くみ 2013年10月8日23時13分から2014年12月25日22時54分まで ---------------------------- [短歌]ふりかえる/くみ[2013年10月8日23時13分] 出会い時目に奪われた君の顔自分の中で強い独占 大好きな彼の唇キスをされ抱き締められた涙止まらず 秋初め制服の上萌えカーデ彼可愛いと胸が高鳴る ---------------------------- [俳句]きまぐれ秋模様/くみ[2013年10月9日23時26分] ぶり返すご機嫌斜め秋気温 秋の海夏より綺麗砂光る 秋の空台風近く流れ雲 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]でも好きでたまらない/くみ[2013年10月10日3時09分] いい男は潜在的に人を騙す特技があると思う。 そう、毒みたいなもの。 自分が彼の事を好きと想ったり言ったりする時、何故だか悔しいなって思う時がある。 彼の事…悔しいけど本当に大好きだからしょうがない。 自分でも何で?って思うけど、自分の心の奥底に幾らか『騙されてる』という不思議な錯覚があるのではないかと。 頭の中で好きなんて幾らでも思える。 自分の好きはそんな軽いものじゃない。 全身が抉られてしまいそうな感じになる位に彼に惹かれてるのだ。 明日会ったらまた彼の誠実な笑顔に自分は虜になるのだろう。 告白されてから11年も経つのに……まだ自分はこんなに好きなのだと再確認させられる。 ---------------------------- [短歌]ふたりだけの内緒話/くみ[2013年10月12日2時39分] 部屋の中君と二人で雨の音寄り添いながら朝を迎える 虹を見て君が呟くこの虹は幸せの色全部あげたい 本当の彼の心は純粋今の内面素直じゃない 絶対に言わないけれど運転をしてる横顔何度もチラ見 過去の事鈍く燻る花言葉曼珠沙華悲しき思い 久々にカフェでデートラテアートハート模様に胸が高鳴る ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]季節外れ/くみ[2013年10月12日20時02分] 『秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる 』 確かこの歌を見かけたのはいつだっただろうか?確か高校生の時に古典の授業の時に副教材か何かに載ってたやつと思ったが、秋が来るという意味合いの歌じゃないかと俺はぼんやりと考えていた。 (8月過ぎてもまだまだ暑いな……) 夏の終わりの感触は、秋生まれなのに俺自身は結構気に入っている。 気温も湿度も高くダラダラと蒸し暑いのはうっとうしいけど、よく冷房の効いた室内から出た時にしか感じる事が出来ない、夏のあの一瞬だけ来るむわっとした様な薫りはそれなりに好きだった。 夕方にそれを感じると何故だか、田舎の祖母の家に居る様な錯覚に襲われる。夏の終わりにその家に居られたら幸せだろうなと、ふっと思いながら想いを馳せた。 俺は本は元々好きだったから色々な本を読んできた。特に仕事柄、経済や国際関係の本を読むのが多いが、古典も嫌いじゃない。昔、受験勉強をしていた時も和歌は興味があったし、これはいいなと思うのは夏の終わりや秋の歌だった。俺は読んでいた本をローテーブルの上に置くとごろりと寝転んで、冷たいフローリングの上で涼を取った。 「またそんなだらしない格好して……」   声のする方に目をやると、恋人が珍しく台所に立っていた。何か茹でているのか手で湯気をパタパタと振り払っている姿に、俺は顔だけをそちらに向ける。 髪がうっとおしいのか前髪だけをピンで上げていた。 「黙って見てるなよ…」 「何やってんのか見てなくてもだいたいわかるもん」 「わかってたまるかよ」 何かを刻んでいるのかトントンと心地いい音も聞こえてきて、俺は思わず微笑んでしまった。昔、恋人に料理を教えた記憶はあるがそれ以来サボっていたらしく、少し前までは子供でも扱える包丁もろくに使えなく怪我ばかりしていた恋人が、何があったのかは敢えて聞かないが再び密かに練習したらしい。 今は何とか昔教えてやった誰でも作れるかなり簡単な料理なら出せるまでになった。毒味をさせられる時はさすがにハラハラしたが、それが何かいじらしくて可愛いと俺は思った。 (いつまで続くか分からないけど、どんどん練習していけばコイツの料理も母親が作るような味になっていくのかな?最初は俺が教えたんだし) 母親の料理はどんな味だっただろうかと俺は昔を懐かしんだ。彼女はよく自分の嫌いな物を上手く誤魔化して料理を作ってくれた。未だに何故かエビフライは食べれないけど。そんな事をふと思っていると頭上に恋人が立っているのに気づく。 「ん?どうした」 「いーや別に。でも何か考えてたでしょう?」 「お前が作る料理について」 「そうなの?」 ギャルソンエプロンを外した恋人は、『付けすぎると身体に悪いよ』と言いながら冷房を消すと窓際に向かった。つられて俺も起き上がると、恋人は窓を開けて手にしていた何かをカーテンレールに吊り下げようとしていた。 