yuez 2013年6月30日11時58分から2016年8月15日3時20分まで ---------------------------- [自由詩]まほろば/yuez[2013年6月30日11時58分] スナメリのjoy 軽やかに おおきな気泡のフープをくぐる うたた寝している青の真ん中へjoy まあるいあくびを一つ落っことしたら とたんに アオウミガメのtoy joe こぽりと抜けて一回転 泡のうた浮かべてゼリービーンのシロップコーティングjoe 過眠症のパステルtoyが上々ドープでカラフル糖衣錠さ joyjoyプール わたしはスナメリjoy ひかりのあいだをすういとくぐり 青から青へ 夢から実へと回遊するだけの うたかたのゆめわたり ---------------------------- [自由詩]ちりぱっぱ/yuez[2013年7月2日22時57分] とある日曜の昼下がり 窓から白手袋の羽根を伸ばした選挙カーが 殺菌消毒された笑みをひるがえしながら通りを優雅に舞っていた 背後に見えるファーストフード店では ドライブスルーのマイク越しに女が香ばしい自己主張をしている 「パキパキのレッドホットなチキンを一つ」 レッドホットチリペッパーズの『バイザウェイ』が流れる車内で 女は汗で湿った髪を結い直していた 巻き髪がほろ酔いの西風にばらばらとほどけ 上気したピンクのリボンは舌を垂れてあっかんべーをしている 女はそのままヘアピンを引き抜きついでに うるさい羽虫のような選挙カーに向かって野次を飛ばした 「いんちきちきんぱっぱ!」 それは何かの公式だったかもしれない 三十路シングルウーマンは素顔に七色のラメをゆんゆんちりばめ 灼けたドライブスルーで運命を悟る 安価な言の葉であっさり千切れ飛んでいくカラー そして真の安らぎは適当に冷えたワインとDVDにあると 「やっぱりもう一つ」 女はまた強く確信して言い放つ 「うん。それ。レッドホットチキンペッパー☆」 ---------------------------- [自由詩]ふぃーば/yuez[2013年7月6日15時50分] おやおや本日も無表情が美しく整列した大衆娯楽へようこそ 史上最強のエキサイティング体験をご堪能くださいませ さあさあなたとわたしのファンタスティック空間でtrippin' 新米アルバイト店員の不安定に積み上げられたドル箱がぐらりと傾いたとき 彼の時間だけが凍りつきその世界だけが幾何学的に歪んで これバランス的にもう微妙なんだけどってときには既に瓦解なんだけどどどどドバシャーン 床一面に流出するパチンコ玉そっくりに蒼ざめる店員の顔色 客の怒声と野次馬の歓声にまみれた店内はまさに輝くアドレナリンの海それだった 店員の耳にだけ三倍速で駆け巡っていたジャンジャンバリバリ へっこんだ内臓を突き上げるように鳴り響いていたジャンジャンバリバリ 満ち満ちた掃き溜めのような匂いと不気味にして強靭なエネルギー 個々の息遣いまでもが生肌で感じられるほど そこはなんとさわがしい平和か きわどい視界までが大音量のうねりのなか笑っていた 永遠なれ世界に誇る日本文化 我等の血潮沸き立つアミューズメントホール ふたひゃくろくじゅうごばんだい ふぃーばーすたーとしました ---------------------------- [自由詩]たのしい生物/yuez[2013年7月9日11時29分] プレゼントの花束には毒が入っていました 「いいかい。これはバラという樹の生殖器だ。植物の涙ぐましい進化の歴史さ」 彼の長い舌はまるで昆虫の吻のようでもありました 「いひひひ」 プレゼントの小瓶には星の砂が入っていました 「ごらん。この砂の正体は虫の死骸だ」 ギャッと叫んで私は小瓶を放り投げちゃいました ある夜 満天の星空の下で男は唐突に屁をひり出したのです 「ねえ、あなたって人はなんだって平気でデート中に屁なんてこけるのかしら」 私は耐えかねて思わず聞いちゃいました 「イタチはプロポーズするとき、すごく臭いオナラをするんだよ。