛の音  ぶつぶつ独り言を言いながら歩くのは軽犯罪法に抵触します  他人が不快になるでしょ改めなさい   は! はあ わかりました しばらく行くと前を歩いていた女が 突然振り返り私を睨んで 笛を吹いた ビーッ!  赤い安全パトロールと腕章をつけた男がとんできた  どうしました  この男あたいをストーカーしてるんです きっと暗がりで押し倒すつもりだわ おおおこわ! マグロみたいな顔した女は私を指さして言った そ そんな滅相もない 私がストーカーだなんて押し倒すなんてとんでもない (私だって相手を選びますよ) この男ですか?こりゃあそんなに悪い奴には見えませんな  念のため私たちがこの男を拘束してますからその間に行ってください 男たちは私を拘束してる間中 自分たちのおかげでどれだけこの世の中が住み良くなったかをとうとうと話しつづけた  それは私には説教じみて聞こえた  私は昔の街の方が好きだったから 10分後やっとの思いで解放された  やれやれ もう疲れてしまった 今日はこの辺で手を打つか 私は目についた大きな白い家に泥棒に入った ---------------------------- [自由詩] ここらあたりでのたうち回っている/アンドリュウ[2014年6月17日19時29分] 心に愛がなければ どんなに美しい言葉も 相手の胸に響かない                                                                                                                                                                                                                                           ここ 懐に金がなければどんなに美味しい食事も自分の胃袋に届かない ---------------------------- [自由詩] けれど波打ち際で/アンドリュウ[2014年6月17日19時45分] あんたの柔らかな触手が伸びて あたいの美しい尾びれにふれるとき ああそうだったんだねと むかしの逢瀬があぶくのように浮かびくるの びしょぷぼぶでの限りないあいとほうしの蜜 ぐるぐるぐるる〜やっぱりあんたはいつもそう そうそう 月夜の晩にあなたと泳ぐやるせなさ 銀のおべべにアンバーの吸盤 だるくだあ〜るく抱きついて 静かに沈んで ゆめのきゅうさく カールポランニー ジヨルジュバタイユ ああ とろけるスミを吐きかけて つきせぬおもいのほろにがさ あこや貝の狂おしさ・・・ それでも好きというのなら 肌をあわせてひさしい竜宮へ しずかにそろりとまいりましょうぞ いとしい あんた ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)] SR/アンドリュウ[2014年6月18日18時53分] ある日私のもとにSRと名乗るものがやってきた あなたにぴったしの職場をご案内にまいりました 男はそう言って名刺を差し出した    SRとだけ書かれている あんた誰?、怪訝に思った私は尋ねた あっ!これは失礼しました SR人呼んで スペース・リクルートと申します あなたの能力に最も適した職場を斡旋するサービスです なんだ人材派遣会社か…間に合ってるよ まあままお待ちを 人材派遣と申しましてもうちのはほら規模が違いまして  全宇宙的にやっております 宇宙的…また大袈裟な バカも休み休みに言え! まあ信じられないのも無理はないでしょうが  たとえば私も実を申しますとこの惑星の住人ではないんですよ  そう言って奴はぐるりと顔の仮面をはがした  私は気を失いそうになった そこには紛れもなく蝉のような異星人の顔があったからだ これで御信じ頂けたと思います 仮面を元に戻しながら奴は言った 我々はこの銀河系の全知的生物のデータを収集しておりまして  あなたのデータももちろん我々の膨大なデータの中にはあります。 そしてあなたが決して今の職業に満足されてない事も我々は把握しております  実はあなたには二つの星の雇い主からオファアが来ています えっ!オファ?おれのどこにそんな能力が?何かの間違いでしょう いえいえあなたに能力がないのは狭い地球的に見た場合です  全銀河的にみればあなたには特筆すべき能力があります  たとえばあなたにはどんな危機にあつても取り乱さないという能力があります  さっき私が本当の顔を見せた時の事を思い出してください  あなたは驚いたけれども決してとり乱さなかった  これはこの国では優柔不断とか煮え切らないとか鈍いとかでマイナスに評価されますが  たとえばクイグル星のボスであるサタンスはあなたのこの能力を非常に欲しています  いくつかの植民星の統治官として正に適格であるからです  それのもう一つ あなたは蚊を取るのが上手いと密かに誇っていませんか? えっ!…まあそういえばそうかな 蚊を捕まえるのは実はたいそう難しいんですよ これは銀河的には難易度Dです あなたのこれまでの蚊の捕獲率は98,25%です これは驚異的な数字でして  この能力は銀河防衛隊のスカウト責任者であるデック・ノウマカルが非常に高く買っています  新鋭の戦闘ワープの主席パイロットとして年報2400ガウステロで雇いたいとのオファです 2400ガウステロ? はい日本円で換算いたしますと20億3500万になりますです。 