「風鈴?季節的に遅いだろ」 「うん。前に実家に戻った時に昔使ってた風鈴が目に付いたから持ってきちゃった」 その風鈴は、透明な硝子に美しい朝顔の花が書かれていた物だった。いかにも恋人が好きそうなデザインだ。吊り下げられた風鈴はちょうど風が来たようで、その風に揺られてちりんちりん……と良い音が鳴っていた。 「たまにはこういうのもいいでしょ」 ふわりと笑いながら、恋人は俺の隣に座った。 「どした?」 「風鈴ってさ、昔は田舎の家に行くと必ずあったよね」 「風鈴?そうだなー、俺の田舎にもあったっけな」 「うん。小さい時は家族3人で田舎のお婆ちゃんの家に行って縁側でかき氷とかスイカを食べたり、夜は花火したりしてさ…楽しかったな」 「今年はもう無理だけど、来年は一緒に行くか?俺の田舎」 「うん。前にも1回連れて行ってくれたよね。また行ってみたいな」 夕陽がゆっくり落ちていくのかいつの間にかフローリングに2人の影が出来ていた。ふと恋人の方を見ると薄暗くなった部屋に自然の光で照らされている恋人の顔は昔と変わらずに綺麗だった。 「なに見てんの?」 「なにも」 「嘘つき…恥ずかしいからそんなに見ないで……」 見ていた事を誤魔化すかのように、俺は恋人の肩をそっと自分の方に引き寄せてみる。いきなり触ってびっくりさせてしまったのか緊張気味な背中を安心させるように優しく撫でてやる。 「もうすぐ夜になっちゃうな」 「うん。でも陽が落ちる時間は嫌いじゃないよ」 「たぶん今日は雲も出ないから月明かりも見えるかな?」 「満月だもんね」 夏の終わりの感触、恋人の姿、台所にある料理、揺れる風鈴の音。 隣に居る恋人の身体の熱も柔らかい風が吹き抜けていき熱を少し下げてくれる。本当に夏が終わって欲しくない位に居心地がいい。 暫くそのままにしてると暮れゆく空にうっすらと輝く月が出てきた。それを見つめながら俺は恋人の綺麗な頬と唇にキスをしてみた。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]視線/くみ[2013年10月17日15時02分] 『視線』 最近雨ばかり続いて気分的に憂鬱だったが、今日は目の覚める様な青空で天気がいい。少し風はあったが、開け放つ窓から差し込む日差しが眩しく自分は思わず目を細めてしまった。洗濯物も溜まっていたがこの調子なら丸1日干しておけばすっかり乾いてくれるだろう。 ベランダから部屋に戻ると、いつも聴いてる曲を流しっぱなしにしながら、珈琲を入れる。ヤカンから沸騰した湯を静かにコーヒーメーカーに注いだ。今日は2人分の量だ。お揃いのマグカップは自分の趣味で揃えてしまったので色も柄も少し可愛すぎるかなと前から気にはしていたが、恋人がこれでいいよと言うからそのままにしている。逆に向こうの家で飲むカップは恋人の趣味である。 「いい匂いする」 「もうすぐ出来るから、もう少し待っててね」 恋人が座っている方向に目をやると、読んでた本から上げられた恋人の目と顔が優しくうんと自分に向かって頷く。その瞳と顔に自分は弱い。この瞳は何度見ても大好きだったし、じっと見つめらればドキドキしてしまう。たぶん今も自分の顔は赤くなってるだろう。 俺は出来た珈琲をカップに注いだ。恋人の大好きな銘柄の珈琲はとってもいい匂いだし、味もなかなかなのだ。いつも思うのだが、お揃いのカップを出すのは少し気恥ずかしい気もしないではない。今更何考えてるんだと思いながらも平然とした顔を繕って珈琲の入ったカップを恋人の目の前に差し出す。 行儀が悪いと言われるかもしれないが、一口二口程すすりながら恋人の横に座る、正面に座らないのは恋人の顔がまともに見れないからだ。 またさっきみたいに、誠実で優しい視線で見られてしまったら、自分はきっと耐えられないと確信している。 そうでなくても恋人に対する色々な感情から自分の胸が一杯になってしまい泣き出しそうに…切なくなってしまう。 もしそんな事になってしまったら、ベッドに戻って布団を頭から被ってくるまり暫く出て来ないだろう。 わざと視線は珈琲の入ったカップに落としたままにしておく。再び二口位珈琲をすすった。 相手に気がつかれないようにそっと視線だけを上げ横を見ようとすると、同じ様なタイミングで恋人も珈琲を飲みながら平然とした顔でこちらを見ている。目の前にあるカップを挟んで視線が絡んだ。 2.3回瞬きをしたのも見る限り同じタイミングだったと思う。視線を外せなかった自分はそのまま恋人の優しくふっと笑う瞳にやられてしまった。 やっぱり恥ずかしくなってぱちぱちと瞬きを繰り返して混乱してしまう。 その混乱を打ち消したくて思わずまだ熱かった珈琲を一口勢いよく飲んだ。喉が一瞬熱く感じたけど、やっぱり自分の顔の方がずっと熱く、さっきよりも赤くなってたのに違いない。 「ん?顔が赤い?」 「なっ…なんでもない」 自分の顔を見ながらくすくすと笑う恋人。心の中が見抜かれてしまったかとちょっと悔しくて、顔が少し歪んでしまう。 今流れてる音楽も、まるで今の自分の気持ちを表しているような曲だった。 「今日はこれからどうする?」 「とりあえず布団にくるまりたい」 本当に今日は秋晴れだ。 