知らないの君」 「…え」 うろたえている私をよそに男は続けました 「僕らが今こうして見上げているあの星だってガスで出来ているじゃないか」 男は真顔でそう力説しながらまた快活に放屁したのでした ああ ああ できるものならラベルに"ミスター・ナンセンス"と記した標本箱へ男を足蹴でぶち込んでやりたい 「こんな二人に恋などできっこないのだわ」 がっくりと肩を落とした私がそうつぶやくと男は大笑いして言うのでした 「君ときたら本当何一つわかっちゃいないのだね!」 ---------------------------- [自由詩]けせら/yuez[2015年3月27日12時26分] ネジ巻きなら土曜の晩に フィンネル ドリアン アスペラトゥス ぜんまい仕掛けの一週間です 多面体のメンタルで直角になぞる平常 ちょうどあれにそっくりだ おみくじ筒の歯ぎしりや 規則的でどこかぎこちないオルガン遁走曲とか 絶えず乾いた音を立てているあれ ああ幸せなんてほとんど錯覚だけど クリケット セロファン ホーキーポーキー みなしてそんまま転がってけ 鯛のポワレに添えるなら茹でたアスパラガス 茎先がほころんでいるなら吉だってマユツバです 根っこより先っちょがおもしろいのよ ばらりばらり ひとり遊んでいた ウロコをほぐしていくみたいに おみくじ筒を振るみたいに 恋しちゃった娘の舌先で そう ケサランパサラン ハレルヤ ビーツ めいっぱいのおしろいをはたいた風の中 両腕を広げてわたしは駆ける 春 人も街も笑う ふやけた空に虹がたゆむ ざっくりとした厚手のデニムを脱ぎ はやる肌をさらして明日へ繰り出せば けせらせら カエルの裏声が手のひらで跳ね返る きみが引いたのはアスパラガスでしたか ---------------------------- [自由詩]Goes N' Lazy/yuez[2015年4月3日10時10分] 午前0時のどんちゃん騒ぎ あきれたドンファン ちゃんちゃらどんぱん月が出た チャラい兄ちゃんといけいけピンドン 先祖代々左官屋じゃけえ あどっこいそれドンドンパフ 凡夫に繰り出すチェリーボンブ とっておきのぱりぴぽBoomBoomPow! 午前0時の壁ドン男子 火・水・土はバイトだし デカダンナイトでI Don't Dance. だけど トリニダードトバゴへ午前0時 とび色の風を追いかけて そんな夜間飛行 一緒に飛んでけ屯田兵みなセイイェー プティ・タルト・タタン・デ・今宵 さすがにこれはどんでん返し ダンダンディダンシュビダデン 午前0時は飲みなはれ 芸のためならシュビダデン きらめくダンスフロアで飲みなされ ドンファンチャンバラエブリデー ドゥビドゥリランラン ---------------------------- [自由詩]死籠り/yuez[2016年8月15日3時20分] 踏切から身を乗り出せば 生暖かい風が勢いよく舞い上がる 痩けた頬をびたりと打つ轟音は 父の拳の重さそっくりだった わたしはただ眺めていた 遮断機のぐらりと垂れた腕を 獲物を招き入れる触手さながらに のっぺりとした非情さで本能を追い立てる その厳格さと美しさ 血膿をはらんだほおずきの実を まるごとむさぼり食っていく自然とその力強さを 夕空は今にも孵化しそうに疼いている ねじれた陽炎のオレンジを ヒナの叫びが伸びやかに抜け落ちる 警笛がパーンと跳ね わたしは地面に落ちた影を羽軸で刺した あとわずかの愛を失えば確かな答えを手にしていたのか わたしはこの砂利上に散れたのか 遮断機はわたしを見ていた 路傍に転がる石ころのように無表情な身体を 息を殺しながらただじっと見ていた ---------------------------- (ファイルの終わり)