

病いの哲学
小泉 義之/ちくま新書
価格:¥756(税込)
レビュー:原口昇平
なぜ尊厳死が許されるのか、また、なぜ脳死患者が主に移植もととして扱われるのか。どちらの場合も「低次元の生」は生きるに値しない、と考えられているからではないのか。生死の二者択一をいますぐに迫ってくる価値観を哲学の系譜のなかからえぐりだし、それに抗って病いを生きるための哲学を開始するための問題作。
著者はドゥルーズの翻訳者でもある。しかしこの本のなかで一度も、一言もその生と病と死はおろか哲学についても触れていない。概念の引用さえない。それでも本書は、かたわらの暗闇にドゥルーズの哲学を置いて、彼のテクストと対話し、彼の沈黙した彼方へ向かって答えのない問いを投げかけながら書かれたものであるかのように思われてくる。
全体を通して一度もテンションの落ちない、かなり明晰で強靭な語り口だった。もの凄く透徹した冴えをみせられた。