布団にくるまった後は2人で何処に行こうか? ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]髪とちっぽけな独占/くみ[2013年10月23日21時37分] 『髪とちっぽけな独占』 「髪、もう伸ばさないのか?」 恋人にそう尋ねてみたのは、折角少し伸ばした綺麗な髪型をもう少しだけ見ていたかったからだ。 恋人の髪はとても柔らかく、艶々としている。自分の髪質はそこまで柔らかくはないのからだろうか少しだけ羨ましくも感じた。 髪を撫でてみると本当に自分の手に絡み付き、馴染んでいる髪は、自分だけのお気に入りだった。校則に縛られていた高校の時とは違い、大学生になって自由を手にしてからの恋人はやけに艶っぽくなった。今の姿も勿論好きなのだが、昔の可愛らしい姿も好きなのだ。 だからこそ迷う。2つ共に自分だけの物にしたいのに、1つに決めなければいけない。何か勿体無い気がした。おもわず残念そうな顔を恋人に向けてしまう。 「でも茶髪とパーマは似合わないって言ってたし……やっぱり切るよ」 確かに可愛らしい姿からいきなり茶髪と伸ばした髪にパーマをかけた時は正直似合わないと思った。コイツのイメージと違うからだ。 「ならパーマだけ取って切るのは少しだけにしろよ」 「なんで?」 「綺麗な髪なのにこれ以上いじくって痛んだら勿体無いだろ?」 自分は興味のない事にはあまり構わないし、話題にも上げない性質だ。でも恋人の髪については重要問題だ。気のない素振りをしながらも口に出すのはやっぱり気になるからだろうと自分で結論付ける。 恋人の髪質もいいが、頭の形も結構良い物を持っている。最近、恋人より小さいと気にしていた身長が少し伸びたから恋人の頭も少し見 下ろす事も出来るようになった。ただし背伸びはしないといけないが……。 この長い髪にまとわり付く髪の毛がまだ愛おしくて離れがたいだけなのだ。また切っても伸ばせばいい事なんだろうがと、どうでもいい事で悩んでしまった。 明日には恋人は迷わず美容院へ行き、パーマを取って少し髪型を変えるだろうと行動をシュミレートしてみる。でもその姿を想像するのはなかなか思い付かないし苦手だ。でもまたあの愛らしい髪型に近い髪型をしてくれるなら明日には新しい姿が見れるだろう。 「髪の毛あんまり短くするなよ?」 「しない」 「しないの?」 「だって指に絡められなくなったら困るでしょ?」 そう言って悪戯そうに笑う表情は何もかもお見通しってところだろうか。ならいいんだ。それならコイツはちゃんと自分が見て嫌な髪型にはしてこないだろうし。 「明日は美容院でちゃんと綺麗にしてくるからね」 「ぁ……うん」 コイツの髪はもう半分自分の物でもあるのだ。その髪を指に絡めていいのは自分だけでいい。どんな些細な変化も見逃さない。でもそれは、恋人には口が裂けても言わないが。 言ってしまったらコイツは調子に乗ってまたあれやこれやと髪を弄るに違いないから。 所詮は子供じみた独占欲、だ。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]手紙/くみ[2013年10月25日21時54分] 『手紙』 (手紙なんて久しぶりだな) 自分が最後に手紙を書いたのはいつだろうか? 今でも暑中見舞や正月の葉書など形式的な物は一応手書きで書いたりもするが、今や殆どがメールでのやり取りが半ば常識化している。 メールのやり取りでも心に残った文章は幾らでもあるし、現にそういった類のメールはちゃんと整理して保存してある。 だが、本気で大事な人に心を込めて紙に書いた物はそれをも上回る。 ふと高校時代を思い出す。 それこそまだ携帯を持っている人間がクラスに何人かの時代で、持っていてもあまり使いこなせていなかった様な気がした。 結局は手書きの物がまだ当たり前で、自分もよく授業中、小さな紙に恋人へ手紙を書いていた記憶がある。 恋人が可愛い色のメモ帳に綺麗だけど筆圧が薄く、しかも小さい文字で書いた返事の手紙はまだ幾つか残っていて、誕生日やクリスマスなど行事の時にはちゃんとした文面で手紙をやり取りしていたのも色褪せない良い思い出だ。 それらの紙類は大事な思い出を詰める為の空き缶に大事に保管してある。中には恋人と観に行った映画の半券やお揃いで買ったストラップ、恋人が作ってくれた押し花の栞なども一緒だ。 しかし、改めて恋人に手紙なんて書く前から何だか照れてしまい苦笑した。 『繊細で綺麗な字がなんか好き』 恋人が何気無く言った一言が忘れられない。 字は昔から結構綺麗な方なのではないかと自分では思っていたし、確かに周りからもそう言われる事が多かった。 ならば期待に沿うようにと恋人が好きな色の薄い青緑色の便箋に、まずは恋人の名を記した。 しかし、ペンを持って紙に書こうとすればする程に文字は歪んでしまい、書いた文章までもが上手く伝わらない。 気が付くとゴミ箱には何枚も書き損じた手紙を放り投げている自分が居る。 (アイツが貰って嬉しい手紙……か) 相手の期待に沿うようにと変に格好付けるから書けないのではないかと思い、変に気負うのは止めてみた。