二,…二十億 サタンスの方は200億にリゾート惑星を一つ付けると申しておりますが あの〜ひとつ質問が はいなんでしょう? 私の他にも つまりこの星の外で働いている人はいるんですか? ええ 大勢いらっしゃいますよ 個々の個人情報についてはお教えできませんが、 万単位でいらっしゃいます  ワープドアで通勤してる方も 単身赴任の方も また在宅勤務の方もいらっしゃいますよ そんなこんなで私は今迷っている  世界は今はウクライナとイラクの内戦拡大で大変な時だが  私も違った意味で大変だ転職すべきか?するならどちらにすべきか  こんな事誰にも相談できないし 困った! ---------------------------- [自由詩] 羽根/アンドリュウ[2014年6月19日20時57分] 妻が押入れの奥の 古びた柳行李を出して 何かを整理している その後ろ姿が丸く凋んでみえて 少し不憫に感じた これはもういらないわね そんな事を呟きながら 妻が手にしているのは 見覚えのある一対のはねで ところどころ変色して色が変わっていた 私は何か言いかけて 言葉に詰まった あのはねは長男が生まれた時 しばらくは飛ぶ事は諦めようと 祖父の形見の柳行李にしまったのだ それから次男が生まれ 父が死に娘がうまれ 私は荷物を運ぶロバのように 黙々と働いてきた 最初は考えないようにしていた 空の事も柳行李にしまった はねの事もすっかり忘れてしまっていた 妻はしばらくはねの感触を愉しんで それを棄ててもいいかときいた 私はおどけた顔で軽くうなずいてわらった 近くでよく見れば顔は歪んでいたはずさ 犬と二人でゴミ置き場に並ぶ 沢山のごみの袋を見ていた 右から三番目の袋から 私のはねが少し飛び出していた 手とってからだに付けてみたい そんな気もしたけど もう飛べない事は嫌になるほど自覚していた やがてゴミ収集車が来て あっけないほど簡単に はねはタンクの中に 他のごみと一緒にローラーで 粉砕され詰め込まれていった ベキベキとはねの折れる音が 耳に届いた時 微かな痛みを肩に感じた 道の向こうには夕陽があり ゴミ収集車はそれに向かって走リ去った 頬をつたう一筋の涙は 哀しかった訳じゃない ただ 夕陽が眩しかった だけさ… ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)] コンビニエンス/アンドリュウ[2014年6月21日7時19分] そのコンビニは街外れにあった 面接に来たぼくに店長は履歴書を見ながら言った ーう〜ん果たして君に務まるかな〜 ーまじすか?自分ははっきしいってコンビニもバイトしたことあるし スーパーだって居酒屋だってあるんすけど それはわかってるんだけどね うちの場合ちょっと違うというのか オーナーの意向でね ―なんすか ハッキリ言ってください 結局ぼくは採用された 店長が言葉を濁した訳は実際に働いてみるとすぐに分かった そこは 《いい人》のコンビニだったのだ 普通のコンビニとどこが違っているのかといえば外見はそう変わらない それどころかぼくのほかに3人いる店員は皆はっきし行ってとろい とろすぎて腹が立つほどだ テキパキと仕事をこなす事が好きなぼくにはイライラする事ばかりだった たとえばNという50がらみのおばさんはいつもレジの横で来た客と話し込んでる 中には何も買わないでNと話す為だけに店を訪れる客もいる さらにひどいのはOという三十代の男 この男は時折来るホームレスにレジを打たないで弁当や飲み物を渡している  それも悪びれる風もなく 笑顔で堂々と… 店の前を通る痩せた野良犬にも商品のから揚げやおでんのすじをやる事もある 二十代のAという女もなんか勘違いしてるとしか言いようがない この女はコンビニを保育園のようにしてしまってる この女は常に五六人の子供を預かってる  店の事はほったらかして子供たちを連れて公園に行ったりもしてる 必然的に日常の細かなルーティンはボクと店長でこなす事になる 客は物を買う客もそれ以外の客もひっきりなしに来てとにかく忙しかった でもこの店長も曲者で 何でも笑顔ではいはいと請け負うから次々と仕事は増えてゆくのだ 近所の木を切ったり生まれた子犬の里親探しをしたりと… それに聞くところによるとこの店長 いつか来た気弱なコンビニ強盗に同情して自分の給料まで渡してしまった武勇伝もあるらしい それでも最初のうちは他に比べて給料も良かったしなんとか我慢していたのだが  三ヶ月くらいたったある日ぼくはとうとう切れてしまった ーやってられないよ!なんなんだよ てめーら少しは真面目に働けよ! 店の中の客も店員のぼくの突然の大声に一瞬し〜んとなった でも次の瞬間もとの状態に戻っていた ーついてきなさい 背後から穏やかに声をかけられた  振り返ると時折アンパンを買いに来る老人が穏やかに笑いながらたっていた  ぼくの返事も聞かずにつかつかと店を出て行った 店長に救いを求めると 首を振って行け!