水宮うみ 2017年1月1日21時43分から2017年4月5日22時54分まで ---------------------------- [短歌]白い日々/水宮うみ[2017年1月1日21時43分] まっしろな飛行機飛んで雲浮かぶそんな青空みたいな日々だ 真っ黒な夜にいのちを輝かせ浮かんでいたんだ白い白い月 ---------------------------- [短歌]彼女/水宮うみ[2017年1月2日9時24分] ベランダで詩を黙々と読んでいる彼女のこころに青く咲く花 「愛だけが空から降ってくるんだよ」彼女は月に住んでいると言う ---------------------------- [自由詩]海はいのち/水宮うみ[2017年1月4日12時11分] この町には海がないから、手放せない荷物だけ持って町から出よう 沈黙という会話のなか、星屑が空へと降っていく 海に向けて言葉を投げるあなたは、いつかの朝日みたいに輝いていた 地平線から、ひかりが降ってくる ひかりのなかで、僕らのからだはいのちになる ---------------------------- [短歌]さようなれない/水宮うみ[2017年1月4日12時28分] 今はまださようなれない何故かって春が来るから君が来るから ひかりのなかで神さまは消えた なにもかも消えて春になった 少年は待っている日々を壊すような救いの明日を君との出会いを ---------------------------- [短歌]月には言葉がない/水宮うみ[2017年1月5日11時41分] あたたかさもつめたさも失って星空が瞳を閉じる 流星になった君という言葉からはらはらと鱗粉が落ちる 太陽が瞬いて人知れず右手が夜を掴む 手紙が飛び交う、空みたいなインターネット ---------------------------- [自由詩]「明日も明後日も君でいてね」と君が言う/水宮うみ[2017年1月6日19時09分] 夜空にひとり佇む月が夢をみている 本から溢れだした物語とともに眠る 夢みることをやめても眠ると夢が居た 声が音楽を越えていく思うがままに考えることができる ---------------------------- [自由詩]夜に灯っている/水宮うみ[2017年1月11日19時24分] 夜のいない街にいて、なかなか眠れない。 この街の中心に、夜を壊すわたしがいて、 夜を壊す音が鳴りつづけ、静寂が訪れない。 街は、一日中真っ白で、誰もいないなにもいない部屋だ。 ある日、わたしが疲れ果て、白が消え、 はじめて夜のいる真っ暗な街で眼を閉じると、夢がみえた。 夢が、こどものように、母親のように、ずっとそばにいたことを、 夜がいないときも心の中であかく灯っていたことを、夜に触れて思い出す。 ---------------------------- [自由詩]季節/水宮うみ[2017年1月12日23時11分] 雪がひらひら降ってくる。星がさらさら降ってくる。 陽の光がはらはら降ってくる。花がきらきら降ってくる。 「空から来たのですか」と聞くと、「空から来ました」と答える。 春が、夏が、秋が、冬が、 毎日新しい季節が訪れる。 季節の向こうへ、手を伸ばす。 ---------------------------- [自由詩]メモ/水宮うみ[2017年1月18日23時25分] メモ帳には、 「さっぱりと空っぽになって、空を見ている たとえ世界にとって新しいものはなくても、僕らは新しいものと出会い、日々を暮らす 別に、今日しか、今しか見れないものではなくても、今の空を確かに綺麗だと感じる 世界は、今を綺麗だと感じていますか?」 と書いてある 何かが足りない。 と、メモ帳を見て思っている。 気持ちを言葉にして整理していくことは楽しいが、 それでもなんだか満たされない。 思いついた言葉をメモしていなかったときの僕は、満ち足りていたんだろうか。 未来の、例えば十年後の僕に聞いてみても、「本当に、何が足りないんだろうね」と、返される気がしてならない。 メモした時、これは確かに、一つの答えだった。 タイムマシンがあったなら、 「その時その時のメモを集めていったら、どうなるんだろう?」 と、今すぐ十年後の僕に聞いてみたい。 という文章を書いてる内に、僕が驚くような答えを、 十年後の僕にこっそり期待していることに気付いた。 未来の自分に期待することは楽しい。 案外それが答えなのかもしれない。と、なんだか少し満たされた。 この文章はタイムカプセルだ。 十年後、この文章を読んだ僕が何を思うのか、十年前から楽しみにしている。 ---------------------------- [自由詩]おいしい歌を聴かせてよ/水宮うみ[2017年1月21日23時38分] カレーみたいな、味噌汁みたいな、そんな歌を聴かせてよ 春の公園みたいにぽかぽかした歌を、声を、 お腹いっぱいになって、気が付いたら眠ってしまうような歌を、 絵本を楽譜にして、聴かせてよ ---------------------------- [自由詩]2017年1月22日/水宮うみ[2017年1月22日0時31分] 「2016年までに書かれたものすべてが、2020年に読み解かれ、0年に生まれた愛が、きっと2222年まで、その先まで続いていく」と、2000年によって書かれた 世界は僕らと一緒に、少しずつ歳をとっていく ---------------------------- [自由詩]あおい星空/水宮うみ[2017年1月25日22時22分] 詩が居なくなって、冬の光のなかに立っている はらはらと降る雪をみて、私が行ったことのない、遠いだれかの地上を思う 雪が止み、あおい星空が見えるとき、私たちはまるで同じ場所に立っているかのように、綺麗を共有する 冬が終わると、すべての背中に小さな羽が芽吹き、 桜が咲く頃みんな飛んでいく 詩の居なくなった冬で、私が夢みたことは、あなたがあなたの優しさを、大切に持ち続けること ---------------------------- [自由詩]詩のはじまり/水宮うみ[2017年1月28日0時06分] 自然のなかで生まれる音色、揺れる景色に詩のはじまりをみる 動物たちの会話は詩の形をしていて、 詩人が居なくたって、世界には無数の詩が飛び交っていることに気付いた 陽の光を浴び、風に揺れる世界は無邪気に笑うこどものよう 街の人ごみを抜けて、君の生まれた場所を目指し、僕は詩集みたいな旅に出る ---------------------------- [自由詩]良い気持ち/水宮うみ[2017年1月29日18時50分] 今日は詩を書かなくたって良い気持ち 植物は緑に煌めいているし、空も青く輝いている ご飯もおいしい 悲しいことも恐ろしいことも、まるで太陽がすべてのみ込んだみたいだ だから今日は詩を書かない あえて詩にする必要がないくらい、今日の世界は綺麗だった ---------------------------- [自由詩]1/水宮うみ[2017年1月31日19時22分] こどものころ、100はとてつもなく大きな数だった けれど、どこまでも大きな数があるって、100なんて全然ちっぽけだって、大人になるにつれて知った 70億という数字が教えてくれたのは、僕が世界の一員だってこと 僕は今までの日々を数える 数えきれない有限の日々を 「10を10乗して10乗して10乗して……という繰り返しのなかで、いつか宇宙より広大な場所に行くことができるかな」 僕がそう訊ねると、「どこにも行けないよ。自分を知るだけさ」と、1は少し寂しげに笑った ---------------------------- [自由詩]2/水宮うみ[2017年2月2日0時00分] 2+2=2×2=2^2=4みたいな式のように、僕らは唯一無二のものとしてここにある。 当たり前のような顔をして、数字や定理みたいに歴然と世界に存在している。 数は作られたものでなく、元々世界にあった。四季や動物たちのように。 君が元々世界にいたように。 君は作られたんじゃなく見つけられたんだ。世界に。 世界を見つけたと同時に君は生まれた。 僕は1だけど、君といると2になれる。 2は、孤独じゃない素数だ。もしくは、1番最初の孤独だ。 どちらか2つから、好きな方を選ぶ。 ---------------------------- [自由詩]分かりたい/水宮うみ[2017年2月3日18時20分] 「なにがなんやら分からんね」 僕がそう言うと君も笑って「分からんね」と言う。 「最近なにがなんやら」おばあちゃんもぼやく。 これを読んでるあなたはこの気持ちを分かって貰えますか? なにがなんなんでしょうね。 ある人の、「なにがなんやら分からんのは、今に始まったことじゃないよ」 という言葉にハッとする。 そうか。今までもずっと、なにがなんやらだったのか。 その人に「いつ今に始まったことじゃないと気付いたのですか?」と聞くと「いつの間にか」と答えた。 いつか、なにがなんだか分かるのだろうか。分かったと思った次の瞬間、なにがなんやらになるなにかのことを。 「そのなにかって、分かる必要あるの?」 と聞かれても、分からない。 たった一つ分かっていることは、僕は今、分かりたいと思っている。 ---------------------------- [自由詩]生きている君へ/水宮うみ[2017年2月12日9時19分] 明日晴れたらどこへ行こう 雨が降ったらなにをしよう 暑い日も寒い日も、お腹が痛いときも怒鳴られたときも、なんだかんだ言って僕ら生きてきた 悲しみも怒りもない、罵りあいも八つ当たりもない、そんな未来が明日やってきたらいいね 意味もなく楽しい瞬間があって、それはきっと神様からの贈り物だ 確かにどこかで暮らしている、泣くことも笑うこともある君へ、手紙を書いてみた 君がそれを読んでどう思うかは、一年後の天気ぐらい想像の向こうにあるけど、晴れたらいいな ---------------------------- [自由詩]もうすぐ桜に会える/水宮うみ[2017年2月12日9時22分] 春が来たら、十年前の僕らの入学式を見に行こう 鳥の声や風の音が音楽そのものだった、あの場所へ 桜の花が舞うなかで、話をしよう 桜を見ることができなかった春の話を君としよう なんにも考えていなかったあの頃を思い出し、 バカみたいだったねと一緒に笑いあう、そんな一日だっていずれはお話になる 桜の木は眼があるかのように世界を見渡し、口があるかのように季節を歌う 僕らは話す。言葉を恐れずに まだ生きるのに理由がいらなかったときに、桜を見に行こうと約束したのを覚えている 僕らがいなくなっても、この約束はなくなりはしない この約束を知る者がいなくなるだけだ 春にしか行けないあの場所で、桜は咲き誇る 一年中、春になったらいい。刹那が咲き、刹那が散る、儚い春のなかで一人歩く 空から桜が降ってくる。誰かにとって、そこには悲しみも喜びもなく、ただ時間が流れていくだけの普通の一日だ それでも、僕は新しい春を待つ。何かが始まることを、夢見て暮らす 壊れそうな現実のなか、息をする度に僕らは、少しずつ桜色に染まっていく ---------------------------- [自由詩]彼女の瞳は小さな惑星/水宮うみ[2017年2月15日20時00分] 数式で書かれた彼女が、数学の授業中居眠りしている。 彼女の意識は夢の中で、宇宙の果てまで駆け抜けていく。 数学教師の一声で彼女の数式たちが飛び上がり、寝起きみたいな顔をしてこっちを見る。 いつだって、彼女の周りには数式がぷかぷか浮かんでいる。文字が丸くて可愛らしい。 数式は永遠に残るものの筈なのに、彼女の口から吐き出される数式は何故か儚い。 原理的に、彼女以外誰も見ることのできない数式があって、それはこの星の軌道上を人知れず漂っている。 彼女の瞳に、無数の星が映る。 ---------------------------- [自由詩]君は宝物/水宮うみ[2017年2月18日18時32分] 君の「おはよう」で目覚め、僕は猫みたいにあくびをする 柔らかさというものは、あるときは光、またあるときは闇の形をとっていて、君の「おはよう」も「おやすみ」もなにかの奇跡みたいにふわふわしている 君がいなくなってしまったら、僕は眠ることも目覚めることもできないだろう 君の「おはよう」は宝物 君はいつだって明日を連れてくる ---------------------------- [自由詩]糸電話/水宮うみ[2017年2月18日23時01分] 昔の人々の生きた証が僕らを繋げたように、 僕の生きた証も、未来の誰かを繋げられるといいな その証は糸になって、耳を澄ました君にこの声が届く ---------------------------- [自由詩]文章/水宮うみ[2017年2月26日8時03分] これは文章です。あなたは読み手です。わたしは書き手です。 わたしがあなたの文章を読むときは、わたしが読み手で、あなたは書き手になりますが、文章は文章のままです。 どんな文章を書いているときも、どんな文章を読んでいるときも、あなたはあなたで、わたしはわたしです。 それでも文章は、ふとした瞬間に、わたしをわたしでない所へ、あなたをあなたでない所へ、連れていってくれることがあります。 だからこそ、わたしたちは文章を書き、読むのです。わたしでないわたしになるために、あなたでないあなたになるために。 わたしたちは文章を通して、遠い遠い誰かに出会います。近しい人の違う一面にも出会います。会話だけでは知ることのできない、あなたがいます。 この文章で、わたしはわたしでない所へ行けた気がして楽しかった。あなたもそうだったら嬉しい。 これが最後の一行です。終わり! ---------------------------- [自由詩]見えない星/水宮うみ[2017年2月27日21時25分] 生まれて初めての今にいる。だから覚束ない足取りで、未来を望んだり過去を思い出したりして、今ってものを理解しようとしている。 今、昔の出来事を夢で見たよ。今、明日のために早く眠るよ。今、歩きすぎて足が痛いよ。今、なにもかもを抱きしめられるような気分だ。今、今、今。 いつだって今のことがよく分からない。