自分の想っている事だけを一字一字、丁寧に書いていく。 そう思うと、素直に自分の秘めた想いや意志を伝える恋文が出来上がってきた。やはり自分の頭で考え、自分の手で書いた手紙を見ると気恥ずかしいが、心は暖かい。 これを見た恋人は、自分の秘めた想いを分かってくれるだろうか? 言葉は不器用かもしれないし、恋文と呼ぶには粗末な物かもしれない。 しかし自分の想いは昔と何も変わってはいないのだ。 素直な言葉を紡いで書いた久しぶりの恋文。 恋人はどんな顔をしてそれを読むのだろうか? ---------------------------- [短歌]秋を見つめるふたり/くみ[2013年10月25日22時17分] 彼岸花君は見つめる儚げな花に似ていて憂いを帯びる 秋開始気温下がって頬赤いその顔にキス照れている彼 秋は好き葡萄梨柿お裾分け秋の宝石彼の口にも 秋桜を彼に渡され純潔それはあなたに奪われたのに 爽やかな秋の気候が台風に邪魔をされてお家デート ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]ハロウィンの日までは/くみ[2013年11月1日23時52分] 『ハロウィンの日までは』 最近、目に余る位に恋人の食生活が乱れすぎてると感じ取った自分は、少々可哀想に思いながらも強硬手段に出る事にした。 恋人は甘党だ。 カフェなどに行けば当然ケーキ2個食べは当たり前。 コンビニやスーパーへ行けば新作のスイーツや甘いパン菓子のチェック、はたまた果物まで見るのを忘れない。パン屋でもケーキが置いてある所ならすかさず両方チェック。 ネットでスイーツ情報を見ては今にもとろけそうな顔をして画面を見つめている。 その癖、普段の食事はコンビニ飯で適当に済ます。しかもかなりの少食である。 週末一緒に居る時なんかは、自分が食事を作ってやるのだが、目を離すと、自作の甘いチョコレートやキャラメルソースがかかった生クリーム入りコーヒーやココア、冷蔵庫に入っているアイスで自作パフェなど、お前は小さい子供なのか?と思わず突っ込みたくなる。 それなのにスタイルはやたらいいから不思議で仕方無いのだ。 確かに美味しい物を食べて幸せそうな顔をしているのを見るのは、こっちも嬉しいが……でも敢えて心を鬼にしてと言うのは言い過ぎだがちょっと厳しく甘味制限を試みた。 無駄な試みだと思ったが、試しに冷蔵庫から一切の甘味を無くしてみた。それに週末一緒に居る時の買い物は1人でスイーツ売り場にふらふら行かないようにしっかり手を握ってみる。 職場は間食してないかなんて直ぐに分かるから楽だ。 問題は恋人の家だが、幸いな事にレシートをそのまま貯める癖がある。 それを見れば一目瞭然だ。 「最近、お前の食生活と身体が心配だからハロウィンまではお菓子禁止です。もし、家で間食したら週末は会いません?分かりましたか?」 恋人の目をじっと見てわざとらしく子供に言い聞かせるみたいにしてそれを伝えた。 一瞬、綺麗な顔が拗ねた顔になり話の途中で不満を訴えてきそうになったが、週末に会わない。これは結構応えたらしく、恋人は素直に頷いて言う事を聞いてきた。 「Trick or Treat」 ハロウィンの日の夜、恋人は少し恥ずかしそうな微笑を浮かべてハロウィンお決まりの台詞を言ってきた。 「今日までよく我慢出来たな。偉い偉い」 恋人の身体を自分の方に抱き寄せて優しく頭を撫でてやる。 今日の香水の香りは甘い果実系の物だろうか?香水で気を紛らわしているのだろう。 それに混じって微かにお香の匂いもする。 なんかいじらしくて可愛いと思ってしまい、ますます力を入れて抱き締めた。 でもまぁ、だいぶストレスが溜まってきた頃だしと思い、ハロウィンの今日は甘味を解禁した。 ハロウィンは元々、アイルランドに居る古代ケルト人の秋の収穫祭や悪霊などを追い出す宗教的な意味合いのある行事などから発祥したと言われている。 今日の夕飯は気合いを入れて作ってみた。ピラフはウインナーで形を作ったお化けが混ざっている 南瓜をベースにしたベーコン入りのキッシュ。皿の端に人参で作ったお化けと笑っている南瓜を伸せてみた。そしてメインの黒っぽい色をしたカレーには生クリームで試行錯誤しながら描いた流れ星と魔女と猫。 夕飯の後にすぐ甘味を出してやろうとも思ったが、ちょっと焦らす意味合いも兼ねてハロウィンに纏わる話を始めてみた。 部屋を暗くして、南瓜のランタンだけを灯して雰囲気を出してみる。 南瓜のお化けのジャック・オー・ランタンの事。何故、子供達はクッキーやチョコレートを貰いに一軒一軒家を訪ねるのか?こんな話がある、と色々な話をしていたが予想に反して結構真剣に聞いている。 ならば東欧で創作として伝えられたという吸血鬼の話から、通称ドラキュラ公または串刺し公と呼ばれた 、15世紀のワラキア公国の君主ワラキア公ヴラド3世の話、図書館で読んでみたケルトの宗教の事、女吸血鬼カーミラの話など自分の知ってる限りの話をしてやった。 自分の方があまりに話に夢中になりすぎて、甘味を出してやるタイミングが遅くなってしまい、急いで冷蔵庫からお待ちかねの物を出してやる。 