というジェスチャー 老人はコンビニの横の家の門をくぐると慣れた手つきで玄関の鍵を開けボクを応接間へ通した 古いが豪奢なソファに腰を下ろすと ぼくにも座れと手招きした 老人は咳払いを一つして話し始めた 老人はあの店のオーナーだったのだ ー君はコンビニエンスという言葉の意味を知っているかね そういって言葉を切り遠くを見るような目つきになった ーわしはこの年になるまでがむしゃらにお金を稼いできた 時には人の道に反する事もした 金もうけには往々にしてそういう面があるからな 金儲けに夢中で妻が病気になった時も人任せにして充分看病してやれなんだ ー妻はわしと違って金儲けには無縁の人間じゃった 正直わしは妻を馬鹿にしとったかもしれん この役立たずが〜とな じゃが妻が死んでみて初めて気がついたんじゃ わしは見えないところで妻に支えられておった 金儲けに奔走するわしを妻は大きな心で支えてくれてたんじゃ 失った後で気がついても遅いがの ー子どもも二人おるのじゃが 妻が死んでからは寄り付きもせん 孫たちもそうじゃ  こんな偏屈で意地の悪い金もうけしか能のない人間が 曲がりなりにも仲間はずれにもされずに生きてこれたのは みんなみんな陰で妻が支えていたからなんじゃ それに気づいた時わしは愕然とした 愛する者がおらなんだら 金なんか何の役にも立たん わしの貯めた金は妻がわしのそばにおってくれたからかろうじて悪臭を放たずにすんんでいたんじゃ わしは方向転換することにした  ため込んだ金を社会に還元する事にしたんじゃ その時ふと思ったのが、妻のような心の優しい いい人ばかりで本当の意味のコンビニエンスストアを作ろうと考えたのじゃ  じゃからあの店の中で起きていることはみんなワシの我儘 妻への供養と思って見過ごしていただきたい 店の売り上げの事も心配せんでええ  持ち出したのは最初の二年くらいでの あとはああ見えても不思議と成績いいんじゃ  えーと 確か県内で二位か三位くらいかな  金儲けなどするつもりもないのにな 客がほっとかんわな 便利がええから… 老人は嫌な顔をして笑った 口元から金歯が光った あの〜ひとつだけ聞いてもいいですか? ああええよ  老人はいつの間に淹れたのか自分だけ旨そうに茶をすすりながら笑った  さらにふところから成金饅頭を出してさも旨そうにひとりで食べた それなら… それならなぜぼくを雇ったのですか? ハハハ 簡単じゃよ いい人はそうでない人といると輝きを増すからな 君はわしにそっくりの笑い方をするしな ハハハ 笑った老人の歯に成金の皮のカスが付いているのが見えた ---------------------------- [自由詩] ポんた/アンドリュウ[2014年6月21日21時06分] その夫婦が引き返してこなかったら 生まれたばかりのポんたはたぶん処分されてた これもなんかの縁やろ そういって腹の出たオジサンは笑った 若くて綺麗な女の人は 良い匂いのする胸元にポんたを抱き上げた これがパパとママとの出会いだった 年の離れた夫婦だった 怒鳴り声は大きいけど優しいパパと パパより大きいけど無口なママ 二人には子供がなかったから ポんたたちが子供だった 全部で11匹の子沢山だった 拾われたり、迷い込んだりした子もいた 夢のように六年が過ぎた ポんたたちは人間の子のように叱られほめられ愛された にこにこ笑いながら一日に12回も散歩に行った ポんたはよくほえたので玄関の横を任された 賑やかで楽しい毎日が続いた 今年の春 ママが病気になった 大きな病院に入院した おそろしい病気だった パパは看病に明け暮れた もう散歩どころではなくなった ポんたは一生懸命ほえた あんなに陽気だったパパは いつも涙ぐんでいた ポんたは二人のいない家を守ろうと 一生懸命ほえた 昼となく夜となく吠えつづけた 一度帰ってきて皆を一匹づつ抱きしめたあと ママの匂いは消えた その日は帰ってきたパパと一緒にみんなで鳴いた パパが胸に抱いてきた小さな白い箱は かすかにママの匂いがした 順番にそのにおいをかいだ 一匹また一匹と兄弟はもらわれていった ラブラドールのジョンもホックステリアのメリーも いなくなった ポんたは雑種だったしよく吠えたので 誰からももらわれなかった ママがいなくなって一か月 ようやくパパも少し笑うようになった 二日前に大きなトラックがきて 家の中の家具を全部運び出した 昨日 いつもは遠目にしか挨拶をかわさない 前の家のご主人がきてパパと長話をしてた 話の中でパパは何度も頭を下げまた涙ぐんだりしてた 今日 ポんたたち五匹はそれぞれ檻に入れられ トラックの荷台に載せられた どこにいくのか ポんたはしらない ---------------------------- [自由詩] ついこないだまで/アンドリュウ[2014年6月22日19時38分] ふと立ち止まり ため息を吐く 荷物は重いし 体は痛むし おまけに天気まで時雨れてる この不愉快な状況はなんだ 何のバチが当たっているのか つらつら考えてみた あれか… それともあれか… 西洋人は人は皆 生まれながらに罪を背負うというけれど 失敬な奴だ 生まれた子供に何の罪がある 罪があるとしたら どこかで道を間違えたからだ それにしても 日常のルーティンの多さには 辟易とする たまには牛のように 陽の光を浴びながら 静かに草を喰んでいたい 海鼠のように ユラユラと水中に蹲っていたい 生きてるということ自体が 幾千のICチップを 同時に作動させるようなもの そんな複雑な事を 皆毎日軽々とこなしてる ほほう! あんたはひどく楽しそうじゃないか あんたの為に死んだ牛や鶏や魚の事など 気付かぬふりをして 微笑みながら軽やかに踊っている そうか そうだね 深く考えることはないよ 所詮ついこないだまで サルやってた 私たちだもの うまくいかなきゃ また木に登ればいいさ ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]I am Happy!