未だに、ひとり夜を彷徨った十四歳の僕と別れられずにいる。 どれだけ時が経ったって忘れたくないと願った思いがあって、でも僕はその思いを少しずつ忘れていく。残念ながら、きっと十四歳の僕の願いは叶わない。 それでも、完全に忘れてしまった訳ではない。今は。 誰にだって、うまく言葉に変換できない、忘れたくないって強く思った願いがあるはずだ。 僕にしかないものなんてどこにもなくて、だから十四歳の僕はひとりぼっちじゃなかった。 みんな何かを願いながら、夜を歩いている。 僕たちは、星が見えなくたってロマンチストでいられる。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]命の題名/水宮うみ[2017年3月5日10時34分] 初めてなんて忘れてしまった。いつの間にか僕は名前とともに生きていた。 こどもだった頃、海を初めて見たときも、初めて山に登ったときも、特になにも感じなかった。 こどもは詩人だ、と言う人もいるけれど、少なくとも、こどもだったときの僕は詩人ではなかった。 今は近所の景色を眺めるだけでも楽しい。川の流れをただ眺める為だけに出掛けたりする。 そうやって外出しているときにふと言葉が浮かぶことがある。その言葉は僕にとって斬新で、いつも忘れないようにメモする。 そういう言葉がメモ帳にたくさん残っていて、眺めていると時折ハッとしたり、こっぱずかしく感じたりする。 それらの言葉のどこかに、命が宿っていればいいな。 僕にとって、初めての言葉が僕の名前で、僕の名前が僕という命の題名だ。 僕という命の最後の一行を、見つけ出すまで僕は僕であり続けたいと思う。 ---------------------------- [短歌]あっ!/水宮うみ[2017年3月5日18時01分] あっ! という声が出ちゃった。この街に初めての雪が降る音もなく。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]言葉でできている/水宮うみ[2017年3月7日21時34分] 「俺を名付けたのは誰なんだ?」 タクがそう呟くと「私だ」とミケが言う。 「お前だったのか」と返すタクに、ミケは「なんでそんなこと疑問に思ったの?」と訊く。 「なんだか、名前があるのが不自由な気がしてさ。俺は生きている間タクであり続けなくちゃいけない。そんなのまっぴらごめんだ。輪廻転生なんて無いんだから、生きている間にいろんな人になりたい」 「一生のうちにいろんな人生を経験したいのね」 「あぁ。俺の名前にどういう意味を込めたんだ?」 「なんの意味も込めてないわ。二文字で呼びやすいでしょ?」 「意味がないのは嬉しいな。自分で好きにこの名前に意味を込めることができるんだもんな」 「ポジティブ過ぎない?」 「いろんな意味合いでのタクとして生きれるなら、タクであり続けるのもそう悪くはない」 「あなたの名前に意味を込めなくて良かった!」 「ところで、登場人物に名前が必要だと誰が決めたんだろう 名前が無けりゃ、俺は誰にだってなれたのに」 「さぁ。まぁ登場人物の一人に過ぎない存在に誰にだってなられたら面倒くさいでしょ。こうして今この会話を読んでいる人にも名前はあるだろうし、書いている人にも名前はある。この文章の読者も作者もなにか他の物語の登場人物に過ぎない。作者はきっと、小説の登場人物には名前が必要だっていう定型通りに、私達に名前を付けただけ。そもそも、言葉が必要だって誰が決めたのかしら」 「意思を伝え合う為だろ」 「タクは言葉好き?」 「なんとも言えん。好きな言葉もあるし、嫌いな言葉もある」 「私もよ」 「俺を書いているのは誰だ」 「作者」 ミケはそう言った後、微笑みを浮かべて 「あなたは言葉でできているのよ」と言う。 ---------------------------- [俳句]ぽかぽか/水宮うみ[2017年3月19日20時18分] 部屋照らす朝日のように春が来た 桜咲き川沿いの道君がいる ---------------------------- [短歌]晴れた空の色のことを青と名付けた/水宮うみ[2017年3月20日11時31分] この町も寒さと雪が通り過ぎご覧春だよ生まれたての朝 100億の雨を降らせた彼は今望遠鏡で夢を見ている ---------------------------- [自由詩]散らない/水宮うみ[2017年4月5日22時54分] 私は存在するので歌を歌ったりもする 眠りのなかはいつも春で、毎日夢の中で春の空気と遊ぶ 眠りたいから夢をみる 桜が散るまで、失われることを知りもしなかった 散った桜が、私を見る それでも、君の寝息が歌に変わるまで、私は散らない ---------------------------- (ファイルの終わり)