それを見た恋人の目は純粋な事にみたいに輝いていた。 甘さ控えめな自分の作った南瓜を使ったケーキ2切れ。 それだけでは物足りないだろうと思ってホットミルクにメープルシロップを入れてみた。 「美味いか?それ、ちょっと甘さ控えめにしてみたんだけど。ケーキなんて滅多に作らないから意外と手間かかっちゃったけど」 「うん……泣いちゃう位に美味しい!」 「泣くって…そんな大袈裟な」 「 また来年も手作りのお菓子食べたい。ダメ?」 恋人はちょこんと小首を傾げて満面の微笑みでお願い事をしてきた。 自分はやっぱりこの仕草に弱いらしい。 「ん?そうなのか?ならもっと練習してみようかな」 「そしたら試食するね!」 「あ、うん。ってお前、それじゃ意味ないだろ?!」 困った これじゃ、作戦失敗じゃないか。 やっぱりハロウィンだから目に見えない魔物達が邪魔をするのだろうか? でも、自分の作ったケーキをそんなに嬉しそうな顔をして食べてる恋人を見たらちょっと気が揺るんでしまうし、悪い気がしない。 自分だって晩酌とかなかなか止められないし。 (人の事言えないな……) とりあえず、今日は10月最後の日、ハロウィンだ。 この日位、魔物達と一緒に菓子類を楽しんでもバチは当たらないだろう。 対策はまた明日から考えればいい。 自分も滅多に飲まない赤ワインで晩酌しよう。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]冬の初めのごく小さな事/くみ[2013年12月13日23時15分] 『冬の初めのごく小さな事』 こういう休日は大して珍しい事ではない。 俺は恋人と連れ立って街に出る。俺は本屋や古本屋、更に時間に余裕があれば図書館、ゲームもやるからたまに中古品を扱っている玩具屋も覗いてみる。 恋人はいかにも女子が好みそうな雑貨屋や花屋、カフェにも立ち寄る。 そして最後にスーパーで食材を買い求めるというパターンだ。 だいたい立ち寄る店はいつも決まった所だ。俺も恋人も新しい店の開拓はしない方で、強いて言えば恋人が最近新しく出来たカフェに行こうと誘う位だ。 仕事柄、頭の中は常に最先端の事を仕入れなければいけないので、せめてそれ以外はという心の表れなのだろうか? 正直、常に新しい物を取り入れたり変化を求める事は結構面倒でしんどい事だと社会人になってから思うようになった。 古本屋では恋人が恐ろしく高価で表紙の文字から察するにいかにも戦前に発行された植物図鑑の前から動かない。そんな事に「あれ、植物図鑑は3冊までって約束じゃなかった?」と小言を言う自分。 俺も俺で食料品店で意味もなく余分な食材を籠に入れようとして「ねぇ?お肉断ちはどうしたんだっけ?」と俺の下の名前をちゃん付けした上に意地悪そうに綺麗な顔で微笑む恋人が居た。 12月に入り、冬の初めの洗礼かのようにとても風が冷たい寒い日だったけれど、手を繋ぎながら耳から脳内に伝わる大好きな恋人の声が俺の冷えた身体を温める。 その声は、どこか頼りなさげで可愛いだけの声から、ほんの僅かに大人っぽい感じがしたと気付いたのはまだ俺だけだと信じたい。 あったじゃないか、小さな変化が。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]中等熱/くみ[2013年12月21日23時41分] 『中等熱』 俺にとって12月というのは昔から体調を崩しやすい季節でもあった。 幸いクリスマスの時期に当たった事はまだ無かったが、学生時代は期末試験の前後に風邪をひいたり、試験真っ最中の時にうんうん唸りながら試験を受けた事もある。 外見的には風邪とは無縁そうだねと言われるが、そうでもない。1年を通して見ると不可抗力から体調を崩してしまう事は結構多かった。 子供の時から母親に言われ、うがいも手洗いもして体調管理もしているが、ここまでしても体調を崩してしまう体質なのはもうどうしようもない。 確か高1の時も、期末試験が終わると同時にたちの悪いインフルエンザにかかってしまったのをふと思い出した。 熱は38度5分から38度。 父親は仕事柄あまり家に帰って来ないし、タイミングの悪い事に母親も試験最終日の朝から友人と温泉巡りに行ってしまったのだ。 家には熱を出した俺が1人。 恋人が見舞いに来たのだが、わざわざ学校から家に帰ってから着替えて来たらしい。 おぼつかない足取りで玄関まで迎えると、最近のお気に入りらしい細身の黒いコートを着て、手にはコンビニの袋をぶら下げた姿。 そこまでは良かっのたが、恋人は更に正体不明の大きな包みを抱えていた。 「千羽鶴………」 「それは見て分かる」 「だって…インフルエンザだって言ってたし…もし死んじゃったらどうしようって思って……だから一生懸命2日間徹夜して折ったの」 「俺、死なねーし……勝手に殺すな」 「ごめんなさい……」 項垂れている恋人の腕に抱えられた千羽鶴は丁寧に折られていて大きさも均等、しかも色を揃えて7色というなんとも豪華絢爛な千羽鶴である。 俺は自分の部屋だと何だか心細かったのでリビングのソファーベッドに寝て毛布を沢山身体に巻き付けている。 