/アンドリュウ[2014年6月23日22時27分] ぼくはbarのカウンターで見知らぬ男の話に耳を傾けていた 男は四十代中頃できちんとスーツをきて趣味のよいペーズリのネクタイを締めていたチタンのシャープな眼鏡が新進気鋭の実業家の様な雰囲気を作り出していた その身なりに反して男の話があまりにも突拍子もないものだったのでついつい引き込まれていた 君の話によるとぼくら国民は皆泳がされているって訳かい そうさ 政府はそんなことはこれっぽっちも発表しないけどね 君の使うパソコン 君の使うカード 君の使う携帯やスマホ 街角の監視カメラ、ナビのGPS 或いは君の出す確定申告、君の免許の違反履歴 それらのすべてのリレーションが完成したのが2010年代の初めなんだよ 今では国民の一人一人にコードネームが付けられている ふ〜ん そうなんだなんだか気味の悪い話だね だから政府は君がいくら稼いで何に使い 誰と付き合っていて どんな考えを持ち週末はどう過ごして選挙の時にはどの党に入れるかまで全部把握しているんだよ もちろん君の全ての電話全てのメールは自動的に記録されているんだ もし君の詳しい資料が必要になって管理官が君のコードを打ち込むと 僅か2秒くらいで君のあらゆる情報が画面に現れる たとえば君が政府を糾弾したとする その時にはマークといって君の全ての情報や24時間の動きは管理官によって監視される  君の肉体的弱点や精神的特性 生活の状態や家族構成や 構成員のそれぞれの欠点や生活状況などおよび過去から現在に至る人間関係やトラブル履歴 違反行為および表彰履歴等が徹底的に調べられる そんなことって許されるのかな  それでぼくを貶めるってわけかな 貶めたりはしないさ 丸裸に全てを解析された君はもう彼らの手駒なんだ 手駒? ああそうさ手駒だよ これはここだけの話なんだがね 男は急に声をひそめると真顔になって耳元に囁いた ぼくの聞いた話では世の中に起こる全ての事象は綿密に計算された彼らの作品なんだよ たとえば今日巨人がヤクルトに3-0で勝つことも ダービーでカミノカタサハラが優勝することも代々木で火事があり78歳の老人が焼け死ぬことも今度の選挙で自民党が勝ったこともその票差も全てブログラム道理なんだよ そ、そんな馬鹿な… 君が信じがたいのも無理はないけれどこの運行システムがこの二三年で完成の域に達したんだよ  手駒と言うのはねたとえば皆の心をアレンジするために西の方でもう一つ凶悪な事件が欲しい そういう時に手駒を使うんだよ  きみの欠点を刺激して不安を増長し犯罪を起こすところまで追い込む   すでに彼らは社会の隅々まで管理を確立し百姓がハウスの中でイチゴを作る様にこの国を巨大な農場のように管理しているんだ 男は話しながら興奮して次第に声は大きくなった 他の客の何人かが眉をひそめて男と私を睨みつけた そんなことはお構いなしに男の話は続いてゆく そのすべての黒幕の正体がやっとわかったんだ その時バーテンが背後の何かに目くばせするのが見えた 次の瞬間どやどやと入って来た白衣の男たちにあっという間にぼくの相手は連れ去られた 酒場は何事も無かったかのように人々の談笑は続いてゆく 慌てて周囲を見回す私にバーテンはシェイクしながらウインクした お客さん勉強になったね みると店の棚の横にも監視カメラが二台獲物を狙う猛禽のようにじっとぼくのの.様子を伺っていた I am Happy! とっさにそう叫ぶとレンズに向かってウインクしてみた ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)] アルブウ/アンドリュウ[2014年6月24日20時25分] 「おおついにアルブウが完成したぞ!」 「博士おめでとうございます、ついに血中アルコール濃度を瞬時にゼロにする薬が出来たのですね」 「おおそうだ この薬でもう酒酔い運転の心配はなくなるし 閑古鳥が鳴いている飲み屋街もまた蘇るぞ!」 「では早速試してみましょう」 助手は用意したウイスキーをラッパ飲みした 「フーッ!グビ〜〜〜@:*酔っ払っちまった〜へへへ」 「よしこれをこうしてコップに入れて さあ飲みなさい」 ゴックン! 「おお!博士身体の中が瞬時に爽やかに蘇ります」 「ただし欠点があるんだ〜」 「なんです欠点とは?」 博士はニタニタ笑って助手を見ている 「お・お・おなんだか猛烈におならがしたくなった失礼します」 (プウ〜〜〜) 「これが欠点なんじゃよ アセトアルデヒドを分解するとそれが気体になって肛門から噴出するんじゃ つまりおならじゃな」 「それでアルブウだったんですね でも博士このくらいの欠点はあってしかるべきですよ むしろユーモアがあっていいじゃありませんか ぼくには繁華街のあちこちでブーブープープー行ってる光景が目に浮かびます」 「おおそうか それでは早速厚生省に新薬認可の手続きを取ってくれ」  それから十年 生活の為研究室を辞めてほかの職についたかっての助手が博士を訪ねた 「あや〜君は懐かしいな〜あの時は苦労掛けたな」 「博士こそ奥さんにも逃げられたと聞きましたが大丈夫ですか」 「ははん今に見ておれ 大金持ちになって旗を立てて迎えに行くさ」 「ところで博士あのアルブウという薬どうなったんですかね?」 