暖かい部屋の中とは対称的に窓から見えるどんよりとした薄暗い空や中庭がいつの間にか冬の顔になっていた。 「ごめんね。迷惑だったら持って帰るから……あ、林檎もポカリも買ってきたから置いてくね」 「迷惑なんて思ってねーよ。それ…ちゃんと飾るから、机の上に置いといて」 「本当に?ありがとう……」 さっきまで悲しそうな顔をしていた恋人はふわりと花のような笑顔を見せて手をぎゅっと握ってきた。 外気に触れて冷えてしまった手が逆に熱で火照った身体には心地良い。 迷惑だなんて思ってない。 寧ろ嬉しかった。 お前の方こそ徹夜なんかしてこんな綺麗に千羽鶴なんか折っちゃって、身体大丈夫なのかよ?とその細身の身体を見て思わず突っ込みを入れたくなる。 変な所で抜けてるのがなんかアイツらしいと机の上に置かれた千羽鶴を見てつくづくそう思った。 「林檎……剥いて。温めのハーブティー飲みたい。ミントのやつ」 「ウサギさんの形に?」 「馬鹿、剥けない癖に」 「なら頑張って剥くもん」 「怪我するから止めとけ。洗ってくれて適当に切ってくれたら食べるから」 林檎1つまともに剥けない癖にウサギさんとか言う所はやっぱりどこか抜けてる。 頑張るからとか言って……でもそんな所も健気で可愛い。 お茶を飲みながら不恰好な形に切ってくれた林檎を食べていたが、隣で座っていた恋人からいつも香ってくるバニラや甘い果実の香りがしないのに今気が付いた。 「そう言えばさ、今日は香水付けてないの?」 「だって匂いとか病気の人にとっては辛いでしょ?だから一回家に帰ってシャワー浴びてから来たの。本当は綺麗なお花とかも持って行きたかったんだけど……ごめんね」 ごめんねじゃねえよ。 何なんだよ?この気遣い。 ますます好きになるじゃないか。 その細い身体を抱き締めてキスをしてやりたかったが、生憎今の俺にそんな力は無かった。 その代わりと言う訳では無かったが、甘えん坊のようにある事もねだってみる。 「なぁ、今日はさ」 「ん?」 「泊まってってよ」 「1人だとやっぱり寂しい?そうだよね」 子供のように頭を撫でられながら苦笑された。 「っ!そんなんじゃない」 「なら寝ないで看病するから泊まってく」 「寝ろ」 翌朝は昨日に比べたら随分と身体が軽くなっていて、改めて健康の有り難さを分からせてくれた。 言葉通り、奴は寝ないで看病してたらしい。 さすがに疲れたのか、毛布にくるまってベッドの傍らの床に座り居眠りをしてる姿が目に飛び込んできた。 俺の手を握ったまま。 その時、中等熱が高熱に変化しそうな位に俺の心の中の体温が火照るように上がったのは内緒。 もう少しだけこの綺麗な顔を見ていたかったから。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]冬至の日の夜に/くみ[2013年12月23日2時45分] 『冬至の日の夜に』 冬の夕方の空は寒いけど個人的には気にいっている。 空気が澄んでいるのか赤、黄、青の三原色がはっきりしていてグラデーションも豊かで美しい。 しかし車の窓ガラスから見える今現在の夕方の空は鬱蒼と曇っている。 今日は折角の冬至なのだから締めも綺麗に飾って欲しかった。 「そんなに悄気た顔して何か買い残した物でもあるのか?」 助手席に座っていた彼は難しい顔をしている自分の事を心配そうに見ていた。 「今日は冬至でしょ?お風呂を柚子湯にしようかなって」 「冬至?もうそんな季節か」 「だから柚子買ってかない?」 柚子湯が流行り始めたのは江戸時代の銭湯かららしい。 自分は毎年必ずという訳ではなかったが、元々湯槽に浸かる習慣もあったし、冬至だなと思い出した年には湯槽に柚子を浮かべて昔から続いているその風習を楽しんでいた。 「やっぱり湯槽に浸かるのはいいな。いつもシャワーばっかりだから」 「……うん」 「俺の部屋の風呂場はちょっと狭いからな。今日はちょうど良かった。そう言えばお前、毎年これやってるの?」 「あれ?言わなかったっけ?」 「うん。拘ってるのは入浴剤だけかと思ってた」 折角浸かるのだから逆上せないように適温に調整された湯。 湯槽の縁に腕を置いてゆったりと寛ぐ彼の様子を見ながら、ほっと溜め息をつく。豪邸のように広いとは言えないが、2人なら充分に浸かれるやや広めの湯槽は気にいっていた。 自分もそうだが彼も長身な為か、やや膝を折って入らなければいけないのは仕方ない事だったが。 「そう言えば昔、母方の田舎に泊まった時に柚子湯に入った事あるかもしれない」 「昔の人はそういう風習を大事にするからね。いい想い出だと思うよ」 「冬至って、確か1年で最も昼が短いんだよな? 」 北半球の方では太陽の南中高度が最も低く、1年間の間で昼が最も短く夜が最も長くなる日だ。 「お前が柚子って言うからちょっと調べてみたんだけどさ、小豆粥食べると疫病にかからない言い伝えとかあるんだな」 「んの付く食べ物を食べる習慣もあるよね。うどん・なんきん・れんこんとかさ。南瓜を食べる風習はまだあるみたいだよ」 「だから南瓜、台所にあるのか?」 「1年間は元気で過ごして欲しいからね」 「そう言われると素直に嬉しいな。で、南瓜を切るのはどっちがやるんだ?」 「……お願いします」 正直料理は苦手だが、彼の体調は気遣ってやりたいし、嬉しいと言われたらやっぱり南瓜を扱うのも頑張ろうという気になる。 どう調理するのかも事前に調べ済みだ。 「柚子って独特の香りがするな。なんかずっと嗅いでいたいって言うか」 「アロマオイルなんかにも使われてるみたいだし、いい香りだよね」 「そうなのか?」 たまに一緒に湯に浸かる事はあるが、長湯がやや苦手な彼とはスキンシップもあまりない。 やわらかな湯の感触に意識を向けると、彼の興味は柚子に向いていて、浮かべた柚子を子供の様に楽しそうに弄っている。 「昔から効き湯に使われる位だからね」 「やっぱり植物関係の事は詳しいな。瑞樹のお陰でまた一つ賢くなったかも」 柚子を入手したのは、こうして2人で風呂に一緒に浸かる為だったのだが、何故か今日はほんの少しいつもとは違い、横から聞こえてくる彼のリラックスした優しい声は風呂場に響いて耳の鼓膜から身体の奥まで染み渡る。 身体を動かすと湯が動き、ポチャンと音が鳴ると、湯の中で軽く手を握られ肩に顔を乗せてきた。 「逆上せる前には出ようね」 「ああ、そうだな」 一緒に風呂に入ると素直に話が出来るし、コミュニケーションも取れるとよく聞くが、逆に自分の場合は風呂場の中では素直に思っている事を口に出来ない気がした。 その言葉の代わりにそのまま彼に凭れかかれり、頬に唇を寄せてみる。 自分の今の表情は彼には見せられないなと思いながら、何となく気恥ずかしくなり思わず瞼をそっと閉じてしまった。 彼が南瓜を切れるように逆上せる前に風呂場から出さなければいけない。 柚子の爽やかな香りが浴室にまた更に広がった様な気がした。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]手は塞がせない/くみ[2014年1月19日0時34分] 『手は塞がせない』 いつもは1人でさっさと買い物をしてしまうから今日は久し振りの2人での買い物。 恋人の両手は牛乳や野菜が入ってる重い袋で塞がっている。 片方持つよと言ったのに、恋人はこういう時になると何故か子供みたいに強がる。 「これくらい大丈夫」 でも手が少しブルブル震えてて辛そうなのは見逃さなかった。 この強がり 「片方空かないと手が繋げないでしょ?」 こう言うと顔を少し背けて照れた様に『重いぞ』と言いつつ袋を1つ手渡してくれる。 確かにずっしり重かったけど、あえてそれは言わない事にする。 恋人の片方の手は袋が重すぎたらしく赤い跡が付いていたので、優しく労る様にそっと指を滑り込ませる。 少し冷たくなったその手にゆっくりと体温を戻してあげる。 絶対に手は塞がせないよ。 それは2人の約束事。 落ち着いたら歩きながら豆乳でも飲んで帰ろうね。 ---------------------------- [短歌]冬のヒカリ/くみ[2014年2月7日22時59分] 君と見る 秋から冬の 空の色 手を繋いだら 寒さ感じず その口は いつも艶やか キスすると その温もりが 直に伝わる 水仙の 甘い香りは ナルシスト 香りをまとう 綺麗な貴方 ---------------------------- [短歌]不器用で甘い2人の話/くみ[2014年3月21日10時29分] 箱開ける 中にはきらり 光る物 バレンタインに 愛囁かれ 不器用で チョコは市販 その代わり お姫様には 指輪を送る 愛伝え チョコレートと 一緒に 白い花弁 舞い落ちていく ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]星が降った聖夜/くみ[2014年12月25日22時54分] 学校の試験休みも終業式も終わり、冬休みに突入した。 12月24日のクリスマスイブは、自分と彼の初めて過ごすクリスマスだった。 当初はどこへ行こうかと色々計画を練ってみたりもした。 都心からそう遠くない千葉にあるテーマパーク、多摩方面にある遊園地、自分が大好きな水族館や植物園、街のイルミネーションを見に行くなど候補は沢山あったのだ。 教会のクリスマスミサに行ってみたいとも思ったが、信者でもない、ただステンドグラスやあの独特で厳粛な雰囲気が好きだっただけの自分には気軽には行けれない場所だと思い断念した。 所詮は16歳の小遣いと限られた時間では行く所は自ずと限られてしまう。 結局、何処かに出掛けるよりも家でゆっくり2人で過ごす事に落ち着いた。 彼の両親は夜遅くまで帰ってこないらしい。 彼の家は何回か行ってはいるが、洋風な造りの一軒家だ。普通にガーデニングされた少綺麗な庭があったのだが、初めて来た時に驚いたのは、小さな中庭もある事だった。イギリス風の中庭で、温室までちゃんとあるのだ。中には薔薇なんかの華やかな花が綺麗に咲いていたのを思い出した。 「これ、開けてみて」 彼の家に入り、座り心地の良いクッションが沢山あるソファーに腰を降ろすと、買ってきたケーキを差し出した。 彼が箱を開けると中には幾つもの種類の小さいケーキが規則正しく並んでいる。 それは色とりどりに飾られていて、さながら小さな宝石が詰まっているかの様だった。 