「あの頃は幾度厚生省に問い合わせても臨床データ検証中というばかりだったけど」 「ふむ〜色々な利害がからんでおるからな どこかから横やりが入っておったんじゃろう」 「そうなんですか〜世の中って分からないですね単純にいいと思える事でもそれによって不利益を被る人たちとの調整が付かないと日の目を見る事がないなんて…」 「こんなことでめげてはおられんぞ 実はわしは次の薬を開発中なんじゃ」 「どんな薬なんですそれは…」 「ヨクノンといってな これを飲むと他人を蹴落そうとか自分だけいい目にあいたいという自分勝手な心がが綺麗さっぱりなくなるんじゃ」 「なるほど!いいですね〜だけど……だけど」 「なんじゃね?」 「前のより いっそう認可されそうにないですね〜」 「……」 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)] わしは風/アンドリュウ[2014年6月26日13時10分] 大きなガラス瓶の中に半分くらい貯まった百円玉 それを見ながら四郎は考える 毎日百円はいとも簡単 それでも積み重ねれば結構な額になる ということは少しずつ積み重ねれば人の驚く様な事も出来るようになる筈じゃ そう考えた四郎は朝のウォーキングの所要時間を毎日1分ずつ速くするようにした 毎日1分の短縮は苦も無く達成できた みつきもたつと今まで2時間かかっていたウォーキングは30分で回れるようになった けれども27分のあたりに壁が存在することが分かった どんなに息を切らして早歩きしてもたまに27分を切れる日はあっても切れない日の方が多かった  そんなことを繰り返しているうちに27分前後で歩く事は当たり前のようになった  すれ違う人が皆 驚きの表情で四郎を見る それは心地よい満足感を四郎にもたらした そんなことを繰り返して一年ばかり経ったある日 四郎は走り始めた 走ればなんなく27分の壁をクリアすることが出来た。 足を触ると盛り上がった筋肉が鎧の様に足を覆っている 心肺機能も上がったのか息が切れる事もない 鼻歌を歌いながらかっては2時間近くかかっていた道のりを僅か15分くらいで駆け抜ける おおなんということだ 糖尿病で高血圧で痛風で病院通いしていた昔が嘘のようだ 何故もっと早く気付かなかったんだ 風がこんなに心地よい風と同化して一体となって・・・ ピポ〜ピポ〜ピポ〜 78歳の四郎のラストランだった 戒名には走るの一字が加えられた事を追記しておこう ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)] 人を雇う/アンドリュウ[2014年6月27日18時21分] 小さくてもいい 確かな人材で確かな会社を作りたいのだ そのためにはありきたりな採用試験では駄目なんだ 面接のようなよそ行きの場では皆本性は現さない マニュアルどうりの受け答えや態度に終始する事になる クレメンスの山田さんだね あんたの評判はよく聞いてるよ わしの要望に応えてくれるかね ええ わかりました 私どもにお任せください 必ずやお望みどうりの人材を見つけ出してごらんにいれます  おおそうか頼もしいな 詳しい事はこの持田と話し合ってくれたまえ かれは人事を担当する事になるんだ  1ヶ月後 …では明朝御迎えに上がります どこへ行くのだ? 何でも街中での人材スカウトだそうです  明朝 大きな橋のたもとのビルの屋上 社長と持田とクレメンスの山田 朝の渋滞時間 いいですかよく見て下さい 右側車線と左側車線がありますが実際ほとんどの車は左側の国道に行くのです 当然左側の車線は渋滞する それで空いた右側の車線を走り強引に割り込んでくる連中が出てくるわけでして その中でも特にスマートに何の摩擦も起こさずに右から左へと移動するもの  天賦の要領のよさを資質として持っているもの こういうものこそまさに営業向きです。 ほら あの車をごらんなさいスムーズな割り込みとお礼の笑顔 あれでは割り込まれた方も 悪い気はしませんね むしろ朝からちょっとした親切をしてよい気分になるのです それもこれも相手にストレスを与えないスムーズな割り込みと爽やかな笑顔この二つの特技の相乗効果なんです 仕事をとるという行為と割り込むという行為は一見似ていないようですが本質は同じ行為なんですよ 彼を雇ってみればその事はよくわかります おおそうかね それでは… 大丈夫です我々はこの地点でもうひと月近く観察を続けていますから彼の身元調査はすでに終わっています 社長がGoサインを出してくださればすぐにでもスカウトに乗り出します  営業は分かった では経理はどうかね 分かっています それもここで探しています ほらあの車 左車線を前の車と車間距離を取って悠然と走ってくる 割り込まれようが 後ろから煽られようがわれ関せずと決してペースを乱さない 車も新車というわけでもないのによく手入れされてる ああいうものこそあなたの金庫番にふさわしい者です おおそうかね それでは… 大丈夫です 彼の調べも付いてます  あとは女子社員を一人と私の代わりを務めるチーフを一人 ぬかりはありません あの赤い車をご覧下さい 割り込もうとする車を次々に入れてあげてる しかも相手に笑顔で応対している 人は運転手という一種の権力を手に入れたとき本性が出るのです 中でも割り込む相手に対して微笑むのは至難の業ですよ 大抵の者は目を吊り上げて入れさせまいとして それでも入られると相手を睨みつけて威嚇する それが普通です なのにあの赤い車の女は笑顔で終始している 女子社員はいわば職場の花ですからね 彼女の表情で職場の雰囲気はがらりと変わります 感情的になって一言も口を利かないような事務員のいる会社は総じて発展はしませんな かといって甘え声で女を意識させるようなのは論外です いらぬ争いを招くばかりでなく その女目当ての仕事に関係のない客で事務所が溢れ返ってしまいますからね 笑顔で爽やかこれが女子社員を雇う時のポイントです  さて最後にあなたに代わって会社を仕切る片腕ですが これがなかなか難しいのです あなたは自分に従順なタイプを求めるかもしれませんが、 私どもとしてはそれはあまりお勧めできません よく御自分の取巻きを後継に指名する会社がありますが それ自体会社の将来は絶望的であることを示しています 猿山でさえ後継はボス猿を力において勝ったものがなるのです どうかあなたがこいつだけはいやだと思う相手でも度量を広くお選びください いいですかほらあの車、あの車の周りだけなんだか朝のラッシュとは関係のないフレンドリーな空気が 支配してるんですけど分かりますか  よく見て下さい あの車の運転手の持つ徳が周囲の車に伝播し和やかな空間を作り出しているのです こういったことは一朝一夕にできる事ではなくある程度の時の積み重ねを経て自然と出来上がるものです それもこれもあの黒い車の運転手の人徳が彼の車を通して周囲に伝わった結果です ふん!人徳でビジネスが出来るならそんな簡単なことはない  ビジネスはそんなに生易しいものじゃない…。 社長のあなたがそういったお考えであるのなら 尚の事彼のような人材が必要になる筈です  旨く行きましたか 我々の演技はどうでしたか? ええ良かったですよ 依頼主も口では考えとこうなどと言ってますが皆さんの就職はほぼ決定でしょう  ありがとうございます  学歴も経験もない、まして前の会社を首になってるぼくらが小さいとはいえ財務内容のしっかりしたベンチャー企業のオープニングスタッフに採用されるんなんて夢のようですよ 皆さんの事は失礼ながら調べさせてもらいました 私の眼力に間違いがなければ必ずや雇い主を満足させられるでしょう この就職難の時代です  後に続く者の為にも入ってからは過去の事は忘れて心機一転死ぬ気で頑張ってください 人はその気になれば生まれ変われるのです!どうかこの事を忘れないでください 分かりました!死ぬ気で頑張ります!  どうかね旨く行ったかね ハイ みなさん生まれ変わった積りで頑張る心意気です それはよかったあんたにお願いして一芝居打った甲斐があったというもんだ このことは持田もしらんから内密にな それにしても社長なぜこうまでして連中を取ったのですか わしはね人と人との関係はある種の幻想の上に成り立っていると思っておる 幻想とはすなわち物語じゃ 良い物語を築く事が何より大切なんじゃよ それに失敗は往々にして肥やしになるからね  社長お呼びですか おう持田か入れ! 早速だがあの山田をうちの企画部長として迎える手はずを整えてくれ 君もみたように彼はなかなか有能な人材だ  わしは五年後にはこの業界で10指に入る企業にしたい そのためには彼の企画力が必要なのだ 了解しました  ルルルルル〜 おう山田か おう持田 どうなった? 全て旨く行ったぞ ボスはお前を欲しがってる そうか 親友のお前がボスに選んだ方だおれも嬉しいよ ボスの為にも自分の為にも力を合わせてがんばろう! またお前と働けてうれしいよ ---------------------------- [自由詩] 目標/アンドリュウ[2014年6月27日18時27分] ある日 神さま養成所の応募に 一人の悪魔がきた どのような動機で志願されましたか はあ、ふとやりなおしてみようと思ったもので 採用担当の会議は紛糾した 悪魔が改心するわけがない いや罪を憎んで人を憎まず 未来永劫の宿敵ですぞ 神とは寛容なり 結局採用することになった 二年後 脇の心配をよそに 彼は頑張り抜群の成績を上げた ほほうなかなかやるじゃないか 君のことを見直したよ はい頑張ります 休み時間に同僚が聞いた どうしてそんなに頑張るんだ ああ ボクには目標があるからね・・・ ---------------------------- [自由詩] 救急車/アンドリュウ[2014年6月28日3時35分] きのう救急車着たけどどこのおうち 何時ごろ? そうやねニュースステーション終わったあとぐらいやろ それやったらもう寝とったわ いや〜えらく早く寝るんやね 新人ばかりで仕事きついんや そうやね教えたりせないけんのやろ そうよ自分の仕事で精一杯ちゅうのに いちからじゅうまで手えとって馬鹿かちゆうんよ それはそうと救急車どこのお家やろか 暖かかったり寒かったりで年よりはやられるんよ そうそううちとこ爺ちゃんも鼻グシュングシュンいわしよったよ 木ノ内さんとこやろか?あそこのばあちゃんこの頃見らんことない そういえばみらんね いや〜あのばあちゃんいい人やったのにね 優しかったよ 笑顔がなんかぐっとくるよね でも山田さんかもしれんよ あそこの爺ちゃん入院しとらせん  こないだ草刈のとき奥さんそう言いよったが ほんなら誰やろか 中村さんとこ息子かもしれんね いや〜あの出来損ないの?