「普通のクリスマスケーキはたぶんお母さん達と食べるんだろうから、ちょっと変わったやつ選んできたんだけど、これなら小さいから色々食べれるかなって」 「ならお茶煎れるよ。何がいい?あ、母さんが何か新しい紅茶取り寄せて飲んでたみたいだからそれにするか」 キッチンの戸棚から紅茶の葉が入っている缶を取り出すとこっちに投げてきた。 「クリスマスティーだ。普通のより少しいい紅茶だよ。勝手に飲んでもいいのかな?」 「大丈夫。戸棚のやつは自由に飲んでいいって言ってたから」 缶のラベルを見ると良いメーカーのクリスマスティーだ。カルダモン、シナモン、クローブなどのスパイスが入っていて料理なんかにも合う紅茶である。 2人だけのお茶会。 目の前の彼は小さな苺が乗ったケーキを頬杖を付きながら早速美味しそうに食べている。 お茶とケーキだけなのに、ちょっと贅沢をした気分になってつい顔が綻んでしまう。 クリスマスプレゼントは少し奮発をした。 彼は自分とは反対で実用性がある物が好きである。 だからこの先も毎日使える海外メーカーの小物入れにしてみた。それはやや大きめなペンケース型の物で、ポケットも沢山付いている。これならペンケースと限定しなくても色々な用途に使えそうだったから。 自分が贈られたプレゼントはちょっと微笑ましく思ってしまう小さな小物類の詰め合わせだった。 自分が好きな色のリボンの付いた、少し大き目な箱を開けると、中から小さな可愛い蝋燭や手帳に貼れそうなシール類、手のひらサイズのスノーボール、小さな指輪、その他にも細々した物達が沢山詰まっている。 「何送ったらいいのか分からなかったからさ、色々考えてお前の好きそうなちまちましたやつ集めてみた」 「ありがとう!凄く嬉しい。ちゃんと大事にしまっておくからね」 「ちゃんと使え」 「だって使うの勿体無い位に可愛いんだもん」 「物は使ってこそ味が出るんだよ。知らないのか?」 「なら、ちゃんと使うね。本当にありがとう」 お店に入るの苦労したんだろうな……。 他の女性客に混じって、顔を赤らめながら一生懸命に選んでいる彼の姿をつい想像してしまう。 夕方になると彼の家のリビングからは真っ赤に染まっていた空がだんだんと沈んでいく様子が分かる。お喋りに夢中というか、彼の話を聞いていた間に、空はすっかり闇を湛え、星を照らしていた。 「ねぇ、久々に温室の中入って花を見てもいい?」 「なら、俺も一緒に行く。靴、ちょっと冷えるかもしれないけどサンダルでもいいか?」 「うん、大丈夫」 彼はちょっと何処かに行く時でも必ず手を繋いでくれる。 手を繋がれる瞬間の事を思うといつも胸の辺りがきゅっと締め付けられる感覚になる。 身長だって自分より一回り小さいのに何だか守られている気がしてちょっと気恥ずかしくもあるし嬉しくもなってしまう。 相変わらず温室は花のいい香りがする。今の季節は真っ赤なポインセチアが綺麗に咲いていたら。暫く2人で手を繋いだまま花を見ていたが、 何となく彼の方を見るとにこりと、爽やかに微笑んできた。少し寒いのかこちらに身体をぐっと寄せてきている。彼の体温を間近に感じた自分の心臓は少し鼓動が早くなっていた。 「なぁ、目閉じて?」 「なに?」 「いいから。開けてたら面白くなくなるだろ」 「面白くない……?じゃあ開けていい時になったら教えて」 「了解。ちょっと待ってろよ」 目を閉じるとパタパタ、カチカチと何やらせわしなく動いているらしい音が聞こえていた。 そして最後のカチリという音を最後に再び彼の声が聞こえてきた。 「もう目開けていいぞ」 「うわっ!何これ……凄い」 目を開けてみれば薄暗くなった温室の中は沢山の色とりどりな豆電気で飾られていた。 星? 星の海? 季節外れの天の川? 「ちょっと凄いだろ?これやるの結構苦労したんだぞ。でもお前はこういうの好きだって前に雑誌見ながら言ってたの思い出して作ってみたんだ」 嬉しい。 ちょっと涙が出てしまいそう。 お世辞とかそんなんじゃなくて、本当に心から嬉しかったからやっぱり涙が出た。 「ぇ……泣いてんのか?どうした?」 「うん、だって……嬉しいんだもん」 「馬鹿……だからって泣く事ないだろ」 どことなくニヤつく彼に自分はまともに正面を向く事が出来なかった。 「こっち向いて」 顔ごと目を反らしていた自分の事を彼が呼ぶと、反射で彼の方を向いてしまう。真正面で向き合った彼はにこりと笑って自分を抱き締めると、頬へ唇へとキスをした。 二人だけのお茶会は、彼の魔法の力で星も降らせてくれた。 (あ……雪かな?) 午後から灰色になっていた空からは霰か雪か分からない物が沢山降ってきていた。 あれから何年経過したのだろうか。 教会のクリスマスミサに、何でもない顔をして行けれる位には大人になったつもりだし、あの頃は甘えっぱなしの子供だったが少しは彼を支えられるようにと気を使う事も出来る。 クリスマスに天の川を見せてくれた彼は、あの頃より背も伸び、少しだけ笑顔が柔らかくなった。 繋がれっぱなしだった手も今は自分が先に手を繋ぐ。 次は本当の星を見せてくれないかなと期待しつつ。 ---------------------------- (ファイルの終わり)