(声をひそめる) ほらこの前もなんか大騒動したやろ あん時パトカーとかきてたいへんやったんよ らしいね きゃあんた知らんと 有名な話やが それにしても救急車よんだんどこやろね 明日はうちかもしれんよ それならうちのが先よ お互い気をつけらないけんね そうよ一寸先は闇やけね おおごと! ---------------------------- [自由詩] 不憫/アンドリュウ[2014年6月29日8時15分] 世の中のもの凡てが不憫に思える時がある 皆沈むまいとして必死で水を掻いている くしゃくしゃになりながら それでも顔を歪めて嗤ってみる そうだよなおまえも 騙されてここにいるんだよな 何が悪いとか 何がいいとか 勝手に決められて 最初から勝ち目はないんだよ ただ温もりだけを信じて ここをなんとか生き延びようとする 本物は皆知っているのさ 自分の無様な死にざまを 不憫 不憫 不憫 こんなずぶ濡れの躰でも 抱きあっていれば 互いの温もりで 少しの間救われる 甘い汁などないよ 勘違いしてるだけさ だってオレ等は皆同じ ただの木偶の坊の集まりさ ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]  無理/アンドリュウ[2014年7月3日17時31分] 我々は月の裏側で未知の物体を発見したとNASAの報道官は興奮気味に捲し立てた。 送られてきた映像を見ると巨大な長方形の石板の様な物が月面に斜めに突き刺さっているのが分かる。 早速 国連の主導で国際調査隊が編成された。 各種の訓練の終え、5年後には宇宙船が月へ向かって出発した。 月からのライブの映像の視聴率は各国とも70%を越えた。 ちょうど開催していたインドオリンピックの関係者を慌てさせた。 現地で正確に測量した結果、その巨大さは人々の度肝を抜いた 2000m×1000mでしかも厚さが20mもあるのだ。 しかも未知の材質である事もわかった。 さらに世界中の人々の興味をそそったのはその表面に刻まれた文字の如き物の存在だった。 調査隊の持ち帰った映像やサンプルを元に世界中の叡智を結集してプロジェクトチームが編成された。 誰が一体何の目的でこれをそこに置いたのか、それを解くカギは表面に刻まれた文字の解読にあった。 言語学や考古学や数学や哲学の学者、各国の暗号解読のスペシャリスト達、各国の誇るスパーコンピューター、 果ては神秘学や宗教学や預言者、マジシャン、超能力者に至るまで、 人類は持てる力の全てを結集してこの天から与えられた命題を解く事に必死になった。 あらゆる紛争は下火になり、巷の犯罪率も著しく改善された。 世界中の誰でもがこの謎ときに参加できるように、 あらゆる刊行物にその写真は取り上げられ、 あらゆる大学にそれ専門の学部が出来たり、 ゼミや課外で取り上げられたり、それに挑戦するバラエティ番組が出来たり、 紙芝居や童話やアニメの題材にもなった。 そうこうすること15年 ついにダライラマに仕える高僧が古代の曼荼羅をもとに最初の一行を解いた。 その一行が解けると後は面白いように解けた。 その文面は現代語訳すると次のようになる。         回覧板 銀河系にお住まいの皆さまにおかれましては御機嫌麗しゅうお過ごしの事と存じ上げます。 さていよいよ1万年に1度の系内の大掃除の時期がやってまいります。 銀河系周辺の星々の清掃や白色矮星や小惑星の整理等日頃等閑にされている活動を各星団ごとに一斉に行います。 つきましては奮ってご参加くださいますようお願い申し上げます。 なお、已む得ない事情で参加できない時は罰金として500兆デウナール徴収致します。 この回覧板は出欠を記したうえで、次の惑星へ御回し下さい。 この回覧板は銀河連邦の法律の基づいて、回されています。 この回覧板を故意に傷つけたり、また紛失したり、 1か所に長期にわたり留め置いたりした者は その理由の如何を問わず厳しく罰されます。 ---------------------------- [自由詩] 死ぬまで/アンドリュウ[2014年7月5日4時38分] ヒィ.ヒィ・ヒィ と短い喘ぎ声をあげると まだ僅かに動く前足を震わせながら 今はもう土塊と化した後肢を引き摺り 必死に転げるように小屋から這い出て来る 排せつ物を小屋でしないという 犬本来の本能がそうさせるのか その酷く臭い糞尿でさえ 彼女の生の証の様に思われて 日頃なら目を背ける五郎も 拭き取りシートで丁寧に拭った 新しいオムツを履かせて 床に敷いていたシートも換えて 紙屑のように軽くなった 彼女を小屋の中に戻す その間も彼女の眼は カッと開かれたまま 何かを凝視していた もうすぐ逝ってしまうのだな そんな言葉が五郎の心に わいて出た 置き去りにされてしまうのは 自分かもしれない そんな不安が 五郎の心を過ぎった 出来れば 行かないでくれ! そう叫びながら 彼女にすがって号泣したかった けれどそれが出来ない 自分がそこにいた 居た堪れなくなった五郎は 寝室に戻った 布団の中で 息を顰めて泣いた そんな事を繰り返すうちに 彼女はただの土塊に 変わった それが別れだった ---------------------------- [自由詩] 猛烈は強烈の上/アンドリュウ[2014年7月7日18時40分] 金平糖を一つ あげよう 尻をフリフリ 逃げる爺 猫よ覚悟はよいか! 猛烈な台風 棟上げは明日 あぶらあげはとび イカルスの鍋 太兵衛は嵐の中へ 船を出す 予習が済んだら 出す物出して さっさと寝な! 未明からの 暴・風・雨 わしは アジトで 天使をかどわかす 夢を見る ---------------------------- [自由詩]そして/アンドリュウ[2014年7月8日18時14分] そして 我々は排水管に流れ込む汚水の様なものだ 何もかもごちゃ混ぜにして 蓋の隙間から暗闇に落ちてゆく 落ちてゆく落ちてゆく 次から次と落ちてゆく あんたにも私にも 何の意味も価値もない ただ流れてゆく汚水なのだ 原始の昔から この事は分かっていた 火を付ければ飯が炊けるように 春が来れば桜が咲く様に 自明の理だった そして それでいいのだ 死んだ愛犬達は 今どこを歩いているのか どこもあるいていないのか… ---------------------------- [自由詩] 1千億光年の孤独/アンドリュウ[2014年7月9日18時05分] 破滅へ向かうバスの窓は覆われている バスは奈落へ向かって疾走する 車内では半裸の乗客たちが 飽きることなく痴態を繰り広げる 恍惚の表情を浮かべ重なり合う肉体ひしめく叫喚 内耳から滴り落ちる倫理の腐液で床はてらてらと滑っている 例え明日地獄の業火に焼かれようとも 今は目の前の快楽を貪る 破滅へ向かうバスの運転手は自慰に没頭している バスは奈落へ向かって疾走する バスの行先は誰も興味はない 刹那の欲望を満たす事がすべて やがてバスは奈落の底へ到着する 体液まみれの体でぞろぞろとバスを降りる そこには喜びも悲しみもささやかな愛も痺れるような欲望もない ただの漆黒の闇があるだけ 一千億光年の孤独があなたを押し潰す ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)] 約束/アンドリュウ[2014年7月9日18時12分] もぬけの殻の四郎は小さな山の頂に立った 6年前美智子と交わした約束 「3年後のこの日に もしまだ好きだったらここで会おう」 美智子は涙をいっぱい浮かべながら細い頤を振って何度もうなずいた その様が健気で愛おしかった 二人は何度も抱き合って泣いた  その日夕日が沈んでから月明かりの中を手をつないで下山した  その時の美智子の手のぬくもりを昨日の事のように思い出す 次の日四郎は後ろ髪をひかれる思いでアメリカへ留学した 将来結婚して美智子を幸せにするにはどうしても越えなければならないハードルだった  三年間の研究を終えて帰国すれば大学に講師の席が用意されている 別れている間は研究に支障をきたすからと全ての連絡を絶ったのは一途な美智子の提案だった ところが状況が変わって帰国が伸びた もう3年我慢すれば講師ではなくてもっと上の椅子が手に入るかもしれない  さんざん悩んだ挙句四郎は帰国を延ばした 美智子には手紙で事の次第を連絡した 最後には6年後の同じ日に山頂で会おうと三回同じ言葉を並べた 美智子から返事は無かったが一途な美智子の事  きっと旅立つ前の連絡はとらないという約束を律義に守っているのだろう そう前向きに解釈していた 美智子のことだけを考え遊びの誘いは断って勉学に邁進した ところが事態は急変した  無事に6年の研究期間を終え一週間後に帰国というその日 偶然会った邦人の友達から信じられない言葉を聞いたのだ 「あっそうそう前島美智子ってお前の元カノだったよな?… あいつ可哀そうに事故で死んだんだぜ」 「えっ!冗談だろ」 「まじだよ えっとあれは確か三年前だったかな 高速でトンネルの天井が落ちて来てさ…」 四郎は突然雷雨の中に引き立てられた様な衝撃に打たれた 自分がここまで頑張れたのも全て美智子の存在があってこそだった セミの抜け殻のような体で帰国し茫然自失のまま無意識のうちにこの山に登って来た  ここが唯一美智子の存在を感じられる場所だった 静かに涙が溢れてくる 拭っても拭っても溢れてくる 本来なら今日が約束の日だった 二人で手に手を取って新しい人生を歩んで行ける輝かしい始まりの日になるはずだった  四郎は声をあげて号泣した ミチコ〜なんで俺を残して行っちまったんだ 心のたけを言葉にならない嗚咽に繰り返した ふいに人気のない山頂に一陣の風が吹いて 夕暮れの薄明かりの中を何かが草を揺らして登って来るのが見えた 血塗れの何かが… ---------------------------- [自由詩] ない/アンドリュウ[2014年7月11日22時14分] 心をギュと絞る様な そこまでの付き合いは ない 互いを刺し貫く そんな鋭い出会いも ない 皆自分の貝殻に閉じこもり 僅かに触角を触れ合わすだけ 殴り合う事も 罵り合う事も 涙を流して抱き合う事も ない 男と女がいても 物語は始まらない 迷路の中の迷路で ボクは自分の影を 追ってみる ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]シンプルな物語/アンドリュウ[2015年3月2日18時32分] その男は三匹の犬を飼い 二匹の猫を飼った 三匹目の犬が 彼より少し長生きした 雨が降る前の 微かな気配を うなじの毛で感じる事が出来た 玄米を食べると 非常に臭いおならをした その臭いを覚えている人も もういない 少し冷たい風にのって 幾度目かの 春が来る ---------------------------- [川柳]娘とスマホ/アンドリュウ[2015年5月19日21時15分] 眉顰め指間に洩れる彼の声 ---------------------------- [川柳]競馬/アンドリュウ[2015年5月24日18時32分] 犬が逝き娘が去って馬戻る ---------------------------- (ファイルの終わり)